東は「自動運転」、西は「空飛ぶクルマ」 東京・大阪の方針比較

次世代モビリティにどう取り組んでいる?



自動運転や空飛ぶクルマをはじめとした新たなモビリティ実現に向けた取り組みが国内各地で盛んに行われている。道路交通が飽和状態の大都市部では、インフラ整備も念頭に据えた自動運転や空飛ぶクルマ実装に向けた取り組みが進められているが、日本の首都である東京都と西日本を代表する大阪府では、注力分野に違いが生じ始めているようだ。


この記事では、次世代モビリティに対する東京都と大阪府の取り組み状況に迫っていく。

■東京都の取り組み
自動運転ビジネスモデルプロジェクトをバックアップ

東京都は自動運転の公道実証実験促進に向け、構想段階から実施に至るまでの関係法令などの手続きに関する情報提供や相談サービスを行う東京自動走行ワンストップセンターを2017年に国と共同で設置した。2018年度からは、自動運転技術と先端的なICT技術などを組み合わせたビジネスモデルプロジェクトの支援を行っている。

2018年度は、SBドライブ(現BOLDLY)による郊外部住宅団地での自動運転バスによる移動手段創出、日の丸交通とZMPによる都心部での自動運転タクシーによるサービス実証の2 つのプロジェクトが採択された。

2019年度は、日の丸交通とZMPによる空港リムジンバスと連携した都心部での自動運転タクシーサービスと、愛光観光・NTT東日本・NTTデータ・群馬大学による島しょ部観光MaaSの実現に向けた移動手段創出が採択された。


2020年度は、Mobility Technologies・ティアフォー・損害保険ジャパン・KDDI・アイサンテクノロジーによる5Gを活用した自動運転タクシーの事業化に向けた運行管理実証、WILLERによる地域の公共交通・サービスと連携した自動運転の実用化が採択された。

2021年度は、京王バス・京王電鉄・京王エージェンシー・日本モビリティ・ソフトバンク・あいおいニッセイ同和損害保険・MS&ADインターリスク総研による都心部特有の自動走行困難な営業ルートでの自動運転バス運行実証と、ティアフォー・損害保険ジャパン・KDDI・アイサンテクノロジー・日本信号・大成ロテック・プライムアシスタンスによるまちのインフラと協調した自動運転サービスの運行実証、Mobility Technologiesによる自動運転車両を活用した臨海副都心エリアにおける新たなモビリティサービスの実証がそれぞれ採択された。

【参考】ティアフォーなどの取り組みについては「西新宿での自動運転タクシー実証、再び!東京都事業で採択」も参照。


実証内容は年を追うごとに具体化しており、都心部から島しょ部までさまざまな条件下における自動運転モビリティの実証が進展しているようだ。

2022年度も、臨海副都心における自動運転技術を活用したサービスの構築に関するプロジェクトが募集されている。

道路環境の未来の在り方も模索

自動運転技術を活用した都市づくりの展開に向けた基本的な考え方と今後の取り組みの方向性をまとめた「自動運転社会を見据えた都市づくりの在り方」では、2040年代を目標年次に据えた目指すべき東京の将来像を掲げている。

都市内交通における自動運転車は、人口密度が高い地域や低い地域など各地域に応じて他の公共交通機関と連携する形で導入され、きめ細かい公共的な交通サービス導入に寄与することが想定されるとし、道路空間や駅前空間、駐車場といった交通施設や、自動運転技術を活用した移動サービスや物流におけるユースケースなどの在り方について現在における考え方を取りまとめている。

道路空間では、自動運転車の普及によって車道空間の縮小が可能となることに言及し、道路空間を再配分して自転車通行空間の確保やゆとりのある歩行者空間、カーブサイドなどを創出できるとするなど、道路環境そのものの在り方を変え、新たな時代に対応した規格へと変えていく壮大なプランなども掲げられている。

【参考】都市づくり構想については「東京都、「自動運転レーン」の先行整備を検討」も参照。

空飛ぶクルマ実用化に向けた動きも

自動運転時代を見据えた都市づくりを進める東京都だが、空飛ぶクルマ関連事業にももちろん力を入れている。東京都は2022年度、ベイエリアを舞台とした「東京ベイeSGプロジェクト」における先行プロジェクトのテーマの1つに「次世代モビリティ」を掲げ、空飛ぶクルマを活用したビジネスの社会実装を目指すプロジェクトなどを募集している。

想定スケジュールでは、2022年度に空飛ぶクルマの需要調査や飛行ルートの検討などを行い、2023年度にヘリコプターを活用したビジネス実証を行う。2024年度には、国による機体認証を前提に空飛ぶクルマを活用したビジネス実証に着手する方針だ。

【参考】東京ベイeSGプロジェクトについては「東京都、「埋立地」で空飛ぶクルマ実装へ 夏ごろに事業者募集」も参照。

■大阪府の取り組み
空飛ぶクルマが万博の目玉に

大阪府では、IR構想やスマートシティ・スーパーシティ構想、大阪・関西万博と紐づけた取り組みが目立つ印象だ。IR、万博とも人工島「夢洲」をメイン会場に据えており、インフラ整備を交えながら自動運転や空飛ぶクルマの実用化を図っていく意向だ。

特に、空飛ぶクルマは空の移動革命に向けたロードマップにおいて2025年度の大阪・関西万博で飛行を実現する計画が明記されており、後退することなく国策含みで前進あるのみ――といった姿勢で推進していくことになりそうだ。万博における目玉コンテンツにもなり得るため、注目度は増す一方だ。

【参考】空飛ぶクルマに関する大阪府の取り組みについては「絶好のPR機会!大阪万博、空飛ぶクルマなどでの参加事業者を募集」も参照。

大阪府は2020年11月、産官学協力のもと具体的な課題整理や開発に向けた議論を行う「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」を設置し、事業を加速させている。

実用化に向けた大阪版ロードマップでは、2022年度に府内における実証実験の支援体制・環境の整備を進めるとともに、離着陸場の設置・構築に資する調査・検討、事業者の効率的な事業運営・推進を支える環境整備に向けた調査・検討などに着手する。

2023年度からは高密度・高頻度運航に耐え得る離着陸場の設置・構築や安定運航を支える後方支援体制・拠点の検討・整備、事業立ち上げ・拡大を情報面から支援するインフラ・データ基盤の検討・整備、初期投資・事業負担を軽減する資金調達スキームの検討・構築などを進め、2025年度の事業立ち上げを達成する計画だ。

【参考】空の移動革命に向けたロードマップについては「【資料解説】空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)」も参照。

万博では、会場周辺を中心とする遊覧飛行をはじめ、会場と近隣の空港、大阪市内などを結ぶ二地点間輸送の実現を目指す。

その後の将来像としては、大阪府を中心に関西エリアの観光地・ビジネス拠点などを結ぶ空飛ぶクルマネットワークを構築していくビジョンを描いており、京都や奈良といった古都観光と大阪観光の連携や2拠点生活者による週1回の大阪都心部への通勤用途、救急搬送など、渋滞に左右されることなく関西広域で活用できる新たなモビリティに育てていく方針のようだ。

まずは、目下の目標となる万博に向け、どのように事業を具体化していくのかに注目だ。

異なる自動運転モビリティを交えた実証にも着手

自動運転関連では、大阪・関西万博を契機とする開発の一環として、2024年度までに夢洲におけるレベル2の貨客混載や都市部での貨客混載・ライドシェア、2025年度をめどに万博アクセスや会場内移動を可能にするレベル4サービスの実装、その後は大阪版都市型MaaSへと発展させていく構想を描いている。

万博に向けては、すでに公益社団法人2025年日本国際博覧会協会と大阪商工会議所による事業化が進められており、大阪メトロなど10社による自動運転バスとタクシー、パーソナルモビリティ、自動配送ロボットの4種を交えた実証が始まっている。

【参考】大阪府における自動運転関連の取り組みについては「4種同時実証!大阪、自動運転車や配送ロボをミックス 万博に向け」も参照。

■【まとめ】東京都は自動運転、大阪府は空飛ぶクルマ推進に傾倒?

東京都、大阪府ともに自動運転や空飛ぶクルマに関する事業を推進しているが、万博を3年後に控える大阪府は特に空飛ぶクルマ実用化に向けた事業に注力し始めた印象だ。万博=空飛ぶクルマのイメージが定着するにつれ、この傾向はより強まっていくことが考えられる。

両者とも自動運転と空飛ぶクルマ双方に力を入れる状況に変わりはないが、東京都は王道とも言える自動運転領域の実用化を第一に推し進める一方、大阪府は国策含みで是が非でも空飛ぶクルマの実現を第一に据え、事業展開していくことになりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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