イーロンマスク50歳、テスラCEO14年目に 「完全自動運転」もいよいよ?

時価総額1兆ドル、GAFAMに並ぶ立ち位置に



イーロン・マスク氏=出典:Flickr / Steve Jurvetson (CC BY 2.0)

躍進を続ける米EV(電気自動車)大手テスラ。時価総額は米史上6社目となる1兆ドル(約110兆円)を超え、数字上はグーグルなどの巨大テック企業GAFAMに並ぶ立ち位置に達した。自動車メーカーとしては異例の躍進だ。

この躍進の原動力は、2021年10月でCEO(最高経営責任者)就任から14年目に突入するイーロン・マスク氏の存在に他ならない。今年で50歳になったマスク氏。数々のビッグマウスで市場を翻弄し続け、時に投資家を裏切りつつも期待感を生み出し続ける同氏の手腕の成果だ。


最近はADAS「FSD(Full Self-Driving)」最新版のリリースと撤回、レンタカー業者との大型契約などが話題となり、こうした動向が株式市場を刺激しているようだ。

この記事では、同社の株価の推移とともに歴史を振り返りながら最新動向に迫っていく。

■テスラの軌跡
序盤の資金調達をマスク氏が主導、2008年にCEO就任

テスラは2003年、エンジニアのMartin Eberhard氏とMarc Tarpenning氏が設立した。翌2004年に実施された資金調達Aラウンドをマスク氏が主導し、取締役会長に就任している。マスク氏はその後もBラウンド、Cラウンドを主導し、グーグル創業者のSergey Brin氏やLarry Page氏からも出資を引き出すなど、早くから敏腕を発揮していた。

2008年には、最初の量産車となる「Roadster」の販売を開始したほか、同年10月にマスク氏がCEOに就任し、名実ともに同社の経営を率いることになる。


2010年にパナソニックと共同でバッテリー開発を進めていくことを発表し、同年6月には米ナスダック市場への上場を果たした。始値19ドル、終値23.90ドルの船出だ。その後しばらくは非常に緩やかな右肩上がりを続ける。

2017年に時価総額でGMを抜く

ロードスターに次ぐ2車種目「モデルS」が発売された2012年6月には30ドル前後で推移している。モデルS の出荷台数が伸び、2013年1~3月期の営業キャッシュフローが黒字となったあたりから株価の高騰が始まり、年初30ドル台だった株価は5月に100ドル台に達し、9月には190ドル台まで値を上げた。

その後、パナソニックとの合弁によるギガファクトリーが着工した2014年6月には200ドル台、Autopilotの搭載がスタートした同年10月に260ドル台を記録している。以後しばらく平行線をたどるが、「モデル3」が発売された2017年7月には340ドル台を記録し、しばらく300ドル前後が続くことになる。このころ、株式時価総額で米ゼネラル・モーターズを上回り、米自動車メーカートップに躍り出ている。

ツイッター発言を発端に会長職辞任へ

マスク氏がツイッターで非公開化を示唆する発言を行った2018年8月7日には、前日の終値342ドルから一時387ドルまで値を上げた。これはマスク氏独断の発言であり、不正に株価に影響を及ぼす行為として米証券取引委員会に提訴され、罰金を科せられるとともに会長職を辞任する事態に発展した。


【参考】マスク氏の会長職辞任については「テスラ魔の1週間…時価総額でGM下回る、イーロン・マスク氏が会長職辞任」も参照。

生産体制整いついに黒字化達成、時価総額はトヨタ超え

その後、2019年5月に200ドル台を切るまで値を下げたが、生産体制が整い長らく続いた赤字体質からの脱却が図られたことから同年末頃から株価が急騰し始めた。2020年1月2日の終値430ドルから2月には一時900ドル台まで伸ばし、6月には1,000ドルを突破した。7月には時価総額でトヨタを抜き、世界の自動車メーカートップに躍り出た。

株価急騰、1兆ドル企業へ

2,000ドルを突破した8月には1株を5株とする株式分割案が承認され、8月31日に498ドルで再スタートを切る。2020年は新型コロナウイルス対策による経済対策や大統領選挙などを背景に米国株式全体が上昇傾向にあり、12月末日までに700ドル台まで値を上げた。

2021年前半は落ち着いていたが、同年第3四半期の売上高は過去最高を更新したほか、10月にレンタカー大手の米Hertz Corporationが2022年末までにテスラ車10万台を発注する計画を発表したことで株価は急騰し、10月1日の終値775ドルから同月27日には1,037ドルまで値を上げている。

時価総額は、米史上6社目となる1兆ドル(約110兆円)を突破した。Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftのいわゆる「GAFAM」と肩を並べる規模に達したと言える。

【参考】テスラ株の上昇については「テスラ株価、2020年で8倍強 ”自動運転”発言、熱狂する投資家も」も参照。

■テスラの最新動向
FSD最新版リリースも撤回

テスラは2021年10月、一部のオーナー(テスター)を対象にFSDの最新ベータ版「FSD Beta 10.3」をリリースした。前走車両のブレーキライトやハザードなどの検出力強化や運転特性の切り替えを可能にするドライバープロファイル機能の実装などが盛り込まれている。しかし、オーナーから各種ADAS(先進運転支援システム)に対する不具合発生報告が相次いだため、一時的にバージョンを「10.2」に戻した。

FSDと相互に作用する省電力モードに原因があることなどが判明し、数日後に修正版「10.3.1」をロールアウトしたようだ。

波紋広がるFSD

FSDのベータ版は2020年10月に提供開始されている。「Full Self Driving=完全自動運転」と銘打っているものの、現時点では自動追い越し機能や自動駐車機能などを備えたADASに相当する。

このFSDベータ版を安全運転に協力できるオーナーを対象に提供して各種データを収集・蓄積し、ソフトウェア高度化を図って将来の自動運転につなげていく戦略だ。

マスク氏はこれまで、自動運転レベル5の機能を「アーリーアクセス」として2019年内に限定公開する計画や、2020年半ばに自動運転タクシーサービスを開始し、同年中に100万台以上の自動運転車を稼働させる計画を発表するなど、自動運転に関しては常に攻めの姿勢を貫いてきた。

「Autopilot(=自動操縦)」や「Full Self Driving」といったネーミングについても、誤認を招くとして各所から批判を浴びても意に介さず、自動運転の実現にまっしぐらな印象だ。

自動運転やFSDに関しては、2020年12月に「来年には自動運転車をテスラの顧客に届けることができる」といった主旨をインタビューの中で回答している。2021年1月には、「人が行う運転よりも信頼できる自動運転車が今年中に実現する」といった内容のツイートも行っているようだ。

その一方で、FSDが現状ADASにとどまることも認めている。米カリフォルニア州の車両管理局(DMV)に対し、2021年3月までには現時点でFSDには自動運転の能力がない旨説明したことが明らかにされている。

また、2021年10月には、米国家運輸安全委員会(NTSB)からFSDリリースに対する批判を浴びせられた。Autopilot利用者による過去(2016年)の死亡事故発生時に指摘したシステムの欠陥に依然対処していないとする内容だ。

各機能の高機能化はもちろん、誤認防止やADAS作動条件の厳格化など、さまざまな面で課題解決に向けた取り組みが求められることになりそうだ。

自家用車における自動運転の新たな展開に注目

いずれにしろ、テスラがレベル3~4の自動運転技術を確立した際、注目となるのが「ODD(運行設計領域)」だ。高精度3次元地図に依存しないテスラの自動運転においては、基本的にジオフェンスの設定が存在しない。

自動車専用道路など明確に区別可能な範囲で走行エリアを設定することになるが、市街地を可能にした際は走行可能エリアが一気に広がることになる。最終的な実現時期は正直なところ不明だが、自家用車における自動運転の新たな展開として要注目だ。

■【まとめ】数年後にはGAFAMの仲間入り?

自動運転技術の確立時期は依然不透明だが、マスク氏に前のめりな姿勢を崩す意思はない。今後も強気な発言を展開し、それに引っ張られる形でテスラは開発を進めていくものと思われる。

それにしても、テスラの株価高騰はすさまじい。テスラが自動運転技術を確立した際、その技術をライセンス化する計画なども持ち上がっている。自動車メーカーでありつつも、今後はソフトウェア・ファーストなテック企業へと変貌を遂げていく可能性もある。

数年後、GAFAMに「T」が加わる可能性も否定できないのではないだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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