米政府 無人運転車両を見分けるための「ライト」設置を義務に?

日本はステッカーだけ



出典:Flickr / Gage Skidmore (CC BY-SA 2.0) https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/29381357345/

米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、乗員が道路を監視しない前提で自動運転システムが運転している間だけ点灯する青緑色のシアン灯を、メーカーが任意で搭載できるようにする基準案を公表した。義務化ではなく、無人の自動運転ロボタクシーなどを外から見分けやすくする狙いがある。

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■米政府が示す自動運転車の識別灯、義務ではなく任意の青緑灯

米政府は無人運転の車両にライトの設置を義務づけてはいない。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が示したのは、メーカーが識別灯を付ける場合に守るべき基準だ。全車に搭載を求める案ではない。


NHTSAは、義務づけるだけの安全上の必要性を示す情報が足りないと説明している。一方で、各社が思い思いの灯火を付ければ、周囲のドライバーが混乱したり、法律で定められた灯火の見え方を邪魔したりするおそれがある。そこで、色、位置、明るさをそろえた標準を先に用意する考えだ。

狙いは、警察や周囲のドライバーが、人ではなくシステムが運転している車を見分けやすくすることにある。無人の自動運転ロボタクシーが米国の複数の都市で走り始め、外見だけでは人が運転する車と区別しにくいという課題が背景にある。

対象になるのは、乗員が道路を監視する前提のない状態で走る車だ。NHTSAは、自動運転システムが運転の全体を担っている状態と補足している。

安全面の効果は、NHTSA自身も数字で示せていない。対象となる車の台数が読めないためだ。標準化によって、青緑色の灯火が「人は運転を監視していない」合図だと周囲に伝わりやすくなる、という見立てにとどまる。


意見募集は11月25日まで行われる。NHTSAは、基準が正式に決まれば即日発効とするのが適切だとしている。ただ、その時期は見通せない。

【自動運転ラボの視点】
自動運転車は外見だけでは人が運転する車と見分けにくい。識別灯の統一は混乱を防ぐ一歩だが、任意のままでは普及は読めない。ロボタクシーの拡大に合わせ、どこまで標準化が進むかが焦点になる。

■4〜8灯、地上約38センチ以上。作動中だけ点灯する識別灯の仕様

基準案が定める識別灯は、乗員が道路を監視する前提なしに運転していることを示す灯火だ。基準案は自動運転のレベルを名指ししていない。乗員が乗っていても運転を監視しない前提の自動運転レベル3や、無人のロボタクシーは対象になり得る。一方、運転者が道路を監視し続ける自動運転レベル2の運転支援は、定義から外れると読める。

灯の数は、前方、左右の側面、後方のそれぞれに1〜2灯で、合計4〜8灯になる。どの方向からも最低1灯が見えるようにするためだ。取り付けの高さは、15インチ、つまり約38センチ以上。車内に取り付けてもよい。


点灯は常時点灯に限り、点滅は認めない。歩行者への合図として点滅させる使い方を認めるべきか、NHTSAは意見を求めている。ただ、それを支える研究は把握していないという。明るさを示す光度は、前方の灯で125カンデラが上限だ。駐車灯と同じ水準にあたる。

色は、米自動車技術会SAEの規格J578が定める青緑色のシアンだ。橙色、赤、白は、灯火基準で意味がすでに決まっている。この3色を使うと、識別灯の意味があいまいになる。そのため、独自の色が選ばれた。

基準案は、同じSAEの業界規格J3134を土台にしている。ただし完全に同じではなく、光度や、ほかの灯火と一体にする扱いなどが異なる。自動運転システムのない車への搭載は禁止される。

緊急車両の灯火と混同しないのか

青色は多くの州で、警察やレッカー車などの緊急車両向けに使われる。NHTSAは、青緑色のシアン灯は警察の青色と色相が違うと説明する。光度も緊急車両の灯火よりはるかに弱く、点滅もしない。そのため州法との衝突は起きないと判断した。

州法との関係では、識別灯を明示的に認める州として、少なくともカリフォルニア州がある。NHTSAは、基準が正式に決まれば、色を制限する州法は、基準に適合する識別灯の設置を妨げる範囲で、連邦基準が優先されるとの見立てを示した。イエローやレッドといった規制の枠組みについても同様の整理がなされている。

【参考】関連記事としては「自動運転関連の法律・ルール解説(日本・海外)」も参照。

■先行するメルセデス・ベンツと中国、広がる識別灯のルール

識別灯の先行例は、独高級車大手メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)だ。レベル3のシステムDrive Pilot(ドライブ・パイロット)が作動している間、ターコイズ色の灯火を点灯させる許可を、2023年12月に米国で得た。カリフォルニア州は当初2年間の高速道路での試験、ネバダ州は2026年型の量産車が対象となる。

メルセデス・ベンツは2023年から2025年にかけて、カリフォルニア州で5台を使い、周囲のドライバーや歩行者の反応を調べる2年間の路上検証も行った。NHTSAの基準案は、同社が灯火の配置などの提案をNHTSAと国連の作業部会に出したことにも触れている。

NHTSAは、日本の研究機関が主導した国際調査も根拠に挙げた。2025年4月に国連の灯火に関する作業部会で発表された調査で、対象は英国、日本、米国、ドイツの4,400人超のドライバーだ。識別灯が必要という回答は各国で過半数を占め、米国と英国では8割以上に上った。約7割は、システムと人のどちらが運転しているかを、外から区別できるべきだと答えた。

国連の自動運転に関する作業部会は、システムの作動状況を伝える灯火の統一規定をつくるよう提言している。一方で、追加の灯火を義務にすることは、不確実性を理由に推奨していない。NHTSAが義務化を見送った判断と、同じ方向にある。

中国でも同様の動きがある。中国の工業情報化省は10月20日、レベル3以上のシステムを積んだ車に、ターコイズ色の識別灯を任意で付けられるようにする国家規格の草案で、意見募集を始めた。

ただ、先行したメルセデス・ベンツ自身は、方向を変えている。2026年1月、改良型のSクラスなどにDrive Pilotを設定せず、運転者が監視を続ける運転支援システムに移行すると報じられた。同社は、運転者が前方を見なくてよい自動運転を断念したわけではないと説明しているという。既存の購入者の扱いは明らかになっていない。識別灯の標準化を先導した企業が、対象となるレベル3の提供を一時的に見送る形だ。

自動運転レベル3、メルセデスが「青緑色の光」を作動中の目印に

■ハンドルやペダルのない車両は、手動操作を前提にした灯火仕様が外れる

今回の改正案は、識別灯だけではない。灯火基準を見直す項目は全部で5つある。ヘッドランプの試験電圧、上下に並べたヘッドランプの配置、方向指示器やハザードランプなどの操作の仕様、表示灯の扱い、そして識別灯だ。

前の2つは、車の種類を問わない。光源が長寿命になった一体型ヘッドランプは、メーカーが表示した電圧で試験する。上下に並べる配置では、ロービームをハイビームより上に置く決まりをなくす。眩しさがわずかに減る可能性もあるとNHTSAは見ている。

ハンドルやペダルなど、人が運転するための操作装置のない自動運転車に関わるのは、後ろの2つだ。方向指示器をハンドルの回転で自動的に解除する仕様や、手動で解除できる仕様は、こうした車では求めない。ハイビームとロービームを切り替える装置も、手や足で操作しやすい配置にする必要がなくなる。システムが操作を担うため、人が消し忘れる心配がないというのがNHTSAの理由だ。

ただし、装置そのものが不要になるわけではない。方向指示器の操作装置と、ライトの切り替え装置は、手動でなくてもよいが、装備は引き続き求める。方向指示器とハイビームの表示灯は不要とする代わりに、灯火の故障を知らせる表示灯を、すべての座席から見える位置に置くよう求める。

NHTSAは、これらの変更に安全上の悪影響は見込まないとする。一方で、自動運転車向けの規制緩和が、安全の基準を弱めないよう注意が必要だとの指摘も出ている。

この見直しは、自動運転専用車の設計に関わる。米EV大手テスラ(Tesla)の、ハンドルもペダルもない専用車Cybercab(サイバーキャブ)のような車両を念頭に置いたものとの見方がある。ただしNHTSAの公示文書は、説明部分で特定の企業を名指ししていない。

■日本はステッカー表示どまり、自動運転車の識別ルールの行方

米国の基準案は、義務ではなく、任意の標準づくりだ。それでも、メルセデス・ベンツの先行、中国の草案、そして米国の基準案が並び、青緑色が「システムが運転している」合図の共通の色になる可能性が出てきた。

日本はどうか。国内の主な動きは次の通りだ。

・2020年3月:国土交通省が、自動運転車であることを示すステッカーのデザインを公表し、車体の後部に貼るようメーカーに要請
・2023年3月:国内初の自動運転レベル4の車両が国から認可
・2023年4月1日:改正道路交通法の施行で、レベル4の公道走行が解禁

確認できた範囲では、灯火の色や点灯の仕方を統一して定めた基準は、見当たらない。無人バスなどの実証が増えれば、無人で運行していることを外にどう示すかが、論点になり得る。

NHTSAが根拠にした国際調査は、日本の研究機関が主導したものだ。日本でも無人バスなどの自動運転車が増えれば、後部のステッカーだけで周囲が見分けられるかが課題になりそうだ。米国の基準案の意見募集は11月25日まで。今後の動向に注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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