ANA、東京・大阪圏で空飛ぶタクシー展開へ 全国で数百機展開も

相棒はアメリカ企業のJoby Aviation



出典:総務省公開資料

ANAホールディングス(以下ANA)が、パートナーシップを結ぶ米Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)とともに空飛ぶクルマを活用した「空飛ぶタクシーサービス」を東京圏と大阪圏で展開する計画を進めていることが明らかとなった。将来的には全国で数百機規模まで拡大する可能性があるという。

2025年開催予定の大阪・関西万博を起点に、新たなエアモビリティサービスの実装を戦略的に進めていく構えのようだ。


Joby Aviationの概要とともに、ANAが描く空飛ぶクルマ事業の展望に迫る。

■Joby Aviationの概要
NASAやトヨタ、Uberともパートナーシップを構築
出典:Joby Aviation公式サイト

Joby Aviationの創業は2009年にさかのぼる。7人のエンジニアが米カリフォルニア州サンタクルーズの作業場に集まり、電気モーターや飛行ソフトウェア、リチウムイオン電池などのテクノロジーの最前線を模索し、ほぼすべてのコンポーネントをゼロから設計し始めたという。

2012年に米航空宇宙局(NASA)とパートナーシップを交わし、eVTOL開発に向けたプロジェクトに参画する。2017年に実証機が完成し、飛行に成功した。

2019年には、プロトタイプによる厳格な飛行試験プログラムを開始したほか、トヨタとの協業を発表した。自動車の開発・生産・アフターサービスで培った強みをeVTOLの開発・生産に生かし、将来的な空のモビリティ事業への参入を検討していくという。


2020年1月に発表された資金調達Cラウンドはトヨタがリードインベスターを務め、トヨタからの3億9,400万ドル(約450億円:当時のレート)を含む総額5億9,000万ドル(約680億円:同)を調達した。同ラウンドにはUber Technologiesなども参加した。

なお、Toyota AI Ventures(現Toyota Ventures)や未来創生ファンドは2018年のBラウンドにも参加している。

2020年12月には、UberのeVTOL開発部門Uber Elevateを買収し、パートナーシップを拡大すると発表した。Jobyのもとにエンジニアが集結して開発力を強化するほか、UberがJobyに7,500万ドル(約86億円:当時のレート)を追加出資する。地上と空の移動をシームレスに統合するため、Uberのアプリ活用に向けた検討なども進めている。

2021年8月には、ニューヨーク証券取引所にSPAC上場した。2023年12月29日時点の株価は7ドルで、時価総額42億3,168万ドル(約5,950億円)となっている。また同年、2番目のプロトタイプが連邦航空局(FAA)の量産適合検査を完了している。


デルタ航空とニューヨークで2025年にも商用運航を開始

2022年には、米航空会社大手のデルタ航空とパートナーシップを交わし、空港と都市を結ぶシームレスな輸送サービス実現に向け協業していくことを発表している。

2023年には、カリフォルニア州マリーナに構える製造工場で量産を開始したほか、オハイオ州デイトンに大規模生産拠点を建設する計画を発表した。年間最大500機の航空機を生産可能という。

機体の納入も開始したようだ。最初の顧客は米国防総省で、米空軍基地内で試験運用する予定という。

ニューヨークでのデモンストレーション飛行も実施・成功した。計画通り進めば、デルタ航空などの協力のもと2025年に同市でサービスインするという。

試験飛行はすでに3万マイル(約4万8,000キロ)を超えている。商用運行に向けた認証を得るためFAAと複数年にわたる試験プログラムに取り組んでおり、詳細は不明だが5段階のうち最初の2段階を完了したという。

【参考】Joby Aviationについては「Joby Aviationとは?「空飛ぶクルマ」で世界をリード」も参照。

■ANA×Joby Aviationの取り組み
万博皮切りに東京・大阪圏での商用運航を想定

冒頭で紹介した「空飛ぶタクシーサービスを東京圏と大阪圏で展開し、将来的には全国で数百機規模まで拡大する」という計画は、総務省のデジタルビジネス拡大に向けた電波政策懇談会における資料から判明したものだ。

▼ドローン、空⾶ぶクルマ分野における電波の利⽤と課題|第三回デジタルビジネス拡⼤に向けた電波政策懇談会|ANAホールディングス未来創造室モビリティ事業創造部
https://www.soumu.go.jp/main_content/000919451.pdf

出典:総務省公開資料

ANAは2016年度から新たな空の事業として「エアモビリティ」「ドローン」に関する取り組みを進めており、現在はモビリティ事業創造部でMaaSやエアタクシー、ドローンに関する企画を推進している。

エアタクシーについては、パートナーのJobyとともに東京圏と大阪圏を対象にサービス提供を目指す計画で、マルチモーダルな移動を実現し、将来的に全国で数百機規模に拡大する可能性にも言及している。

Jobyが開発・生産を進めるモデル「Joby S-4」は、最大航行距離240キロ超、最高時速約320キロで、パイロット1人を含む5人乗りの仕様となっている。エアタクシー向けの機体と言えそうだ。

余談だが、ANAによると、空飛ぶクルマは「クルマ」ではなく「電動の航空機」で、大きく「翼がある飛行機」タイプと「翼のない回転翼航空機」の2種類に分けることができるという。

前者のうち、垂直離着陸機能を有さないものがジャンボジェットに代表されるイメージ通りの飛行機で、垂直離着陸機能を持つものが空飛ぶクルマに含まれる。機体の形態によりベクタード・スラストとリフト・クルーズに分けられ、Jobyのモデルはベクタード・スラストにあたる。

出典:総務省公開資料

【参考】空飛ぶクルマの形態については「空飛ぶクルマは「クルマじゃない」!?万博前に呼称変更か」も参照。

2022年にANAとJoby Aviationがパートナーシップ締結

日本においてJobyの相棒を務めるANAだが、両社の協業は2022年2月に始まる。この月、eVTOLを活用した日本における新たなエアモビリティ事業の共同検討に関する覚書を締結したと発表したのだ。

▼ANAホールディングスとJoby Aviationがパートナーシップを発表~電動エアモビリティによる旅客輸送サービス実現に向けた検討を開始~
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20220215-2.pdf

国内大都市圏を中心とした移動サービスの実現に向け、事業性調査や旅客輸送サービス実現に向けた運航・パイロット訓練、航空交通管理、離着陸ポートなどの地上インフラ整備、関係各社および国・自治体と新たな制度・法規への対応など、さまざまな面で共同検討を進めていく。また、地上交通との連携面でトヨタも参加する。

ANAは短期目標として、大阪・関西万博での空飛ぶクルマによる旅客輸送サービスの提供を掲げている。万博で社会受容性を高め、その後需要が見込まれるエリアへの拡大を検討していく方針だ。

第5回空の移動革命に向けた官民協議会(2020年3月)でANAが発表した資料によると、航空交通システムとしての安全性をはじめ、天候に左右されにくい運航率や定時性、利便性の高い場所での離着陸、トータルの移動時間の最小化、競争力ある価格といった要件を踏まえ、機体認証やeVTOLパイロットの技能証明、航空交通管理、離着陸場、無操縦者飛行などについて検討していく必要があるとしている。

万博では、関西国際空港や神戸空港、大阪中心部から会場となる夢州を結ぶ航路を計画している。富裕層や緊急輸送などを想定し、ヘリチャーターからハイヤーの間の価格帯で特定ルートを特定時刻に運航する定期便型サービスを計画しているようだ。

万博に関しては、正式に空飛ぶクルマ運航事業者に選定されたことを2023年2月に発表している。Jobyが開発した「Joby S-4」を、海外機として初めて日本の型式認証申請を実施していることも明らかにしている。

Jobyによると、連邦航空局から取得した型式認証をベースに国土交通省航空局航空局(JCAB)に申請したという。

東京都の事業を採択、陸海空のMaaS実現へ

2023年10月には、東京都の「東京ベイeSGプロジェクト 令和5年度先行プロジェクト」に、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ用浮体式ポート・陸海空のマルチモーダルMaaS)の提案が採択されたと発表した。

ANAと野村不動産、清水建設、朝日航洋ら7社による提案で、多拠点化が可能な空飛ぶクルマ用の浮体式ポートの構築・検証を行うほか、自動運転車や自律航行船なども含めた多様な次世代モビリティの社会実装を念頭に陸・海・空でのMaaS実現に向けたシステムの構築や運行実証を行う。Jobyはアドバイザーとして参加する。

2023年12月には、ANAとJoby、野村不動産の3社が、国内都市部を中心とするeVTOLの運航サービス実現に向け離着陸場開発の共同検討に関する覚書を締結したと発表した。

都市部を中心に利便性の高いバーティポート開発に向けた事業的・技術的検討や、社会受容性を得るための取組み、戦略的パートナーシップ構築に向けた検討を共同で進めていくとしている。

【参考】野村不動産との協業については「ANA、空飛ぶクルマの離発着場を開発か 米Jobyと覚書締結」も参照。

■【まとめ】万博や都事業をベースに商用化へ道筋

大阪圏では、万博を契機に社会実装の道筋を作り、そのまま商用化へとブラッシュアップを図っていくイメージだろう。

一方、東京都も大阪府に負けじと空飛ぶクルマ社会実装を目指すプロジェクトを推進しており、2023年度の事業においてANA勢が採択された。これを足掛かりに東京圏での商用化を図っていくものと思われる。

初期段階においては機体そのものの性能や安全性にまず注目が集まるところだが、バーティポートをどこにどのように設置していくかも重要だ。需要を満たす立地と陸のモビリティなどとの連携度合いによって利便性が大きく左右されるためだ。

まだまだ検討事項が多く残されている次世代エアモビリティだが、目下に迫る万博に向け2024年中に目に見える前進を遂げるものと思われる。今後の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは? 開発・実用化状況まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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