手放し可能なクルマ、2035年に「600万台突破」へ 自動運転車の世界市場予測

ODD拡張とともに普及拡大



出典:矢野経済研究所(※表を見やすいように一部トリミングを行っています)

マーケティング・リサーチを手掛ける矢野経済研究所は2025年3月、自動運転システムの世界市場に関する最新のレポートを発表した。

同社の予測では、自家用車への搭載が広がり始めた自動運転レベル3は、2030年に300万台に達し、2035年には600万台を突破するという。レベル3は特定条件下・エリア内でハンズオフ手放し運転)やアイズオフが可能な水準を指す。


現在主流となっているレベル2ADASをはじめ、自家用車はどのように変化していくのか。10年後の自家用車市場に迫る。

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■矢野経済研究所の調査概要

レベル別シェアトップはレベル2

矢野経済研究所の調査によると、2023年のADAS・自動運転システムの世界搭載台数は5,355万5,000台で、レベル別の内訳は、レベル1が2,327万7,000台、レベル2が2,846万台、レベル2+が181万台、レベル3が8,000台となっている。

対象は乗用車及び車両重量3.5トン以下の商用車の新車に搭載されるシステムで、自動運転タクシーやバスなどレベル4以上の商用車は含んでいない。

2023年実績ですでにレベル2がレベル1を上回り、ADASの主役に躍り出ているようだ。レベル2+に関しても、高速道路限定のハンズオフだけでなく、一般道におけるハンズオフ機能の実用化が始まっているという。


中国では、「NOA(Navigation On Autopilot)」と呼ばれる一般道におけるレベル2+が、新興自動車メーカの高級BEVを中心に導入され始めている。

レベル3に関しては後述するが、メルセデス・ベンツとBMWの欧州勢がドイツ、米国でレベル3システムをオプション設定しているが、まだ搭載台数は大きく伸びていないようだ。

2025年も引き続きレベル2が世界市場をけん引し、ADAS・自動運転システムの世界搭載台数は6,002万6,000台に成長すると予測している。レベル2は3,218万台、レベル2+は745万9,000台、レベル3は32万5,000台に達するとみている。

レベル4については商用車向けで研究開発が進んでいるものの、公道実験用車両が中心のため2025年時点の量産台数は僅少としている。


出典:矢野経済研究所

10年後にはレベル2+が主流に、レベル3も機能拡張しながらシェアを拡大

2035年には、ADAS・自動運転システムの世界搭載台数は8,399万8,000台に成長すると予測している。主流はレベル2からレベル2+に移り、その搭載台数は3,181万台に達するという。

2020年代後半からレベル2+の搭載台数が日米欧中で増加し、2030年にはレベル1(1,469万2,000台)を超えて2,255万4,000台に拡大するとみている。

レベル1とレベル2は日米欧中の乗用車で搭載が一段落し、2020年代後半からはASEANが需要の中心となる。2026年からASEAN-NCAP(新車アセスメントプログラム)において、運転支援系のレーティングが変わる計画があり、2030年以降はASEANがレベル1~2市場をけん引するという。

レベル3は欧州・中国で市場が拡大し、2030年に336万9,000台、2035年には652万台に達すると予測している。2030年以降は、高速道路で時速120キロ以上に対応したレベル3システムの採用が高級車の一部で進み、ドライバーがシステムからのテイクオーバーに応じる際、レベル3からレベル2+に自動で切り替わるシステムの導入が予想されるとしている。

2030年ごろを境にレベル2+がスタンダードに

今後、レベル1からレベル2への切り替えが加速し、レベル1は減少していく。レベル2は2020年代後半まで数字を伸ばすものと思われるが、その一部はレベル2+にグレードアップされ、2030年ごろには減少に転じている可能性があるようだ。

レベル2+は2035年にかけて増加の一途をたどり、2030年代にレベル2を追い抜いて主役の座に躍り出るようだ。速度領域や道路の種別など、システムが稼働可能な条件を拡張しながらシェアを広げていくものと思われる。

同時に、ドライバーモニタリングシステムも高度化・標準化が進む可能性が高い。自動車の縦・横方向両方の制御を支援するレベル2技術が高度化するとハンズオフが可能なレベル2+となるが、ノーマルなレベル2で手放し運転する事例が相次いでおり、中にはアイズオフ=前方を注視することなく目を離す事例もある。重大事故に直結するため、ドライバーを監視するシステムも必須となっている。

ドライバーが正しく前方の状況を把握し、ハンドルなどの運転操作を放棄していないかどうかをチェックする機能の強化が求められているのだ。

【参考】ハンズオフ運転については「ハンドルに「手を添えてます」詐欺、海外で横行!日本人ならしない?」も参照。

ハンドルに「手を添えてます」詐欺、海外で横行!日本人ならしない?

ODD拡大でレベル3市場も増進

レベル3に関しては、2025年の32万5,000台から2030年336万9,000台、2035年652万台――と今後搭載が加速していく予測となっている。

ポイントは、ODD(運行設計領域)の拡大にありそうだ。現在実装されているレベル3システムはすべて高速道路渋滞時限定のレベル3であり、実用性に乏しいと言わざるを得ない。活用できるシーンが限られ過ぎており、かつフラッグシップモデルのため需要が喚起されていないのだ。

しかし、2025年春には一部で時速90キロ超に対応するアップデートが図られる見込みで、利便性向上に向け光明が差し始めた。高速道路で制限速度を満たす自動運転が可能になれば、利用シーンは飛躍的に増す。

一部メーカーがこうしたアップデートを実現すれば、各社もあの手この手で追随に尽力する。普及が始まれば、車両が収集するデータを活用した開発もさらに加速していくことが見込まれる。

ドライバーが運転席を離れたり眠ったりする危険行為を防止するドライバーモニタリングシステムや、自動運転システムがドライバーに運転交代を要求するテイクオーバーリクエストが発された際、安全に運転権限を移行する技術など、さまざまな要素技術とともに進化を遂げていくものと思われる。

出典:矢野経済研究所

レベル4自家用車の動向にも注目

普及拡大に伴いフラッグシップモデル以外への搭載も始まり、価格が低下していけば、自家用車市場におけるシェアは大きく拡大していきそうだが、このレベル3の普及に大きな影響を及ぼすのがレベル4だ。レベル4は、2030年に80万台、2035年には606万5,000台とほぼレベル3に肩を並べる予測が立てられている。

自家用車におけるレベル4が実現すれば、レベル3の上位互換となる最新技術として注目を集めることは間違いない。おそらく、レベル3同様高速道路をはじめとした自動車専用道路がODDとなる。

フラッグシップモデル、あるいは新規格の新車から搭載が始まるものと思われるが、それに伴いレベル3は普及技術化していく。最先端技術の座をレベル4に奪われるマイナス部分と、普及技術化・大衆化によるプラス部分が新車搭載台数にどのように影響していくか、要注目だ。

■レベル3の展開企業

ホンダ

ホンダが発売したレベル3乗用車「新型LEGEND」=出典:ホンダプレスリリース

自家用車におけるレべル3市場の扉を開いたのは、日本の自動車メーカー・ホンダだ。ホンダは2020年11月、レベル3の渋滞運転機能「トラフィックジャムパイロット」の型式指定を国土交通省から取得し、2021年3月に100台限定リース販売を開始した新型レジェンドに搭載した。

世界初のレベル3として大きな注目を集めたが、限定ゆえに現在は市販されておらず、その後に続く搭載モデルも発表されていない。

メルセデス・ベンツ

出典:メルセデス公式プレスリリース

ホンダに代わってレベル3市場で中心的存在になっているのがメルセデス・ベンツだ。メルセデスは2022年、レベル3システム「DRIVE PILOT」をSクラスとSクラスのEV版「EQS」に有料オプションとして設定し、ドイツ国内で実用化を開始した。

DRIVE PILOTのオプション価格は現在5,950ユーロ(約93万円)となっている。2023年には米ネバダ州とカリフォルニア州から公道走行許可を取得し、2024年に対象モデルの納入を開始している。中国市場への導入を模索する動きも報じられている。

2024年末には、ドイツ連邦自動車交通局からDRIVE PILOTの最高速度を時速95キロに引き上げる承認を受け、2025年春に実装を開始すると発表している。すでにDRIVE PILOTを搭載している車両は無料アップデートに対応している。

BMW

出典:BMWプレスリリース

3番目にレベル3の実装を開始したのはBMWだ。2024年春に新型「7シリーズ」に「BMW Personal Pilot L3」をオプション設定し、ドイツ国内で販売開始した。価格は税込6,000ユーロ(約94万円)としている。

最高時速60キロの渋滞時限定だが、最高時速130キロまで対応しているレベル2+システム「ハイウェイ・アシスタント」との連携を可能にしている点がポイントだ。テイクオーバーリクエストの後、条件が合えばそのままハンズオフのレベル2+に移行できるようだ。スムーズな権限移譲と安全性向上に資する技術と言える。

ステランティス

出典:Stellantisプレスリリース

4番目は、ステランティスだ。同社は2025年2月、ハンズオフやアイズオフ運転を可能とする「STLA AutoDrive 1.0」を発表した。

レベル3は夜間や悪天候でも時速 60キロまで対応しており、レベル2+は最高時速 95 キロに対応している。搭載車種や走行エリアは不明だが、ステランティスはフランス系のグループPSAとイタリア系のFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)が対等合併して誕生した多国籍自動車グループのため、傘下の各ブランドへの横展開が容易と思われる。続報に注目したい。

【参考】自家用車市場におけるレベル3については「「4社目」の自動運転レベル3、またトヨタじゃなかった」も参照。

他社も実用化へ

その他、ボルボ・カーズやヒョンデ・起亜などもレベル3実用化に向けた取り組みを進めているが、計画は遅れているようだ。

中国勢も、新興BEVメーカーを中心にレベル3開発が進んでいる。規制当局は2024年6月までにレベル3システムの公道走行実証を自動車メーカーなど9社に承認したことが報じられており、政府の意向次第で一気に社会実装が進む可能性が考えられる。

■【まとめ】各社のレベル3戦略に要注目

自動運転の初歩となるレベル3は、その後のレベル4に直結するため無視できない開発領域と言える。今後、速度域や走行エリアの拡大とともに利便性を増し、徐々に搭載車種も拡大していくものと思われるが、その普及期はいつごろ訪れるのか。

そして、日本の自動車メーカーはレベル3市場にどのように対応していくのか。各社の動向に引き続き注目したい。

▼自動運転システムの世界市場に関する調査を実施(2024年)|矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3693

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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