世界各地で実用化の機運が高まる自動運転技術。自動運転レベル4はタクシーやバスが大きな注目を集めているが、商用車においては自動運転トラックも負けていない。トラック製造企業やスタートアップが入り混じり、世界各地で積極的に実証が進められている。
この記事では、自動運転トラックに焦点を当て、開発動向を探っていく。
記事の目次
■自動運転トラックの有用性
物流分野においては、人手不足などを背景にラストワンマイルを担う宅配ロボットなどの注目度が高いが、モノの移動は長距離輸送を伴うのが通常で、長距離ドライバーが数百~1,000キロ超の道のりを日夜輸送している。一度仕事に入ると、数日間自宅に戻ることができないケースも多い。
特に米国や中国など国土の非常に広い国においては、ドライバーにかかる負担は計り知れないものだ。こうした背景から、米国や中国を中心に長距離向け自動運転トラックの開発が盛んに行われているのだ。
また、長距離輸送の大部分は高速道路や主要幹線を延々と走行することになるため、ルートの固定化やマッピング化を図りやすく、自動運転技術を実装しやすい点も開発を後押ししているようだ。
将来的には、こうした長距離向けの自動運転トラックをはじめ、オートメーション化された倉庫、ミドルマイル・ラストマイルを担う自動運転車がそれぞれ協調し、ロジスティクス全体を自動化する取り組みが進められていくものと思われる。
■自動運転トラックを開発する企業
自動車メーカーも着々と開発進める
自動車メーカーでは、スウェーデンのボルボ・グループが自動運転ごみ収集車や鉱山からモノを輸送する自動運転ダンプなど、自動運転技術を活用した幅広い車種・ソリューションの開発を進めている。ノルウェーのBrønnøyKalk社との提携では、露天掘り鉱山から近くの港に石灰石を輸送する自動運転ソリューションを2018年から提供している。
2019年には、運転席のない自動運転トラックのコンセプトカー「Vera」を港湾ターミナルの輸送に活用する取り組みも開始している。コントロールセンターが稼働する複数のVeraを監視し、最高時速40キロでロジスティクスセンターからターミナルまでコンテナを運んでいるようだ。
米トラック製造のPaccarは2021年1月、自動運転開発を手掛ける米スタートアップのAurora Innovationと提携し、自動運転トラックの開発から市場化までを見据えた戦略的パートナーシップを交わしたことを発表した。
国内では、いすゞが2020年10月にボルボ・グループと戦略的提携を交わし、同グループ傘下のUDトラックスの事業を2021年上半期中に取得する予定だ。自動運転関連では日野と高度運転支援技術やITS技術の共同開発を進めるなど、協調路線を歩んでいる。
UDトラックスも自動運転開発に積極的で、2030年までに完全自動運転トラックを量産化する目標を掲げている。今後、各社の技術が生み出す相乗効果に期待したい。
米中ではスタートアップも続々参戦
自動運転タクシーの開発と同様、自動運転トラックの開発分野も多くのスタートアップが参入している。
スウェーデンのEinrideは、リモート制御可能なEV(電気自動車)トラック「Einrideポッド」の開発を進めている。閉鎖空間で自動運転が可能な最大時速30キロのAET1と、比較的短い公道を走行し近隣施設まで自動運転が可能なAET2はすでに予約を受け付けており、2021年中に出荷を開始する予定としている。
時速45キロで施設間の裏道や混雑の少ない幹線道路で自動運転可能なAET3や、最高速度85キロで主要道路や高速道路の運行が可能なAET4は、2022~2023年に出荷予定という。AET4は広範囲を走行可能なレベル4車両として要注目だ。
中国系スタートアップで米カリフォルニア州に本社を構えるTuSimpleは、クラス8の自動運転大型トラックの開発を進めている。これまで、フォルクスワーゲングループのTratonGroupや米物流大手のUPSなどから出資を得ている。
すでに量産化に向けた動きを見せており、トラック製造のNavistarと協力し、2024年に業界初となるクラス8の自動運転トラックを北米市場に投入する計画を発表している。
【参考】関連記事としては「米物流大手UPS、自動運転トラック開発のユニコーンTuSimpleへ出資」も参照。
同じく中国系スタートアップのPlusAIは、既存のトラックに後付けすることも可能な自動運転システム「PlusDrive」の開発を進めている。
中国第一汽車集団(FAW)傘下の一汽解放とPlusDriveを搭載した自動運転トラックを開発し、2021年にも量産を開始するとしている。
米Locomationは、自動運転機能を搭載した2台のトラックが隊列走行する「Autonomous Relay Convoys」システムを開発している。2台ともドライバーが乗車するが、後方車両は電子けん引システムによって前方車両を自動で追従するため、ドライバーはその間休憩することができるという。
米運送大手のWilson LogisticsがAutonomous Relay Convoysシステムを1,000台超のトラックに2022年から順次導入していくことが発表されている。
【参考】関連記事としては「後続トラックは完全自動運転!米Locomationの隊列走行システム、NVIDIA製SoC搭載」も参照。
後続トラックは完全自動運転!米Locomationの隊列走行システム、NVIDIA製SoC搭載 https://t.co/Hm4R6TSQqf @jidountenlab #自動運転 #隊列走行 #トラック
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 14, 2020
■開発を支えるNVIDIAの存在
前項でピックアップした各企業には、共通点が存在する。各社とも自動運転の開発に米半導体大手NVIDIAのソリューションを活用しているのだ。
ボルボ・グループは2019年、自動運転商用車や意思決定システムの共同開発に向けNVIDIAとパートナーシップを結んでいる。自動運転車の基本となるエンドツーエンドのコンピューティングを対象にAIのトレーニングや自動運転システムのハードウェアインザループテストなどを進めていくとともに、車両へのNVIDIA DRIVEプラットフォームの展開を図るとしている。
Paccarは2017年にNVIDIAと自動運転車向けのソリューション開発に取り組んでいることを発表している。いすゞも技術開発にNVIDIA DRIVE AGXプラットフォームを活用している。
Einrideは2020年12月、最新のNVIDIA DRIVE AGXOrinを次世代ポッドに搭載することを発表した。最先端のプロセッサによって自動運転システムに冗長性を持たせるとしている。
TuSimpleはNVIDIAから出資を受けており、自動運転フリートでNVIDIA DRIVEを使用している。PlusAIは2021年3月、大型トラック向けの次世代自動運転システムにNVIDIA DRIVE Orinを使用することを発表した。Locomationも同様にNVIDIA DRIVE Orinを採用するようだ。
NVIDIA DRIVEOrinはNVIDIAが2019年12月に発表した自動運転向けプラットフォームで、Orinと呼ばれる新しいシステムオンチップ(SoC)を搭載している。全世代の約7倍のパフォーマンスを発揮するという。
また、自動運転開発に向けたNVIDIAのオープンプラットフォームには370社を超える企業や研究者が参加しており、多くの開発者が自社テクノロジーをDRIVEAGXシステムと統合しているのも大きい。NVIDIAを介して他社製品などと幅広く統合することが容易になる。
高性能なハードウェアや拡張性の高いソフトウェアに加え、こうしたオープンプラットフォームの存在がNVIDIAの価値をより高めているようだ。
自動運転トラック開発の背後にはNVIDIAが存在し、実用化に向けた開発促進に大きく貢献しているのだ。
■【まとめ】NVIDIAプラットフォームが開発を加速 実用化迫る自動運転トラック
自動運転タクシーなどと同様、自動運転トラックもスタートアップが先行する形で開発や実証を進めている状況で、一部では量産化を見据えた動きが本格化し始めている。
こうした開発を影で支えるNVIDIAのプラットフォームが、各社の開発スピードを高めていることは間違いない。自動運転分野における同社の存在感はいっそうの高まりを見せているようだ。
【参考】関連記事としては「自動運転用センサー、稼働プラットフォームに求められることは?」も参照。