自動運転という移動革命、既存企業がベンチャーに負けないための5つの視点

再編進む自動車業界、人材確保や協業がカギに

B!

自動車メーカーをはじめ、多彩な企業を巻き込みながら肥大化を続ける自動運転業界。MaaS空飛ぶクルマなどを含め、日進月歩で技術が発展する領域においては、最先端の技術や新たな発想を持ったスタートアップ・ベンチャーの参入も相次ぎ、開発競争が激化するのは世の常だ。

既存企業の中には、血気盛んなベンチャーに圧倒されつつある企業も少なからず存在するだろう。将来性豊かな自動運転市場の期待値の裏側では、生き残りをかけた競争がすでに始まっているのだ。

今回は、続々と台頭するベンチャーに既存企業が対抗していく術を考えていこう。

■自動運転業界で台頭するベンチャー
自動運転は未知の技術

自動運転開発の黎明期、「自動運転システムは誰(企業)が作るものなのか?」――と問えば、多くの人が「自動車メーカー」と答えたのではないだろうか。自動運転車もあくまで自動車であるため、当然と言える回答だろう。

しかし、自動車の開発・製造現場で同じく問いた場合、その回答は異なるものになったのではないだろうか。なぜならば、現場が今まで積み重ねてきた技術とは全く異なる未知の開発領域となるためだ。

ステアリングやアクセル、ブレーキなどの制御装置をコンピュータ化することはできても、運転操作を担うドライバーの目や脳をどのようにコンピュータ化し、システム化するかといった領域は全くの別物となる。

自動運転と類似する仕組みのADAS(先進運転支援システム)開発も近年のものであり、飛躍的に高まるAI(人工知能)開発のハードルはかんたんに超えられるものではないのだ。

未知の領域はAIだけではない。センサー類においては、従来のカメラやミリ波レーダー、超音波センサーに加えLiDAR(ライダー)の注目が飛躍的に高まっているが、これも未知の領域である。一から開発する必要が生じるのだ。

グーグルの本格参入が開発競争の引き金に

開発分野におけるテクノロジーへの偏重傾向は強まり、自動車メーカーや部品メーカーらに変革が求められる一方、ソフトウェア開発やセンサー、半導体開発などに強みを持つ電気機器メーカーやIT系企業らの活躍の場が広がり、徐々に本格進出してくることとなる。

先見の明を生かした好例が米グーグルだ。新規性と将来的な大規模市場化を見越し、いち早く自動運転開発に着手した。その成果は後に、世界初の自動運転タクシーの商用化としてはっきりと表れている。

グーグルが仕掛けた開発競争が呼び水となるかのように、自動運転分野が大きな注目を浴びて参入企業が相次ぐこととなった。とりわけ、シリコンバレーを拠点とするスタートアップからの注目が高く、LiDARや自動運転システムの開発など、自動運転分野を目掛け起業する動きも活発化した。

【参考】関連記事としては「Waymo Oneとは?世界初の自動運転タクシーサービス」も参照。

相次ぐスタートアップ・ベンチャーの参入

米国では、自動運転システムを開発するCruiseやArgo.AIをはじめ、低価格帯のLiDAR開発を手掛けるLuminar Technologiesなど、脚光を浴びるスタートアップが次々と登場し、その勢いは海外にも波及した。中国でもWerideやPony.ai、AutoX、Momentaなどが頭角を現し、自動運転分野の先頭を走っている。

日本国内でも、自動運転OS「Autoware」の開発を手掛けるティアフォーをはじめ、AI開発を手掛けるPreferred Networks、オプティマインド、アセントロボティクス、コーピーなど、活躍の場を広げる企業が相次いでいる。

サービス分野ではソフトバンク系列のBOLDLY(旧SBドライブ)がマルチな活動を展開しているほか、空飛ぶクルマの開発領域においてもSkyDriveやテトラ・アビエーションなどが飛躍している。

■競争を勝ち抜く方法その1:人材の育成・確保

こうしたスタートアップ・ベンチャーの台頭に負けないため、既存の企業は何をすべきか。その1は、高度な技術開発を担う人材の育成・確保だ。当然と言われればそれまでだが、長年社内で活躍してきたエンジニアとは開発領域が異なる部分が多いため、未知の領域を開拓できる新たな技能を持ったエンジニアの存在が重要となってくるのだ。

この当たり前の人材確保ですら困難を極めているのが現在の自動運転分野だ。高度な技術を有するAI人材やIT人材はそもそも総数が不足しているため、人材の獲得合戦が年々過熱しており、売り手市場の傾向が顕著となっている。

海外では、プロジェクトを率いるレベルのエンジニアの引き抜き合戦が常態化しており、訴訟沙汰に発展するケースももはや珍しく状況だ。

【参考】エンジニアを巡る訴訟については「ウーバー、「自動運転」絡みの訴訟でGoogle側に10億円支払いへ」も参照。

エンジニアの新規獲得が困難なため、社員教育に改めて目を向ける動きも出始めている。東芝グループは東京大学大学院情報理工学系研究科と共同でAI技術者育成プログラムを開発し、2022年度までにグループ内のAI技術者を現在の3倍にあたる2000人体制に増強する計画を打ち出している。

空間情報事業を手掛けるパスコも、東京大学エドテック連携研究機構とAI人材の育成に特化した独自の教育プログラムを共同開発し、2020年度から空間情報技術者を対象に本格的な教育を開始すると発表している。

今後、こうした社内向けAI教育プログラムの導入が相次ぐ可能性は高い。後れを取る前に、一度は導入の可否を検討すべきだ。

【参考】AI人材育成については「自動運転やAIを学べる講座&教材を一挙まとめ」も参照。

■競争を勝ち抜く方法その2:開発グループの中に飛び込む

さまざまな最先端技術を必要とする自動運転開発は、もはや自社グループで完結するものではなくなっており、自動車メーカーをはじめとした大手も協業や買収、スタートアップへの資金援助などさまざまな手法で新たなグループ化や技術の吸収を図っている。

顕著な例としては、独フォルクスワーゲン(VW)と米フォード、独BMWと独ダイムラーの提携などが挙げられる。ライバルである自動車メーカー同士が自動運転開発領域で手をつなぐ事例は今後も相次ぐ可能性がある。

また、グーグル系ウェイモは欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)や英ジャガー・ランドローバーと自動車の供給において提携を交わすほか、仏ルノー・日産とも無人モビリティサービスに関する独占契約を結んでいる。

また、中国の百度(バイドゥ)が進める「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」や、ティアフォーが主導する「The Autoware Foundation」のように、自動運転システムの開発に向けソフトウェアをオープンソース化することで開発パートナーを増やす取り組みも活発化している。

大なり小なり規模の差はあれど、こうしたグループ化がグローバルに進んでいる。業界に再編の波が押し寄せているのだ。将来的には自動運転分野における覇権を争う形で明確にグループ化される可能性もある。こうしたグループの中に飛び込み、協働体制を構築していくのも必須の情勢と言えそうだ。

■競争を勝ち抜く方法その3:他社との協業

グループ形成に至らずとも、自社の製品・サービスに磨きをかけ、さらなる価値の向上を目指して他社と協業するのも重要だ。

自動運転分野で通用する製品を持ちながらも、AIやIT面で開発能力が不足しているケースは多く、こういった場合は無理に自社完結を試みず、AIなどを専門領域とするスタートアップなどと手を組み、双方に利益が出るよう相乗効果を発揮させていく手法が効果的だ。

■競争を勝ち抜く方法その4:買収や資本参加で技術を吸収

資本面で余力を持ちつつも将来に向けた開発能力に不安があるケースでは、買収や資金援助でスタートアップの技術を吸収するのも有効だ。

前述したスタートアップのCruiseはGM傘下に収まり、ソフトバンクやホンダなどからも出資を受けている。同様にArgo.AIはフォードとVW、Luminarはトヨタなどから出資を受けている。スタートアップの多くは資金調達を繰り返して事業を確立していくため、その過程でツバを付けておくのは今や常套手段と言えるだろう。

■競争を勝ち抜く方法その5:新分野を開拓

一言で自動運転分野と言っても、その応用領域も広い。自動運転技術は人を運ぶモビリティのみならず、配送ロボットや警備ロボットなどでも活用される技術だ。

自動車業界に身を置いているからと言って人を運ぶモビリティに執着せず、自動運転技術を応用できる新分野を率先して開拓していく、いわば自らをベンチャー化する精神も重要だ。

場合によっては、既存の自社技術とかけ離れた全くの新規開拓でも構わない。台頭するベンチャーに勝つためには、自らベンチャーと化すことも必要なのだ。

■【まとめ】既存企業も今こそベンチャー精神を

企業にとって人材育成や経営戦略は、指摘されるまでもなく当然のように力を入れ、そして頭を悩ませているものだ。ただ、ベンチャーに感じる脅威をはじめ業界での生き残りに不安を感じているならば、早期に戦略を練り直す必要がある。

将来有望な市場は決してぬるま湯ではない。過熱する競争によりむしろ熱湯と化しているのだ。既存の企業も、やけどを恐れぬベンチャー精神で存在感を発揮してほしい。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事