ドイツのバイエルン州ミュンヘンを拠点とする自動車メーカーのBMW。日本でもなじみが深く、コアなファンが大勢いる外国車メーカーだ。航空機エンジンのメーカーとして創業した歴史は、プロペラをデザインしたエンブレムに今も色濃く残されている。
自動車本来の運転する楽しさを追求したクルマづくりが魅力のBMWは、これからの自動運転時代をどのように見据え、どのように切り開いていくのか。その戦略と技術を追いかけてみた。
記事の目次
■BMWの戦略
高度自動運転の開発分野で米インテル社、イスラエルのモービルアイ社をはじめ、独コンチネンタル社、米デルファイなどと強力な連合を形成するBMW。2018年にはドイツ国内のミュンヘンの郊外に自動運転車の実現に向け新たな研究センターを開所し、開発を一層促進している。
BMWは電気自動車と自動運転の拡大に主眼を置いており、4つのACESトピック(Autonomous:自律的、Connected:接続性、Electrified:電動化、Services:奉仕 / Shared:共有)に関する革新的な研究開発を続けている。
創立100周年を迎えた2016年に発表したコンセプトカー「VISION NEXT 100」は、完全な自動運転を支援する「Ease(イーズ)」モードと、運転手がドライビングを楽しめる「BOOST(ブースト)」モードを搭載。コンパニオンは、他のクルマや交通システムと自動的に通信することで、ドライバーが目視する前に潜んでいる危険を察知して知らせてくれる。ブーストモードでは、ヘッドアップ・ディスプレイに理想の走行ラインをはじめアクセルやブレーキ、ハンドルを切る絶妙なタイミングが映し出されるという。
2021年に自動運転技術を実用化し、その技術を搭載した初のモデル「BMW iNext」を発表することを目標としており、2018年9月に、それを示唆するかのようなEVコンセプトカー「Vision iNEXT」を発表した。VISION NEXT 100同様ブーストモードとイーズモードを備えているほか、より洗練した技術とデザインを有し、次世代カーへの期待と実現性を高めている印象だ。
BMWの次世代自動運転車「iNEXT」、レベル3.5搭載EVのスペックは? https://t.co/XtkwdcqxxA @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 24, 2018
■BMWの自動運転技術
BMWが開発するADAS(先進運転支援システム)「BMW Personal CoPilot」は、「安心して運転できる」「ぶつからないためのサポート」「いかなる状況でも駐車が楽々」「常に守る」の4つを柱に据えている。一般的なADAS機能はすでに開発済みで、最新システムの実装をどんどん進めている状況だ。
安心して運転できる機能
必要な情報をフロント・ウィンドウに投影する「ヘッドアップ・ディスプレイ」、車速が時速70キロメートルを超えるとハイビームヘッドライトに加えレーザーライトが自動的に点灯し、視認性を高める「レーザー・ライト」、夜間運転中に人や大型動物が路上にいた場合に警告を発し、赤外線カメラで対象物の姿をコントロール・ディスプレイに映し出す「ナイト・ビジョン」などがある。
また、スリップやスライドなどの兆候を察知すると、挙動が乱れる前にエンジン出力や各車輪ごとのブレーキに即座に介入して走行安定性を確保する「ダイナミック・スタビリティ・コントロール」などもある。
ぶつからないためのサポート
衝突の恐れがある場合、システムが自動的にブレーキやステアリングによって衝突回避・被害軽減を図る「衝突回避・被害軽減ブレーキ (事故回避ステアリング付)」、車両周辺を3Dで表示し、駐車時や見通しの悪い路地での視認性を高める「3Dビュー・カメラ」、設定した手の動きを認識し、最小限の姿勢や視認移動でコントロールディスプレイを操作できる「ジェスチャー・コントロール」などがある。
そのほか、ステレオカメラが車線と前方車両を検知し、車線の中央付近を走行するようにステアリングを自動でアシストする「ステアリング&レーン・コントロール・アシスト」、ボディ側面の前後左右に装備された4つのセンサーが車両側面の交通状況を監視し、他の車両による側面衝突の危険性が高まった場合にステアリング操作に介入し、ドライバーの危険認知を助けると同時に衝突回避をサポートする「アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション」などが先進的だ。
いかなる状況でも駐車が楽々
車外からディスプレイ・キーを操作することにより、遠隔操作で駐車させることが可能な「リモート・コントロール・パーキング」、路上での縦列駐車をサポートする「パーキング・アシスト」、車両の前方や後方にある障害物までの距離を信号音とビジュアル表示で知らせ、狭いスペースでの駐車や車庫入れをサポートする「パーク・ディスタンス・コントロール」などがある。
常に守る
車両からエンジンやオイルなどのメンテナンス情報を自動的に正規ディーラーへ送信し、メンテナンスが円滑に進むよう手配したり、故障などのトラブル発生時にテレサービスコールで、BMWエマージェンシー・サービスに連絡することができる「テレサービス」、車両の衝突や横転、エアバッグが展開するような深刻な事故が発生した際に自動的にコールセンターに発信する「SOSコール」などがある。
また、急ブレーキや極端な挙動の変化など、衝突の危険をセンサーが検知した際、シートベルトの締め付けを強めてシート・ポジションを最適な位置に移動したり、サイドウィンドウやサンルーフが自動で閉まるなど、衝撃に備える「アクティブ・プロテクション」などもある。
さまざまなコネクテッドサービス
専用のアプリ「BMW Connected」を使うことで、ドアのロックや解錠、ベンチレーションの起動などのリモートサービスや、駐車したクルマの周囲をスマートフォンから遠隔で確認・操作することができる「リモート3Dビュー」、スマートフォンと連動したナビゲーション機能、サポートデスクが天候や飲食情報など多様なリクエストに応えてくれる機能など、さまざまなサービスが用意されている。
■自動運転技術を搭載した車種
新機能満載なフラッグシップモデル「7シリーズ」
ジェスチャーコントロールとレーザーライト、ナイトビジョン、リモートコントロールパーキングは、標準で搭載されているのは今のところ7シリーズのみ。同シリーズはほぼすべての機能を備えている。7シリーズは1093万円からとなっている。
代表的なモデル「5シリーズセダン」「5シリーズツーリング」も7シリーズに準じた装備搭載
5シリーズ系のみ衝突回避・被害軽減ブレーキ (事故回避ステアリング付)が標準搭載されている。また、3Dビュー・カメラ、ステアリング&レーン・コントロール・アシスト、アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション、後車追突警告機能などが搭載されているのは同シリーズと7シリーズのみだ。5シリーズセダンは646万円から、ツーリングは679万円からとなっている。
他の車種
前方の車両との車間距離を維持しながら自動で加減速を行い、低速走行時には車両停止までの制御を行う「アクティブ・クルーズ・コントロール」など、従来のADAS技術はほぼすべての車種に搭載されており、オプション含めマイナーチェンジなどで各車種とも機能の進化が図られているようだ。
■BMWの自動運転関連の最近の動き
Parkmobile LLCを買収
BMWは2018年1月、モバイル・パーキング・サービスの提供で北米最大の企業であるParkmobile(パークモバイル) LLCを買収したことを発表した。
パークモバイルは、駐車スペースを簡単に見つけられるようにサポートし、モバイル機器からの支払いを可能にするテクノロジーサービス企業。BMWは2016年4月までにヨーロッパのパークモバイルグループも100%所有しており、今回の買収によって、ヨーロッパと北米でパークモバイルの顧客は合計2200万人を超え、1000以上の都市でデジタル・パーキング・ソリューションを提供することになる。
BMWグループとダイムラーAGがモビリティ・サービスの統合に合意
2018年3月、BMWグループとダイムラーAGは、持続可能なアーバン・モビリティ・サービスの提供に向けて協力体制を構築していくことを発表するために、単一の供給者として協力することを発表した。具体的には、共同出資会社を折半で立ち上げ、カーシェアリングやライドシェアリング、パーキング、チャージング(充電)、マルチモダリティ(多様式)などの各分野における既存のオンデマンド・モビリティ・サービスを組み合わせ、戦略的に展開する予定としている。
同年9月には、世界各地で営業する予定の合弁企業の本社をベルリンに設置する予定であることを発表している。
2018年度の業績見通しを下方修正
BMWは2018年9月、業績見通しの修正を発表した。排ガスに関する新基準への移行が欧州のいくつかの市場において供給状況の大幅なひずみや予想外の激しい競争を招いていることや、国際的な貿易摩擦が市況の悪化と不透明性の増大を招いているとし、「わずかながら前年同期を上回る」と予測していた自動車部門において、「前年度より収益はやや減少する」と業績見通しを修正したほか、税引前グループ収益も、わずかながら前年度より減少する見込みとした。
なお、同年10月に発表された3四半期の累計販売台数によると、BMWブランドが156万6216台(前年同期比1.9%増)、MINIブランドが26万5935台(同2.0%減)、ロールス・ロイス・モーター・カーズが2659台(同13.5%増)の状況となっている。
■モビリティサービス分野へ積極進出、自動運転車は2021年に大きな動き
自動運転に関しては、インテルやモービルアイなど強力なパートナーとともに、2021年を目標に完全自動と手動運転を両立した技術の開発を進めている状況だ。ただ、特筆すべきは、ダイムラーとの協業やパークモバイルの買収が象徴しているモビリティ・サービスへの進出ではないだろうか。2018年夏には、ライドシェア事業の強化に関する話題も報じられている。
新たな時代を見据え、自動車メーカーが従来の製造業から脱却を図る動きは、BMWも例外ではないようだ。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 22, 2018