自動運転車のスタック対応、警察が「真剣議論」始める

不測の事態にどう備えるべき?



警察庁所管の「自動運転の拡大に向けた調査検討委員会」が新たな検討を開始したようだ。2025年度(令和7年度)は、自動運転車に求められる安全基準「CCD(Competent and careful human driver)」の具体化と、自動運転車がスタックした際の対応に焦点が当てられている。


自動運転車が何らかの原因で走行継続できなくなった場合、遠隔、もしくは現場対応が必須となり、状況によっては警察や消防も絡むこととなる。こうした際に想定される課題を早期解決するための検討だ。

調査検討委はどのような方向で検討を進めているのか。議論の中身に迫る。(記事監修:自動運転ビジネス専門家 下山哲平)

▼令和7年度 自動運転の拡大に向けた調査検討委員会
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/r7_1_03_shiryo1.pdf

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■自動運転の拡大に向けた調査検討委員会における議論の概要

自動運転に求められる「CCD」を具体化

2025年度の自動運転の拡大に向けた調査検討委員会は、以下の2点に焦点を当て、検討を進めている。


  • ①CCDによる運転行動の内容の具体化を目的とした開発者等の事業者との継続的なコミュニケーション
  • ②自動運転車が公道上でスタックした場合の取り扱い

①のCCDは、有能で注意深い人間の運転者を意味する。自動運転車は、道路交通法をはじめとした交通法規を順守することはもとより、CCDと同等以上の安全性を有するべき――とする国際的な車両開発の安全基準が道路交通安全の観点からも有用と結論付けている。

NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)も自動運転車はCCDレベルと評価できる必要があるとし、交通ルールの解釈につき防御的かつ保守的であることと、事後検証に耐え得る十分な衝突回避性を有することが特に重要としている。

また、米国の自動運転開発者も当局に対し交通ルールの変更を要望することはなく、CCDの観点から道路交通法規を遵守できるようプログラムを構築しているという。

交通ルールは、自動運転と手動運転を区別することなくすべての交通参加者に対し共通に適用されるべきであり、自動運転車は安全なドライバーと同等以上の運転能力を持って然るべき――とする考え方が前提にある。


調査検討委員会は本年度、このCCDによる運転行動の具体的な内容を明確にする作業を進めていく。具体的にどのような安全水準が求められるか可能な限り明らかにするため、自動運転走行に当たり課題となり得る道路交通上の具体的な場面において、その解釈をより明確化すべきと考えられる交通ルールについて開発者などの事業者を対象に書面ヒアリングを実施する。

聴取したヒアリング結果に基づき警察庁が事業者との意見交換を実施し、意見交換の結果やヒアリング結果については警察庁ウェブサイトで公表するとしている。

出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転車がスタックした際の対応を検討

②の自動運転車が公道上でスタックした場合の取り扱いについては、前年度の取りまとめにおいて、緊急の際は自動運転車を適切な場所へ速やかに移動させることが求められることに関し、欧米などの方法を参考にしながら事業者が行うべき対応方法を整理し、緊急時などにおける警察との連携を確保するため、平素から事業者と警察が準備しておく事項や、緊急時における連携のための手順について統一的なガイドラインを定めることができないか検討を行う必要があるとされている。

そこで本年度は、道路交通法の観点から、自動運転車のスタック時における車両操作の主体や車両操作の具体的な手続きについて検討を進めていくこととしている。特に、システムが車両操作の主体となる領域(遠隔助言(仮称)の領域)を明確にした上で、特定自動運行終了後に人間が主体となって車両を移動させなければならない領域において取るべき具体的な手続きを検討する。

なお、スタックは「stuck=行き詰まる、動けなくなる」ような状態を意味する。自動車の場合、雪やぬかるみ、溝などにはまって動けなくなることを指すことが多いが、ここでは、自動運転システムに何らかのエラーが出た場合や、非常に複雑な道路環境下に置かれた場合など、自動運転車が自律走行できなくなった状態なども含む。

まず、道路交通法の観点から見た無人移動サービス車両の特定自動運行の終了時の対応の整理を行う。その上で、自動運転車による物流・旅客事業を実施・計画している事業者から、自動運転車がスタックした場合に遠隔からの支援も含めどのような措置を講じているかをヒアリングする。

そして、道路交通法上許容される措置の具体的な実施方法について、警察・消防の現場の混乱を防ぐため、事業者間で統一すべき要素の洗い出しを進めていく流れだ。

遠隔助言の取り扱いや特定自動運行主任者側が行うべき事項などが論点に

論点には、以下が挙げられている。

  • ①特定自動運行の終了の整理
  • ②遠隔助言(仮称)の範囲
  • ③必要な措置を講じるための方法としての遠隔運転や特別装置による自動車の運転の許容性・範囲
  • ④警察・消防の現場措置との関係で、特定自動運行主任者側が行うべき事項としてあらかじめ整理しておくべきスタック時の対応
  • ⑤複数台の車両がスタックした場合における特定自動運行主任者同士の協力のあり方
出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

①の論点

①に関しては、現行法上、道路において特定自動運行が「終了した」際、特定自動運行主任者はただちに法が規定する措置を講ずべき事由の有無を確認しなければならない。

警察官の現場における指示に従って通行させるための措置や、緊急自動車や消防用自動車の通行を妨げないようにするための措置、違法駐車と認められる場合の駐車方法の変更などが相当する。

一方、道交法には「特定自動運行に当たらない場合」と「特定自動運行が終了する場合」がそれぞれ規定されている。前者は、自動運行装置が使用条件を満たさなくなった場合と、車両が整備不良車両に該当することとなった場合が該当する。

後者は、遠隔監視装置が正常に作動していないことを認めた特定自動運行主任者が特定自動運行を終了させるための措置を講じた場合とされている。

前者に該当して自動運転車が停止した場合は、「特定自動運行が終了したとき」に含まれると解してよいのかなど定義を明確にし、これ以外に整理すべきケースはないか精査する。

出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

②③の論点

②と③は、スタックした自動運転車を動かすための対応方法に関する論点だ。スタックした自動運転車に対する関与としては、自律走行を継続させるために遠隔から行う介入と、遠隔または駆け付けにより運転者が直接操作することが考えられる。

②の遠隔助言(仮称)は、困っている自動運転システムに対し、システムによる継続運行を前提に遠隔オペレーターが「助言」という形で判断基準を示すなどし、運行を継続させるものを指す。後述するが、Waymoの自動運転システムは自律走行に必要な追加情報を得るため、遠隔の専門オペレーターに助言を求めることがあるという。

こうしたものを遠隔助言と定義し、その上で特定自動運行が継続中であると整理できるかどうか、また、 人による情報や助言の提供が遠隔助言として許容される範囲はどこまでか……などを検討していく方針だ。

また、特定自動運行が終了した際に特定自動運行主任者が講じなければならない「必要な措置」において、遠隔操作による運転や特別装置による自動車の運転を行うことが考えられるが、こうした行為も必要な措置として許容されるかどうかも検討を進めていく。

出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

④の論点

④は、警察・消防の現場措置との関係で、特定自動運行主任者側が行うべき事項としてあらかじめ整理しておくべきスタック時の対応について議論する。

海外では、警察の指示に従って車両を速やかに移動させることができないケースや、警察などの現場対応者が緊急の場合に当該車両を動かすことができないケース、外見上自動運転車の「停車」のステータスが分からないケース、緊急時に事業者の反応が遅いケースなどの問題が発生しているという。

こうした問題に対応するため、時間的な要件も含めスタック時に備え事前または現場において特定自動運行主任者に求めるべき事項は何かなどを検討していくようだ。

⑤の論点

⑤は、複数台の自動運転車が同時にスタックするケースを想定したものだ。単一の主体が運行する複数台の車両によるスタックが発生した場合と、複数の主体が運行する複数台の車両によるスタックが発生した場合において、特定自動運行主任者は互いにどのように協力して対応すべきかを検討する。

通信システムのエラーなどでフリートすべてが停止したり、他社の自動運転車と接触したりすることも考えられる。

実際、米国ではCruise自動運転タクシー10台前後が同時に公道上で停止してしまうトラブルが複数回起きている。遠隔操作ですぐに対応できたこともあれば、数時間にわたり公道を塞いでしまったこともあるようだ。

手動操作で対応する場合、一人のスタッフでは手が回らなくなるケースも出てくるだろう。どこまでの事態を想定し、どのような体制で臨むかをしっかり取りまとめ、マニュアル化しておかなければならなそうだ。

出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

Waymoや日産、T2も遠隔助言を行っている?

調査検討委では、Waymo、日産、T2が資料を提出したようだ。Waymoは米国内でフェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティン、アトランタの5都市で自動運転タクシーを展開しており、今後もマイアミやダラスなどに拡大していく計画を発表している。海外展開として、東京都内やロンドンでも実証を開始している。

Waymoにおける遠隔支援(リモートアシスタンス)システムでは、車両が特定の状況に遭遇した際、周囲の状況を把握するための追加情報として遠隔の専門オペレーターに助言を求めることがあるとしている。

ただし、Waymoの自動運転システムはリモートアシスタントから受け取る情報のみに依存することはなく、常時車両の制御を維持する。レスポンス情報を待っている間、またその情報を受信した後においても、自動運転システムは自らの意思決定のため利用可能なあらゆる情報を継続して活用するという。

出典:Waymoプレスリリース

日産は、通常走行からODD外における停止状態まで、遠隔監視によって車両の状態を把握し、乗客・レスポンダーとの対話・対応、自動運転システムへの助言送信などを可能とし、必要に応じて駆け付け支援を行う体制を想定している。

遠隔監視からのアシスト(助言)機能については、走行上何らかの障害により継続的に停止している場合に、遠隔監視システムから助言を送り、自動運転車両の速やかな運行継続を支援するという。

障害物に車線前方を塞がれて進行できない場面を例に挙げると、自動運転車両が障害物を検知してその後方で停止し、遠隔監視システムで継続的停止状態にあることを判定して遠隔監視者に報知する。

遠隔監視者が車両データや周囲映像を確認し、右側に回避スペースがあることを自動運転車両へ助言として送信すると、自動運転車両は、助言を参考に周囲状況を考慮して走行軌跡を計算し、新たに生成した軌跡に従って走行して障害物を回避する――といった流れだ。

遠隔アシストが想定される例としては、警察官などの指示対応や緊急車両の接近対応、指示による定型ルール外の動作などを挙げている。

警察官など誘導員の存在を認識・判断して自動運転車が一旦停止した際、「停車して待機」する助言を送信し、誘導員の指示を待つ。待機場所を指示された場合は「停車場所」を送信する。その後、誘導に従って「停車待機解除」を送信し、自律走行を開始する。

定型ルール外の動作は、誘導員に赤信号での通過を指示されるケースなどが該当する。こうした際も「通過可能」を送信する。

出典:日産プレスリリース

高速道路におけるレベル4トラック開発を手掛けるT2は、特定自動運行中に自動運転システムの責任前提で遠隔助言を行うことがあるとしている。最終判断はシステムが実施する。

通報・対応手配は遠隔監視センターで実施し、現場対応はT2や協業パートナーが手配する現場措置業務実施者が対応する。遠隔運転については、特定自動運行終了後も含め基本的に想定していないという。

前方で大規模な災害や事故による通行止めが発生し、将来的に自動運行の中止が避けられない場合、広い路肩へ退避する指示を出すなど後続車の妨げとならない位置での停車を促す。

自動運転システムは緊急車両にも対応しているが、例えば緊急車両が路側帯を通行しており、右側に寄るよう緊急車両から音声で指示された場合に遠隔支援により対応するとしている。

■【まとめ】レベル4でも不測の事態は必ず発生する

「遠隔助言」という新しい言葉が出てきたが、自動運転開発各社はこの遠隔助言を当然のようにシステムに組み込んでいるようだ。助言の有無にかかわらず自動運転システムは自律走行を継続するということが前提となるが、そうした場合でも「介入」に当たるのかどうかなど、ケースによって判断が分かれそうだ。

ODD内では原則自律走行を継続するレベル4と言えど、不測の事態は必ず発生する。走行停止に陥った際、どのように迅速に対応し、道路上の安全を保つか。今後の議論の行方に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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