「バブル」と言われるほど株価の高騰が続いている米EV(電気自動車)大手のテスラ。2020年夏に時価総額でトヨタを抜いた後も値を上げ続け、半年足らずでトヨタの2倍を超える企業価値に達している。
バブルであることは否定しきれないが、同社ならではの「自動運転の実現力」が支持を集めている点も見逃せない事実だ。
同社の躍進を支えるものは何なのか。実現力に着目し、同社の戦略に迫っていく。
記事の目次
■テスラ株の動向
テスラは2003年、EV開発や発電装置の開発企業として米カリフォルニア州で産声を上げた。2004年のシリーズAラウンドを皮切りに順調に資金を調達し、2010年6月にナスダック市場への上場を果たした。
1株17ドルで始まった同社の株価はじわりじわりと値を上げ、2013年6月に100ドル台、2014年2月に200ドル台、2017年4月に300ドル台と順調に右肩上がりを続けた。上場後もスタートアップ体質は続いており、開発と投資で赤字続きにも関わらず株式市場では一定の人気を誇る存在となっている。
一方、自由奔放なイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の発言が株価を直撃することも珍しくない。2018年8月、マスク氏が株式を非上場化する考えをツイートしたところ、瞬く間に株価は急騰した。しかし、間もなくしてこの発言が問題視され、投資家を混乱させたとして米証券取引委員会に提訴され、会長職を手放すことになった。その間、株価は下落を続けた。
【参考】マスク氏の会長職辞任については「テスラ魔の1週間…時価総額でGM下回る、イーロン・マスク氏が会長職辞任」も参照。
2018年には生産体制が整い、名実ともに黒字体質の自動車メーカーへと変貌を遂げた。株価は2019年末から急伸し、2020年1月に600ドル台、2月に900ドル台、その後一時値を下げたが6月に1000ドル台へ急伸し、7月ごろには時価総額でトヨタを抜き自動車メーカーのトップに躍り出た。
その後も株価は上がり続け、8月には1400~1600ドル台へ。同社取締役会はこの急騰を受け、普通株1株を5株にする株式分割を承認した。分割は8月末に行われ、直前に2200ドル台まで上がった株価は5分割後400ドル台となった。
これでテスラバブルは一息ついたかと思われたが、時価総額の規模と四半期ベースで5期連続の黒字を達成したことなどを背景に、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスがテスラをS&P500種株価指数の構成銘柄に採用することを11月に発表した。すると、呼応するかのように株価は再び上昇傾向を強め、12月1日の終値は584ドルまで高騰している。
【参考】関連記事としては「テスラ、年50万台販売突破!?黒字化で自動運転ソフト「FSD」の進化も加速へ」も参照。
テスラ、年50万台販売突破!?黒字化で自動運転ソフト「FSD」の進化も加速へ https://t.co/3NKOiS6uaH @jidountenlab #テスラ #自動運転 #FSD
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 24, 2020
■テスラの企業価値
12月3日時点におけるテスラの発行済株式数は約9億4,790万株で、株価は568ドルとなっている。単純計算で時価総額は5,620億ドル、日本円に換算すると約58兆円となる。参考までにトヨタは約23兆円で、この半年だけでも2倍超に膨れ上がっているのだ。
仮に株価が1%上げれば、時価総額は56億ドル=約5,800億円増加することになる。株価1ドルの変動が約1,000億円に相当するのだ。
あくまで企業価値であり、テスラがこの額の資金を右から左へ活用できるわけではないが、潤沢な資金を手にしていることは確かだ。
こうした資金は、設備投資をはじめ研究開発などに回されることになるが、自動運転をはじめとする最先端技術の実現には研究開発への多額の投資が必須となる。トヨタの研究開発費は年間1兆円規模だ。多くのスタートアップも資金調達ラウンドで多額の資金を集める。
自動運転開発において、資金力は開発スピードを左右する大きな武器となることは言うまでもない。特に、上場企業でありながらスタートアップ気質を持ち続けるテスラにとっては重要な意味を持つのだ。
■テスラの自動運転実現力
マスク氏の構想を実現できるか?
マスク氏は、自身が持つ野望と手腕を自動運転分野で惜しみなく発揮している。2014年にアダプティブクルーズコントロールなどのADAS(先進運転支援システム)「Autopilot(オートパイロット)」の実装を開始し、2016年には将来の完全自動運転を見据えたカメラなどのセンサーを全車種に搭載していくことを発表した。自動運転ソフトウェアを無線アップデート(OTA)することで、マイカーの自動運転機能が進化していく仕組みだ。
当時は、2017年中にハンドルに触れることなく自動運転を実現すると発言していたようだ。マスク氏おなじみの大言壮語となっているが、駐車場などでマイカーを自身のもとまで自動運転で呼び寄せる「Smart Summon(スマート・サモン)」を2019年に追加するなど、先進機能を他社に先駆けて実用化している点も見逃せない。
また、2019年4月開催の技術説明会で、2020年半ばを目途に100万台規模の自動運転タクシービジネスを開始する計画を明らかにしている。この計画はまだ実現していないが、リース形式の自動運転オーナーカーを不使用時にタクシー用途に用いる計画も発表されており、自動運転時代のマイカーの在り方としては秀逸なアイデアだ。
【参考】テスラの自動運転戦略については「自動運転、テスラ(Tesla)の戦略まとめ スマート・サモン機能導入!ロボタクシー構想も」も参照。
このほか、マスク氏は2019年5月ごろ、投資家との電話会談で「自動運転技術がテスラを5,000億ドル企業にする」と口にしたそうだ。当時の時価総額は420億ドル(約4兆6,000億円)ほどで、実現には中長期的視野を要する内容だが、2020年、自動運転の実現より先に5,000億ドルを達成してしまった。
株価の急騰は同社に対する期待感の表れであることは間違いないが、実態からかけ離れたバブル状態と見る専門家も多い。テスラバブルだ。投機目的の投資家が手を引き始めると、売り注文が連鎖しバブルが崩壊する可能性がある。
投資家の動向は、同社の経営状況とともにマスク氏の構想に大きく左右されるだけに、技術開発がマスク氏の発言に追いつくか否か、実現力が問われることになりそうだ。
【参考】テスラバブルについては「テスラバブルにおける「爆弾」とは?自動運転の目標、有言実行なるか」も参照。
テスラバブルにおける「爆弾」とは?自動運転の目標、有言実行なるか https://t.co/4v8Fd2hECa @jidountenlab #Tesla #自動運転 #目標
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 24, 2020
ユーザーを巻き込む実用実証で強力な実現力を発揮
マスク氏の壮大な構想をテスラが実現しきれていないのも事実だが、先進的な機能を次々と実装しているのもまた事実である。一部明らかなビッグマウスもあるが、基本的にマスク氏は机上の空論を語っているわけではなく、一定の根拠に基づいて発言している。これを踏まえると、構想に向けた技術開発は水面下でしっかり進んでいることになる。
仮に同社の自動運転技術が一定水準に達した際、あとは自動車メーカーとして自社の車両に搭載を進めるだけとなる。同社の独自規定となるが、センサー類のハードウェアはすでに一定水準を満たしているため、ソフトウェアのアップデートを進めるだけなのだ。技術を実装する先を持つ自動車メーカーならではの強みだ。
また、同社は最新技術の社会実装に関し、まず実用化して問題があれば改善を重ねていく手法を採用することが多い。スマートサモンなどがこれにあたる。安全性を何より重視する日本ではレアケースとなるが、一部で問題が発生しても強気で開発を強化し、実用化を推し進めていく。失敗を恐れず、ユーザーを巻き込みながら実証を重ねてクオリティを高めていくようなイメージだ。
諸刃の剣となる手法だが、実現力・実行力の観点においては、社会実装に向け先手を打つ戦略として有用であることに間違いない。
■【まとめ】「自動運転の実現力」の条件備えるテスラ、レベル4~5自家用車で先行も
技術開発意欲とバックボーンとなる資金、技術の実装先、その実装手法――こうした点を踏まえると、テスラは「自動運転の実現力」という点で相応の条件を備えており、自動車メーカーとして、特に自家用車向けのレベル4~5で先行する可能性がある。
世界的に高まるEV化の波も後押しし、同社の躍進が今後も続くことになるのか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「イーロン・マスク氏「完全自動運転、2021年にテスラの顧客に」 達成に自信」も参照。