デジタル庁、「交通商社」の設立を主導か 水面下で検討

需給を整理し、潜在需要創出を担う組織?



山積する交通課題解決に向け、デジタル庁所管のモビリティワーキンググループで「交通商社」機能の在り方について議論が進められている。


これまで各地域ではMaaS(Mobility as a Service)の概念のもとモビリティサービスの在り方について検討が進められてきたが、新たな概念とも言える「交通商社」は何が異なるのか。交通商社に関する議論に迫る。

ちなみにデジタル庁が公開した資料では、交通商社の定義は以下のように定められている。

「交通商社とは、地域における移動需要の創出や集約と、最適な移動サービスの設計を一体的に提案し、関係事業者にその実施を促す主体をいい、併せて、そのために必要となる移動需要の調査や新たな移動需要の企画、移動サービスの効率化に共通に必要となるシステムやアプリケーション等の整備を行う」

▼交通商社機能のあり方について|デジタル庁
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/65e33f18-b2d0-4e42-abc6-81be87bf8945/142319ba/20250228_meeting_mobility-working-group_outline_02.pdf
▼交通商社機能を支える共通基盤のあり方について|博報堂
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/65e33f18-b2d0-4e42-abc6-81be87bf8945/ea713ed8/20250228_meeting_mobility-working-group_outline_04.pdf


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■交通商社に関する議論の概要

モビリティ・ロードマップ2025に「交通商社」が盛り込まれる?

モビリティ・ロードマップの策定を進めるモビリティWGは現在、同ロードマップの2025年バージョンに向けた議論を進めている。

この中で、新ロードマップで取り扱うテーマの候補として、「自動運転の社会実装に向けたサービスレベルと、検討の対象とすべきモビリティサービス」「検討の対象とすべき需要の種類」「交通商社機能に対する共助のあり方」「需給マッチングや需要の把握を含む必要な機能」「共通基盤におけるデータの利活用など」「協調制御、路車協調などの交通政策の方向性」――が挙げられた。

交通課題解決には、地域における移動需要と供給を正確に把握し、両者を適切に結びつけていくことが求められる――という観点から飛び出した発想のようだ。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

需要側と供給側を結び付け、潜在需要を特定

過去、人口増加期においては、移動需要に合わせ交通事業者がそれぞれ業態に応じた移動サービスを提供すれば稼働率を確保できた。しかし、人口減少期に入り、特に地方においては低い乗車率のまま運行する非効率かつ非採算のサービスが常態化し始めた。


他方、そのような地域でも、子育て世代が担っている送迎などの顕在化している移動需要や、免許返納後の高齢者の移動など潜在的な移動需要は確実に存在する。移動需要があるにも関わらず、公共交通の利用者が減少していることを踏まえると、需要側と供給側を一体的に考え、適切に結びつける必要がある。

デジタル庁によると、人口密度が低い地域ほど電車やバスといった公共交通への依存率が低く、自家用車移動が主流になっているという。また、こうした地域ほど少子高齢化が早く、運転の担い手不足や負担増加により移動課題は深刻化するとしている。

移動需要を推定する方法としては、定量アンケートやインタビューを通じて、地域住民がどの程度移動を我慢しているか「潜在需要」を特定することや、潜在需要を基に重点施策(買物、高齢者の公民館通いなど)を特定し、妥当性をワークショップなどで検証することを挙げている。

具体例として、中山間過疎地 A町のボリューム層1,433人を対象にアンケートを実施し、買い物・通院・通勤通学などの各行動について、希望する移動頻度と実際の移動頻度の差分を計測したところ、30代から80代に至るまで5~22%の範囲で「もっと買い物に行きたい」と思っていること、傾向として50歳代以上を中心に「もっと通院したい」と思っていること、自身の通勤や子どものための送迎を他の誰かに任せたいと思っていること、洋服などの買い物や趣味・娯楽に対し26~75%程度さらに行きたいと思っていることなどが浮き彫りになったという。これが潜在需要だ。

その一方で、町営バスや民間の路線バス、町営デマンドタクシー、民間のタクシー、通院支援サービスなど、利用目的や想定利用者が重複する移動サービスが複数提供されており、それぞれの運営主体者や車両所有者にばらつきがあり非効率となっている点も明らかとなった。需要と供給のマッチングが最適化されていないのだ。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

交通商社が移動需要の創出や最適な移動サービスの設計を一体的に担う

供給側の課題としては、公共交通機関の利用者が毎年減少し採算性が確保しづらい点や、サービスが分散して利用者がどれを利用すべきかわかりづらくなっている点、一貫した体制になっておらず、それぞれの供給サービスを提供する組織が独立しているため連携できていない点、需要がどのくらいあるか把握できていない点などが挙げられている。

一方、需要側の課題としては、公共交通の利便性が悪い点や、家族に送迎を頼みづらく高齢者向け健康イベントへの参加を諦めていること、子供の放課後教育を充実させたいが教室への送迎が遠く、通学頻度を抑えていること、趣味に出かけたいが送迎に追われ時間が無いことなどが例示されている。

この役割を担うのが交通商社だ。交通商社は、地域における移動需要の創出や集約、最適な移動サービスの設計を一体的に提案し、関係事業者にその実施を促す主体であり、合わせて必要となる移動需要の調査や新たな移動需要の企画、移動サービスの効率化に共通に必要となるシステムやアプリケーションなどの整備を行うものを想定している。

点在する需要と供給を整理し、サービス効率化を図る

移動需要の創出や需給調整には、地域住民や交通事業者の協力が欠かせないため、まずは需要調査で需要量を把握することから始め、段階的に役割を果たしていくべき――とする意見が出されている。

潜在的な需要について、充足を妨げる要因を明確化しつつある程度定量的に把握し、例えば高齢者向け健康サービスや放課後教育プログラムの実施など、新規の需要創出に向け地元関係者に施策の実施を積極的に働きかけるとともに、拡大後の需要を満たすための移動サービスのあり方を設計する。

その後、共通アプリなどのデジタル技術を活用し、バラバラに存在する需要と分散している移動サービスを束ねて把握し、総合的に需給を調整するとともに、移動サービスの合理化について関係者間で熟議を促し移動サービスの効率化を促す――といった流れだ。

交通商社の担い手としては、潜在需要の把握や需要創出に向けた働きかけ、共通アプリの設計導入・供給側の再編といった各ステップで求められる要件・専門性を備えたプレイヤーが適しているとしている。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

交通商社はMaaSの発展バージョン?

まだ漠然としている印象だが、MaaS(Mobility as a Service)の発展バージョンのような感じだろうか。MaaSでは、バスや鉄道、タクシーなどエリアごとにさまざまなモビリティの情報を統合・連携させる取り組みが各地で展開された。商店街やホテルなどとも連携し、地域経済と移動を結び付ける取り組みも多数見られた。

ただ、具体的な成果についてはあまり表に出てきていない印象が強い。国は地域新MaaS創出推進事業やスマートモビリティチャレンジなどでMaaSを推進しているが、交通事業者の収益はアップしたのか、地域住民の移動需要をどの程度改善できたのかなど、具体的な数字はあまり出てきていない。

MaaSは、右に倣えで単純導入するだけでは当然その効果は限定的となる。地域の実情に即した形をしっかりと見定めなければ、ただ交通アプリを導入しただけで終わりかねない。

その意味では、交通商社のような形式でMaaSの在り方をしっかりと検討・協議する組織が各地に誕生することは望ましいと言える。絶対的な正解を導き出しにくい分野だが、十人十色のさまざまな地域でどのような手法・戦略が打ち立てられるか、デジタルの力をどのように効果的に発揮できるか注目したいところだ。

デジタル公共財の在り方にも注目

もう一つ、重要な論点が「デジタル公共財」の在り方だ。これまでのMaaSは、各主体が個別にデジタル基盤・プラットフォームを構築してきたが、コストやデータ連携・活用、横展開などを踏まえ、この部分を協調領域化できないか――といった議論だ。

必須機能・情報など、共通基盤とすべき部分はどこまでか、その上で汎用性をどのように持たせどこから競争領域とするかなど、多角的な議論が求められるところだ。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

モビリティ・ロードマップ2025で試行的な取り組みを開始?

モビリティ・ロードマップ2025の骨子案は3月中旬までに策定され、6月に正式版が公表される予定だ。交通商社に関し具体的な中身を煮詰めるには時間が足りないものと思われる。おそらく、ロードマップにはその定義や方向性が示され、2025年度に試行的に取り組んでいくのではないだろうか。

地方が抱える交通課題の本質的解決は非常に難しい問題だ。自動運転による無人化技術でコスト低減が実現すれば大きく前進するが、それまでにはまだまだ時間を要する。フレキシブルに活用できる自動運転技術の確立と、量産効果などによる低コスト化が実現するのは、おそらく2030年代に入ってからだ。

そう考えると、自動運転技術の本格導入を見据えつつ、交通商社の概念で地域交通の在り方を見定め、検証を繰り返しながら2030年代に備える――というのはアリだろう。一朝一夕で解決できない社会課題だけに、中長期的視点で取り組んでいく必要がありそうだ。

▼モビリティ・ロードマップ2024はこちら
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2415ad00-6a79-4ebc-8fb1-51a47b1b0552/53e634ee/20240621_mobility-working-group_main_01.pdf

■交通商社の参考事例

香川県三豊市では2022年に交通商社が誕生

交通商社の参考となり得る事例として、香川県三豊市や三重県玉城町、富山県朝日町などが挙げられている。以下、3市町の取り組みをそれぞれ紹介する。

香川県三豊市では、「まちの移動を作り出す交通商社」として、暮らしの交通株式会社が2022年に設立された。東京都出身の田島颯氏が、慶應義塾大学卒業後に移住し設立したようだ。

移住・設立の経緯は不明だが、当初は交通事業者からスタートし、事業を進める中で課題を感じ、その先にたどり着いたのが交通商社という概念だったという。地域のタクシー会社や建材加工業、スーパー、観光事業者など多業種にわたる13社が出資している。

これらの事業者で共通するのは、スーパーなど交通と密接につながっており交通がなくなると困る事業者や、交通があることで新しいサービスを考えられる事業者という。

どうしたら町の人々が移動したくなるのか、移動総量を増やしていくことを目的に事業を推進しており、地域における交通商社の役割として、潜在需要の把握、目的地の創造、異業種連携の三つを挙げている。

これまで可視化されていなかった交通需要や移動需要は供給側中心で提供されていたが、顧客目線から何が求められているのか、アンケートやインタビューではなく実際の事業を通じて認知していくことを行っている。交通商社の機能と需要側との間でいかに質と量が担保された接触時間を顧客と持つかという点を重視しているという。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

三重県玉城町は早くにデマンド交通導入して福祉事業参加を増進

三重県玉城町では、移動手段の提供に加え、地域コミュニティと連携して移動目的を創出することで潜在需要の掘り起こしを実現している。

同町では、定時定路線型「福祉バス」から「デマンド交通(元気バス)」への移行、及び移動目的になり得る介護予防事業のイベント情報などの利用者への提供 により、バス利用者が増加しているという。

元気バスは2009年に実証を開始し、2011年から本格運行している。高齢者の介護予防事業への参加が促進されたことで、利用者群、非利用者群の間で平均約21,000円/年の外来医療費削減効果が確認されたという。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

富山県朝日町は「ノッカル」サービスを実施

富山県朝日町では、事業者協力型自家用有償旅客運送の全国第1号として、マイカーを活用した共助型公共交通「ノッカルあさひまち」を2021年度から正式な公共交通サービスとして運用している。

住民が自家用車を用いてドライバーとなることで、人的リソースと物的コストを最小限に抑え、事業継続性を担保している。運行管理や予約管理は地元の交通事業者が担っている。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

■【まとめ】今後の議論に要注目

バラバラでまとまりのない需要と供給をどのように整理し、効率化を図っていくか。並行して、どのように潜在的ニーズを掘り起こしていくのか。デジタル庁としては、デジタル公共財としての共通基盤の在り方をどのように見定め構築していくか――といったところが現在進行形で進められている議論の中身と思われる。

交通商社がどのように具体化されていくのか、今後の議論に要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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