世界最大級の自動車部品サプライヤーのロバート・ボッシュ(本社:シュトゥットガルト/最高経営責任者兼取締役会会長:フォルクマル・デナー)は2019年9月、IAA2019(2019 International Motor Show/フランクフルトモーターショー)の記者会見の席でデナー会長が語った業績や戦略について発表した。
事業に関する各種データをはじめ、未来のモビリティに向けた自動運転技術や電動化技術、シェアリングサービスなど、同社のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化)戦略の一端が垣間見える内容だ。
今回は、デナー会長の発表をベースに同社のCASE各分野におけるそれぞれの取り組みを見ていこう。
【参考】関連記事としては「CASEとは? 何の略? 意味は? 自動運転、コネクテッド、シェアサービス、電動化」も参照。
記事の目次
■ボッシュのC(コネクテッド)
C=コネクテッド(Connected)の分野では、ボッシュが開発したバーチャルキーシステム「パーフェクトリーキーレス」の開発車両を日本で初公開したことに触れている。
パーフェクトリーキーレスは、車両に装着されたセンサーが所有者のスマートフォンを指紋認証と同等の安全性で認識し、車両の開錠・施錠、エンジン始動を行うシステムだ。
スマートフォンを活用したバーチャルキーは、すでにカーシェアリング用の車両などで実用化されているが、従来のシステムは基本的に運用者がクラウド経由で許可を出すまで使用することができない。
また、スマートフォンと車両の間のやり取りには、数センチメートルの距離でデータを共有するためのワイヤレスプロトコル「NFC(近距離無線通信)」が使われており、ユーザーは車両を利用するたびにスマートフォンを取り出し、車両の指定部分にかざす必要がある。
しかし、ボッシュのパーフェクトリーキーレスはBluetooth経由で通信するため、スマートフォンをポケットなどに入れたままドアの開錠などを行うことができる。スマートフォンに内蔵されたBLE(Bluetooth Low Energy)チップごとに異なる電波の特性が適合した場合のみ作動することで、データの無線転送を試みる他の電子機器の信号をブロックすることができ、車両への不正アクセスを防止する。
パーフェクトリーキーレスは、自家用車をはじめカーシェアリング用、事業者が所有する商用車のフリートにおいても使用することができる。アプリが入ったスマートフォンを紛失した際や盗難された際などは、デジタルキーをオンラインで無効にすることで、車両へのアクセスをブロックすることが可能だ。
【参考】バーチャルキーについては「バーチャルキーがカーシェア市場の未来を握る 開発企業まとめ」も参照。
ボッシュは2018年2月に「コネクテッドモビリティサービス事業部」を新設し、移動サービスの本格事業化とともにコネクテッドパーキングや予防診断、EV向けの充電アシスタントサービスなど、同社が持つ全てのコネクテッドサービスを新しい事業部に集約した。
日本ではコネクテッドサービスに向けた専門組織はまだ設立していないようだが、各事業部の担当チームがサービスの開発に取り組んでいる。2018年には、後付けできるeCall(自動緊急通報)用アダプターに加え運転行動の分析ができる新しいデバイス「テレマティクスeCallプラグ(TEP)」を発表し、国内においては富士通株式会社とともにTEPを販売することで合意するなど、新たなコネクテッドサービスの開発や製品化はまだまだ続きそうだ。
【参考】ボッシュのコネクテッド戦略については「全文掲載:これがBOSCHがCES 2019で語った未来のモビリティ戦略だ 自動運転・AI・電動化・コネクテッド化…」も参照。
これがBOSCHがCES 2019で語った未来のモビリティ戦略だ 自動運転・AI・電動化・コネクテッド化… https://t.co/rqrTTXfHDA @jidountenlab #BOSCH #CES2019 #スピーチ全文
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 8, 2019
■ボッシュのA(自動運転)
A=自動運転(Autonomous)の分野では、自動駐車システム「自動バレーパーキング」を日本市場においても注力していく考えを示している。
ボッシュは独ダイムラーとともに2015年から自動バレーパーキングの開発を進めており、2017年には、ドイツ国内で歩行者や一般車両が混走する実生活環境下において世界初となる自動バレーパーキングのデモンストレーションを実施している。
自動バレーパーキングでは、ドライバーが駐車場の所定の位置まで乗り入れたら降車し、スマートフォンの画面をタップするだけで車両が駐車スペースに自動で入っていく。乗車する際は、所定の位置にドライバーが来れば、車両がその位置まで自動的に戻ってくる仕組みだ。
ボッシュが開発したインテリジェントな駐車場インフラと、ダイムラーが提供した車両技術の相互作用によってこのプロセスを実現しており、駐車場内に設置されたセンサーが、ドライバーの代わりに駐車スペースまでの経路や周囲の状況を監視し、車両の誘導に必要な情報を提供する役目を果たしている。また、車両側に組み込まれたテクノロジーが、インフラからの指示を運転操作に変換し、インフラのセンサーが障害物を検知した場合などは、車両はただちに停止するという。
【参考】関連記事としては「自動バレーパーキングとは? 自動運転技術を活用 開発企業は?」を参照。
ボッシュは2018年4月、ドイツのアーヘン工科大学内に建設される新しい駐車場に自動バレーパーキングシステムが導入されることを発表した。メルセデス・ベンツ博物館の駐車場に次ぐ自動バレーパーキングプロジェクトで、EV開発を手掛ける独e.GO Life社の車両が最大12台導入されるという。
2019年7月には、メルセデス・ベンツ博物館自動バレーパーキングが、バーデン・ヴュルテンベルク州の関係当局から正式な承認を受けた。これにより、世界初となる自動運転レベル4の完全自動駐車機能の日常的な利用が認められたことになった。
ボッシュはこの自動バレーパーキングに関し、既存の駐車場にも導入することができるため大きな市場潜在力があるとしており、ドイツに続いて2017年に日本国内でも自動バレーパーキングの専門組織を設立し、商用化の可能性を市場、技術の両面から検討してきた。
2019年には、日本国内の物流関連施設で自動バレーパーキング技術を応用した低速無人搬送の実証実験を開始している。ボッシュ・グループとして初めての実証実験で、実用化に向けたシステムの技術的な検証を行っているという。
【参考】ドイツにおける自動バレーパーキングの承認については「ボッシュとダイムラーの自動駐車システム、自動運転レベル4でGOサイン」も参照。日本における自動バレーパーキング事業については「独ボッシュ、日本市場で「自動駐車」事業に注力 既に実証実験を開始」も参照。
独ボッシュ、日本市場で「自動駐車」事業に注力 2019年、既に実証実験を開始 自動運転関連事業で https://t.co/yQrx4CHheU @jidountenlab #ボッシュ #自動駐車 #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 27, 2019
■ボッシュのS(シェアリング・サービス)
S=シェアリング(Sharing・Service)の分野では、ライドシェア事業への参入を本格化させている。2018年2月に、米デトロイトを拠点に企業や大学、自治体当局が職員にライドシェアリングサービスを提供するためのプラットフォームを運営するスタートアップ企業「Splitting Fares(SPLT)」の買収を公表しており、このB2Bライドシェアサービスを手始めに「成長分野であるモビリティサービスのポートフォリオを拡充していく」としている。
ドイツの調査企業Statistaによると、カーシェアリングやライドシェアリングは、コネクテッドモビリティ分野における成長市場で、2022年には全世界のライドシェアリングの利用者数は現在より60%増加し、6億8500万人に達すると予想している。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは? 意味や仕組み、ウーバーなど日本・世界の企業まとめ」も参照。
ボッシュはこの拡大市場の中で「通勤」に着目し、毎日同じルートを移動する利用者を対象としたB2B型のライドシェアのポテンシャルに期待を込める。費用は同僚の間で分担され、オンラインで課金される仕組みだが、相乗りするのが同僚のため全く知らない人と一緒に車に乗る必要がなく、ストレスを感じずに利用できるとしている。
なお、ボッシュは2016年8月、電動スクーター「eScooter」のシェアリングサービス「Coup」をベルリンでスタートすることを発表している。最寄りの電動スクーターをいつでも検索・予約・利用でき、目的地に到着した後はそのスクーターを市街地のどこにでも乗り捨てられる仕組みで、台湾のスタートアップ企業Gogoroが製造した200台のネットワーク対応電動スクーターが配備された。
2018年10月には、電動トラックのシェアリングサービスを新たに開始することとし、ドイツの小売グループREWEの子会社であるtoomと協力し、ホームセンターでシェアリングサービスのテストを実施することを発表した。
同年12月からtoomの一部店舗において、板石やベランダ用の観葉植物といった持ち帰りが困難な荷物を持つ買い物客が、手軽に電動トラックを予約し自宅に持ち帰ることができるサービスを実証しているようだ。
このほかにも、ダイムラーと共同で自動運転車を使ったオンデマンドライドシェアサービスの実証実験を2019年下半期から米国内で開始することなども発表している。
ボッシュは自らシェアリング事業を進めつつ、同社の電動化、自動化、ネットワーク化、パーソナル化に向けた各ソリューションによって、サービスプロバイダーが最大限の快適さとセキュリティを備えたライドシェアサービスを提供できるよう支援していく考えだ。
【参考】ダイムラーとの自動運転ライドシェアサービス実証については「ボッシュとダイムラー、自動運転車ライドシェアの実証実験開始へ レベル4以上の技術搭載」も参照。
最強の組み合わせ「自動運転×ライドシェア」 ボッシュとダイムラーが実証実験実施へ 車両はメルセデスの高級自動車Sクラス https://t.co/ro21WkAjGK @jidountenlab #ボッシュ #ダイムラー #自動運転 #ライドシェア
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 16, 2018
■ボッシュのE(電動化)
E=電動化(Electric)の分野では、2019年初頭に掲げた、2025年までに電動化関連の売上を現在の約10倍にあたる50億ユーロ(約6000億円)とする目標について、早くも上回る見通しを示している。
同社は「Emission-free(排出ガスのない)」モビリティに毎年約4億ユーロ(約480億円)を投資しており、eモビリティ領域において、自転車からトラック、48 Vマイルドハイブリッドから完全電動パワートレインに及ぶまで広範囲に対応している。
特に48 Vバッテリーでは、市場における主導的地位を獲得することを目指し、バッテリーセルの生産で中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と長期の戦略的提携契約を締結している。
48Vマイルドハイブリッドシステム向けバッテリーの量産は2018年に中国で開始しており、2019年後半にはモーター、インバーター、ギアボックスを一体化させた電動パワートレイン「eAxle」の量産も始める予定。48Vマイルドハイブリッドシステムは、2019年後半に日系自動車メーカーから同システム搭載モデルが量産される予定という。
このシステムは、コンパクトカーにも搭載できる費用対効果に優れた電動化ソリューションで、2030年には新たに全世界で生産される新車の26%に48Vのハイブリッドシステムが搭載されると予測している。
このほか、同社は2019年7月に、バッテリーをクラウドに接続することで性能と寿命を大幅に向上させる新しいクラウドサービスの開発についても発表している。経年劣化を早める負荷要因を認識し、回避する措置を講じるように設計されているという。
同社はこうしたeモビリティのマーケットリーダーになる道のりにおいて、燃料電池の大規模な市場の創出を考えており、スケールメリットによって、従前の高価なテクノロジーをよりコストパフォーマンスに優れたものとし、「手頃な価格による代替パワートレインの提供を目指す」としている。
■【まとめ】他社との連携でイノベーション支える 日本市場での動きにも要注目
世界最大手というだけあってCASEすべての分野で抜かりはなく、かつ自動車部品サプライヤーという立場から自動車メーカー各社との連携も緊密で、適材適所で他社と連携・協働しながら技術革新と実用化を図っていく構えだ。
自動車メーカーのように直接脚光を浴びる機会は少ないが、各社の最新技術の裏側では、ボッシュやデンソーらサプライヤーの技術が生かされているケースは多い。サプライヤーは業界のイノベーションを力強く支える縁の下の力持ちであり、屋台骨でもあるのだ。
日本市場にも力を入れているボッシュの今後の取り組みに引き続き注目していきたい。
【参考】関連記事としては「ボッシュの自動運転・LiDAR戦略まとめ 日本や海外での取り組みは?」も参照。
デンソーと覇権争うボッシュの自動運転・LiDAR戦略まとめ 次世代自動車市場をどう勝ち抜くか https://t.co/CG2mxoMLSM @jidountenlab #ボッシュ #自動運転 #LiDAR
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 20, 2018