自動運転開発を手掛ける中国スタートアップのAutoXが2020年8月、上海市内における自動運転タクシー(ロボタクシー)サービスの対象を一般客に拡大した。湖南省で同サービスを展開するIT大手の百度(バイドゥ)に次ぐ拡充と思われ、自動運転タクシーの開発競争にいよいよ拍車がかかってきた印象を受ける。
AutoXとはいったいどのような企業なのか。企業概要をはじめ、中国における自動運転タクシー市場の動向を解説していく。
記事の目次
■AutoXの沿革
米中を股に掛け自動運転サービス実現へ
AutoXは2016年、現CEOのJianxiong Xiao(肖健雄)氏が米シリコンバレーで設立した。翌2017年にカリフォルニア州当局から中国系スタートアップとして初めて公道自動運転許可を取得し、本格的な実証に着手している。
またこの年、中国の自動車メーカーSAIC Motor(上海汽車)から資金調達し、戦略的提携を開始したほか、深圳市とも戦略的提携を結ぶなど、中国での取り組みも本格化させている。現在本社は深圳(しんせん)にも構えており、米国、中国を股に掛けた事業展開は、中国スタートアップ勢のスタンダードとなりつつあるようだ。
2018年には、カリフォルニア州で世界初と言われる自動運転車によるデリバリーサービスの試験運用を開始した。中国では、広東省や香港、マカオ都市圏エリアで構成される粤港澳大湾区で公道実証の許可を取得したほか、自動車メーカーDongfeng Motor(東風汽車)から資金調達し戦略的提携を交わしている。
2019年には、カリフォルニア州でロボタクシーサービスの運営許可を取得し、同州初となる一般乗客向けサービスを開始している。中国では、EV大手のBYDとパートナーシップを締結し、世界初の量産可能な自動運転用EV「QIN PRO」の改造に成功したと発表した。また、上海市嘉定区と戦略的提携を結んだほか、中国広州市当局からも公道自動運転許可を取得した。
さらに、深圳市初となる正式公道試験走行の免許をはじめ、上海の新基準適応後初となる自動運転の走行免許を取得し、中国三大都市の自動運転走行免許を抑えた。深圳では、EVレンタルを手掛けるPengcheng Electric(鹏程電動)とパートナーシップを締結し、ロボタクシー運営を計画している。
2020年中に新たな資金調達も?
資金調達面では、SAIC MotorやDongfeng Motorのほか、2019年のシリーズA資金調達ラウンドでDongfeng Motorやアリババなどから1億ドル(約107億円)を調達している。同年のプレBラウンドでも数千万ドルの調達を成功させたほか、2020年中にもBラウンドの実施が予定されているようだ。
Bラウンドの段階で自動運転サービスに着手していることから、運営は順調に推移しているものと思われる。
戦略的パートナーには、SAIC MotorやDongfeng Motor、アリババのほか、Chery Automobile(奇瑞汽車)、Great Wall Motor(長城汽車)、米半導体大手のNVIDIA、台湾半導体大手のMediaTek、ITサービスを手掛けるMeituan(美団)、FCA(フィアットクライスラーオートモービルズ)などが名を連ねている。FCAは中国内のロボタクシー事業に向け、自社車両にAutoXの自動運転システムを搭載する新しいプラットフォーム開発を進めているようだ。
転用可能な自動運転ソリューションが武器に
AutoXの技術は、3基のLiDARやカメラなどで360度マルチセンサーを構成する「xFusion」や、中国の繁華街エリアで2地点間の自動運転を実現した「xUrban」、レベル4向けの3次元高精度地図を生成する「xMap」、自動運転ビッグデータとクラウドコンピューティングのプラットフォーム「xCloud」など、他社の量産化などに対応した転用しやすい技術設計がなされている。
FCAをはじめBYDなどもAutoXの技術導入を進めているほか、物流分野においても東風汽車などがロボトラックの実現に向け導入を図っているようだ。
■上海で一般乗客対象のロボタクシーサービススタート
公道走行許可を得ている主要エリアをまとめると、米カリフォルニア州と広州、上海、深圳を抑えた格好だ。
カリフォルニア州ではすでにデリバリーサービスやロボタクシーの実用実証を展開している。中国3都市でも実証を進めており、深圳では2019年初頭に任意の2地点間でロボタクシーの実用実証に着手している。予定では、上海と深圳で2020年中に100台規模のロボタクシー事業に本格着手することとしている。
上海ではロボタクシー事業の実施に先駆け、2020年4月にアジア最大と言われるオペレーションセンターを開設した。ロボタクシーのオペレーションをはじめ、自動運転に関わるビッグデータも集積・解析するクラウドセンターとしての機能なども備え、自動運転の開発に活用していく方針のようだ。
2020年4月にアリババ傘下のAutoNavi(高徳地図)が運営する配車サービスアプリでAutoXのロボタクシーを体験できるサービスを開始することが発表された。一部希望者向けに上海嘉定区内の特定エリアでサービス実証を進め、同年8月に対象を一般乗客に拡大した。
■【まとめ】サービス競争が経験値の獲得を加速
上海では、配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行:ディディチューシン)も2020年6月にロボタクシーの試験サービスを開始しており、早くもロボタクシー事業の競合が発生している。
百度は2020年4月に湖南省長沙市で一般対象のロボタクシー事業に着手しており、Pony.aiやWeRideなども含め、今後中国各市にサービス合戦が波及していきそうな情勢だ。
規制上、セーフティドライバーが同乗したうえでの運行がベースとなるが、各社の実用実証サービスの経験値は、先行する米Waymo(ウェイモ)のサービス導入時を上回るペースで積み重ねられていくことも考えられる。中国政府の意向次第では、完全無人サービスの実現や柔軟なエリア展開など、米国を上回るスピードで普及が進む可能性もありそうだ。
【参考】関連記事としては「中国、もう自動運転実証の動き復活?AutoXが無人無料タクシー 新型コロナ終息気配で」も参照。