建機の自動運転化で「現場」の常識が変わる!(特集:マクニカのスマートモビリティへの挑戦 第10回)

ハード面とソフト面の両輪で支援、引き合いが10倍に

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インタビューに応じるマクニカの竹内崇道氏

少子高齢化が進む日本において、建設現場でのオペレーター不足は今後さらに深刻な課題となる。そんな中で建設機械の自動運転化はこうした課題を打破する有効な手段だ。

自動運転化などスマートモビリティ領域に注力するマクニカは、これまでに培ってきたノウハウや国内外の技術系企業とのネットワークなどを活用し、建設機械の自動化を強力にサポートしている。

今回は、マクニカのイノベーション戦略事業本部モビリティソリューション事業部の課長である竹内崇道氏にインタビューし、建設業界の現状や課題のほか、マクニカが建機の自動化に向けてどのようなサポートを提供可能なのか、紐解いていく。

記事の目次

■「今すぐにでも」というニーズが高い建機の自動運転化
Q 御社は自動車の自動運転化に特に注力している印象を受けますが、建設機械の自動化のサポートにも取り組み始め、そして現在サービスを拡大しています。その背景を教えて頂けますか?

弊社は基本的に、OEM(完成車メーカー)さんやティア1(1次サプライヤー)さん、MaaS関連の企業の支援に注力してきた歴史を持ちます。ただし、自動運転車の開発は進んでいるものの、車両が公道を走るようになる社会実装まではまだ時間がかかる状況です。

一方で、私は元々LiDAR(※「自動運転の目」と呼ばれるコアセンサー)を中心としたセンサー関連のセールスを担当していましたが、建設業界で自動運転のニーズが高いことに気付きました。自動車の自動運転化は中長期的な視点に立って各社が進めている一方、建機の自動運転化は今すぐにでも実現したいというニーズが非常に高かったのです。

建設投資額はここ10年ほど伸び続けていますが、一方で建設現場でのオペレーターの人手不足は深刻化しているという逆転現象が起きており、2025年には130万人の技能労働者の不足が見込まれています。こうした中で自動運転化などへの取り組みが必須となってきており、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に対する投資額は増加傾向にあります。

建設現場はクローズドな環境であることから、自動化を進めるにあたり法規関係のハードルが低いこともあり、建設業界が我々の自動運転の経験や知見を生かせる重要なフォーカスエリアだと気付きました。そして現在、建設機械の自動化の支援サービスを強化しています。

■建機の自動運転化が省人化や建機の活用効率アップにつながる
Q 建設機械の自動化におけるメリットや自動化に適しているのはどのような建機ですか?

例えば、トンネルの掘削工事で出た土を捨てに行って戻って来る、といった単純作業を担うダンプトラックは、自動化によるメリットを最大限享受できます。こうした作業は人が担っていましたが、特に広い敷地内でこうした作業を行うケースほど、自動化による省人化のメリットは大きくなります。

そのほか、トンネルや鉱山などの掘削工事の現場でダンプトラックを運転する際には、一般道などよりも少なからず多くの危険を伴いますが、ダンプトラックを自動運転化することで従業員が事故で負傷するリスクを回避することができます。これはダンプトラックだけではなく、ほかの建機にも言えることです。

また、特に建設機械は建機自体の価格が高いですから、自動化することで人では不可能な24時間のオペレーションが可能になり、建機の活用効率が飛躍的に向上します。これによって建機導入のイニシャルコストが早期に回収できることも、自動化のメリットであると言えるでしょう。

特に海外では鉱山が多く、ダンプトラックの自動運転化が進んでいます。一方で日本では、老朽化した橋やトンネルなどのインフラの再整備工事における建機の自動運転化のニーズが高く、多くのゼネコンさんが取り組んでいます。

現在マクニカは建機分野では国内の仕事がほとんどですが、将来的には弊社の海外の拠点や国内外のパートナーと連携し、新興国の都市開発の建設現場や、鉱山が多い国の現地のマイニング事業者にもビジネスを拡大していきたいと考えています。

■ソーシングができるキュレーターとしてのマクニカ
Q 自動車と建設機械ではハード面が異なり、走行する環境も異なることから異なるソフトウェアや技術が必要とされるかと思います。こうした違いに御社はどのように対応しているのでしょうか。

建機は、一般的な自動車やバス、トラックとは大きく異なります。車輪がついていない建機もあるほか、油圧式のアームなどがついている建機もあります。しかし、LiDARを中心としたセンサー関係のインテグレーションや、(マクニカが正規代理店である)NVIDIAの技術をベースにしたハイパワーコンピューティングシステムの導入など、ハード面では自動車の自動運転化の経験が大いにいかせます。

一方、ソフト面では自動車の場合はとは大きく異なり、同じ自動運転システムは使えません。そのため弊社は建機メーカーさんの要望を理解した上で、必要な技術を開拓するソーシング活動もしながら、海外のパートナーを巻き込んで自動化のシステムを構築しています。弊社は建機メーカーさんに対する自動運転技術のソーシングができるキュレーター的な存在だと自負しています。

また、エンドユーザーである大手建設会社様などの事業者側からは、既存の建機を改造して自動化させたいという声を多く頂きます。建設会社はすでに多くの建機を保有していますが、建機自体は非常に高額であり、自動化のためにその建機ごと買い換えるというのは経済性という点で現実的ではないからです。その際には、建機の足回りに自動運転化が可能なユニットを取り付け、自動化を実現しています。

つまり弊社は、新型建機の開発において建機メーカーさんには自動運転化のための最適なソリューションを提案・提供しつつ、建機を実際に扱う事業者さんに対しては、すでに所有している車両を自動化するユニットの開発・提供という面からアプローチしています。

■SafeAIとパートナーシップ「足りないピースが埋まった」
Q 前述の通り、御社の強みの1つとしては国内外のさまざまな技術系企業とのネットワークを有していることが挙げられますが、建機の自動運転化のためのソリューション提供に向けた新たなパートナーシップなどの最近の取り組みは?

弊社は2020年8月、米シリコンバレーが拠点のSafeAIとのパートナーシップ協定の締結を発表しました。SafeAIは、米建設機械大手のキャタピラーで自動運転技術を開発していたメンバーが設立した企業です。GoogleやAppleTeslaなどで自動運転を開発してきたエンジニアがいることも強みで、「建設機械の自動化」をコンセプトに、建機向けのソフトウェアや運転制御システムの一種である「ドライブバイワイヤ」のシステムを開発しています。

建機の自動運転化で必要になるのが、コンピューターが出力した電気信号を物理的運動に変換する「アクチュエータシステム」で、マクニカが建機の自動化を進める上で足りていなかったピースでした。SafeAIはこのアクチュエータシステムも開発しており、弊社に足りなかったピースを埋めてくれました。

出典:マクニカプレスリリース

SafeAIと提携することで、マクニカは建機に対するトータルソリューションを構築できました。マクニカ側はLiDARやカメラなどのセンサーやECU(電子制御ユニット)を、SafeAI側は運転制御などに関する建機自動化ソフトウェアを担うというスキームです。

これまでは個別のソリューションを提案することはあったものの、コンサル的に建機の自動化についてのトータルソリューションを提案することは多くありませんでした。しかし、SafeAIとの協業開始を発表したところ、この半年で建機メーカーさんやゼネコンさんからのこうした引き合いが約10倍になりました。今後も増えていくと期待しています。

■様々な顧客の共創・伴走型パートナー的な存在に
Q 最後に、建機の自動運転化における将来展望や期待していること、今後どういった立ち位置で事業を展開していきたいか、教えて下さい。

今後も建機自動化のPoC(概念実証)は増え、建設現場での無人化・省人化をPoC的に推進していく場所がスマートシティの建設現場というケースも多くなっていくと考えられます。そういった場所こそ建設の際のDXが求められる気がします。スーパーゼネコンさんも先行投資されていますし、「最先端の都市をつくる際にはつくり方も先端にする」という流れになると期待しています。

また弊社は、さまざまな顧客の共創・伴走型パートナー的な存在になっていくことを理念として掲げています。自動車や建機だけでなく、電車や船などの特殊車両でも自動運転のニーズはあり、足回りが違うだけで十分対応していけると自負しています。

自動車以外の分野においてはマクニカの存在意義をより出しやすいため、大きなチャンスです。そして弊社は国内国外問わず、自動運転に関するセンシングデバイスやクラウドコンピューティング、AIソリューションなどを「売る」ビジネスに加え、コンサルティングのビジネスに力を入れていきたいと考えています。

例えば大規模な建設プロジェクトにおいては、トータルソリューションの提供を通じて建設プロジェクトの総コストの削減に寄与し、その減ったコストに対して対価を頂くといった「真のコンサルティング型」「協創型」のビジネスへと昇華させていきたいです。

■取材を終えて

建設現場はクローズドな環境であることから、法律的な自動運転化のハードルが低い。さらに鉱業や建設の業界では人手不足が深刻化している。インタビューではこうした点に着目したマクニカの先見性を大いに感じた。

「伴走者のようなパートナーでありたい」という言葉も印象的だった。自動化のニーズは企業やプロジェクトによって異なり、必要とされる技術やセンサーも異なる。そんな中、ソーシングに強みを持つマクニカがパートナーとして寄り添ってくれることは、非常に心強い。

自動車や建機だけでなく、電車や船など他分野におけるサービスの展開にも力を入れつつあるマクニカに今後も注目だ。

>>特集目次

>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで

>>第2回:自動運転を実現するためのプロセスとキーテクノロジーは?

>>第3回:実証実験用の自動運転車の構築からビジネス設計支援まで!

>>第4回:自動運転、センサー選定のポイントは?

>>第5回:自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?

>>第6回:自動運転の安全確保のための技術とは?

>>第7回:自動運転×セキュリティ、万全な対策は?

>>第8回:自動運転車のデータ収集からマネタイズまで!

>>第9回:自動運転サービスの事業化、一気通貫で支援

>>第10回:建機の自動運転化で「現場」の常識が変わる!

>>第11回:「自動運転車×道路点検」が将来スタンダードに!

>>第12回:アプトポッドとの資本業務提携の狙い

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