コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化――。いわゆる「CASE」の波が自動車業界に押し寄せている。Connectedの「C」、Autonomousの「A」、Sharing/Serviceの「S」、Electricの「E」を合わせてCASEと呼ぶ。
それぞれが密接に関わり合いながら開発・実用化が進められているが、次世代モビリティを象徴する自動運転と電動化は、特に相性が良いとされている。この記事では、自動運転と電動車両(BEV)の相性について解説していく。
【参考】関連記事としては「CASEの意味は?」も参照。
<記事の更新情報>
・2024年4月18日:最新情報を追記
・2023年6月13日:関連記事の情報を追加
・2022年9月26日:記事初稿を公開
記事の目次
■自動運転と電動化の関係
自動運転車はそもそも電力を多く使用する
自動運転車は従来の自動車に比べ、電力を多く消費する。高性能な「SoC」(システムオンチップ)や各種センサーなど自動運転に必要なシステムを常にフル稼働させながら走行するためだ。パソコンに搭載されるGPU(グラフィックス・プロセシング・ユニット)が、その性能に比例して大きな電力を消費するのと同様、自動運転車に搭載される超高性能なコンピューターはより大きな電力を要する。
その観点から、バッテリー容量が小さいガソリンエンジンのみの乗用車は自動運転車のベースとして不利であると言える。最低でもハイブリッド車(HV)が求められるところだ。
実際、既存車両をベースに改造した自動運転車の多くは、HVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を活用している。HVの代名詞的存在であるプリウスが世界各国の開発企業で試験車両に用いられている背景には、こうした電力面が関わっているのかもしれない。
【参考】自動運転のベース車両については「自動運転車の「ベース車両」、トヨタ車が続々採用されている理由」も参照。
アナログ的要素を排除することで電子制御がスムーズに
電力を賄うことができれば、自動運転車はHVやPHEVで良いのではないか。実際、試験車両にも多用され、問題なく走行しているように思える。
しかし、HVやPHEVは、自動運転の高度化において足かせになり得るのだ。コンピューターが下す判断に対する「タイムラグ」の問題だ。
HVなどの動力はガソリンエンジンを主体にモーターを併用する形で、あくまで内燃機関車となる。内燃機関そのものはアナログ的な仕組みで、燃料を燃焼させて熱エネルギーに変換し、機械を動かすエネルギーとして使用する。
高精度に電子制御化されているとは言え、化学反応を伴う一連のメカニズムにおいて、コンピューターが下した判断を瞬時に反映させるにはわずかなタイムラグが生じる。従来のアクセルやブレーキペダルによる操作においてはなおさらだ。望む出力を発揮するためには、アクセルを踏み続け数秒待たなければならないことも珍しくない。
一方、モーターはアクセルを踏み込む瞬間から最大トルクを発揮できるのが特徴で、動力の構造自体も内燃機関に比べシンプルとなる。電子制御との相性も良く、内燃機関に比べコンピューターの判断をより早く反映させることができるのだ。
こうしたタイムラグは、ドライバーによる手動運転や一般道を比較的低速で自動運転走行する際には致命的なものではなく、現状の自動運転実証などにおいて大きなストレスになることはない。しかし、高速道路の合流や突発的な危機回避の場面など、シビアな反応が求められるシーンは必ず出てくる。
さまざまなシーンに余裕をもって対応できるよう自動運転システムの高度化を図れば図るほど、このタイムラグの存在は大きなものへと変わっていく。未来の自動運転車におけるスタンダードは、コンピューター制御との相性の良し悪しに左右されると言えそうだ。
設計自由度の観点からもBEVが有利に
コンピューター制御との相性の良さは、「バイワイヤ」システムも同様だ。従来のアクセルやブレーキ、ステアリングといった駆動や制動、操舵に関する機構は、転舵輪などと機械的につなげることで物理的に操作命令を各制御装置に伝達している。
一方、バイワイヤシステムは物理的なつながりを持つことなく操作命令を電気信号に変えて伝達する。いわゆるコンピューター化で、操作命令を電気信号に変え、ワイヤ=電線を通じて車両を制御する電気制御となる。機械的な構造を排除し電気制御化することで、よりスムーズで柔軟なコンピューター制御が可能となる。
また、ドライブ・バイワイヤ(アクセル制御)やブレーキ・バイワイヤ(ブレーキ制御)、ステア・バイワイヤ(ステアリング制御)の利点は、有効なコンピューター制御にとどまらない。従来の機械的な制御装置に依存する必要がなくなるため、レイアウトの自由度が増すのだ。
ペダルやステアリングはボタンやスティックなどに変更することが可能で、自由に配置することもできる。BOLDLYが使用している「NAVYA ARMA」はハンドルなどの装置を備えず、代わりにゲームコントローラーで操作するシステムを備えているが、こうした新たな制御システムを実装することが可能になる。
また、自家用車における自動運転レベル4のコンセプトモデルにおいて、自動運転時にハンドルを格納するシステムなどがたびたび採用されているが、こうした格納システムにもバイワイヤシステムが活用されている。
移動時間の自由度が増す自動運転車は、車内スペースにも自由度が求められる。自動運転車にとってバイワイヤ技術は必須なものとなり、またコンピューター制御上EVとの相性が良いのだ。
【参考】自動運転におけるハンドル格納については「独アウディ、「自動運転時はハンドル格納」の方針変わらず」も参照。
モーター関連技術も進化
ドライバーレスを実現する自動運転車は、次第に車内空間の有効活用に重点が置かれるようになる。従来の枠にとらわれないレイアウトが可能になり、移動時間をよりリッチなものとするためだ。
この観点からは、上述したバイワイヤシステムなどのほか、インホイールモーターを挙げることができる。モーターを車輪のハブなど駆動輪付近に配置することで、個々の車輪を個別に制御することが可能になるほか、車内レイアウトにより自由度をもたらすことができる。EVならではの利点だ。
日本電産が開発した、モーターとインバーター、減速機を一体化したトラクションモータシステム「E-Axle」もシェアを拡大している。動力として必要な3要素を一体化させることで、タイヤにつながるドライブシャフトの回転トルクを発生させ車両を走行するところまで一製品で自己完結できるという。
BEVは内燃機関を持たない代わりにモーターを搭載するほか、大容量のバッテリーが必須となる。現状、このバッテリーは重量数百キロに及び、体積も相応に大きくなるため、レイアウト上床下に配置しているモデルが多い。
バッテリーの存在は重量、体積面から言えばデメリットとなるが、この部分に関してはイノベーションを待つほかない。高効率で安全性の高いバッテリーの実現に向けた開発は各所で進められており、そう遠くない将来、小型・軽量・大容量を実現する新技術が実用化される――と期待したいところだ。
エネルギー供給の観点でもBEVに軍配
自動運転車は、ドライバーレスの実現に大きな期待が寄せられているが、この観点からもBEVに軍配が上がる。BEVは、エネルギーの供給も無人化することができるためだ。
従来のガソリン車は、給油に必ず人手が必要になる。一方、BEVにおける充電は、ワイヤレス充電技術の開発が進められており、無人化が可能になる見込みだ。BEV側、充電インフラ双方がワイヤレス充電に対応する必要があるが、そのうち「ワイヤレス充電対応駐車場」などが登場し、停めているだけで充電可能な環境が整備されるかもしれない。
【参考】ワイヤレス充電については「ワイヤレス充電、20億ドル市場へ!自動運転車と相性抜群」も参照。
ワイヤレス充電、20億ドル市場へ!自動運転車と相性抜群 https://t.co/KHoplwd57l @jidountenlab #ワイヤレス充電 #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 16, 2022
■業界の動き
BEVは自動運転システムの統合も容易に?
EV開発をめぐる大きな動きとして、台湾・Foxconn(フォックスコン)グループが立ち上げたオープンプラットフォーム「MIH」が挙げられる。
EVソフトウェア・ハードウェアに及ぶオープンプラットフォームとして、以下に重点を置いた開発体制を敷き、EV製造にイノベーションを起こす構えだ。
- ①柔軟にカスタマイズ可能なモジュール
- ②軽量なワンピース成型
- ③強力なEEAアーキテクチャ
- ④自動運転技術
従来の精密かつダイナミックな自動車製造に対し、大げさに言えばパソコンを組むような形でEVを製造する水平分業型の手法と言えそうだ。これは、中国シャオミやファーウェイ、米アップルなどの業界参入が象徴するように、従来の製造工程に変革をもたらすものだ。
こうしたイノベーションは、自動運転システムも組込み可能な1つのソリューションに変え、車両プラットフォームへの統合を容易にしていく。
【参考】MIHについては「Foxconnの「MIH」とは?EVプラットフォーム、自動運転技術の統合も可能」も参照。
Foxconnの「MIH」とは?EVプラットフォーム、自動運転技術の統合も可能 https://t.co/UiN5M6e3Sy @jidountenlab #Foxconn #MIH #EV
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 13, 2021
■【まとめ】自動運転の高度化においてBEVが必須に?
革新性を求めるEV大手テスラを筆頭に、中国XpengやNio、米Lucidといった新興EVメーカーが自動運転技術に高い関心を寄せているのも、ある種、自動運転とBEVの親和性の高さを象徴しているのかもしれない。また、EVへの成長期待度がすでに一定程度高まってしまった今、次のマーケットの期待に応えるためには、自動運転技術の搭載が新たな一手となるという側面もあるだろう。
電子制御・コンピューター化と親和性の高いBEVは、同じくコンピューター制御が前提となる自動運転システムと相性が良いのは言うまでもなく、近い将来、自動運転システムのいっそうの高度化を図るうえで必須要素となりそうだ。
現状の課題は、バッテリー関連技術に集約されていくのかもしれない。長い航続距離を実現する大容量を確保しつつ、小型軽量で安全、さらには効率的な充電も可能とするバッテリー技術が確立されれば、自動運転車をはじめ自動車業界に本格的なイノベーションが巻き起こる。
CASEの波は、各分野におけるイノベーションが相乗効果を発揮し、社会により大きなイノベーションをもたらす可能性がありそうだ。
(初稿公開日2022年9月26日:/最終更新日:2024年4月18日)
【参考】関連記事としては「EVメーカーの自動運転戦略」も参照。