【資料解説】「2040年、道路の景色が変わる」国交省ビジョン案、自動運転やMaaSも

自動運転車専用レーンやMaaS向け交通ハブ設置など視野

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出典:国土交通省資料

国土交通省が設置する社会資本整備審議会道路分科会の基本政策部会において、将来あるべき道路環境の整備に向けた議論が進められている。2020年2月に開かれた会議では、スマートシティ・自動運転社会を見据えた道路法の改正案や新ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」の素案が示された。

道路政策に係るビジョンは2002年策定の「TURN 道の新ビジョン」以来で、2040年ごろの日本社会を見据えたものだ。

今後、長いスパンをかけて道路はどのように変わっていくのか。案の中身を解説していこう。

▼2040年、道路の景色が変わる ~ 人々の幸せにつながる道路へ ~
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001330161.pdf

▼道路行政が目指す政策の方向性 イメージ集
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001330175.pdf

■道路の役割を再考~「進化」と「回帰」~

ビジョンでは、普遍的な価値観である「人々の幸せの実現」に道路政策の原点を置き、そのために道路として果たすべき役割は何かを再考している。

そのうえで、近年のAIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術の進展や、今後の5Gの商用化、2030年代の実用化が予測される6G、2045年ごろに予測されるAIが人間の頭脳を超えるシンギュラリティ、また、モビリティ分野における自動化や電動化、コネクテッド、シェアリングなどCASEにおける技術革新に言及し、これらのデジタルやモビリティの技術を活用し、人やモノの移動の安全性や効率性を極限まで高めるために「道路の進化」が求められるとしている。

■道路の景色はどう変わるか?~5つのシナリオ~

モビリティ革命の進展や個人の価値観やライフスタイルの変化などに伴い、将来の「移動」がどのように変わるかを5つのシナリオを例示して予測している。

通勤や買い物などのルーティン移動が激減

6Gやホログラム技術によるバーチャルコミュニケーション化が進み、外出しなくともコミュニケーションが可能となる。人と人が直接会う機会が減少することにより、満員電車による通勤など義務的な移動の必要性が薄れるほか、職場・自宅間の距離の制約が無くなり、自然や観光資源の豊かな場所も含め、郊外や地方への移住・定住が増加するとしている。

一方、三大都市圏では都心駅及び放射鉄道網によるハブ&スポーク構造が弱まり、駅を中心とした都市構造から、地元のコミュニティ圏域単位へと生活圏が再構成されるとしている。

旅行、散歩、ランニングなどの余暇の移動が増加

通勤などの移動が減る一方、旅行や観光、散歩、健康のためのウォーキングやランニングなど、楽しむ移動や滞在が相対的に増加するとし、歩行者空間の充実や公園と一体化した道路の出現などを予測している。

人やモノの移動が自動化・無人化

自動運転車を利用したいといったニーズが高まり、クルマによる人の移動は「自動運転による移動サービス」として公共交通化される。その結果、マイカー所有のライフスタイルが過去のものとなり、交通事故が劇的に減少して安全な道路空間が出現する。

物流においても、自動運転技術とEコマースによって買い物目的の移動が激減し、無人物流が主流となる。移動コストが低下することで小口配送ニーズが増加し、小型自動ロボットやドローンが日本中を走り回るなど、超多頻度小口輸送が出現する。

このため、物資流動の OD(起終点)の組合せ数が爆発的に増加し、データによる予測が不確実な社会となることも予測している。

店舗(サービス)そのものが移動

完全自動運転化によって接客・営業しながらの移動が可能となり、飲食店や医院、クリーニング、スーパーなどの小型店舗型サービスが、需要の分布に応じて道路上を移動するようになる。それらの店舗は、曜日や時間に応じて、道路の路側に停車して営業を行うなど、まちの姿を一変させる。

【参考】移動型店舗については「「無人コンビニ」の開発状況まとめ 自動運転技術で「移動式」も」も参照。

災害時も人・モノが途絶することなく移動

平常時・災害時問わず機能強化された道路が実現し、災害時でも途絶することなくネットワーク機能を常時発揮できるようになる。道路空間は災害リスクフリーとなり、人の避難や災害物資の輸送を支える。

■道路行政が目指す「持続可能な社会の姿」と「政策の方向性」

道路行政が目指す目指す社会像として、「日本各地どこにいても、誰もが自由に移動し、交流や社会参加できる社会(包摂・参加)」「世界と人やモノが行き交うことで経済の活力を生み出す社会(活力・成長)」「国土の災害脆弱性とインフラ老朽化を克服した安全に安心して暮らせる社会(安全・安心・環境)」――の3つを提案している。

日本各地どこにいても、誰もが自由に移動し、交流や社会参加できる社会

人口推移やライフスタイルの変化に言及しつつ、モビリティ分野では100年に1度のモビリティ革命で自動運転車やコネクテッドカーなどの開発・普及やMaaSが普及する見込みとしている。

参考データとして、自動運転レベル3以上の自動運転車が新車販売に占める割合は2030年に約3割に上ることや、コネクテッドカーが販売台数に占める割合が2017年の28%から2035年に88%に拡大すること、MaaSの市場規模が2018年の約800億円から2030人は約6兆円に拡大することなどを挙げている。

中長期的な道路政策の方向性としては①国土をフル稼働②マイカーなしでも便利に移動できる道路③交通事故ゼロ④行きたくなる、居たくなる道路――を示している。

①(国土をフル稼働)では、全国を連絡する幹線道路ネットワークと高度な交通マネジメントが国土の稼働率を最大化し、日本各地で人が自由に移動・居住し、経済活動できる社会を実現することとしている。

具体的なイメージとして、国土や地域の骨格となる道路に自動運転車の専用レーンなどが設置され、自動運転道路ネットワークを形成することや、道路インフラがコネクテッドカーに対して交通状況の変化や利用可能な駐車場などの情報を個車単位で提供すること、可変式の道路構造(リバーシブルレーン)や高度な需要予測に基づく交通マネジメント(経路変更・時間帯の分散)の導入などを挙げている。

自動運転専用レーンの創設は、自動運転技術導入の過渡期に有用とされ、国土交通省道路局が推進する「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」の中でも自動運転レーンを導入したケースについて触れられているようだ。

リバーシブルレーンは、複数車線の広い道路において時間帯によって中央線をずらすことで交通量の多い方向の車線を増やし、混雑の緩和を図る交通規制などを指す。現状は車線間違いなどによる事故の危険性が高く導入に消極的な向きが強いが、自動運転化やコネクテッド化によりドライバーに注意を促しやすくなる点や、道路インフラそのものの高度化によって高い安全性を確保することができれば、導入が促進される可能性もありそうだ。

【参考】自動運転専用レーンについては「自動運転時代を前に、高速道路の「アップデート」が必要なわけ」も参照。

②(マイカーなしでも便利に移動できる道路)では、マイカーを持たなくても便利に移動できるモビリティサービス=MaaSが、すべての者に移動手段を提供するとしている。

さまざまな交通モードの接続・乗り換え拠点(モビリティ・ハブ)を道路ネットワークに階層的に整備することで、自動運転バス・タクシーや小型モビリティなどの円滑な乗換えを実現することや、道の駅などを拠点とする無人自動運転車両の走行空間や乗降拠点が、中山間地域などにおける高齢者らの移動手段として機能する点などを挙げている。

超小型モビリティによるシェアサービスなど、移動手段が多岐に及び、MaaSの観念によってスムーズに連動する社会では、各交通事業者の協働体制やプラットフォームの開発をはじめ、交通ハブ(交通結節点)をどのように設けるかがカギを握る。

道路行政だけでなく都市計画なども交え、早い段階から実証を積み重ねておくことが重要となりそうだ。

【参考】交通ハブについては「自動運転時代、あなたの街の「駅前広場」はどうあるべき?」も参照。

③(交通事故ゼロ)では、歩行者が車両と空間をシェアしつつ、安全で快適に移動・滞在できるユニバーサルデザインの生活道路によって交通事故のない社会を形成することとし、生活道路における車両の速度制限の自動化や、コネクテッドカーから得られる走行履歴データの活用による運転マナーの改善などを挙げている。

④(行きたくなる、居たくなる道路)では、まちのメインストリートが、行きたくなる、居たくなる美しい道路に生まれ変わり、賑わいに溢れたコミュニティ空間を創出するとしている。

世界と人やモノが行き交うことで経済の活力を生み出す社会

日本の持続的な成長を考える上で、いかに海外から人・モノを呼び込み、それらを国内に流動させるか、といった観点から、世界と人やモノが行き交う活力溢れる社会を目指すべきとし、道路政策の方向性として①世界に選ばれる都市へ②持続可能な物流システム③世界から観光客を呼び込むみち――の3点を示している。

①(世界に選ばれる都市へ)では、卓越したモビリティサービスや賑わいと交流の場を提供する道路空間が、投資(マネー・人材)を呼び込む都市の魅力を向上させるとし、具体的なイメージとして、MaaSに対応した交通拠点の整備や道路ネットワークの再編、駐車場スペースの転用により都市交通流動を最適化するほか、可変型の道路表示などを設置し、曜日や時間帯に応じて自動運転車の乗降スペースや移動型店舗スペースなどに道路空間が変化する路側マネジメントの展開などを挙げている。

②(持続可能な物流システム)では、自動運転トラックによる幹線輸送やラストマイルにおけるロボット配送などによって省人化された物流システムが、持続可能な「Logistics as a Service」を実現するとし、具体的なイメージとして、海上輸送網の変化などに対応した国際物流ネットワークの形成や、小口荷物単位で最適化された物流システムを支援するプラットフォームの形成、自動運転トラックや隊列走行の専用レーンとそれに直結するインフラの全国展開、ロボット配送などを可能とする道路空間と道路利用ルールによるラストマイル輸送の自動化・省力化を挙げている。

EV化による充電ステーションなどのインフラをはじめ、クルマや人と配送ロボットが共存しやすい新たな道路空間の在り方を模索する動きが今後活発化しそうだ。

③(世界から観光客を呼び込むみち)では、日本風景街道、ナショナルサイクルルート、道の駅などが国内外から観光客が訪れる拠点となるものとみられ、多言語道案内などきめ細かなサービスを提供し、インバウンドや外国人定住者の利便性・満足度の向上を図っていくこととしている。

国土の災害脆弱性とインフラ老朽化を克服した安全に安心して暮らせる社会

激甚化・広域化する近年の災害や気候変動リスク、インフラの老朽化などに言及し、①災害や気候変動から人と暮らしを守る道路②道路の低炭素化③道路ネットワークの長寿命化――の3点を示している。

②(道路の低炭素化)では、自動運転化された BRT(バス高速輸送システム)や BHLS(バス・ハイレベルサービス)の専用レーンや、シェアサイクルポートや駐輪場、自転車道をはじめとした自転車ネットワークなど、公共交通やマイカーからの転換を図るイメージが盛り込まれている。

■ビジョン実現に向けた課題

道路行政においても計画・整備・運用・維持管理といった一連の業務プロセスのデジタル化やスマート化を推進することや、交通データや道路メンテナンスに係るデータなどのビッグデータの取得や利活用、新技術を積極的に活用するマインドへの転換、多様な主体との連携、国民の理解と共感、そして予算・財源を、議論を深めるべき課題として挙げている。

交通機能のデジタル化が進む中、維持管理などにおいても可能な限りデジタル化を図り、効率的かつ効果的な道路行政システムを構築すべきで、自動運転で必要とされるV2I技術や各種センサーが集めたビッグデータを応用し、道路行政に生かす研究開発なども今後加速しそうだ。

■【まとめ】21世紀の道路は自動運転の登場で様変わり

自動運転やMaaSの視点が大きく盛り込まれたビジョンとなっており、ビジョンが見据える2040年には道路環境が大きく様変わりしていそうだ。

かつての獣道から人が歩きやすいよう舗装路が登場し、街区を形成しながら馬車や自動車の登場によって車道や歩道の概念が生まれた。長い歴史を誇る道路だが、21世紀は自動運転の登場によってその機能を変化させていくことになる。

自動車が走行する上で必要となる道路は、自動運転においては別の機能も求められる。ハードとしての交通インフラだけでなく、V2I技術をはじめとした基盤として、ソフトとしての交通インフラも求められるのだ。

今後、自動運転の実証が盛んになるにつれV2Iで必要となるインフラの設置も順次進んでいくものと思われる。その過程で、汎用性や冗長性などを持った有効なシステムが徐々に標準化され、各地への導入が進んでいく可能性もありそうだ。

自動運転とともに進化する道路。今後の議論を引き続き注視していきたい。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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