自動運転、幕開け期の2020年代に向けた法律改正の動きを解説

道交法をはじめ自賠法や電波法なども改正へ



2020年代に大きく動き出す自動運転。道路交通や車両の構造などに大きな変革が求められる時代が幕を開ける。


道路交通において大きなウェイトを占める道路交通法や道路運送車両法は、2019年に一足早く自動運転を盛り込んだ改正法が成立し、今後施行される。このほかにも、関連する法律や基準の改正・策定などが動き出している。

今回は自動運転の実現に向けた各種法律や基準の動きについて見ていこう。

■実際に改正・改定された法令
道路運送車両法:2019年5月に成立

2019年5月に成立・公布された道路運送車両法では、新たに自動運転を実現するシステムを「自動運行装置」と位置付け、その定義を「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置」で、また「自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの」としている。

保安基準対象装置に自動運行装置が追加され、事故発生時の車両の状態を記録するEDR(Event Data Recorder、イベントデータレコーダー)のような自動運転機能の作動状態を記録する装置も自動運行装置に含めることで、自動運転には作動状態記録装置も必須となった。


また、分解整備の範囲の拡大及び点検整備に必要な技術情報の提供も義務付けされている。事業として行う場合に認証が必要な「分解整備」の範囲に自動運行装置を加え、名称を「特定整備」に改めたほか、自動運行装置に組み込まれたプログラムの改変による改造などに係る許可制度を創設し、許可に関する事務のうち技術的な審査を(独)自動車技術総合機構に行わせることとした。

このほか、自動運転とは直接関係はないが、自動車検査証の電子化(ICカード化)や、自動車検査証の記録などの事務に係る委託制度も創設されている。

施行期日は、公布の日(2019年5月24日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、自動車の特定改造などに係る許可制度の創設に関する改正は公布の日から起算して1年半を超えない範囲内において政令で定める日から、自動車検査証の電子化に関する改正は公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日からそれぞれ施行するものとしている。

【参考】関連記事としては「改正道路運送車両法が成立 自動運転車の安全性確保へ制度整備へ」も参照。


道路交通法:2019年5月に成立

自動運転の技術の実用化に対応した運転者などの義務に関する規定が盛り込まれた改正道路交通法が2019年5月、衆院本会議で可決・成立した。

条文では、自動運行装置の定義を先に成立した道路運送車両法に規定されたものを準用するほか、作動状態記録装置について、整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されているときは、警察官は当該車両の運転者に対して作動状態記録装置により記録された記録の提示を求めることができることとしている。

また、自動運行装置を備えている自動車の使用者は、作動状態記録装置により記録された情報を内閣府令で定めるところにより保存しなければならず、作動状態記録装置が自動運行装置の情報を正確に記録することができない場合は、運転を不可としている。

運転車の義務としては、自動運行装置の使用条件を満たさない場合においてはその装置の使用を不可とし、また使用条件を満たさなくなった際にただちにそのことを認知し、自動運行装置以外の自動車の装置を確実に操作できる状態にある場合は、第71条第五号の五に定める携帯電話用装置などの利用を制限する条項を適用しないこととしている。

つまり、自動運転を利用しており、何らかの理由で自動運転システムが作動しなくなった際にただちに手動運転に移れる状態にある場合は、携帯電話やカーナビの操作などが認められるといった内容だ。

飲食や読書などその他の行為については特段の記載がないため、従来通り安全運転義務違反などに問われる可能性が高そうだ。飲酒や睡眠など、手動運転への切り替えにすぐに対応できないものについては、当然不可とされている。

【参考】道交法改正については「改正道路交通法が成立 自動運転レベル3解禁へ」も参照。

自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の改訂:2019年9月に発表

警察庁は、公道において自動運転システムの実証実験を行うにあたり、交通の安全と円滑を図る観点から留意すべき事項をとりまとめた「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を2016年5月に策定・発表した。

2017年6月には、遠隔型自動運転システムを用いた公道における実証実験を、道路使用許可の対象行為とし、実験主体の技術のレベルに応じた実験を一定の安全性を確保しつつ円滑に実施することを可能とするため「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を策定した。

近々では、2019年9月にも「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」の改訂版を発表し、特別装置自動車の公道実証実験に関する追加や、遠隔型実験との共通事項やそれぞれの個別事項が整理され、実用化に向けた安全対策などをより具体化したものとなっている。

道路使用許可においては、①実験の趣旨等②実施場所・日時③安全確保措置④実験車両等の構造等⑤監視・操作者となる者⑥遠隔型自動運転システムの公道実証実験において1名の遠隔監視・操作者が複数台の実験車両を走行させる場合の審査の基準――の各項目について審査することとし、安全確保措置においては、交通状況や道路環境などを鑑みて余裕をもって安全に停止できる速度を実施計画に盛り込むこととしている。当面は、原則として時速20キロメートルを超えない速度を想定している。

実験車両の構造要件では、道路運送車両の保安基準に適合していることなどをはじめ、遠隔型自動運転システムにおいては、遠隔監視・操作者が、実験車両の制動機能を的確に操作することができるものであり、通信の応答に要する時間が想定される一定の時間を超えた場合には、自動的に実験車両が安全に停止するものである必要があるとしている。

複数台を制御する遠隔型自動運転システムにおいては、1名の遠隔監視・操作者が複数台の実験車両を走行させる場合、実証実験を実施する場所において、1名が1台の実験車両を走行する遠隔型自動運転システムをすでに実施済みであり、安全に公道を走行できる確認がなされていることを要する。

また、万が一の交通事故に備え、実験車両にドライブレコーダーやイベントデータレコーダー(EDR)などを搭載し、車両の前後方や車両内の状況、車両状態情報の記録を行うほか、監視・操作者の操作状況などの映像や音声、実験車両に係るセンサーなどによって収集した車両状態情報を含む各種データ、センサーの作動状況などを記録しなければならない。

これらのデータは適切に保存し、交通事故などが発生した場合に事故原因を検証可能とする措置を講ずる必要がある。

サイバーセキュリティについては、サイバーセキュリティ基本法などを踏まえ適切なサイバーセキュリティの確保に努めることや、遠隔監視・操作者が遠隔操作装置を離れるときは、他人が実験車両を走行させることができないよう措置を講ずることなどが求められている。

【参考】自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の改訂版については「自動運転の公道実証実験における重要7条件まとめ」も参照。

■改正・改定に向けて動き出している法令
自動車損害賠償保障法:改正について検討中

自動車損害賠償保障法、通称「自賠法」についても、自動運転の導入を見据えた検討が進められている。

自動運転においては、システムの欠陥や障害、データの誤謬(ごびゅう)、通信遮断、サイバー攻撃による障害などによる事故が想定され、事故原因や責任関係の複雑化が指摘されている。このため、事故時の責任関係に係る制度面での取り組みが必要となっている。

主な論点として①自賠法の責任主体である「運行供用者」をどのように考えるか②所有者らが運転しない自動運転についても「運行」と認められるか③自賠法の保護の対象である「他人」についてどのように考えるか④「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」について、どのように考えるか⑤「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと」について、どのように考えるか⑥事故発生時における責任関係・割合の在り方⑦事故原因の調査・分析体制の在り方――が挙がっている。

従来の手動運転においては、運転主体はあくまでドライバーだったが、自動運転においては「自動運転システム」がその役割を担うこととなり、これまでのドライバーの過失はシステムの過失(欠陥)となる。

その際の責任が、自動車の所有者や運行責任者にかかってくるのか、システム開発企業にかかってくるのかなど、早急に取りまとめる必要がある。

国土交通省が2016年から開催している「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」が2018年3月に発表した報告書によると、自動運転システム利用中の事故における自賠法の「運行供用者責任」については、従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社などによる自動車メーカーなどに対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当と結論付けている。

また、ハッキングにより引き起こされた事故の損害については、政府が損害を補填した後、自動車メーカーなどに対して求償することが考えられるほか、必要なセキュリティ上の対策を講じていない場合は、保有者の運行供用者責任が認められることになる可能性があるとしている。

このほか、免責要件の一つとなる「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」については、自動車の運転
に関しては現在と同等の注意義務を負わなくなると考える一方、自動車の点検整備に関する注意義務などは引き続き負うものとし、自動運転システムのソフトウェアのアップデートや自動運転システムの要求に応じて自動車を修理することなどを例として挙げている。

電波法:総務省が改正案を取りまとめ中

自動運転に限ったものではないが、第5世代移動通信システム「5G」の実用化を見据え、同じ周波数の電波を共同利用しやすくする仕組みを導入するため、総務省が電波法の改正案を取りまとめているようだ。

時間帯などによって使用されていない、いわゆる周波数帯の空きを5G用として有効活用するもので、5Gサービスの本格化によって足りなくなる可能性がある周波数帯に対し、柔軟な利用を促進することで自動運転をはじめとした5Gサービスの円滑な運用を促し回線の混雑などを避ける狙いだ。総務省はこの改正案について、早ければ2020年の通常国会に提出する方針。

道路交通法や道路運送車両法のさらなる改正も

自動運転車の周囲に注意を促すため、自動運転車の車体にステッカーを貼りつけることを開発各社に求めていく方針であることが日経新聞によって報じられている。報道によると、国土交通省は2019年12月にも道路運送車両法に基づく保安基準などの改正案を示し、パブリックコメントを募るという。

こうした細かな改正は今後も頻発しそうだ。自動運転システムやサービス形態が多様化する自動運転レベル4の実用化においては、2019年の改正道路交通法や改正道路運送車両法改正ではフォローしきれない案件がいろいろと出てくる可能性が高い。

【参考】自動運転車へのステッカー貼り付けについては「こんな「自動運転車ステッカー」は嫌だ 国の検討デザインは?」も参照。

■今後、改正・改定の動きが出そうな法令
道路法:道路インフラの観点から改正の動きも?

道路インフラの観点では、道路法なども関わってくる可能性が高い。路車間通信(V2I)をはじめ、交通インフラと協調することでより正確で安全な無人運転を実現するのが自動運転であり、今後、現在の道路法における規定の範囲に収まらないインフラの変革が求められることもあるだろう。

また、自動車専用道路のように、新たに「自動運転車専用道路」の枠組みが設けられる可能性も否定はできない。自動運転システムの高度化に伴い、現在では想定しきれない新たなシステムがインフラにも求められることは間違いのないことだろう。

製造物責任法(PL法):「製造物」の欠陥も関わってくる?

自賠責とも絡んでくるが、自動運転車による事故の責任が「人」から「システム」、つまりモノに変わっていくことで、製造物の欠陥により損害が生じた場合の製造業者などの賠償責任について定めた「製造物責任法」に基づいて責任を追及する場面が増加する可能性がある。

しかし、同法においてはソフトウェアの扱いがあいまいであり、通信回線などの無体物も対象外となっている。さまざまなソフトウェアが機能し、通信回線を用いた自動運転車における事故要因がこれらに該当する場合、どのような取り扱いがなされるべきか検討が必要と思われる。

貨物自動車運送事業法や道路運送法などでも検討?

貨物自動車運送事業を対象とした貨物自動車運送事業法や、タクシー・バスなどを対象とした道路運送法なども、ドライバーが車内にいることを前提とした内容となっており、無人の自動運転サービスなどには対応していない。

無人自動運転で旅客運送などを行う際も、有人の場合と同等の安全性や利便性が確保されるよう必要な措置を検討する必要がありそうだ。

■【まとめ】自動運転システムの進化に合わせて法律もアップデート

このほかにも、「民法」や「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」など、自動車事故の際に用いられる法律についても新たな解釈や改正などが必要になる可能性がありそうだ。

中心となるのはやはり道路交通法や道路運送車両法だが、関連する法律の裾野は思いのほか広い。

著しい進化とともに交通社会に大変革を巻き起こす自動運転は、今後も従来の枠組みではフォローしきれない点が多数浮かび上がってくるものと思われる。ソフトウェア同様、法律もまたその進化に合わせてアップデートを重ねていかなければならない時代なのかもしれない。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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