モビリティ関連各社が研究・開発を加速している「MaaS(Mobility as a Service/移動のサービス化)」。MaaSに取り組む事業者もこの1年で大幅に増加し、新サービスの実用化もすぐ目の前まで迫ってきているのではないだろうか。
各社の開発状況はどこまで進んでいるのか。今回はMaaSの進化に着目し、サービスの度合いでレベル分けされた「MaaSレベル」をもとに、日本のMaaSプレイヤーのレベルについて考えてみた。
■MaaSレベルとは
MaaSは比較的新しい概念のため定義にばらつきがあるが、一般的には、自動車や自転車、バス、電車など、全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指す。
2015年のITS世界会議で設立された「MaaS Alliance」によると、「MaaSは、いろいろな種類の交通サービスを需要に応じて利用できる一つの移動サービスに統合すること」と定義している。
また、スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者は、サービスへの統合の程度に応じてMaaSを5段階にレベル分けしている。
MaaSレベル0:統合なし
レベル0は「統合なし」で、それぞれの移動主体が独立したままサービスを提供する旧来のものを指す。
MaaSレベル1:情報の統合
レベル1は「情報の統合」で、利用者には料金や時間、距離など各移動主体に関するさまざまな情報が提供される。
MaaSレベル2:予約、決済の統合
レベル2は「予約、決済の統合」で、ワンストップで発券や予約、支払いなどが可能となる。利用者はスマートフォンなどのアプリケーションで目的地までのさまざまな移動手段を一括比較し、複数の移動主体を組み合わせたまま予約や決済などができるようになる。
MaaSレベル3:サービス提供の統合
レベル3は「サービス提供の統合」で、公共交通をはじめレンタカーなども連携したサービスや料金体系の統合が求められ、事業者間での提携などが行われることでサービスの高度化などが図られることになる。例えば、ある目的地に向かう際、どの交通手段を使っても一律料金が適用される場合や、月定額料金で一定区域内の移動サービスが乗り放題になるプラットフォームなどが挙げられる。
MaaSレベル4:政策の統合
そして最高度のレベル4は「政策の統合」となり、国や自治体、事業者が、都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく。国家プロジェクトの形で推進される最終形態だ。
■日本におけるMaaSの取り組みとレベル
MaaSレベル1の代表例「乗り換え情報サービス」
乗換案内サービスを手掛けるジョルダン株式会社や、「NAVITIME」を運営する株式会社ナビタイムジャパンなどは、MaaSレベル1の代表例だ。
各サイトで出発駅や到着駅、時刻などを入力すると、鉄道やバス、飛行機などの乗り換え案を含んだルートが複数提案される。移動サービス各社の情報が統合されており、それぞれ料金や所要時間などが表示される。
上記サービスにおいて、鉄道やバス、飛行機などを一括で予約・発券・決済ができるシステムが備わればMaaSレベル2となる。
ジョルダンはMaaS事業本格参入を目的に2018年7月に子会社「J MaaS 株式会社」の設立を発表しており、交通・観光・ICTなどの事業者向けにMaaSインフラの提供を計画している。
2019年1月には、公共交通チケットサービスを提供している英Masabi社と日本における総代理店契約を締結し、経路検索をはじめチケット購入・乗車をスマートフォンだけで完結させる「モバイルチケットサービス」を2019年から本格的に提供開始する。
交通事業者がMasabiが提供するシステムを用いることで、利用者はスマートフォン上でチケットの購入、乗車までをシームレスに行うことが可能になる。将来的には交通事業者との連携を拡大し、2020年までに複数の交通機関への導入を見据えているようだ。
【参考】MaaSに取り組む国内企業については「【日本版】MaaS系サービスに取り組む企業・団体まとめ」も参照。
【日本版】MaaS系サービスに取り組む企業・団体まとめ 起こせ交通イノベーション 自動運転などの次世代自動車を使った仕掛けも トヨタも参戦 https://t.co/WftKcUi5TU @jidountenlab #MaaS #企業と団体 #まとめ
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小田急MaaS、さまざまな移動サービス結びレベル2構築へ前進
小田急電鉄と株式会社ヴァル研究所、タイムズ24株式会社、株式会社ドコモ・バイクシェア、WHILL株式会社の5社は、多様な交通・生活サービスを統合したアプリなどを含む「小田急MaaS」の実現に向け、システム開発やデータ連携、サービスの検討などを進めている。
小田急グループが保有する多様な交通サービスや生活サービスを、パートナーと連携しながらシームレスに連動させ、一つのサービスとして提供する。具体的には、アプリを通じて、目的地までの移動や目的地での楽しみ方の提案、飲食や宿泊などの予約・決済までを一括して提供するネットワークの構築を目指すこととしている。
【参考】小田急MaaSについては「「小田急MaaS」アプリ実現へ、2019年に実証実験実施」も参照。
MaaSアプリ実現へ出発進行!小田急、サービス統合へ5社連携 交通イノベーション加速、決済も一元化 https://t.co/QtzDzgg7Lm @jidountenlab #小田急 #MaaS #アプリ
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モビリティ変革コンソーシアム、Suica活用で連携促進
JR東日本が中心になって立ち上げた次世代の公共交通などについてオープンイノベーションによるモビリティ変革を目指す団体「モビリティ変革コンソーシアム」は、取り組みの一つとして、鉄道ネットワークを中心としたモビリティ・リンケージ・プラットフォームを構築しシームレスな移動の実現を目指す「Door to Door 推進 WG(ワーキンググループ)」を立ち上げ、実証実験などを行っている。
実証実験では、スマートフォンアプリ「Ringo Pass」にSuicaID番号とクレジットカード情報を登録することで、シェアサイクルやタクシーなど複数の交通手段を利用可能にする取り組みや、Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設が連携した新たなMaaSモデルの実現を目指す取り組み、JR東日本管内のBRT専用道で、自動運転実験用中型バスを使用した技術実証実験などを行っている。
基本的にはMaaSレベル1の構築が中心だが、JR東日本は2018年7月発表の中期経営ビジョン「変革2027」の中で、アプリや配車サービス、Suicaなどの多面的な活用・連携を通じて、移動のための情報・購入・決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を推進していく方針を明らかにしており、レベル2に向けた取り組みが今後加速していくものと思われる。
【参考】JR東日本の取り組みについては「JR東日本が「Suica×モビリティ」事業 配車サービスも連携、巨額投資も」も参照。
JR東が社運懸け「Suica×モビリティ」事業 4年で投資2兆円規模 https://t.co/PqM8SPpc7P @jidountenlabさんから
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■海外におけるMaaSの取り組みとレベル
Whim:世界唯一の大規模MaaSレベル3実現
MaaSの発祥と言われる北欧フィンランドのスタートアップ「MaaS Global」社が手掛けるプラットフォームサービス「Whim(ウィム)」は、その地域の公共交通機関をはじめタクシーや鉄道、カーシェアリング、ライドシェアリング、レンタルサイクルといったあらゆる移動サービスを統括するプラットフォームになっており、アプリで目的地を設定すると、最適な移動手段や経路を自動で提案してくれる。
利用料金も統合されており、月額無料、月額数千円、月額数万円の3つのプランが用意されている。月額無料プランはその都度料金を支払う仕組みだが、最高値のプランは基本的にほぼ全ての乗り物が乗り放題となる。これがMaaSレベル3に相当するものだ。
Whimは英国やオランダなどでもサービスを展開しているほか、日本進出もささやかれている。
【参考】Whimについては「MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介」も参照。
MaaS発祥の北欧国が生んだ「Whim」アプリ徹底解剖&まとめ トヨタ系から資金調達、日本進出の可能性も https://t.co/BDwSl2txrb @jidountenlab #MaaS #フィンランド #Whim #アプリ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 9, 2018
ドイツ鉄道「Qixxit」、MaaSレベル2からさらなる発展へ
ドイツでは、ドイツ鉄道がマルチモーダル型の統合モビリティサービスプラットフォーム「Qixxit」を実用化させており、飛行機や長距離バスなどを含め予約・決済を統合している。
鉄道や航空券以外にカーシェアリング、ライドシェアリング、レンタサイクルの予約に加えて最適な鉄道との乗り換え案内や複数のルート案内をQixxitアプリで提供している
現在は、AI(人工知能)を用いたビッグデータ解析や自動運転、オンデマンドを組み合わせたモビリティサービスの実証などにも取り組んでおり、ラストマイルの移動手段としてDRTなどの開発も進めているという。
独ダイムラーのMaaSレベル2「moovel」、BMWと新会社設立でモビリティサービス強化
ダイムラーが買収したカーシェアリングサービス「car2go」や、タクシー配車プラットフォーム「mytaxi」、電車などの検索や予約、決済が可能なプラットフォーム「moovel」を同社子会社が運営している。
2018年8月にはmoovel利用者が500万人を超え、同年9月には、独BMWグループとモビリティサービス事業を統合し、新会社を設立することを発表している。
【参考】ダイムラーとBMWの協業については「ダイムラーの自動運転戦略まとめ 計画や提携状況を解説」も参照。
CASE戦略で業界席巻 ダイムラーの自動運転開発状況まとめ 半導体大手ボッシュと提携、トヨタ自動車やテスラと激戦|自動運転ラボ https://t.co/7uWdbjsnKa @jidountenlab #ダイムラー #自動運転 #戦略まとめ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 28, 2018
■欧州先行のMaaS 日本も近々レベル2達成か
MaaSという言葉はWhim発祥だが、さまざまな移動サービスを統合していく考え方はドイツなどが先行しており、世界的にも欧州が先進的に取り組んでいる印象が強い。
日本は現時点ではMaaSレベル1が中心だが、Suicaのような交通系ICカードは一定以上普及しており、決済プラットフォームの開発も著しく進展していることから、各事業者間の連携次第で大掛かりなレベル2も近い将来実現するものと思われる。
特に首都圏などさまざまな移動サービスが混在する環境では、レベル2~3実現による効能は思いのほか大きい。狭い国土ながらもさまざまな移動サービスが発達している日本ならではのMaaS実現に期待したい。
【参考】関連記事としては「MaaSとは? 読み方や意味・仕組み、サービス・導入事例まとめ|自動運転ラボ」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 9, 2018