トヨタ、テスラ式「アップグレードで自動運転化」の方針か

新たに登場した「アップグレードレディ設計」



出典:トヨタ・プレスリリース

トヨタが自家用車のアップグレードサービスに力を入れ始めた。購入後も順次ハードウェアやソフトウェアをアップグレード可能にすることで、愛車を常に最新の状態に保つことができるようになる。

クルマにおいてソフトウェア更新でアップデートを図ることができる対象は徐々に拡大しており、ADAS(先進運転支援システム)をはじめとした制御領域も例外ではなくなった。


トヨタも近い将来、米EV(電気自動車)大手テスラのようにOTAアップグレードによってADASの高度化、ひいては自動運転化を目指していくのか。

トヨタの取り組みをベースに、自動車の進化の在り方に触れていこう。

【参考】関連記事としては「トヨタと自動運転(2023年最新版)」も参照。

■トヨタの最新の取り組み
新たに登場した「アップグレードレディ設計」

トヨタが今回新たに導入するのは、「アップグレードレディ設計」対象車に高度運転支援技術「トヨタチームメイト」の機能などを後付け可能とするサービスだ。


アップグレードレディ設計は、車両の開発段階から後々のアップグレードに必要な施工作業を想定し、大幅に時間短縮できる構造をあらかじめ織り込んで設計したもの。

配線の調整やセンサーの取り付けなど、アップグレードに必要な施工作業の大部分をクルマの初期設計時にあらかじめ織り込んでおくことで、アップデート作業を簡素化することを可能にしている。つまり、将来登場する装備や機能を前提にあらかじめ設計されているため、後付け作業を容易に行うことができるのだ。

対象車両は、2023年6月時点で「プリウス Uグレード」のみとなっている。同車種は、トヨタが2022年12月に立ち上げた新サブスクリプションサービス「KINTO Unlimited」用のグレードだ。

ADAS「トヨタチームメイト」の機能「アドバンストパーク(リモート機能付)」を新たにアップグレードメニューに設定したほか、契約時に未選択だったブラインドスポットモニターやパノラミックビューモニター、パーキングサポートブレーキ(後方歩行者検知)、ステアリングヒーターなど7種類のアイテム・サービスについても個別に後付けすることを可能としている。


出典:トヨタ・プレスリリース
KINTO Unlimitedとは?

KINTO Unlimitedは、既存サービスKINTOをベースに、「進化=アップグレード」と「見守り=コネクテッド」の2つの付加価値を提供していくサービスだ。

OTA(Over The Air)アップデートを通じたソフトウェア更新により、衝突被害軽減ブレーキをはじめとした「Toyota Safety Sense」を随時最新の状態に進化させていくことが可能なほか、オーナーのニーズに応じてハードウェアの装備や機能の後付けも可能にしている。

コネクテッド関連では、オーナーが運転する際のデータを「T-Connect」を通じて収集・分析することで、オーナーとクルマ双方の「見守り」を実現する。オーナーに対しては専用アプリを通じたアドバイス、クルマに対しては、運転データをもとにエンジンオイルの状態を把握する独自技術などに基づき、オイル交換の適切なタイミングを提案する機能などを備えている。

■トヨタのこれまでの取り組み
KINTO FACTORYでオーナーカーのアップグレードを可能に

トヨタにおけるアップグレードサービスは、これが初めてではない。2022年にサービスインした「KINTO FACTORY」は、KINTOのサブスク車のみならず一般のオーナーカーも対象にアップグレードやパーソナライズサービスを展開している。

アップグレードサービスでは、運転支援システムなどのソフトウェアを最新にアップグレードすることが可能だ。対象車種や対象サービスなどはまだ限定的だが、今後拡大していくことは間違いない。LiDARをはじめとしたセンサー類の新設や交換、高度ADASへの対応などにも期待したいところだ。

【参考】KINTO FACTORYについては「トヨタのKINTO FACTORYとは?マイカーが進化」も参照。

販売店対応のADASアップグレードはすでに実施

KINTO FACTORYなどとは別に、ソフトウェア更新サービスはすでに実施されている。トヨタは2020年9月、既販売車両の「Toyota Safety Sense」に搭載されたプリクラッシュセーフティの機能をアップグレードすると発表した。

プリクラッシュセーフティにおける検知対象を、車両のみから昼間の歩行者検知も可能にするソフトウェアアップグレードだ。OTAではなく全国のトヨタ販売店での対応となっているが、コネクテッド機能をはじめとした通信機能を持たないクルマに対しては、こうした対応が必須となる。

なお、トヨタは2018年発売の新型クラウンと新型カローラスポーツから、コネクテッド機能の標準搭載化を推し進めている。将来的にはほぼすべてのクルマが通信機能を備え、OTAアップデートに対応していくものと思われる。

【参考】コネクテッド化に関するトヨタの取り組みについては「LINEから操作可能に!? トヨタカローラがコネクテッドカーに変貌」も参照。

■自動車の進化とOTAアップデート
クルマもソフトウェアファーストの時代に

近年のクルマは電子制御化・コンピュータ化が著しく進展しており、クルマの進化におけるソフトウェアの比率も大きく高まっている。パソコンやスマートフォン同様、ハードウェアの更新よりもこまめなソフトウェア更新によって最新の状態を保つ――といったイメージだ。

特に、ADASや自動運転機能はソフトウェアや特定のハードウェアへの依存度が著しく高い。ハードウェア面では、カメラやLiDARをはじめとしたセンサー類と通信設備に大きく依存し、ソフトウェア面では物体認識システムやそれに基づく制御システムなどに依存する。これらの総体が自動運転システムだ。

センサー類も日進月歩の進化を遂げ続けているが、一定スペック以上のものを備えていれば数年間はシステムの高度化に対応できる。一方、同様に進化し続けるソフトウェア面は、現在搭載されているハードウェア類に対応している限りOTAで随時更新するだけでクルマの性能を上げることができる。

つまり、ADASや自動運転機能はOTAによって比較的手軽にクルマの性能を高度化しやすいのだ。

OTAアップデートに早期注目していたテスラ

こうした特性に早くから注目しているのが米テスラだ。同社は、将来の自動運転にも対応した高性能カメラ主体のセンサー類をあらかじめ車両に搭載することで、ソフトウェアアップデートを通して継続的に安全機能を向上させられるよう設計している。

ADAS機能をOTAアップデートで徐々に進化させ、将来的に自動運転機能をユーザーに提供する戦略だ。それゆえ、アダプテッドクルーズコントロールなどの運転補助機能しか備えていないADASに「Autopilot=自動操縦」や「FSD(Full Self-Driving)=完全自動運転」といった名称を用いているのだ。

この名称をめぐる是非については別問題となるため当記事では触れないが、早期にOTAによるソフトウェアアップグレードに注目し、ビジネス化したテスラの戦略は先駆的と言える。

【参考】テスラの取り組みについては「テスラ、「FSD β版」を世界展開へ!自動運転機能は未実装」も参照。

アップデート対象は拡大傾向

OTAによるソフトウェアアップデートは、すでに独フォルクスワーゲンやBMW、日産ホンダなど各社が実施している。多くの場合、インフォテインメントシステム関連の更新など車両制御に直接関わらないソフトウェアを対象としているが、対象は徐々に拡大しており、制御システムのちょっとした不具合などもOTAで解消するケースなどもうかがえる。

ADASの高度化も然りだ。トヨタの「Teammate Advanced Drive」搭載モデルはソフトウェアアップデートによる機能追加などに対応済みで、これまでに「緊急ブレーキが作動する場面の拡大」や「高速走行時の車線維持支援の滑らかさ向上」、「合流地点を低速走行する際、運転者に周囲の車両への注意をうながす場面の拡大」、「車線変更支援を使用できる場面の拡大」などを図っている。

こうしたOTAによるADASの進化は、今後スタンダードなサービスへと変わっていくことは間違いない。センサー類などのハードウェアが機能要件を満たせば、自動運転レベル3への進化も可能となる時代がやってくるはずだ。

トヨタも、こうしたソフトウェアアップグレード時代を見据えた上でコネクテッドサービスの標準化を開始したはずだ。新たなプラットフォームを採用したこれからのトヨタ車は、ソフトウェアの更新によって常時最新の状態を保ち、そしてADAS・自動運転機能を充実させていくことにいなるのだろう。

■【まとめ】OTAアップデートによる進化は続く

トヨタがテスラ化……と言うと一部から反発を買いそうだが、ソフトウェアップグレードを重ねてADASを高度化していくテスラの手法は今後スタンダード化していくことはまず間違いない。ソフトウェアファーストの時代において、クルマを進化させるアプローチとしてOTAアップデートは一般化していくのだ。

テスラのように「完全自動運転」達成をうたうことはないにしろ、トヨタはOTAアップデートによるクルマの進化をどこまで見通しているのか。今後の取り組みに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「トヨタ、コンビニ事業参入か 自動運転シャトル活用を示唆」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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