西新宿で「LINEで自動運転車」サービス!ビル25階から遠隔監視

実証を毎月実施し、実用化へ大きく前進



出典:新宿副都心エリア環境改善委員会・お知らせ

西新宿における自動運転実証が勢いを増している。一般社団法人新宿副都心エリア環境改善委員会(以下委員会)などは、同地区における自動運転モビリティの運行を2023年7月から開始する。

ビル高層階からの遠隔監視や特殊塗料の使用など、さまざまな取り組みを交えながら月3日間ペースで継続実施する方針だ。


自動運転レベル4が解禁された2023年度、各地でサービス実装に向けた事業が進められているが、西新宿ではどのような取り組みが進められているのか。その概要を紹介していく。

■2023年度の実証概要
毎月走行して事業の持続可能性を検証

委員会らは2023年度、「西新宿エリアの魅力を高める新たなモビリティ」をテーマに据え、自動運転車の継続的な走行と、民間企業などの資金による自動運転サービス事業の持続可能性について検証を行う。

自動運転車に利用者を乗せ、新宿住友ビルから新宿駅西口、新宿駅西口から新宿中央公園、新宿中央公園から新宿住友ビルのルートを送迎する。

このルートは、2023年3月に東京都・新宿区が公表した「西新宿地区再整備方針」を参考に決定した。方針では、2030年代に新宿駅西口から新宿中央公園をつなぐルートに自動運転車を導入し、歩行者の回遊性向上や公共交通の補完などを図っていく青写真を描いている。


毎月3日間程度サービス実証を行う予定で、初回の2023年7月20日~22日を皮切りに、その後も毎月平日・休日を含め運行する。

車両は、トヨタ製JPN TAXIをベースにした自動運転車両1台を使用し、セーフティドライバーが同乗する実質自動運転レベル2で走行する。

乗車料金は無料で、LINE公式アカウントで発行される2次元コードを新宿住友ビル地下1階に設置予定の固定端末にかざして配車するという。8月以降の運行日程詳細などもLINE公式アカウントで案内する。

出典:三菱電機プレスリリース
出典:三菱電機プレスリリース
ビル高層階から遠隔監視、特殊塗料の活用も

実証には、委員会をはじめ大成建設、ティアフォー、損害保険ジャパン、アイサンテクノロジー、KDDI、日本信号、大成ロテック、プライムアシスタンス、三菱電機の計10社が参加する。


出典:三菱電機プレスリリース(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転車の運行を通じて、固定型配車端末の運用や遠隔監視、信号情報連携、トンネル走行支援技術、路車間連携技術の導入、中野坂上のコネクテッドサポートセンターからの遠隔見守りサポートなどを行う。

ティアフォーがシステム開発や走行オペレーション、アイサンテクノロジーが高精度3次元地図の製作、KDDIが5G・4GLTE通信環境の構築などをそれぞれ担う。トンネル協調技術は大成建設と大成ロテック、信号との協調技術は日本信号がそれぞれ取り組む。

損害保険ジャパンは自動運転リスクアセスメントや専用保険を提供し、プライムアシスタンスはコネクテッドサポートセンターからの案内を行う。三菱電機は運行管制システムの実装や配車端末の設置を担当する。

固定型配車端末では、乗車申し込みや目的地の設定などを行い、オンデマンド運行管制システムを介して出発予定時刻などの配車情報が発信される。

遠隔監視は、高層階に位置する新宿住友ビル25階のTOKYO UPGRADE SQUAREから行う。トンネル走行支援関連では、特殊塗料の活用を考えているようだ。自動運転用塗料としては、LiDARで認識可能な「ターゲットラインペイント」を日本ペイントホールディングスが開発している。人間の目には見えづらく、誤認を防ぎながら自動運転車のみに情報を与えることができるため、活用方法を模索する動きが広がっている。

出典:三菱電機プレスリリース
■西新宿におけるこれまでの取り組み
2020年度に実証着手

ティアフォーやアイサンテクノロジーなどは2019年、自動運転タクシーの開発・実用化に向け協業を開始していた。この開発グループと委員会が2020年に協力協定を結び、自動運転モビリティの実証に着手した。

2020年度は4日間にわたり、5GやLTE通信を活用した運転席無人の遠隔型自動運転やセーフティドライバーが乗車する非遠隔型自動運転などを行い、自動運転技術の成熟度や遠隔操舵の有用性検証などを進めた。

続く2021年度は、信号情報との連携やトンネル内における特殊塗料の有用性検証、道路インフラに設置したセンサー情報の活用など、都内初となるさまざまなめ取り組みに着手したほか、実装を見据えたサービスモデルの検討や自動運転サービスに適したUXの検討なども進めた。

2022年度は、2023年度と同一ルートによる自動運転移動サービスの一般試乗などを実施している。

2023年度は、これまでの取り組みをしっかりと引き継いだうえで、恒常的サービス化を意識した取り組みに着手した印象だ。

【参考】西新宿における取り組みについては「自動運転タクシー、もう「普通の人々」も乗れる段階!西新宿でも「運転席無人」で」も参照。

■【まとめ】レベル4実装に向け経験値を高めていく段階に

米中に比べれば緩やかではあるものの、着実にステップアップを図っている印象だ。レベル4が解禁され、法的障壁がなくなった2023年度以降、取り組みをどのように加速させていくかが大きなポイントとなる。

そのためには、盤石な資金と実証環境のもと、いかに公道走行を繰り返して経験値を高めていくかが重要となる。企業間連携や国・自治体との連携をいっそう密にし、ストレスなく実証に臨める体制づくり構築に期待したい。

また、取り組みはセーフティドライバーが同乗する実質自動運転レベル2で行われるが、こうした実証実験の場合、最終的にセーフティドライバーによる介在がどれだけあったのか、逆にいえば、どれくらい「実体的にはレベル4」の状況で走行することができたのか、といった「結果」の蓄積が重要であり、高い成果であれば社会受容性の向上にもつながるため、そういったデータの共有・開示といった動きにも期待したいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転バスに「100円」で乗れる!西新宿でレベル2実証」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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