世界各地で開発が進められている高精度3Dマップ。将来的には世界のすべてを網羅した完成品が登場するものと思われるが、不安の種もある。中国だ。
強力な国家主導のもと自動運転開発を推進する一方、保護主義の観点から「国のプライバシー」とも言える高精度3Dマップをかんたんに提供するとは思えないからだ。
とはいえ、自国企業のみに提供するのであれば、海外メーカーはおのずと中国市場から撤退し、孤立化が始まることになるだろう。
その解決策は、つまるところ「金の問題」に落ち着くことになると思われるが、その金額は他国に比べ格段に高価なものになる可能性が高い。
今回は、中国の高精度3Dマップの動向を先読みしてみる。
■そもそも高精度3Dマップの価格は?
日本国内では、位置情報事業者や自動車メーカーらで構成されるダイナミックマップ基盤株式会社が協調領域のマッピングを進めている。協調領域はダイナミックマップの基礎となる部分で、ここに準動的情報や動的情報などを加え、価値と機能をより高めていく。
世界各国の位置情報事業者らが同様にマップの開発を進めており、国際的には、オランダのHERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)が各国の位置情報事業者とアライアンスを結成し、規格の標準化などを推し進めている。
また、自動運転開発企業Waymoを持つ米グーグルは、スマートフォンやパソコンで無料閲覧できるグーグルマップで世界を網羅しており、地図大手の顔も併せ持っている。あまり公にされていないが、3Dマップについても開発を進めているものと考えられ、場合によっては、協調領域を無料で開放し、付加サービスや広告サービスなど別のビジネスモデルで課金することも考えられるだろう。
グーグルの例は特殊かもしれないが、そもそも高精度3Dマップは無料なのか、有料なのか。そういった確定情報はまだ出されていないが、一般的に考えれば、高度な技術と労力が必要なサービスであり、一定頻度の更新も必要となるため、少なくとも当面は有料になるものと思われる。
公益性から一定の公的補助が出るかもしれないが、ベースは有料であり、自動運転車開発事業者が高精度3Dマップ配信事業者に対価を支払う形式が想定される。
■中国の地図事情:作成も利用も国の許認可必須の寡占市場
中国は新車登録・販売台数で世界シェアの約3割を占める自動車大国で、既存の自動車販売はもちろん、これからの自動運転市場においても無視することのできない存在だ。国土面積はロシア、カナダに次ぐ3位で、地理的には東南アジアや中東諸国、ロシアなどと国境を接する重要な位置をしめる。
各社が尻尾を振ってでも参入したい中国市場だが、中国における地図情報は安全保障上の理由により国家機密扱いとなっており、地図作製は国から資格を与えられた事業者しか行うことができない。
それどころか、地理情報の利用も国家測量製図地理情報局から特別許可を得た者のみに制限されており、多くの地図アプリケーションにおいて、その情報と衛星地図情報が一致しないこともしばしばみられるそうだ。非合法な利用には、容赦なく罰金などが科せられる。
それだけハードルの高い中国の地図。高精度3Dマップとなれば、その価値が激増することは想像に難くない。もしかすると、国家の重要施設近辺は高精度3Dマップから抜け落ち、空白地帯が存在することなども考えられるだろう。
■中国の高精度3Dマップ開発状況 百度などが中心となって開発
中国国内では、地図作製の資格を持つNavInfo(ナビインフォ/四維図新)やAutoNavi(オートナビ/高徳軟件)など高精度マップ技術を持った数社が海外自動車メーカーなどと協業し、サービス展開を図っているようだ。
グーグル同様、地図サービスを手掛ける百度(バイドゥ)も高精度3D地図の開発を進めており、2016年8月には、3Dマッピングに欠かせないLiDAR(ライダー)を開発する米ベロダイン・ライダーに出資しているほか、2016年9月には、米NVIDIA(エヌビディア)とAI(人工知能)を利用した「Cloud-to-Car」の自動運転向けプラットフォームの開発で提携することを発表している。
バイドゥのクラウド・プラットフォームとマッピング技術を、エヌビディアの自動運転用コンピューティング・プラットフォームと組み合わせることで、HDマップや自動運転レベル3の制御、自動駐車に対応するソリューションなどを開発することとしている。
また、バイドゥとナビインフォ、オートナビは、独ボッシュと2017年4月に自動運転向けの高精度地図の共同開発に向け提携を結んでいる。
自動車メーカーらが中国国内で自動運転の公道試験を行う場合、バイドゥなどに高精度3Dマップを提供してもらう必要があり、事実上、バイドゥなどに頭が上がらない状態が続いているのではないかと思われる。
■中国マップ争奪戦でビッグマネーが動く
このように、高精度3Dマップの分野では海外企業は中国国家やバイドゥなどに頭が上がらない状況となっている。地図データの利用に多額の対価が求められるケースが想定され、中国のマップをめぐりビッグマネーが動く可能性は高い。
また、バイドゥは中国国内の自動運転分野を統括する立場でもある。中国で高精度3Dマップを利用するには、アポロに搭乗する乗組員になる必要も出てくるのかもしれない。
【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。
自動運転AIの羅針盤…ダイナミックマップ完全解説&開発進捗まとめ トヨタ自動車や日産なども軒並み出資、イノベーション支える必須データ|自動運転ラボ https://t.co/v2RgYWhShp @jidountenlab #自動運転 #羅針盤 #新たな地図
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 23, 2018