自動運転時代、「世界のトヨタ」が死語に?ホンダ、増す存在感

ソニーをパートナーに新ブランド展開



EV開発を進めるホンダとソニーの合弁であるソニー・ホンダモビリティが、新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」の立ち上げとともにプロトタイプを発表した。新車両は自動運転レベル3を搭載予定で、2026年にも納入開始する計画だ。


ホンダの自動車メーカーとしての車体作りや自動運転技術のノウハウと、ソニーのセンシング技術やエンタメ技術が融合した次世代型のレベル3の EV(電気自動車)が誕生するかもしれない。

この記事では、両社の取り組みとともに、AFEELAの概要について解説していく。

■ソニー・ホンダモビリティの取り組み
高付加価値型EV開発に向け合弁設立
出典:ソニー・ホンダモビリティ社プレスリリース

ソニーとホンダは2022年3月、新時代のモビリティとモビリティサービスの創造に向け、戦略的提携を進めていくことに合意した。

最先端の技術と感性を掛け合わせ、「Mobility Tech Company」としてモビリティの革新を追求していく方針で、新会社を通じて高付加価値のEVを共同開発・販売し、モビリティ向けサービスの提供と合わせて事業化していくこととした。


同年10月、ソニー・ホンダモビリティの設立を発表し、「Autonomy=進化する自律性」「Augmentation=身体・時空間の拡張」「Affinity=人との協調、社会との共生」の3Aをコンセプトに据えた高付加価値型EVを開発し、2025年に先行受注を開始し、北米を皮切りに2026年春ごろから納入を開始する計画を掲げた。

新ブランド「AFEELA」発表
出典:ソニー・ホンダモビリティ社プレスリリース

同社は、米ラスベガスで開催された技術見本市「CES 2023」で新ブランド「AFEELA」の立ち上げを発表し、プロトタイプを初披露した。AFEELAというネーミングは、モビリティ体験の中心に在る「FEEL」に由来する。クルマをただの移動手段と捉えず、移動中にどのような体験ができるか――といった体験に重点を置く構えだ。

車体は全長4,895×全幅1,900×全高1,460ミリの5人乗りで、余計な装飾となる造形を削ぎ落したエクステリアデザインとなっている。

車内はゆとりの空間設計で、フロントエリアには両端まで横一線に広がるパノラミックスクリーンや、独自設計のステアリングを採用している。大画面ディスプレイとサラウンドオーディオで映画や音楽などプレミアムな没入体験を実現するほか、自動車の外観においてもフロントマスクの一部がディスプレイとなっており、アプリ操作で表示を変更することもできるようだ。


世界最高水準の自動運転・ADASを目指す

安全面では、ソニーが持つセンサー技術とホンダの安全技術をベースにインテリジェント技術を組み合わせ、世界最高水準の自動運転・ADAS(先進運転支援システム)を目指すとしている。

一定条件下で自動運転を可能にするレベル3を目指すと同時に、市街地などにおいてハンズオフ運転を可能にするレベル2+の開発にも取り組んでいく。

プロトタイプには、車内外にカメラをはじめとした計45個のセンサーなどを配置し、コンピューター部分には最大800TOPS(1秒間に800兆回)の演算性能を誇るECUを搭載する。SoCは、QualcommのSnapdragon Digital Chassisを採用予定という。

参考までに、自動運転車への採用が拡大している米NVIDIAのSoC「NVIDIA DRIVE Orin」が254TOPSだ。AFEELAブランドは、このOrin3個相当のSoCを搭載することになる。スペック的にはレベル3を十分満たす性能と言える。

このほか、移動する空間価値に着目した次世代エンターテインメント機能として、リアルとバーチャルの世界を融合させた新たなコンテンツ・サービスを模索している。一例として、 Epic Gamesとモビリティにおける新たな可能性の検討を開始しており、Unreal Engineを活用した移動空間における新たな体験やコミュニティの創造を目指すという。

競合相手はアップルカー?

レベル3とエンターテインメントという2つのキーワードを考慮すると、真っ先に思い浮かぶ競合相手は米アップルが開発を進める通称「アップルカー」だ。

各種メディアによると、アップルはこれまで進めていた開発をレベル4からレベル3にシフトしたという。これが事実であれば、同社はサービス向けの商用車ではなく自家用車の開発を進めていることになる。しかも、発売目標時期はAFEELAと同じ2026年という。

革新的なサービスがウリのアップルも、AFEELA同様乗車体験に新たな風を吹き込むサービスを模索しているはずだ。数年後、純自動車メーカーのEVとは異なるテクノロジー系EVが新たな旋風を巻き起こす可能性も高そうだ。

【参考】アップルの取り組みについては「Apple Carの価格、10万ドル未満濃厚 自動運転EVをいつ発売?」も参照。

■ホンダの取り組み
世界初の量産レベル3車を発売

ホンダは2021年3月、一般乗用車に世界で初めてレベル3を実装した新型「LEGEND」のリース販売を開始した。日本の法整備が進んでいたこともあるが、世界2番目となるメルセデス・ベンツのレベル3実装が1年後となったことを考慮すると、非常に先駆的な取り組みであったと言える。

ホンダのレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」やメルセデス・ベンツの「DRIVE PILOT」は、現時点においては自動運転を作動させる条件として「渋滞時」などが付加されているが、レベル3に関する国際基準の速度上限が時速130キロまで伸ばされたことを受け、今後の焦点は制限速度を満たすレベル3の実装となる。

【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転戦略」も参照。

高速道路本線全域でのレベル3実現へ

ホンダは、レベル3システムを含む「Honda SENSING Elite」の改良を続け、2020年代半ばから順次他車種への導入を始める予定だ。一般道路を含めたレベル2+をはじめ、高速道路本線全域でのレベル3実現を目指す方針を発表している。

自家用車市場においては、一部でレベル4を目指す動きがあるものの2020年代半ばにかけて開発の主流となるのはやはりレベル3だろう。自動車メーカー各社がホンダに追随し、自家用車においても自動運転技術がコア技術となっていくのだ。

AFEELAブランドから新車が発売され、世に出回る2026年に各社のレベル3がどれほど進化しているかは不明だが、ホンダが先駆者としての知見をしっかりと磨いていけば主導権を握り続ける可能性は十分考えられる。

その頃には、「世界のトヨタ」から「世界のホンダ」というフレーズが自動車業界で定着しているかもしれない。

【参考】ホンダの取り組みについては「自動運転、トヨタに「置いてけぼり感」?ホンダ新発表で」も参照。

■ソニーの取り組み
イメージセンサーやエンタメに強み

一方、ソニーはこれまで世界シェアの過半を占めるイメージセンサーを主力に自動車業界と関わってきた。自動運転やADASで必須となるセンサーのコア技術だ。自動運転に対応した車載CMOSイメージセンサーをはじめ、車載LiDAR向けの積層型SPAD距離センサー、センサーフュージョン技術なども開発している。

また、ソニーグループとしてはゲームや音楽、映画などエンターテインメント分野に強みを持っている。これらのコンテンツとモビリティを結び付けることで、自動運転時代の新たなビジネス・サービスで主導権を得ることもできそうだ。

独自のコンセプトカー「VISION-S」発表 新会社設立も

「CES 2020」では、コンセプトカー「VISION-S」を披露し、業界の度肝を抜いた。オーストリアのMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)をはじめとしたサプライヤーとともに一から車両を作り上げたのだ。

13台のカメラとソリッドステート式LiDAR3基、超音波センサーとレーダー17台の計33台のセンサーで全方位センシングを実現し、レベル2+相当のADAS機能を備えるという。

VISION-Sはその後、欧州や日本などで走行実証を行っており、Vodafoneのドイツ法人とともに東京とドイツを遠隔でつないだ5Gリモート運転試験なども実施している。

ホンダとの提携を発表した翌月となる2022年4月には、事業会社ソニーモビリティを設立し、EV市場投入に向けた検討に本格着手している。

新会社では、モビリティ向けサービスプラットフォームの開発や事業化とともに、自律型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」やプロフェッショナル向けドローン「Airpeak」、ソーシャブルカート「SC-1」などの事業も展開する予定としている。

また、ソニー社内で進めてきた車両向けエンタメ開発などは、ソニーとしても引き続き取り組んでいくものとみられる。

【参考】ソニーの取り組みについては「ソニーの自動運転車「VISION-S」の担当役員に直撃インタビュー!」も参照。

■【まとめ】新時代のレベル3でもホンダが先行か

今後過熱していくことが予想されるレベル3市場だが、ソニーやアップルなどの参入により自家用車に求められる機能やサービスが多角化していく可能性が高い。新時代のレベル3自家用車だ。将来的な自家用レベル4の実現を前提にすれば、この傾向はますます強まっていくものと思われる。

レベル3で先鞭をつけたホンダは、ソニーというパートナーを得て新時代のレベル3でも先行する可能性がある。自動車業界におけるホンダの影響力がどのように変わっていくか、今後の動向に引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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