EVモーターズ、創業4年で「万博向け自動運転バス」採用の快挙

国内工場建設で量産化に弾み



出典:EVモーターズ・ジャパン プレスリリース

2025年開催予定の大阪・関西万博。国内外から大勢の来場が見込まれ、その数は1日あたり10~20万人と予想される。こうした来場者の足として、Osaka Metro Group(大阪メトロ)が導入するのがEVバスだ。同社は150台のEVバスを導入し、会場内外で移動をサポートする。そのうち10台は自動運転化する予定だ。

このEVバス納入において、大型契約を手中に収めたのが新進気鋭の国内EV(電気自動車)メーカーであるEVモーターズ・ジャパン(本社:福岡県北九州市/代表取締役社長:佐藤裕之)だ。100台を納入する計画がすでに発表されており、自動運転バスへの対応にも期待が寄せられるところだ。


中国勢が台頭する国内EVバス市場において、EVモーターズはどのような存在となっていくのか。同社の技術と戦略に迫る。

■万博における自動運転バスの概要
万博までに150台導入、このうち10台を自動運転車に

大阪メトロは万博開催に向け、EVバス計150台を順次導入する。過去の発表では、舞洲から会場となる夢洲までの会場外輸送に大型EVバス65台、会場内輸送に小型EVバス35台を運行する計画を発表しており、このうち大型6台、小型4台の計10台を自動運転バスにする予定としている。

国内で走行するEVバスの総数は2023年時点で2~300台と言われる中、EVモーターズは2023年6月、大阪メトロへEVバスを100台納車すると発表した。国内市場規模からするととてつもない数字だ。

7月以降、小型コミュニティEVバスと大型路線EVバスの納車を順次進めており、すでに酉島車庫前~大阪駅前間や北港ヨットハーバー~大阪駅前間などで運行されているという。


万博で自動運転バスとして使用する車両がEVモーターズ製とは公式的に触れられていないが、大阪メトロの資料によると、自動運転化するのは全長10.5メートルの大型バスと、6.99メートルの小型バスとなっており、ボディサイズなどがEVモーターズ製と一致する。

自動運転技術の開発でも貢献するかは不明だが、EVモーターズ製のバスが自動運転化されるのはおそらく間違いないものと思われる。

万博後は、大阪府内の公共バスとして使用される。自動運転化も推進し、自動運転レベル2のADASとして活用しながら各エリアで実証・運行を重ね、レベル4を目指す方針だ。

【参考】万博における自動運転バスについては「【計画判明】大阪メトロ、万博で自動運転バス計10台を運行!総ルート長は8.1km」も参照。


【参考】万博後の自動運転バスの活用については「レベル4自動運転バス、万博終了後「レベル2格下げ」で転用案」も参照。

■EVモーターズの概要
2019年創業、バッテリー技術武器にEV開発に着手
出典:EVモーターズ・ジャパン公式サイト

万博という一大イベントをきっかけに大型受注を手中に収めたEVモーターズだが、その設立は2019年と歴史はまだ浅い。

創業者の佐藤裕之社長兼CEO(最高経営責任者)・CTO(最高技術責任者)は、30年以上に渡ってバッテリーやモーター、インバータ制御システムのエンジニアとして開発に従事してきた経験を持ち、これまでに世界初の発熱しないAC回生方式充放電電源とLi-Ion電池の充放電装置の開発などを行ってきた。

その後、2009年にLIB充放電メーカーを創業し、大手電気メーカーや中国の主要EVバスメーカーなどに納入してきた。中国のEVバスメーカーと合同で実施したバッテリー耐久検証においては、電費値1位(0.78kWh/km)を記録するなどその技術力が高く評価されたという。

こうした技術を応用する形で満を持して設立したのがEVモーターズだ。福岡県北九州市を本拠に、各種EV車両や充電ステーションの開発・製造・販売や、蓄電池・PVを活用した再生可能エネルギー事業などを手掛けている。

テクノロジーとしては、世界トップレベルの低電費を実現する独自技術のアクティブ・インバータ技術をはじめ、EV車両のパワフルな走りと長距離航続を実現するボディ軽量化技術、商用EVをコアにリユースバッテリーやソーラー発電システム、燃料電池、充電インフラを含めた5つの柱をベースとするエネルギーマネジメントを武器としている。

アクティブ・インバータ技術は、通常の商用EV車両バッテリーと比較し1.5~2倍の長寿命を実現しているという。

商用EVモビリティの展開

モビリティ関連では、EVバスをはじめe物流車、eトライク、eグリーンスローモビリティなどを商用化している。

EVバスは、全長6.99メートルで29人乗り、航続距離290キロのEVコミュニティバスをはじめ、全長8.8メートル・48人乗りと10.5メートルで78人乗りのEV路線バスや、EV観光バスを展開しており、マイクロバスと2階建てのダブルデッカーバスも現在開発中という。

e物流車は1トン積み・2トン積みのミニタイプを2023年冬に発売予定で、3.5トン積みやトラクターヘッドなどの開発も進めている。

eトライクは、普通自動車免許で運転でき、側車付き軽二輪で車検・車庫証明不要なモデルなどを商用化済みだ。

eグリーンスローモビリティは、最高時速20キロ未満でコンパクトなボディに4~6人乗車可能な私道走行用タイプを発売しているほか、eゴルフカートの開発も進めている。

導入事例続々、2023年は22台を納入

今のところEVバスが主力商品となっており、2022年からの2年間で約150台を受注している。これまでの納入実績としては、大阪メトロのほか、富士急行、伊予鉄バス、東急バス、那覇バス、宮城交通、シダックスグループの大新東、新日本観光、北九州市交通局、大成建設、名護市役所が挙げられる。2023年だけで20台以上 のEVバスが納入されたようだ。

このほか、長野県の駒ケ根高原などレンタル事例もある。EV導入に向けた各地の実証など、今後活躍の場が増加しそうだ。

2022年4〜12月決算(9カ月間)では売上高7,691万円、当期純損失2億9,139万円を計上していたが、2023年は大きく売り上げを伸ばしたものと思われる。

【参考】EVモーターズの決算については「自動運転EVバスに挑戦中のEVモーターズ、純損失2.9億円計上 第4期決算」も参照。

資金調達も順調

資金調達関連では、2021年に環境エネルギー投資とFFGベンチャービジネスパートナーズから調達したのを皮切りに、2022年に西日本鉄道と第一交通産業から計3億円、同年のシリーズBでEEI4号イノベーション&インパクト投資事業有限責任組合とFFGベンチャー投資事業有限責任組合第2号、住友商事、ひびしんキャピタル、Wistron Corporation、伊予鉄グループから総額9.26億円を調達した。

続くシリーズCでは、関西電力グループの合同会社K4 Ventures、九電テクノシステムズ、阪急バス、アイティーファーム、みずほリース、三井住友信託銀行、山梨中銀SDGs投資事業有限責任組合、芙蓉総合リース、IMM Investment Group Japan、モリタホールディングス、いよぎんキャピタル、インキュベイトファンド、インターウォーズ、NTTドコモ・ベンチャーズ、Cygames Capital、四国電力、JA三井リース九州、壮栄、プラスアドグループ、三菱UFJ信託銀行、レスターエレクトロニクスなどから14.5億円を調達している。

全ラウンドを通じた資金調達額は総額47.25億円に達し、商用EV量産体制の構築や車両ラインナップの拡充などを促進していく。モリタホールディングスとは消防車両のEVシャシ共同開発に向け業務提携契約を交わすなど、新たな展開も見せている。

量産組立工場建設で国産化を推進
出典:EVモーターズ・ジャパン プレスリリース

EVモーターズは2023年4月、本拠を構える北九州市内で国内初となる商用EV専用の量産組み立て工場「ゼロエミッション e-PARK」建設に向けた起工式を執り行った。同年秋に組み立て工場・検査棟を完成させ、順次設備の拡大・充実を図っていく。

同所は、「EVを広げる・EVを感じる・施設を楽しむ」をテーマに据え、EV車両の生産にとどまらずEV体験や工場見学、EV資料館などを一貫して楽しめる体感型EV複合施設にする。また、風力発電やソーラー発電を活用した再生エネルギーによる自立発電で稼働する予定という。

総面積5万5,000平米で、完成車両テストコースや実証・自動運転向けのテストコースなども建設する。数台から生産をスタートし、最終的には年産1,500台を目指す計画だ。

これまでのEV製造は、主に中国のWisdom Motorをパートナーに据えたファブレス形態で行っていた。Wisdom Motorも2019年設立の新興EVメーカーで、BEVやFCEVの開発やADAS(先進運転支援システム)・自動運転開発などを手掛けている。ヴァレオやZFなどともパートナーシップを結ぶ有力企業だ。

2023年6月には、EVモーターズが発注した98台の車両を輸出する式典が行われたようだ。日本の厳しい路上試験に合格し、車両登録に必要な要件を満たした車両で、これが万博で使用されることになる。

Wisdom Motorとの取引は継続されるものと思われるが、EVモーターズは自社工場建設によってEVの本質的な国産化を図るとともに、地場産業の創出に尽力していく構えのようだ。

自動運転開発も視野に

EVモーターズは、挑戦分野としてレベル4の自動運転バスの開発にも取り組むこととしている。試作開発・試運転を重ね、DGPSやレーザーレーダー、3Dカメラなど最新の各種高機能センサーを取り入れながら安全なEV商用車の自動運転化を目指すとしている。

自動運転関連では、2021年にZMP向けにEVトラックの供給を行うことを発表している。ZMPは、この車両をベースに各種センサーや自動運転コンピュータ「IZAC」を搭載し、工場や物流施設、空港、港湾など構内搬送において活躍する自動運転EVトラック「RoboCar EV Truck」を開発・商品化している。

EVモーターズによる自動運転開発のポテンシャルは未知数だが、自動運転バスやトラックなどの開発需要は高まり続けることは間違いない。自動運転化に適した構造の車両開発などを進めれば、開発各社との協業が大きく進展する可能性もある。

同社独自の技術開発とともに、こうした他社との新たなパートナーシップにも注目したい。

■他社の動向
BYD筆頭に中国勢が席巻

日本市場におけるEVバス市場は、これまでBYDなどの中国系企業が主役だった。EV先進国となった中国系のBYDやALFABUSなどは近年海外展開を積極化しており、それぞれ日本法人を設立して日本市場への本格進出を果たしている。

台湾の成運汽車は2023年11月、台湾の成運汽車製造(Master Bus Manufacturing)と同社製EVバスの独占販売に関する基本合意書を締結した。2025年までに同社製車両1,000台以上の取り扱いを目指すという。

一方、日本勢では2007年設立のシンクトゥギャザーがマイクロEVや小型EVバス「eCOM」シリーズを開発・販売するほか目立った動きがなかった。

日野は発売予定だった小型EVバス「日野ポンチョ Z EV」について、発売凍結することを2023年2月に発表した。いすゞはJAPAN MOBILITY SHOW 2023でバッテリーEVのフルフラット路線バス「ERGA EV」を初公開したばかりだ。

自動運転車同様、商用EVも大手メーカーよりスタートアップの方がフットワークが軽く、かつ専門開発を行いやすいため先行する傾向にあるのかもしれない。

■【まとめ】EVバスのシェアは自動運転バスのシェア拡大にも直結

中国勢が席巻する国内EVバス市場だが、日本勢による巻き返しの先頭に立つのがEVモーターズだ。いすゞなどの大手が出遅れる中、いち早く量産化に弾みをつけてシェアを伸ばしたいところだ。

また、万博での自動運転化の行方も気になるところだ。この領域で通用する技術を身に着ければ、EVバスで得たシェアをそのまま自動運転バスの導入に結びつけることも可能になる。

同社は今後どのような戦略を採っていくのか。要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転とEV」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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