自動運転の公道実証実験における重要7条件まとめ

上限時速20キロ、EDR設置やセキュリティ対策など



警察庁は2019年9月、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」の改訂版を発表した。自動運転の実現に向け全国各地で加速する実証実験に対し、実験が安全かつ円滑に実施されるよう策定したものだ。


この改訂基準をベースに、実証実験において求められる重要な条件をピックアップし、解説していく。

▼自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準(令和元年9月 警察庁)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/20190905jidouuntenkyokakijyunkaiteiban.pdf

■公道実証実験における道路使用許可基準策定の経緯と主な変更点

警察庁は2016年5月、公道において自動運転システムの実証実験を行うにあたって、交通の安全と円滑を図る観点から留意すべき事項をとりまとめた「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を策定・発表した。

2017年6月には、遠隔型自動運転システムを用いた公道における実証実験を、道路使用許可について定めた道路交通法第77条の対象行為とし、実験主体の技術のレベルに応じた実験を一定の安全性を確保しつつ円滑に実施することを可能とするため「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を策定した。


その後、2018年の「自動運転に係る制度整備大綱」において、限定地域での無人自動運転移動サービスの実用化について「当面は、遠隔型自動運転システムを使用した現在の実証実験の枠組みを事業化の際にも利用可能」とされたことなどを踏まえ、これまでの公道実証実験の内容や結果を考慮しながら道路使用許可基準の改訂について検討し、2019年9月に「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」の改訂版を発表した。

今回の改訂により、特別装置自動車の公道実証実験に関する内容が追加され、遠隔型実験との共通事項やそれぞれの個別事項が整理された。

特別装置自動車は、手動による運転時は通常のハンドル・ブレーキと異なる特別な装置で操作する自動車を指し、車内にいる監視・操作者が公道において手動または自律的に走行させる実証実験についても、道路交通法第77条の道路使用許可を受けなければならないものとしている。

■重要条件①安全確保措置:当面は時速20キロを超えない速度を想定

道路使用許可においては、①実験の趣旨等②実施場所・日時③安全確保措置④実験車両等の構造等⑤監視・操作者となる者⑥遠隔型自動運転システムの公道実証実験において1名の遠隔監視・操作者が複数台の実験車両を走行させる場合の審査の基準――の各項目について審査が行われる。許可期間は、原則として最大6カ月の範囲内で、実験場所の交通状況に応じた期間としている。


この中で、③の安全確保措置において、交通状況や道路環境などを鑑みて十分な猶予をもって安全に停止できる速度を最高速度とし、実施計画に盛り込むこととしている。当面は原則として時速20キロメートルを超えない速度を想定しており、遠隔型自動運転システムの公道実証実験においては、通信の応答に要する時間も十分考慮することとしている。

当面は制限速度にかかわらず、徐行に近い安全な速度で実証を行わなければならず、通信の遅延などが生じる可能性も踏まえたうえで安全対策を講じなければならない。

また、実験車両の正面・背面・側面には、自動運転の公道実証実験中である旨を表示することも義務付けられている。周囲の車両へ注意喚起することで、低速走行やドライバー不在の走行であることなどへの理解を促し、事故を未然に防ぐ狙いだ。

このほか、急病や停電などの理由により監視・操作者による監視・操作が困難な状態となり得ることを踏まえた安全対策を実施計画に盛り込み、他の監視・操作者による交代や、実験車両の緊急停止ボタンの押下、自動的に実験車両を安全に停止させるミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)といった措置を講ずることなどを求めている。

遠隔型自動運転システムにおいては、交通事故などの際に、現場に駆け付けた警察官が必要に応じて実験車両の原動機を停止できるよう、停止方法や実験車両が交通の障害とならないようにするための措置についてあらかじめ警察に提出するほか、警察官の要請に応じ実験関係者が現場に急行することができる体制の整備、遠隔操作が困難な状況において、実験車両が安全に停止した後に車両を安全に移動させる方法、遠隔監視・操作者が把握できる周囲の状況が限定され得ることを踏まえた安全対策を実施計画に盛り込むこととしている。

■重要条件②実験車両の構造要件:遠隔型における通信遅延時は車両を安全に停止

実験車両が道路運送車両の保安基準の規定に適合していることをはじめ、実験施設などにおいて、実施しようとする公道実証実験において発生し得る条件や事態を想定した走行を事前に行い、実験車両が公道において安全に走行できるものであることを確認する必要がある。

遠隔型自動運転システムにおいては、遠隔監視・操作者が、実験車両の制動機能を的確に操作することができるものであることをはじめ、通信の応答に要する時間が、想定される一定の時間を超えた場合には、自動的に実験車両が安全に停止するものである必要がある。

遠隔型をはじめとする自動運転車は、車載カメラなどのセンサーが得た情報やクラウド上の情報などを常時通信し、情報をやり取りしながら走行するほか、周囲の車両との車車間通信(V2V)やインフラとの路車間通信(V2I)などを通してより安全性の高い走行を実現する。

通信に遅延や断絶などが生じると、各種システムが機能しなくなる恐れが高まり、自動運転の危険性が高まる。このため、通信遅延時などには自動で車両が停止する措置が必要となるのだ。

なお、通信技術をめぐっては、大容量高速通信で同時接続性、低遅延性を備える次世代通信規格「5G」の開発が進められている。

■重要条件③複数台を制御する遠隔型自動運転システム:増加の際はその都度申請が必要

遠隔型自動運転システムの公道実証実験において、1名の遠隔監視・操作者が複数台の実験車両を走行させる場合は、実証実験を実施する場所において、1名の遠隔監視・操作者が1台の実験車両を走行する遠隔型自動運転システムをすでに実施済みであり、安全に公道を走行させることができる確認がなされていることを必要とする。

また、実験車両を増やす際も、原則として1台ずつ増やすこととし、その都度新たな実験として道路使用許可申請を行うこととしている。

2019年2月には、愛知県一宮市で国内初となる複数台の遠隔監視型自動運転の実証実験が行われている。5G搭載車両を含む2台の自動運転車が無人状態で自動走行を行い、遠隔地から1人の運転手が両方の自動運転車両を監視し、緊急時に介入が必要になった場合などには手動制御を行う仕組みだ。

【参考】複数台の遠隔監視型自動運転については「国内初!5G車両を含む2台の遠隔監視型自動運転の実証実験 愛知県一宮市で実施」も参照。

■重要条件④警察官などによる事前審査:施設内審査や路上審査、公道審査を経て実証実験へ

特別装置自動車においては、警察官などが実験車両に乗車し、実験施設などにおいて、法令にのっとって当該実験車両を手動で走行させることができることを確認する「施設内審査」に合格しており、さらに警察官などが実験車両に乗車し、公道実証実験を実施しようとする区間の全部を、交通事故を生じさせることなく、法令にのっとって当該実験車両を手動で走行させることができることを確認する「路上審査」に合格している必要がある。

また、自動運転の実用化に向けた実証のための自律走行においては、実験車両に乗車するなどした警察官などが実験車両が確実かつ安全に走行できることを確認する「公道審査」を経て行うこととしている。

公道審査は、実施しようとする本走行の環境(昼夜間の別、交通量など)に対応した日時において行うものとし、原則として、本走行を実施しようとする区間の全部を自律走行させ、交通事故や自動運転システム等の不具合を生じさせないことなどを確認する。

■重要条件⑤交通事故時の措置:記録装置の装着義務化、事故原因特定へ

交通事故などが発生した場合に備え、実験車両にドライブレコーダーやイベントデータレコーダー(EDR)などを搭載して車両の前後方や車両内の状況、車両状態情報の記録を行うほか、監視・操作者の操作状況などの映像や音声、実験車両に係るセンサーなどによって収集した車両状態情報を含む各種データ、センサーの作動状況などを記録しなければならない。

これらのデータを適切に保存し、交通事故などが発生した場合に事故原因を検証可能とする措置を講ずることとしている。

実際に公道実証実験中に交通事故が発生した場合には、実験を中止し、記録したデータなどを必要に応じて関係機関に提出することを含め、適切に保存・活用するほか、消防職員が適切に消防活動を行うことができるよう、あらかじめ実験車両の構造や停止方法、その他の消防活動に必要な実験車両に関する事項、実験日時、その他の実験内容に関する事項を記載した資料を関係消防機関に提出し、説明を行うことも求めている。

自動運転システムの不具合などによって交通事故が発生し、実験中断後に再開しようとするときは、事故原因を明らかにし、再発防止策を講じた上で、改めて許可の申請を行うことが必要とされている。

■重要条件⑥地域住民や関係機関への説明や報告義務

実証実験の実施主体は、自動車損害賠償責任保険に加え任意保険に加入するなどし、適切な賠償能力を確保するよう努めることや、地域住民をはじめとする関係者に対し、実験の内容等についてあらかじめ広報や説明を行うこと、実施場所の道路管理者と事前に協議を行うとともに、交通事故などが発生した場合には速やかに連絡すること、走行中に生じた自動運転システムの安全に係る不具合や、走行中著しく他人に迷惑を及ぼした場合等の特異事案については、その状況をただちに所轄警察署長に通報するとともに、再発防止策を報告することとしている。

特異事案は、減速や停止すべき際にシステムの不具合などによって減速・停止せず、手動走行に切り替えて急停止するなど交通事故を回避したヒヤリハット事例や、システムの不具合などによって実験車両が走行中に突然停止し、後続車両の通行の妨げとなるケースなどを指している。

■重要条件⑦サイバーセキュリティ:適切な水準の確保を

遠隔型自動運転システムにおいては、サイバーセキュリティ基本法などを踏まえ、公道実証実験を安全に行うために、適切なサイバーセキュリティの確保に努めることや、遠隔監視・操作者が遠隔操作装置を離れるときは、他人が実験車両を走行させることができないよう措置を講ずることなどが求められている。

■【まとめ】道路使用許可基準の策定で、自動運転実用化に向けた取り組みを推進

道路使用許可の観点から見ると、自動運転の実証実験を行うハードルは思いのほか低い印象を受ける。これは、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」が単純な規制ではなく、あくまで実証実験を安全かつ円滑に行うためのルール・ガイドラインであり、自動運転の実用化に向けた取り組みを推進するためのものだからだ。

こうしたルール作りが進むことで開発企業らは実証実験に着手しやすくなり、研究開発がいっそう促進される。

「官民ITS構想・ロードマップ 2019」では、限定地域における無人自動運転移動サービスを2020年にも実証実験の枠組みを利用した形で実現することとしている。今から1年後、何らかの形でサービスが始まっている可能性があるのだ。

自動運転の実現は遠い未来の夢物語ではなく、すぐ目の前まで迫っている出来事だ。実現に向け、各実証実験が安全に滞りなく実施されることを期待したい。


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