高速バス大手、自動運転への挑戦 WILLERの取り組みをたどる

シンガポールで先行実証、Mobileyeとの連携にも注目



出典:WILLERプレスリリース

自動運転分野において、高速バス大手WILLERの取り組みが光っている。MaaSに力を入れる一方、交通事業者としては異例とも思われる海外での自動運転実用実証や、自動運転開発を手掛ける海外有力企業とのパートナーシップなど、移動革命に向けた先進的な取り組みを加速しているのだ。

この記事では、自動運転やMaaS分野における同社の取り組みを解説していく。







■WILLERの概要

WILLERの事業は、前身となるバスツアー会社西日本ツアーズを経て2005年に持株会社西日本ホールディングスを設立したことに始まる。同HDが翌年WILLERとなる。

高速ツアーバスをはじめ、路線バスや損保サービス、京都丹後鉄道の運営、ポータルサイトの運営など事業多角化を図り、業績を伸ばしてきた。

「FOR ACCESS ALL」をミッションに利便性、革新性、社会性、安全性を高く意識した移動サービスの提供を心掛けている。過去、人類の歴史を変えてきた移動の変化の影には技術革新があるとし、「世界で最も革新的な会社」を目標に最先端技術を活用した交通革命に挑んでいる。

こうしたビジョンのもと、早くから自動運転技術やMaaSに着目し、新たなモビリティサービスの実用化に向け、まい進しているのだ。

■自動運転関連の取り組み
シンガポールで自動運転実用化へ

WILLERのシンガポール子会社WILLERSは2019年5月、同国最大のカーシェアリング事業者Car Clubとテクノロジー企業Singapore Technologies Engineering(以下ST Engineering)とともに、自動運転の商用化に向けたコンソーシアムを設立したと発表した。

第一段階として、国立公園「Jurong Lake Gardens(ジュロン・レイク・ガーデン)」内で実証実験を行い、自動運転車の利用者をはじめ他の公園来園者や近隣住民らの自動運転に対する受容度や潜在ニーズの把握、アプリを利用したオンデマンド運行やサービスの改善点を洗い出すこととしている。WILLERSはビジネスデザインの企画や運営を担う。

当初予定では、6カ月間の無償テスト運行を経て有償による商用運行を2年6カ月行うとしていたが、2020年12月に正式に実証実験が始まったようだ。アクセシビリティの向上をはじめ、自動運転による旅客輸送システムの安全性や有効性、持続可能性を検証する方針だ。

車両は仏Navyaの「NAVYA ARMA」を使用し、園内約1.2キロのルートを最高時速10キロで走行する。当面は安全管理のためセーフティオペレーターが同乗している。国立公園へ車両をレンタルし、公園管理組織が自立してオペレーションする形態を採っている。

同年10月には、シンガポールの代表的な観光地である国立植物公園「Gardens by the Bay」でも自動運転による有償運行サービスを開始した。公園管理者に使用料を支払い、運賃収入をもとにオペレーションを行っている。

NAVYA ARMAを使用し、園内約1.7キロのルートを自動運転で走行するほか、夜間運行時に車両の窓がモニターに変わり、夜の植物園に映えるイルミネーションを投影し、その映像に合わせた音楽を流すなど、自動運転車ならではのエンターテインメント仕様で来園者を楽しませているようだ。

なお、両公園での実証に先駆け、シンガポールのセントーサ島でも実証を行っているようだ。

【参考】シンガポールでの取り組みについては「日本のWILLER、シンガポール国立庭園で自動運転バスの実証実験」も参照。

日本国内でも自動運転実証を開始

国内では、2019年12月に開催された「福岡モーターショー2019」でNAVYA ARMAの展示や試乗会イベントを実施したほか、2020年12月には関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の公道で技術実証実験、2021年2月にはニューノーマルに対応した自動運転サービス実証実験をそれぞれ行った。

2021年3月には、東京都の「令和2年度自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」のもと、豊島区内の「としまみどりの防災公園」近辺の公道で地域の公共交通・サービスと連携した自動運転の実用化に向けた実証実験を行っている。

この実証では、WILLER が全体の統括管理・実証内容の企画、車両オペレーションを担い、ST Engineeringが自動運転の技術設計やナレッジの共有を行うほか、BOLDLYがセーフティオペレーターのトレーニングや3Dマッピング、ルート設定などの技術提供を行っている。

【参考】国内での取り組みについては「自動運転バスに乗ってフィットネスへ!WILLER、高齢者などの運動不足支援」も参照。

モービルアイとパートナーシップ

WILLERは2020年7月、日本、台湾、ASEANにおけるロボタクシーソリューションの提供に向け、インテル傘下のモービルアイと戦略的パートナーシップを結んだことを発表した。日本から取り組みを開始し、モービルアイの自動運転技術を用いた実証実験からサービス展開を目指すとしている。

モービルアイが自動運転技術と自動運転車両を提供し、WILLER がそれぞれの地域やユーザーに合わせたサービスデザインをはじめ、各地域における規制要件の整理やモビリティの管理、運行会社向けのソリューション開発を担う。

まず2021年に日本国内の公道でロボタクシーの実証実験を開始し、2023年に完全自動運転によるロボタクシーと自動運転シャトルのサービス開始を目指す方針で、その後台湾やASEANにおいてもサービス展開を進めていく。

既存の交通サービスに自動運転サービスやオンデマンドのシェアリングサービスを加えることで、利用者の乗車体験を向上させることはもちろん、社会課題になっている環境問題の改善や交通事故・交通渋滞の削減にもつなげていく考えのようだ。

【参考】関連記事としては「WILLERとMobileye、自動運転タクシー「日本第1号」候補に!?」も参照。

シンガポールと日本の相違点

WILLERが自動運転に関する取り組みをシンガポールで先行させているのは、日本に比べ自動運転導入に向けた法制度や手続きが整備されているからだ。

経済産業省・国土交通省主催の「自動運転に関する社会受容性シンポジウム」で同社が講演・発表した資料によると、シンガポールは自動運転のガイドラインやテスト要件が既に整備されており、追加が必要な際も迅速に仮のテスト要件を追加するなど、柔軟性のある制度設計が行われているという。

許認可は全て陸上交通庁(LTA)内で完結しており、スピード感が求められる新技術をパイロットする環境が整備されているとしている。また、シンガポールは都市国家で、国土の西半分を自動運転実証エリアとしてオープンにしている点も大きいようだ。

同社はシンガポールでの先行事例を踏まえ、講演の中で以下の3点を提言している。

  • 長期的なビジョンと具体的な計画をわかりやすく広く周知することで、住民へ交通計画を浸透させるとともに新しいテクノロジーを受け入れるマインドを醸成
  • 自動運転の実証、実装の取り組みにおいては、ワンストップの対応によりスピード感を持ち強力にリード
  • 年間を通して実証走行することで、多くの住民が自動運転に触れる機会を提供し、自動走行の受容性を向上
■MaaS関連の取り組み

MaaS関連では、観光地へのラストワンマイルやアクティビティを1つのアプリで検索・予約・決済することが可能な観光MaaSアプリ「WILLERSアプリ」を2019年10月にリリースしている。

パートナーシップ関連では、千葉県芝山町や北海道室蘭市、富良野市とそれぞれMaaS実用化に向け連携協定を結んでいるほか、2020年8月には、長野県内市町村における課題解決に向けMaaSソリューションを提案することを目的に信州大学と共同研究を開始したことも発表している。

2021年4月には、ベトナムのテクノロジー企業VTI Joint Stockと日本やASEANで展開するMaaS「mobi」や「Trip」のアプリやウェブサービスのシステム開発を行うジョイントベンチャー「WILLER VTI」を設立した。

WILLERは2021年から日本、ベトナム、シンガポールで生活移動サービス「mobi」と、都市間移動サービス「trip」のサービス開始を進めており、VTIの技術力やナレッジを加えることで事業推進の加速度をつけるとしている。

■【まとめ】次世代モビリティサービス実現へ

交通事業者として自社開発の主体はMaaS分野が中心となっているが、他社との連携のもと、将来必須となるだろう自動運転技術を見事に織り交ぜ、次世代モビリティサービスの実現を推し進めている印象だ。

自動運転関連で今後大きく注目されるのは、モービルアイとのパートナーシップだ。日本でもロボタクシーの実証が2021年に始まる予定で、海外有力企業の国内進出は間違いなくビッグニュースとなる。引き続き目が離せない注目株だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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