感謝!テスラのロボタクシー、「救急車」に道を譲る

Waymoも四苦八苦する緊急車両対応



出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

EV大手テスラのロボタクシーがサービスを開始してから半月ほどが経過した。SNS上には依然として賛否さまざまな声が寄せられているが、自動運転業界が注目すべき投稿もアップされている。

それは「緊急車両」への対応だ。後方から迫り来る救急車に対し、テスラのロボタクシーが減速・停車して対応した様子が収められた動画がアップされた。


自動運転においては、緊急車両への対応が課題の一つに挙げられており、それは米国勢も例外ではない。テスラのロボタクシーの事例に触れつつ、自動運転車が抱える課題に迫る。


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■テスラのロボタクシーの事例

オースティンでロボタクシー事業を開始

テスラは2025年6月22日、テキサス州オースティンの一部エリアでロボタクシーの運行を開始した。自動運転化したModel Yを導入し、助手席に安全を監視するオペレーターが同乗する形式でのサービスインだ。

顧客は、当面は招待制で、インフルエンサーや親テスラ派の住民が対象となっているようだ。運賃は距離にかかわらず一律4.20ドル(約610円)としている。

フリートは10台ほどで、運行状態を踏まえ今後拡大していくものと思われる。利用希望者の事前登録も受付中だ。いわゆるアーリーライダープログラムの段階で、本格商用化の一歩手前と言える。

▼特設サイトはこちら
https://www.tesla.com/robotaxi


今のところ乗員は親テスラ派が占める

テスラのロボタクシーは、サービス開始初日からXに続々と体験談が投稿され始めた。そのほぼすべてが称賛する内容だ。テスラが招待した親テスラ派ゆえか、あるいはテスラからピーアールの要望があったのかは定かではないが、乗車体験談はテスラを称賛する声であふれかえっている。

一方、第三者目線で外から見たロボタクシーの反応はさまざまで、本格サービス化に期待する声もあるが、逆走を含む車線誤認や速度超過、原因不明の急ブレーキなどを指摘する声も少なくない。

メディアは気分次第でテスラを持ち上げたりこき下ろしたりを繰り返しているが、今回はやはり逆走などのマイナス面を取り上げる記事が増えている印象だ。

【参考】テスラのロボタクシーについては「実は・・・。テスラの自動運転タクシー、先行組から「6年遅れ」の水準」も参照。

実は・・・。テスラの自動運転タクシー、先行組から「6年遅れ」の水準

救急車に反応してテスラ車が停車?

ここからが本題だ。情報面における信頼性が乏しい状況が続いているが、その中で注目すべき投稿がアップされた。「Robotaxi pulls over for an ambulance」=「ロボタクシーが救急車のため停車した」とする動画だ。

ロボタクシーの車内から外を映した19秒の短い動画で、ロボタクシーが第一車線を徐行して走行しているところから始まる。その左側車線をサイバートラック、さらにその左側を救急車が追い抜いていくシンプルな内容だ。

救急車が追い抜いたころにはロボタクシーは一度停車しており、後続車がいなくなったタイミングで第二車線に復帰している。おそらく、ロボタクシーはもともと第二車線を走行していたが、救急車の接近を検知したため第一車線に移って徐行・停車し、救急車に進路を譲ったものと思われる。

もしかしたら助手席のオペレーターや遠隔監視員が操作介入している可能性もあるが、少なからず助手席のオペレーターは介入していないものと思われる。なぜならば、乗員(投稿者)の目の前で介入していることが明らかにもかかわらずこのような投稿を行えば、後々の大炎上を覚悟しなければならないためだ。

疑ってかかるより、ここは素直にテスラの技術を信じよう。

同投稿には、自動運転開発を手掛ける日本のスタートアップTuring共同創業者でCHRO(最高人事責任者)を務める青木俊介氏も「救急車来たらちゃんと道譲れるテスラ自動運転。すごい」(https://x.com/aoshun7/status/1937174646341939404)と反応している。国内トップクラスのエンジニアが認める技術のようだ。

■自動運転と緊急車両

Waymoですら緊急車両対応に四苦八苦

Waymoなど開発先行組の自動運転車は市街地をすいすい走行しており、その精度はもはや人間のドライバーと比べても遜色のないレベルと言っても過言ではない。機械的ではなく人間のようなナチュラルな制御判断もどんどん取り入れられている印象だ。

そんなWaymoでも、緊急車両への対応は容易ではないようだ。つい数年前まで、救急車や消防車などの走行を妨害するような状況がたびたびメディアに取り上げられていた。

特に、GM傘下Cruise(現在は事業停止)とともにカリフォルニア州サンフランシスコに進出したばかりのころはこうした事案が顕著で、Cruiseに至っては、緊急走行中と思われる消防車と交差点で衝突する事故も起こしている。

2022年4月には、サンフランシスコ市内で緊急出動中の消防車が走行中、停車しているゴミ収集車をよけるため対向車線に入ったところ、対向側から走行してきたCruiseの自動運転タクシーがゴミ収集車の隣で停車したため、進路を塞がれる格好となった。

膠着状態がどのくらい続いたかは不明だがCruise車は停車したままで、最終的にゴミ収集車の運転手が戻り車両を移動したことで状況は解消されたという。

2023年4月には、サンフランシスコで2台の消防車が出動中、狭い道に差し掛かったところ、対向側から走行してきたWaymoの自動運転タクシーが消防車との距離3メートルを切るあたりまで近づいて停車したという。この件では、消防車がバックして迂回し、出動先までいくことになったという。

人間のドライバーであれば、道路の状況などを踏まえ柔軟に対処するところだが、多くの自動運転車はその域に達していないようだ。ある意味、蛇に睨まれた蛙のようにその場で硬直するかのような対応で、停車はするものの進路を確保するような柔軟な停車の仕方は難しいのかもしれない。

【参考】自動運転タクシーと緊急車両のトラブルについては「自動運転車は「119番」の敵!?米国で消防車出動の妨げに」も参照。

自動運転車は「119番」の敵!?米国で消防車出動の妨げに

緊急車両対応技術は向上中

もちろん、こうしたトラブルは減少傾向にあるものと思われる。ティアフォーの若手社員がサンフランシスコとロサンゼルスの自動運転車を調査した際の体験ブログ(2025年4月アップ)によると、Waymoの自動運転タクシーに乗車中、パトカーが通りかかった際、車内モニター上に緊急車両を示す表示が現れたという。

▼若手社員がサンフランシスコとロサンゼルスの自動運転車を体験|ティアフォー
https://tier4.jp/media/detail/?sys_id=3HWNFTacOnFVwTIpLL8UkO&category=BLOG

サイレンの音で認識したのか外観で認識したのかは不明としているが、一般車両とは異なる車両として認識していることが明かされている。なお、献血車両が通りかかった際もモニター上では緊急車両として認識されていたという。こうした点を踏まえると、外観上の何かしらの特徴をもとに判別している可能性がありそうだ。

また、CruiseとWaymoの自動運転タクシーの試乗動画シリーズをYouTube上にアップしているKevin Chen氏の投稿「AI Driver Enters Intersection with Flashing Ambulance」(2024年2月アップロード)も興味深い。

交差点に差し掛かったWaymoの自動運転タクシーが、赤信号から青信号に変わったため交差点に進入しようとしたところ、交差道路の右方向から緊急車両が走行してきたため、即座に停車した様子が映し出されている(7分24秒付近)。車内モニターでも、Waymo車がしっかりと緊急車両を認識している様子がわかる。

Waymoなどの自動運転車が、100%ではないにしろ緊急車両への対策を徐々に高めていることも間違いない事実だ。

■自動運転車が緊急車両に抱える課題

緊急車両の正確な把握は難しい

緊急車両への対応が難しい理由の一つは、緊急車両の進行方向だ。前後左右、どの方向から近づいてくるかを正確かつ早期に把握するのは難しい。音がする方角を分析すれば可能では?……と思われるが、建物などの障害物が乱立する中、目前の交差道路を走行して近づいてきているのか、一本先の交差道路を近づいてきているのか、並走する一本隣の道路を走行しているのかなど、正確に把握するのは相当な技術を要する。音のみで判断するのは非常に困難だ。

では、音と合わせて赤色灯などの警光灯で認識するのはどうか。人間のドライバーと同様のスタイルだ。サイレンが聞こえてきたら注意力を深め、警光灯を目印に緊急車両を目視できるよう努める手法だ。目視でき次第、状況に応じて対応する。

Waymoなどの自動運転車も、基本は音と目視に頼っている可能性が高い。自動運転タクシーを実用化する前の2017年時点で警察車両をはじめとした緊急車両を使用し、音のデータベース構築に向けた取り組みを行っていた。

音の認知が皆無だと、交差点で衝突する可能性が非常に高くなる。進行方向が青信号だからと減速せずに突っ込んでしまうためだ。音を認知した場合は、交差点に徐行で進入するなどの措置が求められるところだ。

それでも、最終的には実際に目視するまでは対応は困難だろう。緊急車両が後ろから迫ってきて、路肩にスペースがある場合などは容易に対応できるだろうが、狭い道でかつ路上駐車車両が多いようなエリアで出くわした場合、停車した場所によっては前述したトラブル案件のように緊急車両が通り抜けられないこともあるだろう。

緊急車両に道路交通ルールは当てはまらない?

また、状況によっては対向してきた緊急車両が自車側の車線を逆走する形で進行してくる可能性もある。一般的な交通ルールが通用しないケースが多々あるのだ。

さまざまな可能性を含め、緊急車両が走行可能なスペースまで計算したうえで自車両を正確に制御できるか?という点で、課題が残っているのは言うまでもないことだろう。

一度停車した後、その場所が微妙であっても再度動き始めることで周囲の車両に影響を及ぼす可能性もある。対応が難しいところだ。こうした状況を遠隔監視者がいち早く察知し、遠隔で迅速にトラブルに介入する体制は最低限必須なのかもしれない。

いずれにしろ、緊急車両に対しては事前予測とその場に応じた柔軟な対応が求められるため、自動運転車にとっては現状ハードルが高いシーンと言える。

日本ではV2Iなどの導入を検討?

日本でも、緊急車両への対応は課題の一つに数えられている。警察庁が所管する自動運転の拡大に向けた調査検討委員会が開発企業らを対象に実施したアンケート調査でも、緊急自動車などの接近の認知やとるべき挙動の判断は、複雑な認知が必要な場面として課題に挙げられている。

以下、主な意見を列挙する。

  • スペースを空けるためには他車両との連携が必要
  • 緊急車両に道を譲るために、自動運転車が通常時に守るべき道交法を破らざるを得ないケースがある
  • 譲るタイミングが早すぎて交通を乱すことも考えられ得る」「緊急車両が通れるスペースがない場合の対応(譲らずに走行し続ける方が良い場合もある)
  • 必ずしも左側(一方通行の場合は右側含む)での対応が促されない場合があり、あらかじめどちら側に退避すれば良いのか予測できない
  • 緊急車両の検知と識別が可能な距離、方向、範囲等に限界があり、対応が遅れる
  • 直進方向以外の方向から接近した際の対応が難しく、接近しているのか、離れていくのかを把握することが、技術的に困難
  • 緊急車両からのスピーカーによる音声指示の理解と対応
  • 緊急車両の想定外の動きに対し、自車の回避方法が全て想定可能か明確ではない

これらすべてに100%の解決策を導き出すのは正直困難だ。緊急車両に対し、自動運転車がとるべき対応を可能な限りルール化すること、緊急車両が発する音を規格化すること、また緊急車両情報をV2VV2Iによって取得し、早期把握することなどが求められるのかもしれない。

【参考】自動運転の拡大に向けた調査検討委員会の検討内容については「自動運転AI向けに、道交法の「曖昧な表現」を明確化へ」も参照。

自動運転AI向けに、道交法の「曖昧な表現」を明確化へ

音声認識技術が商機に

海外では、米Cerence(セレンス)のように音声認識技術によって緊急車両検知システムをソリューション化する動きも出ている。

同社が開発した「Cerence EVD」は、パトカーや救急車、消防車といった緊急車両が発する信号固有の音響構造を認識し、それぞれのサイレンを確実に検知できる。

BMWがレベル3車両に採用しており、サイレンを検知した際にオーディオの音量を下げたり手動運転を要請したりするほか、自車に緊急車両が近づいてきている際は自動運転の切り替えを遅らせるなどさまざまな対応が可能という。

こうした音声解析技術が進化すれば、緊急車両からの肉声による指示をしっかりと分別し、自動制御することなどが可能になるかもしれない。自動運転車には、「音」に対するさまざまな技術も求められるようだ。

■【まとめ】緊急車両対応は万国共通の問題

テスラのケースは、後方から接近する緊急車両の回避で、道路も比較的空いていたため、簡単なケースと言える。路上駐車が多い場所や交差点などでどのように対応するのか、異なるシチュエーションの状況も知りたいところだ。

官民協同路線を歩む日本は、規格の統一化やV2I導入などに期待が寄せられる。万国共通の問題と言える緊急車両への対応が今後どのように進展していくのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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