孫氏とテスラ、馬鹿でかい「自動運転向け保険市場」を狙う?

Lemonadeがテスラに無料保険を提案

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出典:ソフトバンクグループ公式ライブ中継/出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

ソフトバンクグループの投資先が、自動運転保険の事業化を本格化するかもしれない。インシュアテック企業の米Lemonade(レモネード)が、テスラのFSD向けにほぼ無料の保険を提案した。

近い将来、自動運転保険市場は10兆円規模に達すると予測されている。自動運転市場は、自動運転サービスそのもの以外にもさまざまな商機があり、孫正義会長の投資先がその商機の一つに狙いを定めた――といった感じだ。

拡大し続ける自動運転ビジネスとサービス。ソフトバンクグループやLemonadeの取り組みを交えつつ、そこに眠る巨大な商機に迫る。孫氏が「物言う株主」として、本格的に動き出すのか関心が集まりそうだ。

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■Lemonadeの取り組み

社長がSNS上でマスク氏に提案

Lemonadeの社長Shai Wininger(シャイ・ウィニンガー)氏は2025年10月、SNS「X」に「If @elonmusk is game, we’d be happy to explore insuring Tesla FSD miles for (almost) free.」と投稿した。

「もしイーロン・マスク氏が賛成してくれるなら、テスラのFSDを(ほぼ)無料で保険に加入させることを喜んで検討する」といった内容だ。

ウィニンガー氏の考えは、FSDは非常に安全で事故リスクが少ないため、ほぼ無料で保険料金を設定しても良い――とするものだ。FSDはあくまでドライバーが運転に責任を持たなければならないADAS(先進運転支援システム)だが、自動運転車並みの評価を行った印象だ。

マスク氏は特に反応していない様子だが、レベル2+に対しほぼ無料の保険商品を提案するのは画期的と言える。将来の自動運転化を視野に見据えた提案なのかもしれない。

AI活用しウェブ上ですべての手続き可能な保険サービスを提供

出典:Lemonade公式サイト

Lemonadeは2015年設立のインシュアテック企業で、AIと行動経済学を基盤としたピアツーピア型の保険サービスを提供している。ボットや機械学習を活用することですべての手続きをウェブ上やアプリのみで完結し、保険料の算出や保険金の支払判定もAIによって効率的に行う。

当初、顧客の約70%を35歳未満が占めるなど、若年層・新規加入者の支持を集め業績を伸ばしたようだ。自動車保険をはじめ、住宅保険や賃貸保険、生命保険、ペット保険なども取り扱っている。

自動車保険はいわゆるテレマティクス型で、メーカー・車種や走行距離などのほか、ドライバーの運転スタイルに応じて「Safety Score(セーフティスコア)」を割り出し、保険額を算出する。スコア算出にはスマートフォンのモーションセンサーなどを活用し、携帯電話の使用やブレーキ、運転時間帯、天気など、運転に関するさまざまな要素を総合的に評価している。

現行の車種別料金では、特にテスラをひいきしている様子はない。純粋にFSDの技術や将来性に注目しているものと思われる。

ソフトバンクグループが資金調達シリーズを主導

出典:ソフトバンクグループ決算中継

ソフトバンクグループはLemonadeの資金調達シリーズC、シリーズDを主導した主要株主だった。総額3億ドル(約323億円)を投資しており、当時、同社株の25%超を保有していたと見られる。

Lemonadeは2020年7月にニューヨーク証券取引所に上場を果たし、その1カ月後の8月にはソフトバンクグループの投資分は2.7倍の8億ドル超(約870億円)まで株式価値が上がっている。

その後、理由は不明だがソフトバンクグループは少しずつLemonade株の売却を進めており、報道によると、2026年3月期第2四半期に保有株の40%を売却したという。同期末時点でソフトバンクはLemonade株を約360万株保有しており、同社の株式保有比率の約4.8%に相当するという。

2024年末ごろから株価は伸び続けており、利益確定を進めているのかもしれない。

ソフトバンクグループが関連するインシュアテック企業としては、中国ZhongAnも注目だ。同社は2013年設立で、アリババのジャック・マー氏やテンセントのポニー・マー氏らが共同創業者に名を連ねる中国初のネット専業インシュアテック企業で、ビッグデータやAIを活用して最適な保険を提供するという。

SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が投資しており、香港証券取引所に上場した2017年9月時点の投資価値5億5,000万ドル(約569億円)、2020年12月末には3億9,400万ドル(約408億円)と評価されている。株価面では伸び悩んでいる様子だ。

このほか、米Ethos、英Envelop Risk、インドのPolicybazaarなどもSVFのポートフォリオに名を連ねている。

自動運転保険の世界市場は2030年に10兆円規模に

Market Glass社による市場調査レポート「自動運転車保険の世界市場」によると、自動運転車向けの保険市場は2024年に274億ドル(約4兆2,200億円)規模で、今後CAGR(年平均成長率)13.9%で市場を拡大し、2030年には598億ドル(約9兆2,200億円)に達するという。

国別では、最大市場の米国は2024年時点で75億ドル(約1兆1,600億円)に達している。米国に次ぐ中国はCAGR18.3%で成長し、2030年には126億ドル(1兆9,400億円)規模になるという。両国とも自動運転タクシーなどのレベル4商用車が先行しており、すでに自動運転保険市場が形成されているものと思われる。

注目すべき地域別市場として日本とカナダの名も挙がっている。2030年までのCAGRは日本10.3%、カナダ12.3%で、欧州ではドイツがCAGR 11.0%で成長すると予測している。

AIの進歩や自動運転車の普及拡大、責任構造の変化、消費者の期待の進化が成長要因となり、市場の成長を後押ししていくと見ており、特にライドシェアやデリバリー、ロジスティクスなどの自動運転フリートの拡大が商用向け自動運転保険パッケージの需要を創出していくという。

また、保険関連の新興企業への投資と戦略的パートナーシップの拡大がイノベーションを加速させており、自動運転技術が普及し社会的信頼が高まるにつれ、自動運転保険市場は飛躍的な成長を遂げ、将来のモビリティ・エコシステムにおける保険の役割を再定義することが期待されているとしている。

日本でも損保各社がきめ細やかな保険サービスを開発

日本では、自動運転実証に損保企業各社が参画し、早くから商品開発やサービスの検討を進めてきた。例えば、損保ジャパンは自動運転開発スタートアップのティアフォーに出資するなどして連携を強め、国内各地の実証に積極参加している。

2016年には、実証事業者を対象とした専用保険「自動運転専用保険(実証実験向けオーダーメイド型)」を早々に商品化しており、2018年には遠隔型自動運転運行サポート施設「コネクテッドサポートセンター」の開設も行っている。2022年には、国内初のレベル4自動運転サービス向け「自動運転システム提供者専用保険」も発表した。

一方、東京海上日動火災保険は自動運転レベル3の社会実装を見越し、自動運転中に発生した事故に対し、自動車保険の保険金を支払った場合でもノンフリート等級を下げず、更新契約の保険料負担が増えないよう取り扱うことを2020年に発表している。すべてのノンフリート自動車保険を対象に追加の保険料負担なく適用している。

開発各社の取り組みや社会動向に迅速に対応し、きめ細やかな保険商品を開発するのが日本流とも言える。

日本でもレベル4自動運転バスが実用化され、実証も加速度を増している。国内における自動運転保険市場はまだ小規模かもしれないが、今後しばらく右肩上がりが続くことは間違いない。

2030年代、2040年代になれば、自家用車向けの保険も自動運転保険と一体化したものがスタンダードとなることも予想される。保険各社が今後どのような戦略をとっていくのか、要注目だ。

自動運転車向け保険の最新動向!従来型との違いや種類・内容は?

■自動運転関連市場における商機

自動運転にはさまざまな商機が眠っている

自動運転保険のように、自動運転時代にはさまざまな領域に商機が生まれる。例えば、ソフトバンクグループのBOLDLYは早くから「運行管理」に着目し、事業展開を進めてきた。自動運転開発そのものを担うのではなく、開発されたモビリティをいかに効果的に社会実装していくか――といった観点だ。

自動運転開発企業の多くは、運行管理に関するノウハウを有しない。一方、主な受け入れ先となる自治体などは自動運転の素人だ。この間に入り、システムを提供しながらノウハウを蓄積し、サービスをより高度なものへと変えていくビジネスだ。

車両の管理面では、メンテナンスなども今後注目度が高まるかもしれない。高度にコンピュータ化された自動運転車は、従来の自動車整備の範疇を超えた保守点検などが必須となる。台数が少ないうちは開発事業者直営で対応できるかもしれないが、フリートが増加すればそうもいかなくなってくるはずだ。

簡易的な日常点検は運行事業者でも可能だが、一歩踏み込んだメンテナンスは難しい。誰もが簡単にできるものではないのだ。そこに商機がある。各社のメンテナンス技術を専門的に習得し、業務を担うことができるようになればビジネスの芽が生まれる。

交通インフラ・外部センサーなども面白い。交差点などに取り付けたカメラなどのデータを活用し、リアルタイムのセンサーデータを提供したりデータ分析によりビッグデータに加工したり……とさまざまな展開が考えられる。

エンドツーエンドモデルの自動運転車でも、こうしたデータを活用してより効率的な運行を行うこともできる。一般乗用車にも有益な情報となるはずだ。

自動運転技術を活用し、清掃車や除雪車、ゴミ収集車などさまざまなモビリティに拡大していく動きもすでに出ている。トヨタは子ども向けの自動運転パーソナルモビリティのコンセプトを打ち出した。どういったモビリティ・サービスに自動運転技術をかけ合わせれば新たな需要を創出できるか。アイデア一つでとてつもない商機をつかむこともできそうだ。

SVFもさまざまな領域からアプローチ

SVFの投資先に目を向けると、売却済み含めAurora InnovationCruise、DiDi Autonomous Driving、Nuro、Wayve、Robotic Researchといった自動運転開発企業が目立つが、自動運転関連企業も相当多いことがわかる。

例えば、Uber TechnologiesやDidi Chuxing(滴滴出行)、Grab、Olaといった配車サービス大手は、将来自動運転タクシーなどの配車プラットフォームとして有用だ。すでにUber TechnologiesはWaymoと手を組み、自動運転タクシーの配車を一部エリアで開始している。

このほか、AIを駆使したテレマティクス技術開発を手掛けるCambridge Mobile Telematicsや、カメラベースの知覚プラットフォーム開発を手掛けるLight、地図プラットフォームサービスを手掛けるMapBox、AIを搭載した安全運行管理プラットフォーム開発を手掛けるNauto、エッジコンピューティングやコンピュータビジョン技術を駆使したドライブレコーダー開発などを進めるNetradyneなどが名を連ねる。

ロボット関連では、Keenon RoboticsやGaussian Robotics、Brain Corporationなどもある。さまざまな面から、自動運転市場にアプローチ可能な企業だ。

自動運転車は数年後に万単位で実用化され、その数を加速度的に伸ばしていくことになる。関連市場を含めれば、その市場規模は簡単に数十兆円、数百兆円規模に達する。

ソフトバンクグループが自動運転関連市場をどのように見据えているかは定かではないものの、有望な投資先として、あるいはビジネスパートナーとしてしっかりアプローチを図っていることは間違いないだろう。

【参考】関連記事「ソフトバンクビジョンファンドとは?」も参照。

■【まとめ】来るべき自動運転時代の商機をつかむには?

自動運転市場はまだ黎明期の段階であり、花を咲かせるのはもう少し後になる。ただ、一輪が花を咲かせばその動きはどんどん連鎖し、瞬く間に満開となる。その時期を正確に見定めることは難しいが、今のうちにあらゆるシーンを想像し、来るべき自動運転時代に備えてこそ商機をつかみ取ることができる。

まもなく訪れるだろう自動運転時代、社会はどのように変わっていくのか。まずは思いを巡らせるところから始めてみては。

【参考】関連記事としては「テスラの自動車保険、無料化か?自動運転ソフトが対象」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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