自動運転分野をはじめ、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)を見据えた自動車業界に新たな風を吹き込もうと新規参入を目指し研究開発を進める企業は多い。
とりわけ、次世代に向けた研究を手掛ける大学から派生した大学発ベンチャーの存在感も年々増しており、国内でも主要プレイヤーに名を連ねる新進気鋭のベンチャーが続々と誕生している。
今回は、CASE領域での活躍が見込まれる国内大学発ベンチャーをピックアップし、各社の技術に触れていこう。
記事の目次
- ■ティアフォー:自動運転OS「Autoware」の世界展開へ
- ■フィールドオート:自動運転実証をサポート
- ■オプティマインド:物流最適化サービス「Loogia」を提供
- ■先進モビリティ:自動運転や隊列走行技術を開発
- ■ITD Lab:ステレオカメラの第一人者が立ち上げたベンチャー
- ■未来シェア:最適交通を実現するSAVSでMaaS分野での活躍
- ■GLM:EV製造やプラットフォームを提供
- ■エイシング:エッジAI領域で存在感発揮
- ■SEQSENSE:自律走行ロボットの開発ベンチャー
- ■Doog:運搬型ロボットや移動ロボットを開発
- ■TRUST SMITH:スマートファクトリー実現に向け研究開発
- ■e-Gle:EVに関わるさまざまな先端技術を開発
- ■ANSeeN:X線イメージセンサーを開発
- ■【まとめ】未来のスター企業へ…大学発ベンチャーの取り組みに注目
■ティアフォー:自動運転OS「Autoware」の世界展開へ
自動運転分野を代表する国内ベンチャーのティアフォーは、名古屋大学発ベンチャーとして 2015年に設立された。
開発と普及を進める自動運転OS「Autoware(オートウェア)」は、2017年に国内初となる一般公道における運転席無人の自動運転を行うなど、国内のさまざまな実証現場で活躍している。
海外では、オートウェアの国際標準化を進める「The Autoware Foundation」を設立し、世界各国の自動運転開発企業や公的機関、学術機関などと技術向上に向けた取り組みを展開している。米国運輸省や連邦道路管理局をはじめ、主要OEMや新興企業など数百に及ぶ組織・団体でオートウェアが採用されているようだ。
2019年8月には、シリーズAラウンドにおける資金調達額が120億円を突破したことを発表しており、活躍の場はますます広がっていきそうだ。
【参考】ティアフォーの取り組みについては「自動運転開発のティアフォー、国内最大規模のシリーズA調達額をさらに積み増し」も参照。
■フィールドオート:自動運転実証をサポート
埼玉工業大学発ベンチャーとして2018年に設立されたフィールドオートは、自動運転の実証実験をサポートする事業を主軸に据えており、出資者のティアフォーの下、オートウェアを活用した各地の実証現場で活躍している。
埼玉工業大学は2019年に自動運転技術開発センターを設置するなど自動運転分野の研究に力を入れており、同大やティアフォーなどと共に自動運転技術の社会実装を進めるパートナーとして注目が集まると同時に、研究開発力を生かしより広範な活躍に期待が高まる。
【参考】フィールドオートの取り組みについては「埼玉工業大学の自動運転ベンチャー「フィールドオート社」始動 AI専攻も新設」も参照。
■オプティマインド:物流最適化サービス「Loogia」を提供
2015年設立の名古屋大学発ベンチャーで、ラストワンマイルのルート最適化AIを活用したサービス開発を手掛けている。
ルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」は、配車計画をAIが自動作成して効率的な配送を実現するクラウドサービスで、日本郵便などが導入しているようだ。
2019年10月にトヨタをリードインベスターに総額約10億1300万円の資金調達を実施したことを発表しており、プロダクト開発体制の強化や人材の獲得・育成、マーケティング施策の拡充などを図っていく方針だ。
【参考】オプティマインドの取り組みについては「ルート最適化AI開発のオプティマインド、トヨタなどから10億円を資金調達」も参照。
■先進モビリティ:自動運転や隊列走行技術を開発
東京大学発ベンチャーとして2014年に設立された先進モビリティは、自動運転や隊列走行に関わる研究開発プロジェクトから、コアとなる技術を発展させ、各種車両に搭載可能な中核的要素技術として提供している。
トラックの隊列走行実証のほか、無人運転バス技術の開発と事業化などにも積極的に取り組んでおり、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)をはじめ、道の駅などを拠点とした自動運転サービス実証実験、空港制限区域内の自動走行に係る実証実験、専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証なども手掛けている。
2020年6月には、損害保険ジャパンと三菱オートリースとともに、自動運転車の導入を支援するソリューションを共同開発して製品化するなど、事業領域を拡大している。
【参考】先進モビリティの取り組みについては「「自動運転車の導入支援」をパッケージ化!先進モビリティや損害保険ジャパン」も参照。
■ITD Lab:ステレオカメラの第一人者が立ち上げたベンチャー
東京工業大学発ベンチャーとして2016年に設立されたITD Labは、独自技術を生かしたステレオカメラの開発を中心に、立体画像認識(立体カメラ)開発に関する技術支援などを手掛けている。
スバル・アイサイトで使用されているステレオカメラの開発に深く携わった実吉敬二氏が会長兼CTO(最高技術責任者)を務めており、ステレオカメラによる3次元位置計測や物体認識はお手の物だ。
Intelligent Stereo Camera(ISC)ユニットの提供をはじめ、Stereo Range Imager(SRIM)技術に関するコンサルテーション、自動運転技術に関する開発支援などを行っている。
【参考】ITD Labの取り組みについては「立体認識技術者、創業2年で6億円調達 自動運転向けステレオカメラ開発」も参照。
■未来シェア:最適交通を実現するSAVSでMaaS分野での活躍
MaaS分野で活躍しているのが、はこだて未来大学発ベンチャーの未来シェアだ。2016年設立の同社は、さまざまなサービスと移動手段の全体最適化を図るAIプラットフォームサービスの開発を手掛けている。
同社のSAVS(Smart Access Vehicle Service)は、タクシーなどのデマンド交通と路線バスなどの乗合交通の長所を掛け合わせたリアルタイムな便乗配車計算を行うサービスで、乗客、事業者双方の移動をスマート化する。
コミュニティバスに代わるデマンド型乗合バスなどで導入が進んでいるほか、各地のMaaS実証にも積極的に参加している。
【参考】未来シェアの取り組みについては「自動運転×配車最適化、ヴィッツと未来シェアの連携に期待」も参照。
■GLM:EV製造やプラットフォームを提供
2010年設立の京都大学発ベンチャー。京大ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーにおける電気自動車プロジェクトから誕生した。
かつて京都に存在したチューニングカーブランドのトミーカイラのオリジナルカー製造を引き継ぎ、EV化した車両を世に送り出している。
EVに特化したプラットフォーム事業も手掛けており、2017年に旭化成とEVコンセプトカー「AKXY」、帝人と市販車用樹脂製フロントウインドーをそれぞれ共同開発し、2018年にも京セラとEVコンセプトカーを開発するなど、研究開発支援の分野でも活躍している。
■エイシング:エッジAI領域で存在感発揮
岩手大学発ベンチャーとして2016年に設立されたエイシングは、エッジAIの開発分野で飛躍が期待されている。
独自開発したAIアルゴリズムのDBT(Deep Binary Tree)によってエッジでの学習や調整のいらない逐次学習を可能とし、エッジでリアルタイムな自律学習・予測を可能とする独自のAIアルゴリズム「AiiR(AI in Real-time)」シリーズを主力に同領域のパイオニアとして事業を展開している。
2020年3月にシリーズBラウンドで計7億円の資金調達を実施したことを発表したほか、同年5月にはエッジAIの市場調査機関として「Edge AI Research Center(EARC)」を設立し、業界全体の発展を推し進めていく方針だ。
【参考】エイシングの取り組みについては「自動運転に重要な「エッジAI」開発のエイシング、7億円資金調達」も参照。
■SEQSENSE:自律走行ロボットの開発ベンチャー
自律走行ロボットの開発分野では、2016年設立の明治大学発ベンチャー・SEQSENSEが気勢をあげている。
画像認識技術やセンサー技術など高度なテクノロジーを搭載した自律走行可能な警備ロボット「SQ-2 SECURITY ROBOT」は、2020年2月に成田空港の館内警備に導入され、立哨警備や巡回警備のさらなる高度化・効率化に一役買っている。
【参考】SEQSENSEの取り組みについては「成田空港の第3ターミナルにも自律走行警備ロボット!機動性重視で「SQ-2」選定」も参照。
■Doog:運搬型ロボットや移動ロボットを開発
筑波大学発ベンチャーとして2012年に設立されたDoogは、人やモノを運ぶ移動ロボットの開発を進めている。
モノを運ぶ運搬型ロボット「サウザー」は、自動追従機能やライントレース機能で人の運搬作業を補助する。搭乗型ロボットの「ガルー」は、3台を同時運行し、追従走行によって空港の搭乗ゲートや入国審査への移動などに活用可能で、スマートフォンからも操作できる。2人乗りの「モビリス」も用意されている。
2020年5月には、ロボットソリューションを展開するciRoboticsと共に大分県が新型コロナウイルス対策の一環として実施する無人配送ロボットの導入検証にサウザーを無償貸与したことも発表されている。
【参考】Doogの取り組みについては「大分県の実証に無人配送ロボを無償供与!DoogとciRobotics、新型コロナで」も参照。
■TRUST SMITH:スマートファクトリー実現に向け研究開発
東京大学発ベンチャーのTRUST SMITHは、2019年1月の創業ながらAIを駆使したさまざまな開発技術が注目を集めている。
2019年12月には、工場などのピックアップ作業に活用可能な障害物回避型アームのアルゴリズムの開発や、磁気テープなどのガイドに頼らずマッピングによって自律走行することができる自動搬送ロボットの開発について発表している。
2020年6月には、工場敷地内における自動搬送トラックの開発を開始したことも発表している。自動運転OS「Autoware」を活用する予定で、完全自動化されたスマートファクトリーの実現に向け研究開発に勢いがついているようだ。
同社はこのほか、ドローンを自動航行させるAI技術なども開発している。
【参考】TRUST SMITHの取り組みについては「東大AIベンチャー、「完全自動化工場」へ自動運転トラックの開発スタート!」も参照。
■e-Gle:EVに関わるさまざまな先端技術を開発
慶應義塾大学発ベンチャーとして2013年に設立されたe-Gleは、EVに関する要素技術の開発や完成車開発に向けた共同開発、コンサルティングなどを手掛けている。
インホイールモーター技術や、車輪の中と床下に設けられたフレーム構造の中に走行に必要となる主要部品の全てを収納するプラットフォーム技術、全輪独立制御技術など、今後のEV開発で目玉となりそうな技術が目白押しのようだ。
■ANSeeN:X線イメージセンサーを開発
2011年設立の静岡大学発ベンチャー・ANSeeNは「目に見えないものの可視化」をビジョンに掲げ、X線を活用した先端技術の研究開発を進めている。
X線の最小単位であるフォトン(光子)一つを捉える究極のイメージング(フォトンカウンティング)を可能とする、世界初の大画面X線FPDの量産化を目指している。X線イメージセンサーは、自動運転で主流となっているステレオカメラやLiDARなど電子デバイスの欠陥を自動的に捉えることができ、自動運転車の信頼性向上に寄与するとしている。
■【まとめ】未来のスター企業へ…大学発ベンチャーの取り組みに注目
高度なAIや画像解析技術などを有するベンチャーは続々と誕生しており、自動運転をはじめ医療など各分野で技術と専門性に磨きをかけている。人知れず水面下で研究開発を続けている企業も相当数が想定されるため、新たな注目企業が突如現れる可能性も高い。
研究活動を専門とし、若い人材も豊富な大学との結び付きも大学発ベンチャーの魅力だ。AIや自動運転の研究開発に力を入れる大学は増加傾向にあるため、業界における未来のスター企業が今まさに産声を上げているかもしれない。将来性豊かな各ベンチャーの取り組みに今後も注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転研究に力を入れている世界の20大学まとめ」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)