自動運転に必須の「エッジAI」とは?

画像解析で本領発揮、スタートアップも続々参入





ディープラーニングの進展により活発化しているAI(人工知能)産業。その中でも、近年特に注目を集めているのが「エッジAI」だ。自動運転にも必須とされており、AI関連企業の研究開発は一段と凄みを増しているようだ。







今回は「エッジAI」について調査し、自動運転においてどのような位置を占めるのかなどを解説していこう。

■エッジAIの基礎知識
「エッジ」と「クラウド」の関係

エッジAIを説明する際、「エッジ」と「クラウド」を対比させて考えるとわかりやすい。クラウドはインターネット上に存在し、各ユーザーがインターネットを介してアクセスすることで、クラウド内のソフトウェアやストレージなどを使用できるサービスを提供する。

一方のエッジは「端」、つまり末端の端末機器や無線基地局などを意味し、スマートフォンをはじめ、IoTでつながった各電化製品などがこれに当たる。

パソコンなどは近年まで、各端末に搭載したハードウェアやソフトウェアを活用し、使いたいソフトウェアがあればパソコンに直接インストールして使用するのが主流だったが、クラウドサービスの登場・普及により、インターネット上にあるソフトウェアをインストールすることなく使用できるようになった。Googleのメールサービス「Gmail」などをイメージするとわかりやすいだろう。

パソコンに比べ情報処理能力が乏しいスマートフォンの普及などもクラウド化の進展を後押しし、さまざまなクラウドサービスを享受できるようになった。ハイパフォーマンスなクラウド上のコンピュータで情報を処理するクラウドコンピューティング全盛の時代だ。

しかし、さまざまなモノがインターネットにつながるIoTをはじめ、通信量の大幅な増加と情報のビッグデータ化が著しく進行し、またスマートフォンなどにもより高度な機能が求められるようになり、通信速度などを理由にクラウドでは対応できない場面が徐々に増えてきている。リアルタイム処理が必要な機能などはちょっとした通信遅延がネックとなるため、クラウドには不向きなのだ。

こうしたクラウドコンピューティングから見直しが進められ、注目を浴びているのがエッジコンピューティングだ。クラウドに任せていた情報処理をエッジ側で担うことで、通信遅延のないリアルタイムな処理が可能になる。そのうえで、必要な情報だけをクラウドと送受信することで効率的・効果的な全体最適化を図ることが可能になる。

リアルタイム解析能力でエッジAIがクラウドAIを補う

こうした技術の最先端にあるのが「エッジAI」だ。クラウドAIでは、クラウドに集まった各種情報をAIが解析・学習し、その結果をエッジ側にリターンしていたが、エッジAIは各端末に搭載されたAIがそのまま情報を処理・解析・学習し、タイムラグを生むことなく結果を即座に反映させることができる。クラウドAIが学習した結果を随時反映させることなども可能なようだ。

ディープラーニングなどによりAIが著しい進化を遂げ、さまざまな場面で導入される現在において、クラウドAIでは対応できない高機能かつ高速処理が求められる場面も増えており、こうした背景からエッジコンピューティング・エッジAIの活用に注目が集まっているのだ。

現時点では、クラウドAIが学習を担い、エッジAIが推論を行うといった使い方が多いようだが、エッジAIが学習=ディープラーニングも担うことでその本領が発揮されるため、この分野の開発が盛んに行われているようだ。

■自動運転との関わり:瞬時の判断をエッジAIが担う

自動運転においてエッジAIは、画像解析で本領を発揮する。自動運転車はカメラやLiDAR(ライダー)などのセンサーが取得したデータを解析し、状況を判断して車両を制御するが、走行中はこれらの作業をリアルタイムで行っている。

仮にこの作業をクラウドAIで行うと、膨大な画像データなどを随時クラウドに送信し、クラウドAIが解析した結果を自動運転車に戻す必要があるが、このタイムラグは決して小さくない。自動運転車は瞬時の判断が重要であり、コンマ数秒の遅延が大事故につながる恐れもあるためだ。

これらの作業を自動運転車に搭載したAI、つまりエッジAIが行うことで、通信のタイムラグをなくすことができる。自動運転車が自ら画像を解析し、判断を下すのだ。

特にセンサーの解析には、カメラやLiDAR、ミリ波レーダーなどの各センサーのデータをフュージョンする高い技術と高速処理が求められるため、エッジAIの開発需要が急速に高まっているようだ。

このほかにも、V2V(車車間通信)やV2I(路車間通信)による情報をはじめ、クラウドAIが学習した結果などあらゆる情報を随時受発信し、自車の走行とともに交通全体の最適化や安全を図るためさまざまな場面でリアルタイムな情報解析が必要となる。エッジAIとクラウドAIが役割を分担し、より効果的なAI環境を構築することが求められているのだ。

■エッジAI領域の注目企業は?
AISing(エイシング):独自開発したAIアルゴリズム「DBT」で台頭

2016年に設立された岩手大学発ベンチャー。ディープラーニングのような既存のAIアルゴリズムでは不可能だったエッジでの学習や、調整のいらない逐次学習を可能とした独自のAIアルゴリズム「DBT(Deep Binary Tree)」が、数多くのスタートアップアワードを受賞し、注目を浴びている。

2019年1月には、DBTを搭載した世界初のAIチップ「AiiR(エアー)」をリリースした。超軽量動作、高速データ処理、リアルタイム学習、エッジ側のみでの自律学習を可能にしている。

2019年5月には、従来のハイスピードモデル「DBT-HS」に比べ、最大50%の予測精度向上を実現したハイクオリティモデル「DBT-HQ」もリリースしている。

Headwaters(ヘッドウォータース):SLAMやエッジAI武器に自動運転分野に参入

AI開発やクラウドサービスなどを手掛ける2005年設立のヘッドウォータースは、2017年に自動運転分野に進出し、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の開発などを行っている。

画像解析技術も保有しており、エッジAIを活用したリアルタイム画像解析を自動運転をはじめスポーツでのリアルタイムデータ化と機械学習による予測、無人店舗におけるユーザー行動に伴う無人デジタル接客など、多方面への活用を進めているようだ。

ディープインサイト:ディープラーニング武器にエッジAI市場へ

ディープラーニングシステムの企画や開発を手掛ける2016年設立のスタートアップ。エッジコンピューティングとIoT向けに開発された国産初のエンベデッドディープラーニングフレームワーク「KAIBER」の開発などを進めており、2017年2月には、新世代のプロセッサ「SMYLEdeep」を販売するトプスシステムズと超高速で物体を判別可能な画像入力フロントエンドシステムを開発し、自動運転などのエッジコンピューティング市場に販売していくことを発表している。

2019年11月には、深層学習を可能にする組み込み型エッジAI「KAIBER engram(カイバー エングラム)」の提供も開始している。現場で収集したデータをクラウド上に送って再学習することなく、端末内でリアルタイムに自律学習することを可能にしており、産業用PC世界大手のアドバンテック社と協業し、同社のIoTプラットフォームに対応したエッジコンピューティング製品への搭載を進めていくという。

ArchiTek:低コストのエッジAIチップを開発

アーキテクチャやアルゴリズム開発などを手掛ける2011年設立のArchiTekは、低コストで導入可能なエッジAIチップの開発を進めているようだ。

エッジAIソリューションの多様性に必要なコストや電力、汎用性、プログラミング能力においてGPUと専用のLSIは最適ではないとし、同社のソリューション「ArchiTek Intelligence Pixel Engine(aIPE)」が低コストで高電力性能のエッジAIチップの問題を解決するとしている。

aIPEは、仮想エンジン技術を使用し、革新的なソフトウェアの柔軟性と低消費電力と低遅延に最適化されたカスタムハードウェアアーキテクチャを組み合わせた、プログラマブル、画像処理、AI専用のエンジンで、コンピュータのビジョンから深層学習まですべてのAIソリューションに向け手頃な価格で提供可能という。

なお、同社にはトヨタが出資するベンチャーキャピタルの未来創生ファンドから2018年に出資が行われている。

アラヤ:AI特許技術生かしたエッジAI向けアプリ開発

AIアルゴリズム・プロダクト開発などを手掛ける2013年設立のスタートアップ。エッジAIに注目した開発を進めており、独自のAI特許により、深層学習用ニューラルネットワークモデルの精度をほぼ維持したまま、モデルサイズを圧縮し、演算量の削減を実現する技術を有する。

2019年には、未来創生2号ファンドなどから総額10億円に上る資金調達を実施しており、エッジAIや自律AIの開発を加速していく方針だ。AIの圧縮を自動化するアプリケーション「Pressai(プレッサイ)」の開発も進めており、2020年3月に提供開始する予定という。

沖電気:AIエッジコンピューター「AE2100」販売へ

道路インフラシステムなどを中心に自動運転分野で活躍する沖電気もエッジAIの開発を加速している。IoTビジネスプラットフォームのネットワークとセンシング・デバイスレイヤーの間にAIエッジレイヤーを拡張し、エッジ領域の優れた技術と豊富なユースケースを強みとして、交通、建設・インフラなど6つの注力分野を中心にデジタル変革を推進していく方針だ。

2019年10月に販売開始したAIエッジコンピューター「AE2100」は、高速なディープラーニング推論処理をエッジで実現し、耐環境性にも優れる。多量のセンサーデータや映像をAI解析する場合や、リアルタイム性・信頼性が求められるAI解析を行う場合に必要となる、エッジ側でのAI推論処理に最適なAIエッジ機器として、さまざまな場面への活用を進めている。

EDGEMATRIX:NTTドコモなどと提携 エッジAIプラットフォームサービスを2020年開始予定

米Cloudian社からスピンオフし、エッジAI開発を専門に手掛けるスタートアップとして2019年4月に設立したばかりのEDGEMATRIX。同年7月に営業をスタートし、8月にはNTTドコモと清水建設、日本郵政キャピタルと、AIを活用したソリューションの活性化に向けたエッジAIプラットフォーム事業などに関する業務提携を交わし、3社から計9億円の出資も受けている。

同社は、高精細映像などの大量データをエッジ側でリアルタイムにAI処理するデバイス「Edge AI Box」をはじめ、エッジAIの統合管理・収益化プラットフォーム、およびソリューションの3つの事業を推進していくこととし、現在開発を進めている「エッジAIプラットフォーム」は、2020年1月以降に試験サービスを実施し、同年4月以降に商用サービスを開始する予定という。

モルフォ:AI画像処理技術でモビリティ分野への進出強化

AIを活用した画像処理技術の研究開発などを手掛けるモルフォは、3カ年の中期経営計画の中で注力分野の一つに車載・モビリティ領域を掲げ、主力の画像処理ソフトウェアやAI推論エンジン「SoftNuero」をはじめとした製品で業界のイノベーションを図っていく方針を打ち出している。

2015年には、デンソーと画像処理技術とディープラーニングを使った画像認識技術に関して共同で技術開発を進めていくことに合意しており、ディープニューラルネットワークによるADAS(先進運転支援システム)の実現など、次世代の画像認識システムの適用を進めている。

また、2017年には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙探査イノベーションハブ」に研究提案が採択された。カメラで撮影された映像から環境の3次元情報とカメラの位置姿勢を同時に推定する技術「Visual SLAM」により、GPS信号が届かない状況でのロボットの自立走行が可能になるという。

Preferred Networks:高いディープラーニング技術が武器 トヨタとの協業に注目

IoTにフォーカスした深層学習技術のビジネス活用を目的に2014年3月に創業したスタートアップで、国内の自動運転関連では唯一のユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)とされる。

2016年12月には、ネットワークのエッジで動作する深層学習プラットフォーム「Deep Intelligence in-Motion(DIMo)v2」と、そのアルゴリズムパッケージの一つであるセンサーデータに対する異常検知についてベータ版の先行提供を開始したと発表した。

DIMoは、ネットワークのエッジで発生するストリームデータに対し直接深層学習を適用し、さらにエッジで動作する深層学習をクラウドから管理・制御するためのコンソールを提供し、エッジやフォグで動作する既存のIoT/M2Mプラットフォームと深層学習を簡単に連携することができる。

同社は2017年5月にトヨタから約105億円の追加出資を受け、自動運転技術などモビリティ事業分野におけるAI技術の共同研究・開発を加速させることを発表しており、自動運転分野への技術導入に高い期待が寄せられている。

大手各社もエッジAIに注目

クラウドサービス全盛の中、グーグルやアマゾン、マイクロソフトといったテクノロジー系企業が提供するサービスはクラウドAIが中心となっているが、徐々にその向きは変わりつつあるようだ。

アップルは2017年発売の「iPhone X」向けのプロセッサにAI専用の回路「Neural Engine」を搭載するなど、エッジAI導入に向けた製品化を進めている。他社も追随するかのようにエッジ側におけるAI処理を意識した開発を進めているようだ。

国内では、半導体大手のルネサスエレクトロニクスもエッジAI分野の開発を進めており、2019年6月にエンドポイント(エッジ)のインテリジェント化を加速する組み込みAI「e-AI」の次世代ソリューション展開に向け、低消費電力で高速にCNN(Convolutional Neural Network)処理を実現するAIアクセラレータの開発を発表している。

■【まとめ】自動運転に必須のエッジAI、開発競争が加速

AIにおけるディープラーニング分野はスタートアップが活躍しやすい領域で、各社の台頭がうかがえる。経済産業省なども、革新的なAIエッジコンピューティングの実現に向け優れた技術・人材・アイデアを発掘し、新たな人材の参画を促す「AIエッジコンテスト」を開催するなどこの領域への期待は高く、今後、スタートアップから半導体大手なども巻き込んだ開発競争が加速するそのものと思われる。

特に、高レベルの自動運転においては必須となるべき技術であり、エッジ側とクラウド側のタスクが効率的に交わることでその効果は格段に上がる。引き続き各社の動向に注目したい。

【参考】AIエッジコンテストについては「AIエッジコンテスト再び!自動運転向け画像認識で処理速度競う」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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