リサーチ事業を手掛ける米ResearchAndMarketsはこのほど、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転分野における中国自動車メーカートップ10の取り組みをまとめたレポート「Top-10 Ranking of Chinese Carmakers in ADAS & Autonomous Driving」の提供を開始した。
世界一大きな市場を背景に業績を伸ばす各自動車メーカーだが、自動運転分野ではスタートアップの台頭が著しく、共存の道を歩んでいるように思える。
そこで今回は、同レポートをもとに中国の自動車メーカーの動向に迫っていく。
記事の目次
■レポートの概要
レポートでは、中国自動車メーカートップ10の313モデルのADAS装備の分析や、自動運転 レベル2~4のロードマップ、自動運転用センサーに関する技術、中国でのADAS展開におけるシェアなどがまとめられている。
そして中国のトップ10メーカーとしては、以下の企業を挙げている。
- BAIC (北京汽車、アークフォックス、北京ベンツ、福建ベンツ、北京ヒュンダイ)
- BYD(比亜迪汽車)
- Changan(長安汽車、長安重慶、長安フォード、長安マツダ)
- Chery (奇瑞汽車、Jetour、Cowin、Exeed、Jaguar Land Rover との JV)
- Dongfeng(東風汽車、東風柳州汽車、東風ヴェヌーシア、Voyah、合弁会社の東風日産、東風インフィニティ、東風ホンダ、東風 PSA)
- FAW(第一汽車、Bestune、Hongqi、Jiefang Trucks、一汽フォルクスワーゲン、一汽トヨタ、一汽マツダ)
- GAC(広州汽車、Aionブランド)
- Geely(吉利汽車、Geometry、Lynk & Co)
- GWM(長城汽車 、Haval、WEY、長城ピックアップ、ORA)
- SAIC (上海汽車、Roewe、MG、Rシリーズ、Maxus、Yuejin、Wuling、Wagon、Yongyan、Sunwin)
以下、この中から4社をピックアップし、各社の取り組みを紹介していく。
■BYD:BaiduやMomentaとパートナーシップ
バッテリーメーカーから派生する形で2003年に設立されたBYD(比亜迪汽車)は、2021年に60万台の新エネルギー車を販売するなどEVメーカーの代表格として台頭している。車道走行型の自動配送ロボットの開発を手掛ける米Nuroの製造パートナーに選ばれるなど、高度なEV開発・生産技術を有している。
現行車種に搭載されているADASは一般的なものに留まるが、2022年にBaidu(百度)の自動運転技術を採用する旨報じられており、ADASの強化や自動運転化が大きく進展する可能性がありそうだ。
また、自動運転開発スタートアップMomentaとも2021年に自動運転機能を開発するための合弁「DiPi Intelligent Mobility」を設立しており、先進技術の習得に大きく舵を切った印象だ。
【参考】Baiduとの取り組みについては「テスラに徹底抗戦!中国BYD、百度の自動運転技術で弱点補完」も参照。
■FAW:BaiduやPony.ai、Plusとパートナーシップ
FAW(第一汽車)はBaiduのアポロ計画に参画し、2019年に高級ブランド「紅旗」のモデルをベースにした自動運転タクシーのサービス実証に着手している。2020年には、自動運転開発を手掛けるPony.aiと戦略的パートナーシップを交わし、商用向けの自動運転開発をいっそう加速している。
また、グループの大型トラック部門は自動運転トラック開発のPlusと提携し、自動運転システム「PlusDrive」の統合を進めている。システムの初期生産バッチはすでに納入されているという。
過去の発表では、2020年中に紅旗ブランドにおいてレベル3を量産化するとしていたが、今のところ見送られているようだ。現行車種に搭載されているADASの詳細なども不明だが、一部にアポロ計画のバレーパーキング技術が搭載されているという。
紅旗ブランドは2021年、中国自動車メーカーとしては異例の日本進出を果たすなど、新たな路線を歩んでいる。あくまで可能性だが、これをきっかけに中国内で実績を重ねる自動運転タクシーやバスの日本導入を図ることも考えられる。今後の動向に要注目だ。
■Geely:Baiduやモービルアイなどとパートナーシップ
Geely(吉利汽車)は、安全性やコネクティビティ、パワートレイン、車内環境、自動運転の5つの最先端技術で構成する「iNTEC」テクノロジーの開発を進めている。
自動運転技術の基礎となるADAS「G-Pilot」は、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストに加え、自動駐車アシストなど各種機能を備えている。
自動運転分野では、インテル・モービルアイやBaiduとのパートナーシップに大きな注目が集まっている。インテル勢とはプレミアムEVブランド「Zeekr(ジークロ)」を通じてレベル4車両を開発し、コンシューマー向けの自動運転車を2024年にも中国で発売する計画を発表している。
【参考】モービルアイとの協業については「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。
一方、Baiduとは合弁Jidu Autoを設立し、フリート向けの自動運転車の量産化を進めていく計画だ。2028年にロボットカーを年間80万台供給する目標を掲げている。
スタートアップのDeeproute.aiとは、2023年に杭州で開催予定のアジア競技大会で自動運転サービスを提供する計画が持ち上がっているほか、Geelyの配車部門Caocao MobilityがPony.ai とともに北京や蘇州でロボタクシーサービスを開始している。
柔軟に各社とパートナーシップを結び、量産化と社会実装を推し進めている印象だ。
自家用車関連では、傘下のボルボ・カーズとの合弁Link&Coやメルセデス・ベンツとの合弁smart Automobileなどを立ち上げており、グローバルな活躍にも期待が寄せられる。
【参考】Baiduとの協業については「自動運転カー「2028年までに80万台」!百度のEV企業Jidu」も参照。
■SAIC:MomentaやPony.aiとパートナーシップ
SAIC(上海汽車)は配車サービスを手掛ける「SAIC Mobility」を設立し、自動運転開発スタートアップMomentaとの協業のもとロボタクシーの実証を進めている。
Momentaの「Flywheel L4」技術を使用したデータ駆動型ソリューションを開発し、2021年12月に上海と蘇州でレベル4ロボタクシーのサービス実証に着手した。100日間のトライアルでは、顧客の98%が満足と回答したようだ。
また、Pony.aiもSAIC「Marvel R」をベースに自社開発した自動運転ソリューションを統合し、レベル4車両の開発を進めている。
自家用車関連では、アリババなどと2020年に設立した傘下のブランドIM Motorsが、BEVの初モデル「L7」にMomentaのADASを採用し、16種のインテリジェント運転支援機能を提供している。推定レベル2だ。
【参考】IM Motorsについては「中国SAICの新EVに秘める実力 自動運転、車内パーソナライズ、OTAが実現!」も参照。
また、傘下ブランドRising AutoもBEV「R7」にLuminar Technologies製LiDARやNVIDIAのチップを採用したADAS「RISING PILOT」を搭載し、高度なレベル2を実現した模様だ。
SAICはLuminar Technologiesと2021年に戦略的パートナーシップを結んでおり、Luminar Technologiesの中国進出もサポートしている。中国企業にこだわらず、柔軟に世界の技術を取り入れながら競合メーカーとの競争を勝ち抜いていく構えだ。
【参考】Pony.aiとの開発については「量産型!自動運転レベル4のタクシー、Pony.aiとSAICが開発へ」も参照。
■【まとめ】自家用車部門でもパートナーシップ拡大?
自動運転分野においては独自開発の話題はほぼ聞こえず、各メーカーともスタートアップをはじめとした先行開発企業と手を組み、自動運転タクシーなどの商用分野向けの車両開発を進めている状況だ。
こうしたパートナーシップの成果か、近々では自家用車向けのADAS・自動運転分野においても、各開発企業の技術を導入する動きが出始めているようだ。独自色は損なわれるかもしれないが、効率良く最新技術を吸収し、市場競争力を維持・拡大することができる。
今後、自動車メーカーによるスタートアップの大型買収なども考えられる。各社の動向に引き続き注目だ。
【参考】関連記事としては「中国の自動運転タクシー事情(2022年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)