国内でも自動運転の公道実証が珍しくなくなってきた。実証の増加に伴い、顕在化してきたのが自動運転車における「ヒヤリハット」だ。
自動走行に係る官民協議会は、2019年12月に公表した「地域移動サービスにおける自動運転導入に向けた走行環境条件の設定のパターン化参照モデル」の中で、特徴的なトラブル・ヒヤリハット事例を集約している。
今回は、この資料をもとに自動運転車におけるヒヤリハットにはどのようなものがあるのか見ていこう。
記事の目次
■困難な状況事例:走行環境
雪による影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 積雪のため歩行者が車道へはみ出し歩行していたため手動で回避したケース
- 対向車が積雪回避のため道路中央へはみ出したため停止したケース
- 自動走行車が停車標示を見落としたケース
考えられる解決策としては、除雪による環境整備や自動運転システムの判断精度向上、積雪時不走行が挙げられている。
天気による影響は、自動運転車にとって避けようがないものだ。自動運転を可能にするODD(運行設計領域)においても不確実性が強い要素となるため、さまざまな天気に対応可能な自動運転システムの開発が求められる。
特に雪は、視界を妨げるだけでなく車線などを埋め尽くし、道路の形状も変化させる。道路標識が雪に覆われるケースも珍しくなく、雪が止んだ後も検出対象が雪に隠されたままになっていることも想定される。
このほか、強烈な西日による視界不全などのケースも考えられる。
こういったケースでは、自動運転車の目となるカメラやLiDAR(ライダー)などのセンサーだけでは検出不能となるため、正確な自車位置特定技術と各種情報が盛り込まれた高精度3次元地図に頼る場面も増加しそうだ。
道路周辺環境による影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 民家の植栽に反応して自動停止したケース
- カーブミラーを障害物として検知し自動減速したケース
- コース上に工事用ホースが横切っていたため手動介入したケース
解決策には、センサー精度の高度化や自動運転に対応した道路、空間の確保が挙げられている。
民家敷地内の木の枝が道路側に飛び出しているケースは意外と多く、大きく視界を妨げないにしろ街路樹も含め標識や信号を見づらくしているケースも多い。カーブミラーを誤検知したケースでは、鏡面が原因となったのか定かではないが、反射率の高い物質への対策が求められる可能性もありそうだ。
システムエラー・GPS受信精度低下による影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 建物庇下を通過する際にGPS信号を見失ったケース
- 原因不明の停止、一時停止後に設定上再停止すべきところ停止しなかったケース
- 反対車線や歩道に向かったため手動操舵したケース
解決策には、冗長性を持たせることや電磁誘導線等路車連携技術の活用、GPSやセンサー等の精度の高度化が挙げられている。
衛星システムにおいては、みちびき(準天頂衛星システム/QZSS)の運用が始まり、GPSと併用することで安定した信号の受信や測位精度の向上に期待が寄せられる。
反対車線や歩道に向かうなどのエラーは自動運転において致命的なものとなるため、いち早い原因の解明と対策が望まれるところだ。
類似した事故は国内でも発生しており、2019年8月に愛知県豊田市内で走行中の低速自動運転車が走行方向を誤検知し、追い越し中の後続車両に接触した事故が報告されている。
【参考】豊田市におけるケースについては「豊田市の自動運転事故のなぜ 事故検証委の報告内容を考察」も参照。
豊田市の自動運転事故のなぜ 事故検証委の報告内容を考察 センサー遅延などで検知探索機能が誤作動 https://t.co/z80jfVSHvz @jidountenlab #自動運転 #事故 #原因
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 2, 2019
■困難な状況事例:相手車両
走行ルート上の駐停車車両による影響(2事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 停車車両を手動介入により追い越したケース
- 自宅駐車場から道路へ後退で出てきた車両を待つため、手動介入で停止したケース
解決策には、駐停車車両の抑制や自律型による回避、介入による回避が挙げられている。
路側帯などに駐停車している車両は多く、片側複数車線の都市部の商業地域では第一車線にはみ出して停められているケースもある。
追い越す際、対象車両から十分な距離を確保して安全に追い越せるか、対向車線にはみ出す必要があるかなど考えなければならず、後続車両や対向車両の動向や対象車両による死角の状況などを即時判断しながら運行しなければならない。
解決策に挙げられているとおり、自動運転車の走行ルート上を厳格に駐停車禁止とするか、自動運転システムの精度を上げるかといった対応が求められることになる。
実例では、2020年3月、東京都内で走行中の自動運転車が路上駐車中の乗用車に接触する物損事故を起こしている。
【参考】東京都内の事故例については「ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故 手動走行へ切り替え後に」も参照。
ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故 手動走行へ切り替え後に https://t.co/5jZDrlo5JF @jidountenlab #ソフトバンク #自動運転 #事故
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 26, 2020
後方からの追い越しによる影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 低速の自車が追い越された際に車間距離保持のため減速したケース
- 前車に従って停車したところ、後続車が追い越ししたケース
- 左折時に後続車がさらに自車外側を大回り追い越ししながら左折したケース
解決策には、追い越しできる空間の確保や専用走行帯などの設置、標示などによる相手車への認知、適切な運行速度設定が挙げられている。
低速モビリティをはじめ制限速度を順守する自動運転車は、追い越しをかけられやすい。一般車両がスピードを出しがちな郊外をはじめ、混雑する片側複数車線の市街地においても急な割り込みで減速を余儀なくされるケースが想定される。
追い越し車両が何らかの事故を起こした場合、その責が追い越し車両自身にあるとしても自動運転車の社会受容性に影響を及ぼす可能性が高い。
制限速度を大きく下回る低速モビリティであれば、円滑な交通を妨げることのないよう追い越し空間の確保が求められることも多そうだが、一般的には自動運転車が走行するルートを周知徹底し、周囲の車両に協力を仰ぐことが理想だ。
交差点を含む対向車による影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 緊急車両に進路を譲るため手動介入で停止したケース
- 相手車両の危険行為による安全措置のため介入制動したケース
- カーブを通過する際、対向車が中央線を越えて自車線に侵入してきたため介入制動したケース
解決策には、手動介入による制御や標示などで相手車へ認知が挙げられている。
相手車両の危険行為やはみ出しなどに対しては、標示による認知はあまり意味がないように思われる。正論ではあるが、自動運転システムを高度化し、突発的なケースにも対応可能にするのがベターだ。
■困難な状況事例:歩行者
歩行者による影響(3事例)
事例として以下などが挙げられている。
- 停止中に子供が前方の陰に隠れていたため声をかけて排除したケース
- 前方に自転車が対向走行してきたため停止したケース
- 人が引く荷車を検知できず停止したケース
解決策には、歩車分離の導入や飛び出しの防止措置、センサーの向上、住民への周知徹底が挙げられている。
多くの場合、手動運転・自動運転を問わず啓発が必要なケースだ。近隣住民への周知は必要だが、歩車分離の導入など過度な対策を講じていてもキリがないように思われる。死角がある場合、手動運転時と同様速度を落とし、柔軟に対応可能な自動運転システムの構築が望まれる。
その他の報告事例(2事例)
その他としては、以下などが挙げられている。
- 自車がバス停に停止中、側道から左折してきた車が自車を追い越したケース
- バス停に停車中の自車を追い越した車が対向車と衝突しそうになったケース
これらは自動運転車に起因しない事例である可能性が高そうだ。
■【まとめ】ヒヤリハット事例共有で開発速度が上がる
実証の増加によってさまざまなデータが蓄積され、有用な情報を共有することで開発速度を速めることが可能になるが、有用な情報にはこうしたヒヤリハット情報も含まれる。安全性を高めるには、危険を感じた事例からのアプローチもかかせず、こうした事例を一つずつつぶしていく過程も必要だ。
実証が先行する米国などでは、軽微な事故を含めヒヤリハット事例は相当数発生しているものと思われるが、国際的にこうした事例も参照・共有できれば大きなプラスとなりそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。