各地で盛んに行われている自動運転の実証実験。開発各社がさまざまな自動運転車を構築し、社会実装に向け日々試験走行を積み重ねている。
こうした実証に用いられる実験車両は、一部汎用性に優れた車種もあるが、開発向けの車両をベースに活用条件に合わせてカスタマイズするのが一般的だ。このカスタマイズにおいて重要なポイントとなるのがセンサーの選定だ。
今回はセンサー選定に焦点を置き、その重要性に触れていこう。
記事の目次
■自動運転におけるセンサーの役目
自動運転においてカメラなどの外部センサーは「目」の役割を果たし、周囲のさまざまな状況を映し出す。例えば、周囲を走行する車両をはじめ、歩行者や自転車、道路上の白線、信号、標識、ガードレールなどだ。これらのデータを自動運転システムのAI(人工知能)がリアルタイムで解析し、車両の加減速や操舵といった制御を行う。
人間のドライバーが目をつむったまま運転できないのと同様、自動運転車も目の役割を担うセンサーがあって初めて走行できるのだ。
センサーは、カメラやLiDAR(ライダー)、ミリ波レーダーが主力とされ、このほか超音波センサーを用いるケースや、道路に埋め込まれた磁気マーカーを読み取る磁気センサーを用いるケースもある。
ここでは、主力となる3つのセンサーに絞り、その特徴を解説していく。
■カメラの特徴
各種センサーの中で最もなじみ深い存在が「カメラ」だ。レンズが光を集めて像を作り、これをCCDセンサーやCMOSセンサーが電気信号に変えることで、細かい点(ピクセル)が集合したデジタル画像を作り出す。
各センサーの中で最も肉眼に近いイメージで周囲の状況をとらえることが可能で、物体を識別する能力が高い。単眼では難しかった対象物までの距離の計測も、人間の目と同じように複眼化(ステレオカメラ)することで空間把握能力を高めるなど、メカニカルな仕組みやソフトウェアの開発など進化を続けている。
車両や歩行者、白線などの識別はもちろん、測距技術の高まりで遠方の検知も可能としているが、光を必要とする仕組み上、夜間における検知は苦手だ。また、基本的に各センサー共通だが、雪や雨、霧といった物理的に視界を遮る天候条件もマイナス要素となる。
【参考】関連記事としては「車載カメラは2.6倍、LiDARは3倍 2024年の市場規模、自動運転実用化が追い風に」も参照。
■LiDARの特徴
LiDARは赤外線レーザースキャナーとも言われ、照射したレーザー光が物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向を測定する。
1本のレーザー光から返ってくる情報は1つの点に過ぎないが、これを辺り一面に無数に照射することで面の情報を得ることができる。また、1本1本のレーザー光が距離情報を持っているため、面を立体的に捉えることが可能になり、物体までの距離や形状などを計測することができる仕組みだ。
広範囲の情報を収集することが可能なため、LiDAR技術は高精度3次元地図の作製にも活用されている。
以前は、パトランプのようにクルクル回転することで広範囲を計測する回転式が主流だったが、回転機構を省くことで堅牢性やコストを下げられる点や、広い画角を計測可能なセンサーシステムの進化、設置可能な場所の柔軟性の高さなどを背景に、回転機構を持たないSolid State(ソリッドステート)式の市場化が進んでいる。
LiDARは中距離までの計測が得意だが、近年は数百メートル先の物体までの距離を正確に計測可能なLiDARの開発も進んでおり、自動運転において大きな武器となっている。車両は、時速60キロの場合1秒間に約17メートル進む。時速100キロだと約28メートルだ。数秒後に到達する場所の状況をいかに迅速かつ正確に把握するかが問われるため、遠方の計測能力に優れたLiDARが自動運転分野で一躍脚光を浴び始めた。
測距のほか、対象の形状や動きなどから物体を識別することもできる。自ら光を発するため、夜間でも計測することができる。
【参考】LiDARについては「LiDARとは? 自動運転車のコアセンサー 機能・役割・技術・価格や、開発企業・会社を総まとめ|自動運転ラボ」も参照。
■ミリ波レーダーの特徴
ミリ波レーダーの仕組みも基本部分はLiDARと共通しており、ミリ波(電波)を照射して対象物から跳ね返ってきた電波の差分によって距離を計測する。
直進性が強く遠方計測が可能で、LiDARと比べ雨や雪などへの耐性が強い。価格も安価だ。その一方、LiDARほどの分解能を持たないため、対象物の細かな形状の把握など識別能力の面で劣っている。また、人のように反射波が小さい対象の検出も苦手としている。
【参考】関連記事としては「ミリ波レーダーとは? 自動運転車で果たす役割は? 開発企業は?」も参照。
■センサーを組み合わせて使う理由
各センサーとも研究開発が進み現在進行形で進化しているが、他のセンサーを完全に上位互換するのは現状困難なようだ。このため、自動運転ではそれぞれの長所を生かす形で複数のセンサーを組み合わせて使用するのが一般的だ。
例えば、カメラをベースに据えつつ、逆光やトンネルによる明暗など光の影響が強い際にLiDARなどのセンサーで「目」を補完するといった具合だ。単独のセンサーでは困難な広範囲における測距や物体検出の精度を高め、「目」の信頼性を可能な限り高めることが重要なのだ。
こうしたさまざまなセンサーのデータを協調させるため、信号や座標などの各データを調整するセンサーフュージョン技術も求められている。
ODDに応じたセンサー構成の変更も重要
また、自動運転を実行する環境となるODD(運行設計領域)に応じて、柔軟にセンサー構成を変更することも重要だ。
例えば、歩行者と車両が入り混じった混在空間を通常速度で走行する場合、複数のLiDARやカメラ、ミリ波レーダーを搭載して万全を期す必要が生じる。一方、歩行者と車両が分離された閉鎖空間を低速で走行する自動運転車の場合、LiDARは1基、あるいは0基でも走行可能かもしれない。
特定の敷地内のみを走行する場合や高速道路限定で走行する場合、市街地を走行する場合などの道路条件や地理条件をはじめ、天候状況などに左右される環境条件、速度制限やインフラ協調システムの有無といったODD構成要素に応じ、必要なセンサーシステムを構成しなければならないのだ。
【参考】関連記事としては「自動運転における「ODD」って何?「運行設計領域」のことで、言い換えれば「能力値」」も参照。
LiDARなどかつては高額だったセンサーも低価格化が進行しており、フル装備で周囲360度を高度にセンシングするシステムを搭載するに越したことはないかもしれないが、センサーが増えれば増えるほど処理を要するデータ量も膨大になり、システム全体の負荷も大きくなる。過剰な装備はいろいろな意味で負担が大きくなるのだ。
いろいろな要素を踏まえると、センサー選定の重要性とともにその難しさが浮き彫りとなってくるようだ。
■実証車両の開発支援を手掛けるマクニカの取り組みは?
自動運転実証車両の開発支援を手掛けるマクニカは、こうしたニーズに柔軟に対応可能なサービスを提供している。
自動運転開発向けの実証車両は、乗用車タイプからカート、トラックなど多様な車両をベースに、自動運転に必要なセンサーやコンポーネント、自動運転システム(ソフトウェア)など、要望に応じた実装を可能にしている。
データロギングやシステム開発といった走行データ収集、アルゴリズムやセンサーなどの検証、ADASやHMIなどの先行開発総合テスト、テストコースや市街地、高速道路における実証実験など、さまざまなユースケースに合わせた必要な機能のみのインテグレーションや、実証実験のシナリオ作成、デモ構築・ナンバー取得に至るまで、柔軟なサポートサービスメニューが用意されている。
各マーケットのトッププレイヤーとの関係も深く、多種多様なサービスメニューの実現に向け充実したサポートも提供している。
製品として扱っているセンサーは、国内のITD Labのステレオカメラをはじめ、米Leopard Imagingのカメラ、米CeptonやイスラエルのInnoviz、オーストラリアのBarajaのLiDARなど、代理店契約を結ぶ世界最先端の開発企業の製品が豊富にラインアップされている。
自動運転に関するノウハウを多く蓄積し、世界各国の開発メーカーとの結び付きが強い専門商社ならではのサービスだ。
■【まとめ】システムに精通したパートナーが必要不可欠に
自動運転サービスの導入を目指す事業者の多くは開発領域における知識が足りておらず、自ら自動運転車を構築することはできない。それ故、ほぼすべての実証に開発企業が名を連ねている。
今後、導入を見込む自治体やサービス事業者は増加の一途をたどるものと思われるが、システムの構築や運用に精通したパートナーが必要不可欠なのだ。
センサーの選定然り、さまざまな専門知識を必要とする自動運転分野において、アドバイザーやコンサルタントの存在感は今後ますます強まっていきそうだ。
>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで
>>第2回:自動運転を実現するためのプロセスとキーテクノロジーは?
>>第3回:実証実験用の自動運転車の構築からビジネス設計支援まで!
>>第5回:自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?