ハンドルに「手を添えてます」詐欺、海外で横行!日本人ならしない?

手放し運転したくて、検知逃れで「重し」使用も



中国で先日、ハンドルにペットボトルを挿して手放し運転を偽装し、横たわったような状態で時速110キロで走行する動画がメディアに取り上げられたようだ。自動運転ではなく、レベル2のADAS(先進運転支援システム)による危険な行為だ。


近年、自家用車領域ではADAS(先進運転支援システム)の普及や条件付きで自動運転を可能とするレベル3技術の実装が進んでおり、特に、自動車の縦方向・横方向を同時に制御支援するレベル2の進化と普及が著しく、スタンダードな装備の仲間入りを果たした印象だ。

一部メーカーは手放し運転を可能にするレベル2+相当の技術実装にも力を入れており、その精度は自動運転と見紛うほどだ。

一方、こうした技術が徐々に自動運転に近づいてきたためか、冒頭で記したようなドライバーのモラルハザードの懸念が強まっている。レベル2の罠だ。

こうした勘違いドライバーによる事故を防ぐべく、メーカー各社は手放し運転対策にも力を入れている。レベル2の概要とともに、各社の対策・現状に触れていこう。


編集部おすすめサービス<PR>
米国株投資ならmoomoo証券(株式投資)
自動運転関連株への投資なら!各銘柄の分析情報が充実
タクシーアプリなら「GO」(配車アプリ)
クーポン超充実!「実質無料」のチャンスも!
頭金0円!定額カルモくん(車のカーリース)
「貯金ゼロ」でも車が持てる!コミコミ1万円から!
自動車保険 スクエアbang!(一括見積もり)
「最も安い」自動車保険を選べる!見直すなら今!
編集部おすすめモビリティサービス<PR>
GO(タクシー配車アプリ)
最大5,000円分のクーポン配布中!

■自動運転レベル2とは?

システムが自動車の縦・横方向の制御を「支援」

自動運転レベルは0~5の6段階に分けられており、このうち1と2が運転支援、3~5が自動運転領域となる。

出典:自動車技術会

レベル2は、主に前走車に追従するアダプティブクルーズコントロールとレーン内の走行を維持するレーンキープアシストによって自動車の縦方向と横方向の制御を行い、安定した走行を支援する。

このシステムが一定の精度まで高まり、ほとんどドライバーの手動介入を必要としないレベルまで達すれば、ハンズオフが可能になる。厳密には各メーカーがその可否を決定するが、ハンズオフ可能なシステムは一段階技術水準が高いとされており、レベル2+と呼ばれることが多い。

なお、近年はレベル2技術が熟成され、通常のレベル2でも非常に安定した走行を実現するモデルが増えている。


特に、テスラに代表される米国や中国の新興BEVメーカーはこうした技術革新を好み、将来的なレベル3や4の実装を明確に視野に入れている。

他社よりも自社技術が進んでいるとPRしたいためか、過剰気味に宣伝する傾向が強く、あくまで「運転支援」に留まる技術をまるで「自動運転」かのように表現することが少なくない。以前に比べればこうした傾向は弱まっているものの、実際に機能を誤認したユーザーが事故を招くケースが散見されるのが現状だ。

【参考】中国でのレベル2事案については「中国人、ハンドルにペットボトルを挟み、「脱法的」手放し運転」も参照。

中国人、ハンドルにペットボトルを挟み、「脱法的」手放し運転

■レベル2に内在する問題

技術の高度化がモラルハザードを生む?

問題は、ハンズオフ機能を備えていない通常のレベル2による手放し運転だ。システムが一定の制御を行ってくれるとは言え、それはあくまで運転支援であり、ドライバーは常に周囲の監視を行いながらハンドル操作を確実に操作できる状況でなければならない。安全運転義務を全うしなければならないためだ。

しかし、精度の高いレベル2の場合、ドライバーがちょっとよそ見をしたりハンドルから手を離したりしても問題なく走行してくれる。こうした性能に味を占め、そして過信した一部のドライバーは徐々に安全運転義務を放棄し、ハンドルから当り前のように手を離したり余所見をしたりするようになる。モラルハザードだ。

こうした問題は自動車メーカー側も把握しており、ハンドルを握っていなければシステムが作動しないよう対策を施す例が増えているようだ。ハンドルから手を放して一定時間が経過すると警告を発し、従わない場合は緊急停車する仕組みだ。

【参考】自動運転レベル2については「自動運転、レベル2とレベル3の違いは?(2024年最新版)」も参照。

自動運転、レベル2とレベル3の違いは?(2024年最新版)

ハンドルに「重し」で手放し検知をすり抜ける?

しかし、こうした対策をかいくぐろうとするユーザーも後を絶たないようだ。「重し」を載せるなどしてハンドルを握っているよう偽装し、対策システムをだまそうと言うのだ。

そこまでして手放し運転がしたいのか?――と呆れるほかないが、こうした頭が沸いた輩は意外と多いようで、つい先日には、中国でハンドルにペットボトルを挿して偽装し、横たわったような状態で時速110キロで走行する動画がメディアに取り上げられた。Zeekrのレベル2車両のようだ。

こうした事案が最も多いのは米テスラだ。過去には、居眠り運転や死亡事故などが複数報告されている。中には、運転席を離れる事例もあった。2022年には、ハンドルに重りを付けて居眠りし、パトカーに追跡されていることにも気づかずしばらくカーチェイスを繰り広げた例もドイツであったようだ。

一時期、アマゾンなどのECサイトには「Steering Wheel Weight(ステアリングホイールウェイト)」といった類の商品が多数出品されていた。それほど需要が高いようだ。

現在、安全上の問題を理由にアマゾンやアリババなどは商品の販売を禁止しているようだが、eBayなどでは販売が継続されている。

【参考】米国でのレベル2事案については「テスラ車に脆弱性?重りで「ハンドルを掴んでいる」と偽装工作」も参照。

テスラ車に脆弱性?重りで「ハンドルを掴んでいる」と偽装工作

テスラはトルク変化も検知、さらには実質ハンズオフへ移行?

やり玉に挙げられやすいテスラは、こうした重し対策として、ハンドルに対するトルクの変化がなければ警告が出るようアップデートした。人間の手がハンドルを握る微細なトルクの変化を検知するもので、単純に重りを載せただけではトルクに変化が生じず、警告が発せられる。

こうした無変化を検知すると、「Hands-on defeat device detected. Remove defeat device from steering(ハンズオン無効デバイスが検出されました。ステアリングから無効デバイスを取り外してください)」と警告し、従わない場合は車両を停止する。

なお、このアップデートでは「正しくハンドルに手を添えているにも関わらず警告が出る」――といった声も多数寄せられたようだ。さじ加減の難しさを感じる。

さらに、テスラは2024年のFSD.Ver.12.4のアップデートで、こうした対策をドライバーモニタリングシステムで代替するシステムの導入を開始したようだ。ハンドルを握っていなくても、車内カメラでドライバーの状態を正しく確認できればレベル2走行を可能にする内容のようだ。

ドライバーの目がはっきりと連続的に映される必要があり、サングラスやつばの低い帽子は不可とされるほか、視界が悪くなった場合はシステムがハンドルのトルクベースと視覚ベースの両方の監視を使用するようになるという。

このアップデートは、事実上ハンズオフ運転を認める内容と言える。日本では未導入と思われ、テスラの公式サイトでもFSDは「ハンズオン」であることが明記されているが、ドライバーが運転席で正しく周囲の状況を監視していればOK――といった方向にシフトしているのかもしれない。

このアップデートにより、ハンズオフ状態でテスラ車を運転する動画がこの数カ月で大きく増加している。

■メーカー各社のアナウンスや対策

テスラ:繰り返すとFSDなどの機能が1週間停止に

AutopilotやFSDを展開するテスラは、「オートステアリングはハンズフリーの機能ではありません。使用中も常にハンドルを握っておいてください」とマニュアルに明記している。

オートステアリングがオンになっている間はハンドルを握っておく必要があり、ハンドルに手が置かれていることが一定時間検知されなかった場合、インストゥルメントパネルに青色ライトが点滅表示され、「ハンドルを少し回してください」と表示される(モデルX)。

オートステアリングは、ハンドルを回したときの軽い抵抗やハンドルをわずかに回す動作からドライバーの手を検知しているという。ハンドルに手が置かれたのを検知すると、警告メッセージは消え、オートステアリング機能が通常動作に戻る。

手を検出できない場合は、インストゥルメントパネルの車両ステータスセクションにあるライトの点滅が速くなり、チャイムが鳴る。この注意を繰り返し無視するとオートステアリング機能は無効となり、自分で運転するようメッセージが表示される。それでも手動運転を再開しないと、最終的に車両の速度を落とし強制停止する。

また、Autopilotにおいてこうした強制解除が3~5回(モデルによる)に達すると、オートステアリングやFSDの使用が1週間停止されるという。

FSDも「常に道路に注意を払う必要があるハンズオン機能です。常にハンドルに手を置き、道路状況や周囲の交通状況に注意し、歩行者や自転車に注意を払い、常にすぐに行動できるように準備してください」と明記されている。

ただ、前述したドライバーモニタリングシステムでハンズオン確認を代替するアップデートを考慮すると、事実上ハンズオフが実装されたと言える。

2025年中には自動運転を可能にするアップデートも予定されており、今後、テスラを取り巻く環境は大きく変わっていく可能性がありそうだ。

日産:注意喚起の段階を経て緊急停止

日産は「プロパイロット2.0で手を離して走行できる時を除き、必ずハンドルを持ち、安全運転を心がけてください」とアナウンスしている。

ドライバーがハンドルを持っていない、または操作していない場合、アドバンスドドライブアシストディスプレイに手放し警告が表示される。警告後もハンドル操作が検知されない場合、音と表示(赤)、短時間のブレーキ制御で段階的に警告を強めていく。

それでも操作されない状態が継続された場合、緊急警報音が鳴るとともに車両を減速し、緊急停止する。車速が時速65キロを下回ると非常点滅灯が自動で作動する。緊急停止後はSOSコールサービスのオペレーターに接続され、オペレーターから警察や消防などの公共機関に救援要請が行われる。警告に従わないと大事になるのだ。

なお、ドライバーが手袋を着用しているときやハンドルにカバーが取り付けられているとき、革の繋ぎ目やスポーク部などを握っているとき、ハンドルに手を軽く添えて運転をしているときなど、正しく検出できずに警告が表示されることがあるとしている。

ホンダ:ハンズオフ可能モデルはドライバーモニタリングシステムを完備

ホンダは、Honda SENSING Eliteでハンズオフ機能を実装している。一般的なレーンキープアシストシステムに関しては、「運転者がステアリングから手を放した状態や、運転者が意図的に車線を越えるようなステアリング操作をしているとき、また、ウインカーを作動させている場合には作動しません」など、シンプルなアナウンスしか見当たらない。

ハンズオフ機能については「ドライバーモニタリングカメラが運転者の姿勢を正しくない(居眠り、わき見、不動等)と判断したときには作動しません」とあり、ドライバーの挙動をしっかりチェックしているようだ。

トヨタ:注意喚起を経て機能を一時解除

トヨタの「LTA(レーントレーシングアシスト)」機能は、ハンドル操作をしなかったり、ハンドルをしっかり握っていない状態での運転が続いたりした際、ディスプレイ表示により注意喚起が行われ、機能が一時的に解除される。

それでも操作されない状態が続くとブザーが鳴り、注意喚起が行われた後に機能が一時的に解除される。ドライバーのハンドル操作が小さい状態が続いた際も同様に注意喚起が行われるという。

ハンドルに手以外のモノが接触しているときや、ハンドルにモノや腕などを広い範囲で近づけたときなどに正常に作動しないことがあるという。

将来は脈拍や静脈検知などが必須に?

各社とも対策を徐々に強化している印象だ。しかし、各社のレベル2技術の高まりとともに、こうした問題はまだまだ広がっていく可能性が考えられる。

最終的には、ハンドルに脈拍センサーや静脈認証センサーなどを搭載し、「生きた人間の手」を検知可能にするしか方法はないのかもしれない。

そこまでしなければならないのか――と言いたくなるが、この手の違反は重大事故に直結するため、絶対的な対策が必須となる。

同時に、ハンズオフ機能を実装するモデルも増加していくことが予想されるが、こうしたシステムにはドライバーモニタリングシステムなどの義務化が欠かせない。

レベル2の裏では、こうした安全対策の開発も盛んに行われているのだ。

■【まとめ】自動車メーカーをはじめ社会全体での対策強化が必要

日本でもおそらくレベル2で手放し×よそ見運転を行う不届きなドライバーがいるものと思われるが、こうしたモラルハザードに起因する重大事故がひとたび起これば世論が大きく傾き、各メーカーはさらなる対策を迫られることになる。

事故防止・被害軽減を図るための技術が、重大事故を招く要因となってはならない。自動車メーカーによる対策は必須だが、社会的な対策も今後強化していかなければならないだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事