自動運転、トヨタに「置いてけぼり感」?ホンダ新発表で

最新Eliteは2020年代半ばから順次導入

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自動運転レベル3で先行するホンダは2022年12月1日、安全運転支援分野における次世代技術を発表した。「Honda SENSING 360」や「Honda SENSING Elite」の進化系で、自動運転技術に通じる先端技術の搭載を見込む内容だ。

ホンダの次世代技術はどのようなものか。ADASや自動運転分野におけるトヨタとの比較を交えながら、その概要について解説していく。

■安全運転支援システムの新技術
2030年までにHonda SENSINGを全機種に適用
出典:ホンダ・プレスリリース

ホンダのスタンダードなADAS(先進運転支援システム)であるHonda SENSINGは現在、日米で99%、グローバルで86%の新車に搭載されており、累計販売台数は1,400万台に上るという。

2021年には、自動運転レベル3を実現するトラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)を搭載したHonda SENSING Elite(エリート)を新型レジェンドに搭載した。

また同年には、エリートの研究で培われた知見を生かす形で開発を進めた全方位安全運転支援システムHonda SENSING 360(サンロクマル)を発表した。車両周辺の死角をカバーし、交通事故の回避やドライバーの運転負荷軽減をサポートするADASで、2022年から中国市場を皮切りに導入を開始している。

今後は、2030年までに二輪検知機能付Honda SENSINGを全世界の四輪全機種に適用していくとともに、その進化版となるHonda SENSING 360も2030年までに先進国の四輪全機種への適用を目指す方針だ。

以下、サンロクマルとエリートの進化の方向について解説してく。

Honda SENSING 360はレベル2+へ

全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」では、次世代技術としてハンズオフ機能やドライバー異常時対応システムなどを各地域のニーズに合わせながら2024年以降順次追加していく。

Honda SENSING 360には現在、衝突軽減ブレーキや前方交差車両警報、車線変更支援機能、車線変更時衝突抑制機能などが搭載されているが、より高度なADASとして、ハンズオフ機能付きの高度車線内運転支援機能や高度車線変更支援機能、ドライバー異常時対応システム、降車時車両接近警報、ドライバー状態と前方リスクを検知し回避支援を行う技術などを搭載し、ドライバーの負荷軽減を図るとともに安全性を向上させていく。

ハンズオフ機能は、システムがアクセルやブレーキによる縦制御、及びステアリングによる横制御を行い、ドライバーがハンドルから手を放しても車速や車線内の走行を維持できるよう支援し、ドライバーの運転負荷を軽減する。車線変更支援機能付きは、車速の遅い先行車を検知した際など一定条件下でシステムが状況を判断し、ドライバーに告知したうえで追い越しや車線復帰を支援する。

ドライバー異常時対応システムは、システムからの操作要求に対しドライバーの反応が無い場合に、ハザードランプとホーンで周辺車両へ注意喚起を行いながら同一車線において減速・停車を支援する。

ドライバー状態と前方リスクを検知し回避支援を行う技術は、走行時にドライバーの状態を検知し、注意力低下や漫然運転が見られる際に歩行者や自転車、停車中のクルマや前走車などに衝突の可能性がある場合、車両を減速し、未然に注意喚起するとともに車線をはみ出さないようステアリング操作支援を行う。

レベル3に必須となるドライバーモニタリングシステムと車両制御・支援システムを、高度なレベル2にも導入していくようだ。

【参考】Honda SENSING 360については「ホンダの「Honda SENSING 360」を解説 新ADAS、2030年までに標準搭載化」も参照。

高速道路全域でのレベル3確立へ

Honda SENSINGのフラッグシップであるHonda SENSING Eliteは、独自のAI(人工知能)技術によって従来の高速道路に加え一般道路も含めたシームレスな移動を支援する技術を新開発し、2020年代半ばから順次導入し始める計画だ。

独自AI技術により、一般道路のような複雑な環境・シーンへの対応を可能とすることで、自宅から目的地に至るシームレスな移動を支援する技術の開発に取り組んでいる。

具体的には、幹線道路における渋滞時や、高速道路のジャンクションなどでの合流・分岐シーンにおけるハンズオフ機能など一般道路を含めたレベル2+技術や、自宅での入出庫時の自動駐車支援といった技術開発を進めているという。

自動駐車支援に関しては、将来的に外出先での呼び出しや乗り捨てが可能なオートバレーパーキングの実現を目指す。

高速道路においては、レベル3を実現するトラフィックジャムパイロットの高速道路本線全域での実現に向け、2020年代後半の技術確立を目指す方針だ。

【参考】Honda SENSING Eliteについては「ホンダの自動運転レベル3搭載車「新型LEGEND」を徹底解剖!」も参照。

■ホンダとトヨタの戦略
ホンダはレベル4サービスの実現も具体化

レベル2+やレベル3の進化の方向性を鮮明にしたホンダ。発表では具体的に触れられていないが、Honda SENSING Eliteを搭載する車種の拡大についても検討が進められているものと思われる。

2020年代後半には、おそらく世界の自動車メーカー各社のレベル3がグローバルに販売され、高速道路における渋滞時以外の標準走行がスタンダード化するのをはじめ、一部一般道路でも実現している可能性が高い。レベル3のパイオニアとして、ホンダのさらなる進化に期待したいところだ。

レベル4関連では、ホンダは米GM・Cruise勢との協業のもと、サービス向けの自動運転車両の開発を進めている。Cruiseは2022年、シボレー・ボルトをベースにした自動運転車両「クルーズAV」で無人の自動運転タクシーサービスを米カリフォルニア州で開始している。

ホンダもクルーズAVや2020年に発表した自動運転専用モデル「Cruise・Origin(クルーズ・オリジン)」を日本国内に導入し、移動サービスに着手する計画を立てている。すでに栃木県宇都宮市・芳賀町で技術実証などに着手しており、2020年代半ばにも自動運転モビリティサービスを開始する予定だ。

また、ホンダモビリティソリューションズは2022年4月、タクシー事業者の帝都自動車交通と国際自動車と提携し、東京都心部での自動運転モビリティサービス提供に向け協業していくことを発表している。

【参考】ホンダのレベル4に関する取り組みについては「ホンダ、東京で「レベル4自動運転」の実証実施へ」も参照。

トヨタのレベル3以降は未だ水面下に…

一方、トヨタはどうか。トヨタは2021年、新型MIRAIとレクサスの新型LSにADAS「Advanced Drive(アドバンスト・ドライブ)」を搭載し、ハンズオフ機能の実装を開始した。2022年には、新型ノア・ヴォクシー、新型クラウンにそれぞれ「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を設定するなど、搭載車種の拡大を図っている。複数車種にレベル2+機能を搭載している点で、ADAS分野においてはトヨタがホンダをリードしているとも言える。

しかし、レベル3に関しては未だ正式なアナウンスが発されておらず、展望についても不明なままだ。技術的にはクリアしているものと思われるが、市場の情勢を踏まえ見送っている可能性が考えられる。

レベル4関連では、モビリティサービス専用の自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」が代表格だ。2021年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村で送迎用に利用されたのを皮切りに、2022年には東京臨海副都心・お台場エリアでの実証にも活用されている。また、静岡県裾野市で建設中の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」にも導入される予定だ。

徐々に日の目を浴び始めたe-Paletteだが、本格導入に向けた具体的な話はまだ表面化されていない。その意味では、現時点においてはホンダが一歩リードしているとも言えそうだ。

【参考】トヨタとホンダの比較については「自動運転、トヨタとホンダの「レベル別」現状比較」も参照。

ホンダは「カメ」、トヨタは…?

レベル3開発に携わってきたホンダのある開発責任者は、自社について「『ウサギとカメ』のカメのようなもの」となぞらえている。安全に対し愚直に向き合い、根幹となる構想を固めることにかなりの時間を費やしたという。

事実、レベル3発表前のホンダは自動運転関連の話題が乏しかった。しかし、第三者から技術開発が遅れているように見えたとしても、結果として他社に先駆けてレベル3の社会実装にたどり着いたのだ。「カメ」は、実に言い得て妙な表現と言える。

では、自動運転分野でホンダに後れを取りつつあるトヨタはウサギか?……と言うと、そうではない。おそらく、トヨタはホンダ以上に「カメ」なのだ。

そもそも、両社とも自動運転分野においては「一番乗り」を求めておらず、安全性を追求するとともに自動運転の在り方をじっくりと模索する戦略をとっている印象が強い。その意味では、トヨタはホンダ以上にどっしりと構え、地道な研究開発を積み重ねている可能性が考えられる。

なお、ハンズオフ機能を搭載した「ProPILOT2.0」をいち早く世に送り出し、次世代交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の実証に早期着手していた日産はどうか。ウサギのようなトップスタートでそのままゴールを目指すと思われたが、近年は落ち着きを見せ、じっくりと開発を進めている印象だ。一度甲羅をかぶり、足をためているのかもしれない。

■【まとめ】ウサギとカメ論、勝者の行方は…?

未来の自動車や自動運転車の在り方はまだまだ未知であり、かつ高い安全性が求められることから、自動運転分野においては「カメ」として腰を据えた体制を敷くのも重要な戦略となる。大手自動車メーカーは特にその傾向が強いのかもしれない。

ウサギの役割はスタートアップなどに任せ、自身はカメとなってじっくりと研究開発を重ね、社会全体の道路交通の在り方を模索していく……といった感じだろうか。

自動運転のゴールがどこにあるか分からない状況下、ウサギとカメの対決はまだまだ続きそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、一番進んでるメーカーは?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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