2025年開催予定の大阪・関西万博に向け、自動運転を核に据えた次世代都市交通システムの実証が着々と進められている。最近では、自動運転バスやタクシー、パーソナルモビリティ、自動配送ロボットの4種を交えた高度な実証が始まった。
4種の自動運転モビリティの連携・連動を図る実証は恐らく国内初で、海外でもそうそう例を見ない取り組みだ。この記事では、万博に向けた各社の取り組みに迫る。
記事の目次
■万博を見据えた実証の概要
大阪メトロなど計10社が参画
万博会場予定地で現在行われている実証は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会と大阪商工会議所が公募していた実証事業の1つだ。自動運転や空飛ぶクルマ、グリーンインフラ高度化、都市型自動運転船など、未来社会を見据えたイノベーションを促進する計9事業が採択されている。
自動運転関連では、大阪メトロを中心にあいおいニッセイ同和損害保険、NTTドコモ、大林組、関西電力、ダイヘン、凸版印刷、日本信号、パナソニック、BOLDLYの計10社が共同で取り組む「自動運転を活用した未来社会の実装検討」が採択を受け、自動運転レベル4を核とした次世代交通管制システムの提供を目指す実証実験に着手している。
大阪メトロの発表によると、万博開催時に予想される膨大な来場者輸送需要に対し、待ち時間のない効率的な移動と、自動運転車両を組み込んだ次世代交通管制システムの構築や新たな移動体験、事業性の検証を目指すとしている。
レベル4やMaaSなど8項目を実証
実証では、万博会場を想定した1周約400メートルのテストコースを整備し、複数台の自動運転車両を運行させる。自動運転走行を一元管理する際の課題抽出と、非接触充電による電動モビリティへの充電制御に関するエネルギーマネジメントの技術検証を行い、少ない渋滞でエネルギー効率に優れた次世代都市交通システムの構築を進める。
また、車両の運行を管理する手法・システムを企画し、マネジメントする高度な専門人材の育成を行うとともに、将来の自動運転化によるさまざまな技術・サービスについても活用の可能性を検証するという。
具体的には、以下の各項目に取り組む。
- ①MaaSアプリ・顔認証
- ②自動運転
- ③車内コンテンツ
- ④低速自動運転・パーソナルモビリティ
- ⑤モビリティの管理
- ⑥信号協調
- ⑦道路での非接触充電・発電
- ⑧保険・リスク管理
①では、目的地周辺までのオンデマンド交通や小型モビリティの提案・予約を行う。オンデマンド交通乗車時は、顔認証システムを導入する。②では、公道におけるレベル2走行や敷地内のテストコースにおけるレベル4相当の走行を行う。
③では、5Gを活用して移動時間を楽しめるコンテンツを配信し、快適な車内環境の実現を図る。④では、低速モビリティなどを歩行者と混在する環境下で走行・移動する。
⑤では、1人の遠隔監視者が、低速自動運転モビリティやパーソナルモビリティなどさまざまなタイプのモビリティの運行状況を同一システムで一元管理する。異常時には遠隔監視者からの操作で車両を制御するほか、在庫管理やモビリティ全体での交通最適化を図る。
⑥では、AI判定によるセンシングと5Gによる路車間通信を活用し、交差点における安全情報や信号切替タイミングの事前通知などにより、安全な自律走行に向けたインフラ支援を行う。⑦では、路上で電動モビリティの非接触充電を自動的に開始し、充電スポットでの充電頻度を減らす。⑧では、複数タイプのモビリティによるサービス提供や運行管理におけるリスクも幅広く検討する。
自動運転バスやタクシーなど4種のモビリティを一括管理
2022年3月には、舞洲スポーツアイランド内に整備したテストコースでのレベル4実証や、近隣駅と実証会場を結ぶレベル2実証に着手した。
BOLDLYの発表によると、同社が取り扱う自動運転シャトル「NAVYA ARMA」2台を同時に走行させ、自社開発した自動運転車両運行管理プラットフォーム「Dispatcher」を、NAVYA ARMAとティアフォーの自動運転システムを導入したタクシー専用車両「JPN TAXI」に接続する。
さらに、パナソニックの遠隔管制システムとAPI連携を図り、パナソニック製のパーソナルモビリティや自動搬送ロボットを加えた計4種類の自動運転車両を遠隔監視する。
Dispatcherを他社の遠隔管制システムと連携するのは初めての試みで、4種類の自動運転車両を同時遠隔監視するのも初という。BOLDLYはこの実証でDispatcherと他社システムの連携可能性を検証し、あらゆる車両に柔軟に対応可能なシステムによって複数車種の自動運転車両を一括管理できる環境を構築し、都市型MaaSの早期実用化を目指すとしている。
自動運転サービスの連携は未来のスタンダード技術
この大阪における実証の肝は、さまざまな種類の自動運転車の連携を図る点だ。自動運転実証の多くは同一モデルの技術開発に重点を置いており、複数台の連携を図る際も基本的には同一モデル、あるいは同一システム搭載車両を利用する。当然ながら、開発企業はまず自社システムを確立させなければ話にならず、他社システムとの連携は余力によるところが大きくなりがちだ。
そこで存在感を増すのが、BOLDLYのような運行管理プラットフォーマーだ。現在はDispatcherと他社の自動運転システムの統合を個別に進めシェア拡大を図っている段階だが、将来的にはDispatcherを介する形でさまざまな自動運転システムを一括管理する道が大きく開けるのだ。
自動運転バスや自動運転タクシーなどの自動運転サービスは現時点では個別に運用管理されているが、将来MaaSに組み込まれ、それぞれのモビリティサービスが高度に連動・連携することが求められる。さらに言えば、各自動運転サービスを同一事業者が運用し、本質的な連動・連携を図る可能性もある。
さまざまな自動運転サービスの連携は、MaaS×自動運転において必須の取り組みであり、未来のスタンダードとなる技術なのだ。
■【まとめ】将来的には陸海空を結ぶ自動運転網の構築も?
同実証は2022年4月末ごろまでを予定しており、この技術検証結果や乗車モニター体験で寄せられた意見などを踏まえ、同年10月を目途に2回目の実証を行う予定となっている。
万博では空飛ぶクルマや無人運航船の実用化なども計画されており、実証が高度化すれば陸と海、空を結ぶ自動運転網が構築される可能性も考えられる。今後の取り組みに引き続き期待したい。
【参考】関連記事としては「大阪万博×モビリティ、日本の方向性は!?空飛ぶクルマ、自動配送ロボット、MaaS……」も参照。