車の生産・販売・アフターケア企業のCASE対応に向けた教科書 コネクテッド化・自動運転化見据え

自動車業界に変革をもたらすCASE





自動車業界に変革をもたらすCASE。すでに業界共通の指針となり、自動車メーカー各社が新技術の開発を進めるとともに組織の変革・刷新を推し進めている。







こうした業界の変革は、自動車の生産や販売、ひいてはアフターケアを担う各企業群にまで変革を促すことになり、すでにその兆候は出始めている。

自動運転やコネクテッド化などによって各企業に求められる変革とは何か。生産、販売、アフターケアの3分野に大別し、現場がどのように変わっていくのかを解説していこう。

■CASEが自動車業界にもたらすもの
自動運転、クルマから「ドライバー」という存在を失くす

自動車の「コネクテッド化」、「自動運転」、「シェア・サービス」、「電動化」の頭文字をとったCASE。もともと独ダイムラーAGのCEOでメルセデス・ベンツの会長を務めるディエター・チェッチェ氏が2016年に提唱した造語だが、今では自動車業界共通の羅針盤というべき指針になっている。

通信技術の発展により自動車は「つながるクルマ」となり、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転への活用をはじめ、従来の自動車においても新たなサービスやデータ収集・解析が可能になった。

開発競争が繰り広げられている自動運転は、クルマから「ドライバー」という存在を失くし、車内の過ごし方に大きな変革をもたらすほか、クルマを操作するための技能要件もほぼ不要となるため、高齢者や障がい者、子どもの移動に変革をもたらす。また、バスやタクシー、物流におけるドライバー不足にも大きく影響することになる。

日本では条件付きで運転を自動化する自動運転レベル3の本格導入は間近に迫っている。当面は費用対効果の観点から大幅な普及は見込めないものと推測されるが、技術の高まりとともに価格も落ち着き、徐々に浸透していくことになるだろう。

常に手動運転を楽しみたい層と、手動運転をベースに必要に応じて自動運転技術を味わいたい層、可能な限り自動運転技術に依存したい層など従来のドライバーがカテゴライズされ、それぞれの需要に応じた自動車がしばらくは共存することになりそうだが、交通インフラなども少しずつ自動運転に対応したものに変わっていくことになる。

シェアリングやサービスがクルマの価値を変える

シェア・サービスは、自動車の概念が「所有」から「利用」へと移り変わっていく社会変化の象徴と言える。

鉄道やバスといった大量輸送が可能な公共交通が主役だった時代から、パーソナルな移動に利便性をもたらすモビリティとして新たな主役の座に就いた自動車。人口増と経済の進展を背景に市場は伸び続けているが、先進国の都市部を中心に慢性的な渋滞や深刻な環境負荷をもたらし、維持費の高騰も相まって徐々に利便性は失われつつある。

逆に公共交通の見直しが進められ、MaaS(Mobility as a Service)の導入など利便性を高める動きが世界各国で顕著となっており、自動車もサービスの一つとしてカーシェアリングなどの形でMaaSに組み込まれている。

先進国においては、こうした流れが今後加速する可能性が高く、「自動車を大量に売る」ことから「自動車や自動車技術を活用したサービスにつなげていく」ことにシフトする自動車メーカーも多い。「自動車からモビリティ・カンパニーへモデルチェンジする」ことを掲げているトヨタ自動車などが象徴的だ。

CASE4要素が相乗効果を発揮

電動化は、内燃機関が主流の車両の構造に大きな変化をもたらし、車内空間の自由度を高めるほか、相性が良い自動車のコンピュータ化の進展を促す役割も持つ。

また、電気制御される機能が増えると、それだけスマートフォンなどの機器と連動可能な機能も増加するため、コネクテッドサービスをはじめあらゆるサービスの実現を誘発することにもつながるだろう。

これらCASEを構成する「コネクテッド化」「自動運転」「シェア・サービス」「電動化」は、それぞれが密接に関わり合うことで相乗効果を発揮し、よりサービスや機能の質を高めていく。

自動車の構造のみならず、利用方法に変化を及ぼすことで人やモノの移動全般に変革を起こすCASE。以下、関連する各企業がこの変革に対しどのように対応していくべきかを解説していく。

■「生産」企業はどう変わるべきか
ハードウェアの開発だけではなく、ソフトウェアの開発にも注力を

自動車製造業は、自動車メーカーへ直接製品を納入するTier1、Teir1へ製品を納入するTier2……と階層化されており、その多くは自動車部品メーカーとして名を馳せている。

自動車メーカーからの要請を受けて一定の製品を製造・納入するほか、新素材を開発するなど開発企業としての役割も担っている。かつては開発においてハードウェアが占める割合が高かったが、近年はシステムの電子化により組み込みソフトウェアなどの需要が伸び、ソフトウェア分野での開発も伸びている。

帝国データバンクが2019年3月に発表したトヨタ自動車グループ下請企業調査によると、一次下請けの業種別企業数において、非製造業の「受託開発ソフトウェア」が267社となり、「自動車部分品・付属品製造」の259社を抜いて初めて首位に躍り出ている。

二次下請けでも「受託開発ソフトウェア」が前回調査(2015年)から64.4%増の1340社で1位となっており、ソフトウェアへのシフトが実際に進行しているのが見て取れる。

自動運転車の生産が実際に始まると、こうした傾向がいっそう強まることが予想される。EV化によって内燃機関から動力が変わり、電気によって車載システムから自動車の制御まですべてを担うことになるため自動車全体のコンピュータ化が進む。

また、自動運転システムの能力を100%発揮させるためさまざまな機能が連動して働かなければならず、各所にソフトウェアが必要となるのだ。従来の機械の製造からパソコンのようなコンピュータを製造するものに近づいていくイメージだ。

こうした変化に対応すべく、ソフトウェア開発能力をしっかりと高めなければならない。

【参考】帝国データバンクの調査については「トヨタ下請け企業の業種、「ソフト開発」が「部品製造」を抜く」も参照。

従来の枠組みにとらわれない開発体制を

自動運転車の製造は、自動車の枠組みに収まりきらない要素を多く含む。自動運転において目の役割を担うLiDAR(ライダー)などが代表的な存在で、従来の自動車製造の教科書には載っていなかったものが数多く台頭してくるのだ。

そのため、自動運転車の製造においては、従来の自動車部品メーカーに加え米Velodyne Lidar(ベロダイン・ライダー)のような専門分野の企業らが新たに階層に入ってくるのだ。

また、画像解析技術や音声認識技術といった最新技術も必要不可欠となるため、テクノロジー企業やスタートアップの参入なども相次いでいる。これまで階層化されていた自動車製造業だが、徐々に水平分業化が進んでいくものと思われる。

自動車における専門分野が多角化し、これまで培ってきた技術だけでは新たな専門分野に対応できず、新規参入企業に後れをとることになる。

新たな分野においても自社開発を積極的に進めるとともに、有力な技術を持つ企業との新たな提携やスタートアップの買収など、新たな技術、新たなネットワークづくりが強く求められている。

自動車や部品そのものの製造だけではなく、サービスの開発も視野に

生産企業は、従来の製造業や新規分野の開発にとどまらず、サービスの研究開発も視野に入れる必要がある。これまで自家用目的が主体だった自動車の用途が多様化するからだ。

自動運転車は各種移動サービスをはじめ物流や移動販売などに利用されるほか、移動可能な会議室やホテルといった活用案もあり、既成概念をはるかに飛び越えた新たなサービスが誕生する可能性を秘めている。

また、さまざまな移動手段を連携させるMaaSの進展も踏まえる必要があり、これからの自動車業界を取り巻く新たなサービスを見据えた開発体制が求められることになるのだ。

こうしたサービス全盛の時代には、製造における利益よりもサービス提供による利益が大きくなることもある。場合によっては、従来の製造業も「製造業からの脱却」を求められることになりかねない。

新たな時代を見据え、業界における自社の役割を見直すうえでもサービス面の研究開発は必要となるのだ。

Tier1は総合力を持って自動運転開発を

新規参入が相次ぐ自動運転業界においては、Tier1企業も足元をすくわれかねない。従来の自動車製造における高い総合力が、自動運転車における総合力とは一致しなくなるからだ。

仏自動車部品大手のValeo(ヴァレオ)は早くから自動運転のプロトタイプ車両の開発を進めており、自社開発した「Cruise4U」で世界各地の大陸横断を図るなどPRを兼ねた技術検証を進めている。

LiDAR開発にも早期着手しており、「SCALA」が独Audiの「Audi A8」に採用されるなどすでに実績も出している。

これからのTier1サプライヤーは、世界各国の自動車メーカーに信頼される開発拠点としての地位を高めなければならない。そのためにも、自動車メーカーに劣らぬ総合的な自動運転開発技術を持たなければならないのだ。

【参考】ヴァレオの取り組みについては「ヴァレオ(Valeo)の自動運転戦略まとめ LiDAR製品や技術は?」も参照。

■「販売」企業はどう変わるべきか
自動車や部品そのものの販売だけではなく、代理店としてサービスの販売も視野に

自動車メーカーがモビリティサービスへのシフトを強める中、自家用車を主体とした販売企業は持ち前の営業力を生かす機会が徐々に失われることになる。また、中国では新車をインターネット通販によって販売する手法も出ており、今後販売方法も多角化する可能性がある。従来の販売企業もまたモデルチェンジが必要なのだ。

自動車メーカーのディーラー系企業は、全国各地を網羅したネットワークが武器となる。自動車メーカーがモビリティサービスを始めるのに際し、各販売店が窓口・拠点となってサービスを展開することが必要不可欠となる。

こうした動きはすでに始まっている。トヨタは2018年11月に販売ネットワークの変革に向け、各販売店があらゆるニーズに対応できるモビリティサービスを展開していくことを前提に2022~2025年を目処に全販売店全車種併売化を実施することを発表した。

2019年4月には東京のメーカー直営販売店4社を統合して新会社「トヨタモビリティ東京」を設立し、先行して全車種販売を開始したほか、シェアリング事業に向けたシステムやデバイスの提供や、地域ごとのニーズに対応する各販売店主導のモビリティサービスの積極展開を掲げている。

ディーラーすべてが自動車メーカーの直営店ではないが、一蓮托生の立場にあることは言うまでもない。自動車メーカーが主導するカーシェアなどの拠点として機能するとともに、自動車メーカーに代わる地域の顔として新たな時代を見据えたサービスの開発・販売に着手すべきだ。

自動運転やMaaSが本格化すれば、サービス分野における新規参入も相次ぐことが想定される。この分野で負けないためにも、自動車メーカーとの密接な関係を生かしたサービスの先行や、新たなサービス開発企業との連携なども視野に取り組んでいく必要がありそうだ。

変革の必要性は、中古車販売店も同様だ。ガリバーを運営するIDOMは2019年、個人間カーシェアサービス「GO2GO」を開始した。新車販売の市場縮小は、遅れて中古車市場にもやってくる。中古車販売業にも、多くの在庫を生かした新たなサービス展開などが望まれそうだ。

「所有から利用へ」を見越し、独自のカーシェアサービスなどの展開も

前述したものと重複するが、所有から利用へとクルマの価値が変わり、販売が主体ではなくなる時代が到来する。その象徴がカーシェアで、従来の自家用車のオーナーはカーシェアの利用者に移り変わり、一台のクルマをシェアする時代が幕を開けることになる。

こうした動きが真実であれば、販売店はカーシェア事業などに注力する必要がある。少なからず、今まで販売していた車両をどのように活用し、地域の足に変えていくかが問われるのだ。

カーシェア、サブスクリプション、MaaS……と新たなモビリティサービスが生み出されているが、販売店独自で新たなサービスを生み出すことができれば、それは大きな武器となる。

販売からサービスへの流れを的確につかみ取り、いち早くモデルチェンジを進めなければならないのだ。

■「アフターケア」企業はどう変わるべきか
ソフトウェアのアップデート拠点として活用される存在に

正規ディーラー以外で自動車の修理や整備を担っている業種にも、変革の波は押し寄せる。従来のメカ主体の整備から、コンピュータ制御を担う高度な整備が必要になるのだ。

ADAS技術や自動運転の浸透で交通事故も減少し、物理的な修理の機会が減少することが想定されるが、代わって増加する可能性が高いのが、ソフトウェアの不具合だ。

ソフトウェアの不具合は本来正規ディーラーやソフトウェア開発企業が直接対処しなければならない問題で、OTA技術などを活用して円滑に修正すべきところだが、通信システムに不具合が出るケースも想定されるだろう。パソコンに不具合が出たものの、インターネットにつながらずどうすればよいのかわからない……といった状況と同じだ。

こうした際に、地域の整備業者が頼れる存在になるとありがたい。ソフトウェア企業公認の技術を取得し、アップデートや不具合の修正などに対応できれば、アナログな修理とともにトータルで自動運転車をケアできる。

AIを開発するエンジニアはハードルが高いが、整備に特化したIT系エンジニアであれば人材育成にも幅が生まれる。こうした人材を確保することも重要になるだろう。

「自動車×ソフトウェア」のtoC向けアドバイザーに

一般の整備業者には、多様なメーカーの車種が持ち込まれる。部品同様、各メーカーが搭載する自動運転システムやソフトウェアも千差万別で、その一つひとつに対応可能にならなければならない。

各ソフトウェアに精通した知識や技術が必要となり、その意味で消費者向けの自動運転ソフトウェアアドバイザーとしての価値も生まれそうだ。

どんなソフトウェアでも気軽に相談でき、最新のソフトウェア情報が集まる拠点となれば、整備業から踏み出した新たな事業展開を見込むことができる。

アフターマーケットを担う中古車販売店も同様で、こうした専門分野をカバーする地域の拠点は必要不可欠な存在となりそうだ。

「自動運転タクシー」「カーシェア車両」の置き場として活用される存在に

大規模な中古車販売店や敷地の広い整備業などは、自動運転タクシーやカーシェア車両の置き場としても活用が見込める。管理体制万全で、場合によってはメンテナンスも可能なため、サービス事業者にとっても心強い存在だ。

自社が持つリソースをどのように有効活用するかといった観点も忘れてはならない。

■【まとめ】実感してからでは手遅れ 早期変革を

生産、販売、アフターケアの各分野が今後どのように変わり、何が求められることになるかを解説したが、こうした変化はいきなり訪れない。じわりじわりと浸透するかのようにやってくる。

自動運転の実用化はまもなく本格化する見込みだが、世の中が「自動運転社会」と呼ばれるまでにはまだまだ時間を要する。一般的には、少しずつ自動運転技術が浸透し、気付けばあちこちで実用化が始まっており、自動運転社会が到来していた……といった感覚になるかもしれないが、自動車関連業界の感覚としてはこれではビジネス失格となる。

整備業などにおいては、ADASの不具合が持ち込まれる程度で自動運転の実感はまだないだろうが、今から準備しておかなければ時代に置き去りにされかねない。気づいた時には手遅れなのだ。

自動運転をはじめとするCASEを見据え、しっかりと自社のあるべき姿を追求すべきだ。

【参考】関連記事としては「自動運転社会の到来で激変する9つの業界」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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