ティアフォー、自動運転実証エリアを10倍以上に 113億円の使い道は? 加藤真平会長に聞く

品質確保に向けた技術者採用を加速



インタビューに答える加藤真平氏=撮影:自動運転ラボ

オープンソースの自動運転OS「Autoware(オートウェア)」の開発を推進する自動運転スタートアップの株式会社ティアフォー(本社:愛知県名古屋市/代表取締役社長:武田一哉)が、このほど新たに約80億円の資金調達を行い、シリーズAにおける累計調達額が国内では最大規模となる113億円に到達した。

この巨額の資金調達でティアフォーは何を目指すのか。自動運転ラボはティアフォーのオフィスを訪れ、同社の創業者で会長兼CTO(最高技術責任者)の加藤真平氏に今後の展望などを独占取材した。


記事の目次

【加藤真平氏プロフィール】かとう・しんぺい 株式会社ティアフォー取締役会長 最高技術責任者(CTO)、「The Autoware Foundation」代表理事。博士(工学)。1982年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了。カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学の客員研究員、名古屋大学大学院 情報科学研究科 准教授を経て、現職。専門はオペレーティングシステム、組込みリアルタイムシステム、並列分散システム。  

■品質確保に向けた技術者採用、他業種からも歓迎
Q 今回の資金調達の一つの目的として優秀な人材の獲得を掲げていますが、現在の採用はどのような状況でしょうか?

加藤氏 初期のころは、かつて私と一緒に研究していた技術者や教え子などがメンバーに多かったのですが、最近はエージェントさんの活用を増やしており、30代から40代の多様なバックグラウンドのメンバーが増えてきています。また今まではAutowareの開発を行うための人材をメインに採用してきましたが、それは続けつつ、2つの分野の人材を積極的に採用していこうと考えています。

まず1つは品質や安全性を確保するための人材です。自動運転では国際標準規格で決められているソフトとハードの品質基準が求められるため、その基準に準じて開発ができるエンジニアが必要です。ただ、いざ採用しようとすると難しいのが現状です。


自動運転ラボ 自動運転システムが完成に近いフェーズになり、高い品質が求められるようになってきたということですね。求める人材としては自動車業界にいた人がメインになりますか?

加藤氏 自動車の品質を確保するという視点で見ると自動車業界が最もレベルは高いのですが、必ずしもそこでなければいけないとは考えていません。例えば家電製品やサーバー業界もかなり品質が求められる業界なので、そういった分野のエンジニアなども対象だと考えています。

あとはスマートフォンなどの量産品を世の中に送り出している人たちも品質の確保に関わっています。自動運転の知識を習得してもらうというハードルはありますが、他の業界からの採用もアリだと思っています。


■実証実験、Googleと同様の1万台規模に
Q 採用におけるもう1つの分野は何でしょうか?

加藤氏 もう1つは実証実験を行うための人材です。現在ティアフォーが行っている実証実験は10台前後のオペレーションですが、次の段階ではGoogleと同様の1万台規模を目指さないといけません。もし1万台の実験車両を動かすとなると最低でも1万人が必要です。一般のモニターではなく自動運転システムの事を理解して安全なオペレーションができる人、データを収集してエンジニアにフィードバックできる人、実験専門のエンジニアなどが必要になってくると思います。

また、必ずしも実車両で実験しないといけないテスト項目ばかりではないので、シミュレータを用いた実験も導入しています。実車両を1万台走行させる前に、まずはシミュレータ上でその規模の実験を行えるように開発体制を整えていきます。

Q 実証実験は海外でも実施していくのですか?また、比重はどのような割合になりますか?

加藤氏 実証実験は海外も含めて実施していきます。数で言うと国内の方が少し多いと思いますが、力の入れ具合で言うと半々くらいです。

自動運転ラボ 海外での実証実験は現地企業とのアライアンスがメインですか?

加藤氏 そうですね。海外は基本戦略としてはアライアンスを組んでいくのですが、実際に実験を行う際はティアフォーから何人か現場に行く必要がありますので、その人材は国内で採用をします。サポートとして出張して、実験がうまくいったら帰ってくるというイメージですね。現時点では海外での採用はあまり考えていないので、基本的な採用は国内で進める方針です。

■「距離」より「エリア」、現在の10倍以上に拡大へ
Q 自動運転の実証実験での目標があれば教えてください。

加藤氏 ティアフォーとしては「実験で走った距離を増やす」というより「実際に走ったエリアを増やす」方が重要だと考えています。仮に国外の実証実験で郊外を長距離走った実績を作ったとしても、いきなり日本の市街地で実用化できるということはありません。数年間の実証実験を経て、実用化への道が開けるため、広く実用化を進めるためにはエリア数の確保が重要です。

ティアフォーは現在国内では62カ所の地域で実証実験の実績がありますが、10倍を目安に実証エリアを拡大していく方針です。

Q 2020年の東京オリンピックに向けて各自動車メーカーがレベル3以上の自動運転車開発を進めていますが、こうした領域での計画はありますか?

加藤氏 まだはっきりとは申し上げられないのですが、色々と取り組んでいることはあります。Autowareはもともとレベル4〜5の開発を目指していますが、レベル2〜3の自動運転車にも活用できるシステムです。今後もこういった自動車メーカーの領域に対する取り組みは進めていく方針です。具体的な計画は年内に色々と発表できると思いますので、期待してください。

自動運転タクシーは都心部ではなく地方で
Q 最近は都心部での実証実験も増えてきていますが、予定している実験などありますか?

加藤氏 内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の東京臨海部実証実験に参加する予定ですが、ティアフォーとしては都心部での完全自動運転にはあまり肯定的ではありません。

例えば都心部で自動運転タクシーを走らせてしまいますと、今いるタクシードライバーの方たちと競合してしまい、経済の構造を変えてしまう恐れもあります。地方の過疎地など明らかに交通機関が機能していないところでの自動運転タクシーは交通課題解決の手段として価値があるのでトライしていきますが、都心部の自動運転タクシーというのはそもそも早期には実現すべきではないと考えています。

ただし一般の乗用車にレベル2やレベル2+の機能を搭載し、安全性が高まって事故が減ることは大歓迎ですので、こちらはエリアを限定せず推進していきます。また都心部でも既にドライバー不足が課題となっている物流業界に関しては、自動運転化はありだと考えています。

自動運転ラボ 一貫して自動運転の実用化と社会課題の解決をセットで考えているということですね。

加藤氏 社会課題を解決していきたいという一貫した目標が、ティアフォーの推進力であり、ほかのプレーヤーたちとの差別化にもつながっているのだと思います。テーマとして常に社会課題というものがあって、それを解決するために技術開発をするというのがティアフォーの持ち味だと思います。

ラストワンマイル領域、「Milee」で席巻へ
Q 社会課題解決という観点で見ると、人や物を運ぶラストワンマイル領域での自動運転車も注目が集まっています。この分野で取り組んでいく予定はありますか?

加藤氏 この分野についてティアフォーとしては自動運転EVの「Milee(マイリー)」というモデルに取り組んでいるので、その延長で進めていくというイメージですね。もっと小型の自動運転車両にも取り組んでいきますが、Mileeのようなゴルフカート以上の領域はこれからティアフォーの専売特許になっていくと思います。

自動運転ラボ Mileeは人と物どちらを乗せるという前提ですか?

加藤氏 ゴルフカートベースのサイズで物流もできるし、人を乗せることもできるというイメージですね。施設内の移動や物流についてはかなり直近で取り組んでいく予定です。その先は、公道での人の移動に関しても地方であれば取り組んでいくという感じですね。ただし、地方都市では基本的に消費者からお金をもらうビジネスモデルでは実現が難しいですから、まったく違うモデルを考えています。

出典:ティアフォー社プレスリリース
■今年の途中評価は120点、「期待以上の結果出せた」
Q 2019年は自動運転領域の注目度が高まり、「自動運転元年」と呼んでもいいかと思います。2019年を折り返したいま、描いているビジョンに対する現在の進捗に点数をつけるとしたら、何点でしょうか?

加藤氏 皆さんからの期待以上の結果が出せたという意味では120点だと思っています。

自動運転ラボ シリーズAで国内最大規模の113億円という数字が周囲からの評価の表れですね。今回の約80億円調達というのもインパクトが大きい数字です。

加藤氏 ありがとうございます。しかし自分の中では、山登りで言えばいまはまだ1合目から2合目だと考えていますので、まだまだこれからという印象ですね。

自動運転ラボ 自動運転領域はまだ実用化に時間がかかりますからね。今後の取り組みにも期待しています。本日はありがとうございました。

加藤氏 ありがとうございました。

【取材を終えて】目指すのは社会課題の解決

ティアフォーは常に社会問題の解決を見据え、「自動運転はなぜ必要なのか」ということに常に立ち返り、本当に人々に役に立つシステム設計に注力している。社会が抱える課題に一貫して取り組む姿勢は働きがいにつながり、さまざまなエンジニアにとっても魅力的な職場となる。

「年内に色々発表できる」というティアフォーの今後の発表が非常に楽しみだ。


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