自動運転タクシーの開発分野では、先行する米Waymoを追いかける二番手集団の競争に注目が集まっている。筆頭株には中国IT系の百度(バイドゥ)の名が挙げられるが、新進気鋭のスタートアップも負けていない。深センに本社を構えるAutoXだ。
中国系スタートアップとして米シリコンバレーで創業し、カリフォルニア州における公道実証の実績も光る同社。米中を股に掛けた展開に大きな注目が集まっている。
この記事では、AutoXのこれまでの足跡を時系列でたどっていく。
記事の目次
- ■AutoXの概要
- ■2017年2月:米カリフォルニア州で公道走行ライセンス取得
- ■2017年9月:上海汽車集団から資金調達
- ■2018年8月:自動運転デリバリーの実証開始
- ■2018年:深センや香港などで走行ライセンス取得
- ■2019年:マルチセンサーシステム「xFusion」などを発表
- ■2019年6月:カリフォルニアでロボタクシーライセンスを取得
- ■2019年8月:上海市嘉定区と戦略的協力覚書を締結
- ■2019年:広州や深センでも正式なライセンス取得
- ■2019年:シリーズAラウンドで1億ドル調達
- ■2019年7月:ロボタクシーの欧州展開に向けNEVSと提携
- ■2020年:CES 2020でFCA車と統合した自動運転タクシーお披露目
- ■2020年7月: 武漢で自動運転ライセンス取得
- ■2020年7月:カリフォルニア州で無人走行ライセンス取得
- ■2020年12月:深センでもドライバーレス自動運転に着手
- ■2021年4月:ホンダの中国法人との提携を発表
- ■【まとめ】激化する先頭集団争い、AutoXにはまだまだ伸びしろあり?
■AutoXの概要
AutoXは、米シリコンバレーで2016年に設立された自動運転開発スタートアップだ。創業者の Xiao Jianxiong(肖健雄)氏は、香港大学、マサチューセッツ工科大学を経てプリンストン大学でコンピュータビジョンやロボティクスの研究を重ねたエンジニアで、プロフェッサーXの愛称でも知られる。
2017年には、マサチューセッツ工科大学系のメディア・MIT Technology Reviewが主催する35歳未満の若きイノベーターを評価する「Innovators Under 35」に選出されている。
AutoXは現在、中国深センに本社を置き、シリコンバレーや北京、上海に研究開発センターを構えている。自動運転タクシーをメインに物流向けの自動運転トラックの開発なども進めている。
自動運転システムは、2017年に第1世代を発表しており、現在は第5世代となる最新の「AutoX Gen5」を導入し、ドライバーレス自動運転を加速している。
■2017年2月:米カリフォルニア州で公道走行ライセンス取得
AutoXは2017年2月、米カリフォルニア州車両管理局(DMV)から中国系スタートアップとしては初となる自動運転車の公道走行ライセンスを取得した。
翌2018年には、同州における公道走行実証距離が中国系企業の中でトップとなるなど、積極的な姿が際立っている。
■2017年9月:上海汽車集団から資金調達
AutoXは2017年9月、上海汽車(SAIC)から資金調達し、戦略的提携を開始した。公式発表における自動車メーカーとの提携はこれが初で、2018年には東風汽車(Dongfeng)からも戦略的提携のもと投資を受けている。
その後も比亜迪汽車(BYD)、奇瑞汽車(Chery)、FCA(現ステランティス)、ホンダの中国法人など提携の輪を拡大しているほか、深巴集团鹏程電動やDSTといったサービス事業者などとの提携も進めており、自動運転タクシーやトラックの開発からサービスインまで幅広く手掛けるほか、自動運転システムをライセンス化し、世界展開を図る動きもあるようだ。
■2018年8月:自動運転デリバリーの実証開始
AutoX は2018年8月、カリフォルニア州で自動運転車を活用したデリバリーサービスの実証を開始した。同社によると、自家用車タイプの自動運転車両を用いたデリバリーサービスは世界初という。
利用者は、専用のアプリから生鮮食品などの商品を注文し、配達日時を指定する。自動運転車が到着したら、アプリでトランクルームを解錠し、クーラーボックスから商品を受け取る仕組みだ。
また、後部座席にも販売スペースを設けて商品を置き、利用者が別途買い物できるサービスも実施しているようだ。
■2018年:深センや香港などで走行ライセンス取得
AutoXは2018年、香港やマカオ、深センを含む広東省のベイエリアなどからなる粤港澳大湾区の自動運転公道走行ライセンスを取得したと発表した。
自動運転タクシーの実証では、深センは激戦区となる一方、香港やマカオなどは珍しい印象で、同地区の免許取得は中国初としている。
■2019年:マルチセンサーシステム「xFusion」などを発表
AutoXは2019年1月、LiDARやカメラ、ミリ波レーダーを融合して360度の視界を確保するマルチセンサー融合認識システム「xFusion」を発表した。
カメラの豊富な色情報と高いフレームレート、LiDARとレーダーの正確な距離測定と検出機能など各センサーの長所を生かしたセンサースイートで、3Dディープラーニングに基づく高精度な動体検知などを可能にしている。
同年同月に米ラスベガスで開催された世界最大の技術見本市「CES 2019」では、自動運転車の試乗や自動運転デリバリーなどのサービス実証を行った。
同年3月には米NVIDIA主催のカンファレンスにも参加し、システム処理に「DRIVE AGX Pegasus AI」を使用していることも明らかにしている。
また、都市エリア内の任意の2点間で自動運転を可能にする「xUrban」も同年中に発表しており、自動運転サービスの実用化に向けた取り組みを本格的させた印象だ。
■2019年6月:カリフォルニアでロボタクシーライセンスを取得
2019年6月、AutoXはカリフォルニア州のDMVからロボタクシーサービスの運営許可を取得したと発表した。セーフティドライバー同乗のもと乗客を乗せて公道走行するための許可で、同州ではWaymoに次ぐ2番目の取得となっている。
AutoXは許可取得後まもなく、自動運転タクシーのパイロットプログラム「xTaxi」を開始したようだ。
■2019年8月:上海市嘉定区と戦略的協力覚書を締結
AutoXは2019年8月、上海市嘉定区などと自動運転の実用化に向け戦略的協定を交わしたと発表した。同区内に自動運転モデル地区を構築し、自動運転タクシーサービス提供を目指す構えだ。モデル地区は65平方キロメートルで、工業地域、商業地域、住宅地を含むという。
2020年4月には、上海に建築中だった無人車両を運用するビッグデータセンターが完成した。自動キャリブレーション、テスト、技術的な運用と保守をはじめ、AutoXクラウドプラットフォームのビッグデータマイニングとシミュレーション、ハードウェアクローズドループの安定した大量生産に至るまで、実データと仮想データを組み合わせて作業を行うことができるという。
同年8月には、サービス対象を一般利用者に拡大し、サービスを本格させている。
【参考】上海での自動運転タクシーサービスについては「自動運転タクシー、AutoXが上海で一般客にもサービス拡大」も参照。
■2019年:広州や深センでも正式なライセンス取得
2019年には、5月に広州からも公道走行ライセンスのバッチを取得している。その後、深センからも正規ライセンスが付与されており、上海を含む3大主要都市を抑えた最初の企業となったようだ。
深センでは同年12月に深セン巴士グループの鹏程電動とパートナーシップを締結し、大規模なロボタクシーの運営を進めていくとしている。
■2019年:シリーズAラウンドで1億ドル調達
AutoXは2019年、資金調達Aラウンドで1億ドル(約110億円)を調達した。東風汽車がリードインベスターを務め、コ・インベスター(共同投資家)にはアリババなどが名を連ねている。
自動運転タクシーサービスなどの実装を加速させる狙いで、同年中に数千万ドル規模のプレBラウンド完了も発表している。
■2019年7月:ロボタクシーの欧州展開に向けNEVSと提携
AutoXとスウェーデンのEVメーカーNEVSは2019年7月、戦略的パートナーシップを締結し、AutoXの自動運転技術をNEVSの次世代車両アーキテクチャに統合し、2020年末までに欧州で大規模なロボタクシーパイロットを配備する計画を発表した。
■2020年:CES 2020でFCA車と統合した自動運転タクシーお披露目
AutoXは、「CES 2020」 でFCAクライスラーパシフィカを改造した自動運転タクシーを発表した。最新世代のAIドライバーを搭載するほか、ソリッドステート式LiDARやカメラ、レーダー、GPS、IMUなどのセンサーアレイを統合したフラットルーフトップデザインが特徴としている。
■2020年7月: 武漢で自動運転ライセンス取得
AutoXは2020年7月、武漢市における自動運転公道走行ライセンスを取得した。武漢市政府、及び東風汽車グループと戦略的パートナーシップを結び、東風のプラットフォーム上で自動運転の大規模商用ビジネスモデルを模索していく構えだ。
すでに同市内の繁華街エリアで実証実験に成功しており、引き続き5G環境におけるリモート運転やV2Xの実証実験などを進め、サービスエリアの拡大を図りながら自動運転技術の応用を促進するとしている。
■2020年7月:カリフォルニア州で無人走行ライセンス取得
AutoXは2020年7月、カリフォルニア州でドライバーレスによる公道走行許可を取得したと発表した。同州の無人走行ライセンス取得は、Waymoと低速配送車両開発を手掛ける米Nuroに次ぐものだ。
このライセンスにより、空港に隣接する道路やコアビジネス地区の主要道路を含むシリコンバレーの中心都市サンノゼエリアで完全無人運転を実行できる。走行速度は時速45マイル(時速約72キロ)に達するとしている。
▼自動運転走行テスト認可済み企業一覧:カリフォルニア州DMV
https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/autonomous-vehicle-testing-permit-holders/
■2020年12月:深センでもドライバーレス自動運転に着手
AutoXは2020年12月までに、深センでも無人自動運転による公道走行ライセンスを取得し、ドライバーレスによる実証に着手した。
2021年1月には同市内に無人タクシー用のオペレーティングセンターを建設し、セーフティドライバーなしの自動運転サービスの一般公開を開始した。車両はFCAパシフィカで、最新の第5世代自動運転システムを搭載しているという。
【参考】深センでのドライバーレス自動運転については「中国第1号はAutoX!?完全無人の商用自動運転タクシーの運行開始」も参照。
■2021年4月:ホンダの中国法人との提携を発表
AutoXは2021年4月、ホンダの中国法人本田技研科技と自動運転技術の開発に向け提携したと発表した。
ホンダは、AutoXの最新鋭技術を利用した中国内の実証を通じて同国の交通環境への理解を深め、より安全で高度な自動運転技術を開発し、現地道路に適した自動運転ソリューションを模索する。一方、AutoXはホンダのアコードとインスパイアに最新のAutoXジェネレーション5自動運転システムを搭載し、フリートをリリースするとしている。
【参考】ホンダとの提携については「ホンダ車が中国で自動運転タクシーに!?AutoXとの提携で予感されるもの」も参照。
■【まとめ】激化する先頭集団争い、AutoXにはまだまだ伸びしろあり?
米中両国における公道実証に力を注ぎ、セーフティドライバー付きの有人サービスから無人サービスへと着実にステップアップを図っている印象で、米国ではWaymoに追随し、中国では百度と張り合うなどスタートアップとしては大健闘している。事業規模を考慮すると資金調達は控えめだが、これはまだまだ大きな伸びしろを抱えているとも受け取れる。
米カリフォルニア州ではGM Cruise、中国ではWeRideやPony.aiといったライバルがひしめく中、今後どのように存在感を高め、先頭集団における位置取りをより優位なものに変えていくのか、他社の動向とともに要注目だ。
▼AutoX公式サイト
https://www.autox.ai/ja/index.html
※自動運転関連企業の取り組みを年表化した記事は、「タグ:年表」よりまとめて閲覧頂けます。
【参考】関連記事としては「Luminarの年表!自動運転の目「LiDAR」を開発」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)