
タクシー配車システム開発などを手掛ける電脳交通が、自動運転サービス向けの遠隔監視センターを設立した。有人タクシーで培ったノウハウを生かし、自動運転タクシーに特化した遠隔監視や運行支援を行うという。
遠隔監視センターをめぐっては、マクニカやアイサンテクノロジーも2025年にそれぞれ拠点を開設するなど、急激に温度が上がっている領域だ。実用化が始まった自動運転サービスの将来性を商機と捉え、各社ともいち早くビジネス展開を本格化させる構えだ。
自動運転において、遠隔監視センターはどのような役割を担っているのか。その価値に迫る。(記事監修:自動運転ビジネス専門家 下山哲平)
【参考】関連記事としては「ホリエモンが「8文字」で称賛した自動運転ビジネスとは?」も参照。
■電脳交通の取り組み概要
自動運転タクシーの運行管理拠点を開設
電脳交通は2026年1月、自社が運営する交通業界特化型のコミュニケーションセンターの新たな機能として、「自動運転 遠隔監視センター」を設立した。国内で加速するタクシー分野における自動運転の社会実装への積極的かつ専門的な参画を目指す。
自動運転 遠隔監視センターでは、同社がコミュニケーションセンターの運営を通じて培ってきた有人タクシーの配車オペレーションや蓄積してきたノウハウを生かし、自動運転タクシーに特化した遠隔監視および運行支援を行う。
自動運転タクシーと有人タクシーを相互に補完し合う交通手段として捉え、将来的にはライドシェアを含む多様なモビリティを一体的に運用する世界を見据え、地域の交通ニーズに応じて最適な車両の手配から遠隔からの運行支援までを一体的に担う「総合交通コミュニケーションセンター」機能の実現を目指す方針としている。
コミュニケーションセンターはタクシー配車に特化したコールセンターで、2026年1月時点で全国41都道府県、約150社のタクシー事業者の配車業務を受託している。コミュニケーションセンターの着信件数は月間20万件に達するという。

事業化に必要な技術やオペレーションなどの知見獲得へ
自動運転遠隔監視センターでは、自動運転タクシーの運行状況を遠隔から常時把握し、異常発生時や判断を要する場面においてオペレーターが関係者と連携しながら対応を行う。
具体的には、車両が安全に走行している状態を継続的に把握し、万が一のトラブルや異常を早期に察知する車両監視、トラブル発生時などに遠隔から車両停止や動作の一部支援など状況に応じた操作を行う車両制御、乗客が安心して移動できるようシートベルトの着脱案内や車両トラブル発生時の案内などを遠隔で行うユーザーサポートなどをセンターが担う。
取り組み第一弾として、2025年度 国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業」に採択された自動運転タクシー実証運行を、徳島県と日本電気株式会社(NEC)とともに行う。
鳴門市西部エリアを中心に自動運転タクシー事業化に必要な技術やオペレーション、利用者の受容性などの検証を実施するもので、自動運転技術の検証にとどまらず、有人タクシーと自動運転タクシーが混在する環境下での運用や、遠隔監視・運行支援を含む実務オペレーションの有効性を検証する。
運行・配車オペレーションを担う電脳交通の自動運転遠隔監視センターが重要な役割を果たしそうだ。
■自動運転サービスにおける遠隔監視センターの役割
完成度が高まっても遠隔監視センターは必須
レベル4以上の自動運転サービスは、基本的にドライバーレスでサービスを提供する。不足する職業ドライバーを無人化技術で補い、かつ正確な運転制御によって道路交通の安全性を向上させる。人間のドライバーが担っていた運転制御のすべてを、自動運転システムが代替するのだ。
初期においては、自動運転システムの不備などに起因するエラーで人間が介入する頻度も多いものと思われるが、徐々に介入頻度は減少し、本物のレベル4へと昇華していく。自己起因による介入がなくなれば、正真正銘のレベル4が誕生する。
事故・トラブルを発生することなく走行するのは当然だが、道路上では何が起こるかわからない。完成度の高い自動運転システムで安全走行していても、さまざまな要因が重なり、いつトラブルに見舞われるかわからないのだ。
こうした事態に対処するのが遠隔監視システムだ。遠隔地に設置した管制から、各地の自動運転車の挙動をリアルタイムで監視することができ、必要に応じて遠隔制御技術で運転に介入することもできる。
基本的には運行管理業務と一体的に機能するため、フリートマネジメント機能や乗客とのコミュニケーション機能なども備わっているのが一般的だ。
自動運転車は事故を起こさない前提で走行しているが、いつ何時トラブルに見舞われるかはわからず、バックアップの意味でも常に備えておく必要がある。どれだけ自動運転システムが完成度を高めても、遠隔監視システムは必要不可欠な重要要素となるのだ。
初期においては、常時監視に近い形でオペレーターが自動運転車を見守ることもあるだろうが、自動運転システムの精度向上に伴い監視の頻度は減少し、一人のオペレーターが複数台の自動運転車を担当できるようになる。
理想は、オペレーター一人が数十台、数百台規模の車両を担当できる水準に達することだが、そのころには完全な自動運転社会が形成されていることだろう。
見方を変えれば、その水準に達しても遠隔監視センターは必要となる。ドライバーレス技術で省人化を実現しても、運行管理面含め新たな雇用がこの遠隔監視センターで生まれることになる。そこに商機が眠っているのだ。
■遠隔監視システム・センターに関する取り組み
各社が同領域で実証重ねる
自動運転サービスに必須の遠隔監視システム・センターだが、その運用は誰が担うのか。多くの場合、自動運転開発事業者が自ら、あるいは他社と共同で遠隔監視システムの開発も行っているが、電脳交通のように運行管理を主体とする企業が開発する例も多い。
通信技術が要素技術となる点や、事故・トラブル時の対応が求められる観点から、通信事業者や保険事業者が関わることも多い。将来的には、レッカーなどロードサービスを担う事業者の関わりも重要になってくるかもしれない。
以下、遠隔監視システム・センターに関する取り組みを紹介していく。
損害保険ジャパン:遠隔サポート施設「コネクテッドサポートセンター」を開設
自動運転実証の段階でいち早く動き出したのは、損害保険ジャパンだ。同社は、プライムアシスタンス、ティアフォー、アイサンテクノロジー、KDDI、マクニカとともに、遠隔型自動運転運行サポート施設「コネクテッドサポートセンター」を2018年に開設した。
同センターは、無人の自動運転車の遠隔監視・操舵介入と、事故トラブル対応などの総合サポートに向けた研究施設で、複数台の自動運転車の走行状況をモニター監視し、危険時などにおける遠隔操作による操舵介入や、レッカー手配などのロードサービス手配、現場駆けつけなど現地対応のサポート提供、警察や消防などへの緊急通報支援、事故トラブル時の車両停止時における代替移動手段の手配――などの対応を担うことを目的としている。
【参考】関連記事「損保ジャパン、自動運転車の事故トラブル対応サービスの研究拠点を開設 ティアフォーなどと実証実験も」も参照。
BOLDLY:Dispatcher武器に遠隔監視業務を普及
いち早く自動運転車の運行管理事業に着目したBOLDLYは、自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher」でスムーズな遠隔監視を実現している。
車内外のカメラ映像を含む車両情報を安全かつ高速なプロトコルでコンパクト化し、4G LTEでも大幅な遅延なくリアルタイムに遠隔監視可能とし、1人が複数台の車両を監視・操作できる体制を構築している。車両からアラートが上がった際、遠隔監視者が車内通話や車内ディスプレイへの表示、車両制御などで乗客のケアを行うことも可能としている。
数々の自動運転実証や実用サービスで導入されている、遠隔監視システムの代表格と言える。
【参考】関連記事「自動運転車と交通サービスを簡単につなぐ!Dispatcherコネクト、BOLDLYがリリース」も参照。
マクニカ:「everfleet」を基盤とした遠隔運行管理センター開設
マクニカは2025年10月、独自の遠隔運行管理システム「everfleet(エバーフリート)」を基盤とした遠隔運行管理センターを、茨城県常陸太田市に開設したことを発表した。同センターを中核拠点とし、今後全国で運行される自動運転車両を一元的に管理し、安全で持続可能なモビリティ社会の実現を目指すとしている。
従来の遠隔監視体制は、1台の車両または1地域に対し1人または複数人が監視要員として配置されていたが、この方法では持続的な運用が困難であるため、新たな運行モデルの構築を進めたという。
everfleetは、自動運転バスをはじめ特殊車両など多様な自動運転車両の運行を統合的に管理するために開発した独自の遠隔運行管理システムで、複数地域で運行している全車両の位置情報・運行状況・車内外のカメラ映像をひとつの画面上でリアルタイムに可視化できる信頼性の高い独自通信技術による車両の群管理を可能としている。
また、乗降客の計測や、車内の安全性確保に必要な異常検知などの業務を、AIを活用したシステムに取り込むAIによる運行管理業務の自動化や、全車両の車両情報やカメラ映像などのデータを低遅延かつ欠損なく遠隔管理センターへ伝送し統合管理するデータ管理や交通インフラ連携などの機能を備えている。
ソリトンシステムズ:遠隔型自動運転コントロールセンターをシステム化
ITセキュリティ事業などを手掛けるソリトンシステムズも、自動運転の遠隔システム開発に注力する一社だ。
同社が提供する遠隔型自動運転コントロールセンターは、複数地区、そして複数台の自動運転車を低コストで常時または必要時に監視するとともに、遠隔操作が必要となった車両の遠隔操縦を可能とする。
監視においては、車両周辺映像・音や車内映像・音、GPS位置情報、通信回線状況(異常時警告)、自動走行経路・障害物情報(停車時警告)などの機能を備え、歩行者向けの車外拡声や乗客向けの車内会話、乗務員向けの自動運転復帰指示。遠隔運転の起動操作、緊急停止操作なども可能としている。
遠隔運転に関しては、超短遅延・高信頼・高画質のディスプレイ映像で、所定(ほぼ通常)の運転操作機能やカーブ安定走行機構、通信途絶時警告(自動停止)などの機能を備えているという。
自動運転正常時は、通信帯域を大幅に削減する「ダイナミックマルチリンク機能」を備え、車載装置は基盤通信部と画像処理部を一体化してコンパクトなBOX構成&クラウド構成によって多機能を効率的に実現するなど、システムの低コスト化にも力を入れているようだ。
【参考】関連記事「ソリトンシステムズ、遠隔運転のYouTube動画を公開 将来の自動運転の補助に」も参照。
アイサンテクノロジー:オートドライブリモートセンターを開設
数々の実証を手掛けるアイサンテクノロジーは2025年11月、自動運転バスの遠隔運行支援拠点となる「オートドライブリモートセンター」を名古屋市内に開設すると発表した。複数地域における運行をリアルタイムに支援し、自動運転の社会実装を現場から後押しするとしている。
走行中の自動運転車両の内外カメラ映像やシステム状態をリアルタイム監視し、異常検知時には迅速に現地対応を支援する。また、運行ダイヤに応じた経路配信やトラブル発生時の問い合わせ対応を行い、安定運行に必要なサポート機能を包括的に提供する。
今後、リモート支援サービスを拡充し、より高度な運行支援プラットフォームとして進化させていき、中長期的には全国各地の自動運転車両を統合的に遠隔管理できる体制の構築を目指すとしている。
NTTグループ各社:通信技術を磨き安定した遠隔監視を実現
NTTグループも、NTTドコモビジネスやNTTアドバンステクノロジ、NTTデータ経営研究所など各社が自動運転実証に参画している。特にモバイル事業を手掛けるドコモグループは、安定した映像伝送を支える技術で安定した遠隔監視の実現を目指している。
優先制御 (5Gワイド・スライシング)やIOWN技術をはじめとした通信安定化ソリューション、伝送映像品質の制御などにより、自動運転に必要な遠隔監視を実現する方針だ。
遠隔監視センターそのものをソリューション化していないが、通信技術とネットワークを武器にすれば、同領域の大本命に急浮上する存在と言える。
セネック:本社機能を境町に移転 遠隔監視や運行管理事業を強化
自動車の運行業務管理などを手掛けるセネックも自動運転事業に着手し、BOLDLYなどと協力して遠隔監視や運行管理の知見を高めている。
2022年には、自動運転バスなどの遠隔監視サービスを行っている茨城県境町に新社屋を建設し、本社機能を移転した。同所から北海道上士幌町の自動運転バスも遠隔監視しており、境町を拠点に全国展開する構えだ。
【参考】関連記事「ついに登場!自動運転バスの「見守り」の仕事、時給は1,400円」も参照。
■【まとめ】商用化とともに自動運転派生ビジネスは大きく広がっていく
従来の運行管理に精通した事業者や通信事業者、保険事業者など、さまざまな企業が遠隔監視システム・センター事業を商機と捉え、同領域で取り組みを進めていることがわかった。これまでは実証が主体だったが、今後は商用サービスを対象に本格的にビジネスを行っていくことになる。
自動運転関連ビジネスの間口は広く、こうした切り口で同業界に参入する……というのも選択肢の一つだろう。
商用化が進むにつれ、こうした派生ビジネスは大きく広がっていく。異業種だからとあきらめず、しっかりと商機を見出したいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転ビジネス、ウーバーは「1兆ドル市場」確信!巨大商機に」も参照。










