高速バス大手のWILLERはこのほど、鳥取県鳥取市内で2024年1~2月に行った自動運転実証の成果報告書を発表した。ティアフォーと連携した取り組みで、循環バスの自動運転化に向け総走行距離410キロに及ぶ公道実証を実施した。
その結果、手動介入は691回発生し、要因の半数近くが「路上駐車」だったという。かねてから、自動運転において路上駐車は天敵とも言える存在だ。
「自動運転VS.路上駐車」の問題を中心に、WLLERの報告書の中身を紹介していく。
▼鳥取市自動運転実証実験成果報告書
https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1711692227527/files/R5zidouunntennzigyou_seikahoukoku.pdf
記事の目次
■鳥取市における実証の概要
4.6キロのルートを8日間一般試乗運行
WILLERとティアフォーは2023年11月、自動運転分野における協業を開始した。前月に道路運送車両法におけるレベル4認可を取得したティアフォーの自動運転システムの技術・ノウハウを活用した動運転車両と、WILLERによるモビリティサービスの開発や遠隔監視含めたオペレーションシステムの開発、アプリ開発などの技術を掛け合わせ、新しいモビリティサービスの実用化を推進していく構えだ。
2023年度に国内3エリアで実証に着手し、2025年度に10エリアでの実用化目指す計画で、2023年度には国土交通省の補助事業の対象となった秋田県大館市(2023年11月)、新潟県佐渡市(2024年1月)、鳥取県鳥取市で順次実証を実施した。
鳥取市では2024年1月22日に準備運行を開始し、オペレーターのトレーニングや関係者試乗運行を経て2月16日から25日までの8日間に渡って一般試乗運行を行った。運行には、地元交通事業者の日ノ丸自動車(鳥取市)と日本交通(同)も協力した。
運行ルートは循環バス路線の一部4.6キロのルートで、原則自動運転で走行し、必要に応じてオペレーターが手動介入にする実質レベル2で運行した。レベル4運行に向け、遠隔監視で必要となる要素の抽出や、すれ違い回避支援、無信号横断歩道での歩行者認識支援、本線合流支援といったインフラ連携などを実施している。
車両は、レベル4相当の機能を備えるティアフォー製Minibusを使用した。定員25人(試乗枠16人)で、自動運転時は上限時速35キロで運行できるモデルだ。
■実証結果の評価・分析
自動運転率は目標上回る80%超
報告書によると、総走行距離410.3キロのうち80.2%にあたる329.1キロを自律走行でき、目標値70%をクリアした。
積雪後に除雪された雪が路肩や運行ルート周辺に捌かれた際や、交通量が一定程度あるものの信号のない交差点、右折予定の交差点の先の信号が黄色点滅のため対向車が途切れず右折が難しかった場面、横断しない自転車や歩行者を検知して発進できなかった場面、路上駐車などで自律走行が難しかったとしている。
手動介入要因の47%が「路上駐車」
手動介入回数は計691回で、要因別では路上駐車回避323件(47%)、他車両などの影響253件(37%)、道路環境84件(12%)で全体の96%を占め、以下、自動運転システムの誤作動4件、自車位置特定の不具合4件、センサーの不具合2件、その他21件の状況だ。
路上駐車が全体の約半数に迫る結果となった。他所の実証でも概ね同様の結果が出ており、路上駐車は自動運転における天敵と言えそうだ。
報告書によると、自動運転システムにおいて路上駐車を避ける技術も開発されているものの、今回のルート上では交差点同士の距離が近く、また交通量が多いため対向車のタイミングを計ることが難しかったとしている。
道路形状に起因する問題も
道路形状関連では、交差点が直線になっておらず、右折待ちの対向車が自動運転車両の正面で停止するような形状となっている個所があり、障害物検知によって発進できないケースがあった。
また、信号直前の道路がカーブしており、信号を認識しづらい角度に停止線が引かれている箇所でも手動介入が多く発生した。バスターミナル内では、さまざまな方向から路線バスや高速バスが乗り入れるため予測が困難だったという。
路上駐車に対する規制が必要?
路上駐車への対応策としては、乗降場所に他のバスや一般車両が停車している際に手動走行となったため、自動運転専用の乗降場所の確保や、路上駐車に対する規制などの対応が必要としている。
信号交差点に対しては、同実証ではカメラで信号灯色を識別していたが、道路構造的に認識しづらい個所や信号の変わり目に急減速が発生するケースが見受けられたため、信号連携の検討が必要とした。
また、対向車を正面に捉えてしまう交差点では、信号灯色の変更などで調整するなどの対策にも言及したほか、ルート周辺で常時黄色点滅している信号についても同様の調整などが必要としている。
積雪に関しては、降雪時でも自動運転できる可能性を確認できた一方、除雪の影響で一部自律走行が難しくなったため、走行ルートの除雪優先度の検討や除雪方法の調整、雪の置き場などについて事前調整が必要としている。
バスターミナル内においては、自動運転バス専用のレーンやバス停の設置を検討する必要があるとしている。
このほか、通学時間帯の運行や道路工事の影響、充電器設置場所などに関する対策にも言及している。
深夜帯の運行や変動運賃制の導入など新たな収入源確保を
経営面では、レベル4サービスが実装されるまでは実証事業と車両購入によって事業予算が高額となり、補助事業や運賃収入などでは収支が立たないことから、国庫補助の活用が必要としている。サービス実装後は、深夜帯の運行や変動運賃制の導入など、新たな収入源を見込むことで採算性が出てくる見込みとしている。
2023年度は、労務費などの初期費用と車両リース費などのランニング費用がそれぞれ約4,000万円の計8,000万円が支出され、全額国庫補助金で賄われている。
アンケート結果では、運行ルートで毎週移動すると回答した人が約4割いる一方、100円循環バスが自動運転化された際に毎週利用すると回答した人は約2割にとどまった。支払い可能な運賃については、100円44.4%、200円39.2%、300円11.9%となっている。
希望するサービス形態としては、従来通りの定時定路線65.4%、オンデマンド32.4%となっている。
予約アプリに関しては、あらかじめアプリをダウンロードしたデモ用スマートフォンを試乗車に貸し出したところ、約7割から高評価を得た一方、高齢者などからは使いづらいという回答も見受けられた。電話や現地での予約方法など、負数の選択肢を設ける必要があるとしている。
再利用意向は90%
社会受容性関連では、一般試乗者の定員642人のところ予約時点でほぼ満席で、実乗員数は596人に上った。関係者を含めると701人だ。
また、試乗中の車内で自動運転の理解親等のための技術情報や運転士不足など自動運転導入の背景について周知を行ったところ、アンケートによる理解浸透度は86.3%に上り、再利用意向も90.1%となった。
再利用を希望する理由としては、「移動が楽になりそう」が最も多く、「サービスに目新しさがある」「運賃が安価になりそう」が続いた。一方、再利用を希望しない理由としては「異常時の現場対応に不安がある」が最多で、「安全性に不安がある」「利便性が低そう」と続いた。
実際の試乗においては、利用者の7割近くが危険を感じなかったと回答した一方、3割強が危険を感じており、「緊急停止時」「停止時」「右左折時」が上位回答となっている。
2024年度は信号連携や路上駐車の自動回避導入を検討
来年度に向けては、今回の実証を踏まえレベル4早期実装に向けた検討を進めることとしている。経営面では、持続可能なサービス提供に向け運賃収入以外の収入源確保や効率的な運航について検討を進めていく。
技術面では、実証ルートにおける自動運転率向上に向け、信号連携や路上駐車の自動回避導入を検討する。運行便数の増幅や深夜時間帯の運行に向け、薄暮時など夕方における実証を検討する。
■自動運転 VS. 路上駐車
他所の実証でも路上駐車対策がカギに
路上駐車対策は、過去の自動運転実証においても必ずと言ってよいほど課題に挙げられている。
道の駅などを拠点とした自動運転サービス実証の結果をまとめた「一般道路における自動運転サービスの社会実装に向けた研究」(国土交通省国土技術政策総合研究所/2021年)では、手動介入計1,046回の発生要因として、多い順に路上駐車183回(17%)、GPSなどの自車位置特定不具合121回(12%)、対向車とのすれ違い75回(7%)、自転車・歩行者68回(7%)、除雪した路側の雪55回(5%)となっている。
【参考】国土技術政策総合研究所の発表については「自動運転、「路上駐車」が最大の障害!手動介入の要因で首位」も参照。
また、栃木県茂木町で2021年に行われた自動運転実証においても、路上駐車の車両回避のための手動介入が多かったことが挙げられている。
【参考】栃木県茂木町の実証結果については「手動介入147回、路上駐車がネックに 栃木県茂木町の自動運転実証」も参照。
2020年にSBドライブ(現BOLDLY)が東京都内で行った実証では、実際に路上駐車中の乗用車に接触する事案も起きている。バス停に停車するため車両を左端へ寄せていく際、その手前に停車されていた乗用車の側面に接触したという。
【参考】路上駐車車両への接触事案については「ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故 手動走行へ切り替え後に」も参照。
路上駐車規制は必須
「自動運転車は路上駐車も避けられないのか」と言われそうだが、反論の余地はある。なぜならば、路上駐車はイレギュラーな存在だからだ。
路肩が広く、走行レーンを逸脱することなく回避できるのであればそれほど問題ないが、隣接レーンや対向車線にはみ出さなければ回避できないケースは多々ある。
後続車や対向車の状況を把握しつつ、駐車車両と適正な間隔を保ちながら通過しなければならない。手動運転においても、後続車などと進路を譲り合いながら通過する場所も珍しくない。
駐車車両が連なっているケースもあるほか、車両によって歩道が死角となり、危険性は増す。車両のドアが急に開き人が出てくる可能性もある。路上駐車は危険の塊と言える。
ティアフォーも2023年度の実証の総括において、複雑な公道などでは路上駐車車両の回避に対応できないシーンも多く、自動運転の割合を下げる要因となったことに言及している。
路上駐車対策においては、画一的に設計したシステムでは対応しきれないことも多い。システムの向上は必然だが、走行ルートにおける規制などの対策もより重要視しなければならないだろう。
■【まとめ】共通ルール・共通認識情勢に向けた取り組みも重要に
自動運転システムの性能が向上するに越したことはないが、自動運転車が広く市民権を得るためには、路上駐車規制などをしっかりと受け入れる社会づくりが欠かせない。自動運転技術の向上とサービス実装を促進するためには、歩行者を含む他の交通参加者の理解と協力が欠かせないのだ。
自動運転実証と実装は2024年度以降大きく加速していくことは間違いない。技術面だけでなく、こうした共通ルール・共通認識を構築・醸成していく取り組みも意義を増しそうだ。
【参考】関連記事としては「国産自動運転バス、「国内最長」36kmを運行!WILLERとティアフォーが実証」も参照。