ホンダが2020年夏ごろをめどに、自動運転レベル3搭載車種を発売することが大々的に報じられた。自動運転にリアリティを感じられる人はまだ多くないが、自家用車への搭載が始まることで理解や認知度は加速度的に高まっていくことになるだろう。
乗用車への自動運転技術の搭載がいよいよ始まる2020年。改めてレベル3の技術や取り巻く環境などをまとめてみた。
【参考】ホンダのレベル3については「緊張保つ難しさ、どう解決?ホンダ、自動運転レベル3搭載車を来夏発売か」も参照。
記事の目次
■自動運転レベル3とは?
レベル3は「条件付き運転自動化」と定義されており、一定条件下でシステムが全ての運転タスクを実施するが、緊急時などシステムからの要請があれば運転者が操作を行う必要がある。
一定条件とは、例えば高速道路などの自動車専用道路において、時速60キロ未満で走行する場合――などが挙げられる。この条件をODD(運行設計領域)といい、その条件は各自動運転システムによって異なる。
また、一定条件下においても、システムが何らかの理由によって自動運転の継続を困難と判断し、ドライバーに手動運転への切り替えを要請した際には、ドライバーは速やかに運転操作を行わなければならない。
【参考】ODDについては「自動運転における「ODD」って何?「運行設計領域」のことで、言い換えれば「能力値」」も参照。
自動運転システムの"能力値"とも言える「ODD」とは?日本語訳は「運行設計領域」 https://t.co/jo8zyWasLH @jidountenlab #自動運転 #ODD #条件
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 4, 2019
■法律上の定義は?
自動運転レベル3に対応した道路交通法、及び道路運送車両法の改正案がそれぞれ2019年5月に国会で可決され、各条文によるものの大半は概ね2020年5月までに施行される見通しだ。
改正道路運送車両法:自動運転システムを「自動運行装置」として追加
改正道路運送車両法では、保安基準対象装置の中に自動運転を可能とするシステムが「自動運行装置」として正式に追加された。
自動運行装置の定義は「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置」とし、また「当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの」としている。
言い換えると、従来ドライバーが担っていた認知や予測、判断、操作をすべて代替する機能を持ち、その作動状態を記録する装置を備えていることが条件となる。ADAS(先進運転支援システム)など、一部の機能を代替するものは含まれない。
このほか、従来の「分解整備」の対象を自動運行装置などの先進技術に関する整備まで拡大し、名称を「特定整備」に改めている。自動車メーカーなどに対しては、点検整備に必要な技術情報を特定整備を行う事業者へ提供することを義務付けた。
また、自動運行装置などに組み込まれたプログラムの改変による改造などに係る許可制度も創設することとしている。
自動運行装置と特定整備に関する改正は公布日から1年以内(概ね2020年5月まで)、プログラム改変の許可制度は同1年6カ月以内(概ね2020年11月まで)に施行される。
改正道路交通法:携帯電話やカーナビなどの操作を認める内容に
一方、改正道路交通法では、道路運送車両法を準用する形で自動運行装置に関する規定が整備され、自動運行装置を使用する場合も道交法上の「運転」に該当することとなった。
自動運行装置を使用する運転者に対しては、作動状態記録装置の記録の保存が義務付けられたほか、自動運行装置の使用条件を満たさなくなった際にただちにそのことを認知し、自動運行装置以外の自動車の装置を確実に操作できる状態にある場合は、第71条第五号の五に定める携帯電話用装置などの利用を制限する条項を適用しないこととしている。
つまり、自動運転使用中で、システムからの要請に対し速やかに手動運転に移行できる状態であれば、携帯電話やカーナビなどの操作を認めることとした内容だ。
ただちに手動運転で確実に操作できることが求められているため、飲酒や睡眠は事実上不可となる。飲食や読書などについては現時点で明確な線引きはなく、今後議論を呼びそうだ。
なお、施行期日は改正道路運送車両法の施行に合わせることとなっている。
【参考】自動運転に関する法律の動きについては「自動運転、幕開け期の2020年代に向けた法律改正の動きを解説」も参照。
自動運転、幕開け期の2020年代に向けた法律改正の動きを解説 https://t.co/Orb38S17bC @jidountenlab #自動運転 #法律 #改正
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 30, 2019
■2020年実現のレベル3のODDは?
自動運転レベル3は、「高速道路上で自動運転が可能になる」というイメージを持たれている節が強いが、高速道路の入り口から出口に至るまでのすべてを自動化するシステムの登場はもう少し先になりそうだ。
2017年に発売された量産車初のレベル3搭載車「Audi A8」のODDは、①クルマが高速道路もしくは中央分離帯とガードレールなどが整った片道2車線以上の自動車専用道路を走行していること②隣接する車線も含め、前後を走る車両との距離が詰まった、いわゆる渋滞の運転の状態にあること③クルマの走行スピードが時速60キロ以下であること④車載センサーの検知範囲に交通信号や歩行者が存在しないこと――となっている。
つまり、高速道路、もしくは信号や歩行者が存在しない高規格な一般道路において、時速60キロ以下で走行していることが条件となり、一般的な高速道路上の走行を対象としていない。
報道によると、ホンダが2020年夏に投入予定のレベル3もA8同様「高速道路の渋滞時」において自動運転を可能にするシステムのようだ。2020年予定のレベル3解禁時に、通常の高速走行を自動化する自動運転システムが登場するかどうかは微妙な状況だ。
道路条件や速度条件、天候条件、インフラ条件などODDを構成する要素はいろいろあるが、徐々に拡大していくものと思われる。高精細3Dマップとの協調も一つの鍵になりそうで、「高精細3Dマップが完備された高速道路区間においては時速80キロの走行が可能」――といったODD条件も出てきそうだ。
アウディ、ホンダ以外の他社の動向については、過去、トヨタがレベル3相当の自動車専用道路における自動運転「Highway Teammate(ハイウェイチームメイト)」を2020年ごろ、日産が「プロパイロット3.0」の実現を2020年をめどとするなど、実現目標を2020年前後に設定する例が多かったが、2020年が間近に迫った現在では、少し慎重になっている感をうかがわせている。はっきりと「2020年に発売する」といった発表が出されていないのだ。
2020年前半にいくつかのメーカーが発表する可能性は十分考えられるが、いきなり各社揃い踏みで競争過熱――といった状況にはならなそうだ。ハンズオフが可能な高度な自動運転レベル2の実装や初歩レベル3の実用化を進め、2021年に向け徐々に業界全体の機運が高まっていく流れになりそうだ。
【参考】アウディA8については「アウディ「A8」の自動運転技術や価格まとめ 自動運転レベル3搭載」も参照。
ゼロから分かるAudi A8 搭載する自動運転・AI技術まとめ 量産型自動車として初のLiDAR搭載 https://t.co/UQp50PWtus @jidountenlab #Audi #A8 #まとめ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 19, 2018
■【まとめ】レベル3のODD 1年間でどこまで進化するか
レベル3が解禁される2020年。各社揃い踏みではなく、搭載車種も高級モデル限定となる可能性が高いが、貴重な第一歩となることに変わりはない。
アウディが自動運転機能「Audi AIトラフィックジャムパイロット」をどのように進化させるのか。また、ホンダのレベル3技術の詳細はどのようなものか。独フォルクスワーゲングループやBMWなどに新たな動きが出てくるのかなど、注目すべき点が今後続々発表されるかもしれない。
初歩のレベル3から始まり、来年の今頃にはどのようなODDのレベルが発表されているのか。また、社会受容性はどのように変化しているのか。また、自動運転と手動運転を切り替える際に重要となるヒューマンマシンインターフェース(HMI)やドライバーモニタリングシステムなどについても、新技術の発表が相次ぐ可能性が高い。
【参考】自動運転レベル3については「【最新版】自動運転レベル3の定義や導入状況は?日本・世界の現状まとめ」も参照。