
既存広告業界に依存しない独自のプロモーション戦略を貫くEV大手の米テスラ。イーロン・マスクCEOが自ら広告塔となって話題を振りまくことで、とてつもない宣伝効果を生み出している。
マスク氏の情報発信力と求心力があってこその戦略だが、これはロボタクシー事業においても功を奏するのか。
テスラのマーケティング・広告宣伝戦略とともに、自動運転の行方に触れていこう。
記事の目次
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■テスラのマーケティング・広告宣伝戦略
マスク氏個人のブランド力で勝負
テスラのマーケティングは、マスク氏個人のブランド力に依存した独自の戦略を採用している。テレビCMや新聞・雑誌、インターネット広告などを基本的に使用せず、マスク氏のSNS投稿や発言をベースとした情報拡散能力に依存しているのだ。
個人の情報発信にそれだけの効果があるのか?――と疑問に思う人もいるかもしれないが、テスラのテレビCMや新聞広告を目にした人はほぼいないにもかかわらず、これだけの知名度を誇っているのが何よりの証拠だ。
手中に収めたSNS「X」(旧Twitter)におけるマスク氏のフォロワー数は2億人を超えている。能動的であれ受動的であれ、世界で2億人超がマスク氏のつぶやきに直接触れる機会を設けているのだ。
▼イーロン・マスク氏のXのアカウント
https://x.com/elonmusk

フォロワーがリポストすることで情報はいっそう拡散されるほか、メディアが取り上げることでさらに情報が行き渡る。
なぜ、メディアは金(広告費)を出さないテスラをいちいち取り上げるのか――と言えば、その答えは話題性に尽きる。
徹底したBEV戦略を土台に、OTA導入や自動運転をはじめとした最新技術を次々と発表し、正当な話題性をふりまきつつ、こうした技術やそのロードマップを誇大的にピーアールすることで賛否両論含めトピック化させることに長けているのだ。
例えば、マスク氏は2019年に開催した技術説明会の中でロボタクシー構想を発表した。自家用車を自動運転化し、使用しない時間を活用して任意で自動運転タクシーとして稼働させる新サービスだ。こうした未来を見据えた発想は当然大きな話題となる。
一方、その発表と同時に、マスク氏は「2020年中に100万台以上を稼働させる」とぶち上げた。まだFSDのベータ版すら導入されていない時期で、自動運転実証も特に行っていないにもかかわらずだ。
誰もが半信半疑となる内容だが、話題性が非常に大きいためメディアはこぞって取り上げる。2020年を過ぎても実現していないが、ある意味予想通りのため特段叩かれることはない。
マスク氏は、こうした話題性の高いネタを定期的に振りまくことで、テスラの知名度を高めていると言える。
2018年8月には、テスラ株の非公開化を示唆する発言を独断で行い、米証券取引委員会に提訴された末に会長職を辞任する事態に発展したこともあった。
サイバートラックのお披露目会では、頑丈さをピーアールするためマスク氏自らが鉄球をサイバートラックに投げつけたところ、サイドウィンドウが普通に割れる……というハプニングもあった。
どこまでが計算でどこまでが天然かはわからず、時に炎上や失望の念が広がって株価が急落することもあるが、結果として右肩成長を成し遂げたのが紛れもない事実だ。
年間数千億円規模の広告宣伝効果をマスク氏は担っている
自動車業界は広告宣伝費が多い業種だ。トヨタは年間4,000~5,000億円規模、苦境の日産は同2,000~3,000億円規模、米国のGMやフォードは年間40億ドル規模(約6,000億円)と言われている。
売上高はトヨタが48兆円、日産が12兆円、GM・フォードが1,800億ドル(約25兆円)ほどで、概ね売上高の1~3%の水準で広告宣伝費を確保しているイメージだ。
テスラの売上高は1,000億ドル(約14兆円)規模のため、単純計算すると年間1,400~4,200億円ほどの広告宣伝費を計上してもおかしくないと言える。カットされたその分の経費は、結果を残し続けたCEOかつ広告塔のマスク氏の報酬に充てられている――と考えれば、巨額のマスク氏の報酬にも納得いく面があるだろう。
なお、マスク氏は過去、「テスラに対する需要は生産を上回っているため、広告を出す必要がない」旨発言している。しかし、右肩上がりの需要が落ち着き始めた2023年、株主総会で試行的に広告を試す意向を示しており、実際に動画広告が公開されている。
積極的ではないものの、需要と生産ラインが一定水準に達し落ち着きを見せた今後、新たなマーケティングに動く可能性はありそうだ。
【参考】テスラの株価やマスク氏の報酬については「テスラ信者の米著名投資家、ロボタクシー展開で「株価10倍」と強調」も参照。
自動運転サービスにも着手
EVメーカーとして確固たる地位を築いてきたテスラだが、2025年6月にロボタクシー事業をローンチし、自動運転分野への進出も開始した。
自動車業界と自動運転業界は基本が異なる。前者は当然B2Cで自動車を売ることが主体となるが、後者はB2Bの自動運転車・システム販売やB2Cサービスが主体となる。マーケティングが一変するのだ。
この点に関し、テスラがどのような戦略を打ち立てているかは不明だが、広告面に関しては特段動いていないものと思われる。
テスラは2025年6月、テキサス州オースティンの一部区域において自動運転タクシーサービスの提供を開始した。ただ、助手席にはオペレーターが同乗しており、フリートは10台規模で利用者も限定している。業界としては、特筆すべき点がない「お試しサービス」のフェーズだ。
メディアは継続してテスラを取り上げる
それにもかかわらず、自動運転関連のトピックではテスラのロボタクシーが常に上位を賑わせている。グーグルで「autonomous cars」などのキーワードでニュース検索すると、テスラが必ずと言ってよいほど上位に食い込んでくるのだ。
6月のサービスローンチから状況に特段の変化はなく、マスク氏も比較的おとなしいが、マスク氏が一度投下した燃料をもとに、メディアが勝手に騒ぎ続けているのだ。
テスラに対しては、好意的なアナリストや敵対的なアナリストなどが明確に分かれがちだが、メディアもその傾向が強い。
好意的なメディアやアナリストは、良い部分や将来を積極的にピックアップしてトピック化する。一方、敵対的なメディアやアナリストは、自動運転として現状至らない点や事故・事案を積極的に取り上げる。
この対立軸がある意味独り歩きし、競争するかのようにテスラに関する話題を盛り上げているのだ。結果はどうあれ、テスラのロボタクシーの宣伝効果としては絶大で、その知名度は一気に知れ渡った。
YouTuberらの炎上商法と類似するが、過激な発言でひとたび注目を集めれば、あとはそれを追いかけるメディアが勝手に宣伝してくれるのだ。
テスラの自動運転戦略は将来性が豊かである反面、現状の技術が追いついていないこともあり、賛否の的になりやすい。それゆえ、大きく盛り上がるのだ。
自動運転分野においては、マスク氏が意図的、あるいは無意識的に大ぶろしきを広げて燃料を投下するだけで、あとはメディアが勝手に盛り上げてくれる仕組みが出来上がっているようだ。
信頼性を重視しない点が諸刃に
しかし、このマスク氏の発言・影響力に委ねたマーケティング戦略は、諸刃の剣でもある。新興自動車メーカーとしては、アンチが増えても一定数のファンを確保できれば業績は上がる。すでに熟成した市場において、ゼロからシェアを拡大していくには絶好の手法とも言える。
しかし、自動運転市場はまだまだ未成熟な市場であり、自動運転サービスは自動車販売とは勝手が異なる。好きな人だけ買ってくれればよい自動車販売とは異なり、自動運転サービスはより広くの顧客と、絶対的な安全性が求められる。
マスク氏は、ADAS同様安全性について過剰に宣伝する可能性が高い。万が一の事故が起こった際、自社に要因はない――と責任を放棄する可能性も考えられる。
自動運転分野では、こうした対応は致命傷になりかねない。GM傘下Cruiseがその代表例だ。Waymoを追走すべく自動運転タクシーサービスの拡大を一気に進めていたが、その間細かい事故や事案は積み重なっていた。
改善に向けた開発も当然進めていたものと思われるが、それ以上にサービス拡大を優先してしまった感が強く、あげく人身事故を起こし、その際の当局への対応にも不備があったため、サービス許可や自動運転走行許可を停止された。
一から出直そうと試みたが、最終的には親会社のGMからも見放され、事業停止となった。信頼性を軽視した結果とも言える。
マスク氏の性格上、この点が非常に危ういのだ。信頼性よりもイノベーションを優先し、反対意見には耳を貸さないことが多い。
現在、アンチ派が主張するような技術的に未熟な点に起因する事故が実際に起こった場合、テスラを取り巻く流れは大きく変わる可能性がある。中立派も敵に回り、ファンもその数を減らしていくのだ。ファンとアンチの対立バランスが崩れ、テスラ叩きが本格化する懸念がある。
テスラが自動運転社会にイノベーションをもたらすのが先か、何かしらの事案を引き金に強制ストップがかかるのが先か……といった具合で、両極端に振れる可能性をはらんでいるのだ。
当局などからの指摘を凌ぎ続け、道路交通に変革をもたらすことができるか。しばらく目を離せないのがテスラであり、それゆえ話題になり続けるのである。
■テスラの自動運転戦略
FSDは大幅進化
テスラの自動運転戦略は、自家用車にオプション設定可能な「FSD」の進化が根底にある。現状レベル2+相当のADASだが、改善を重ねることで完全自動運転を目指す戦略だ。FSDオーナーから走行データを集めることで、効率的に自動運転開発を進めていく点もポイントだ。
自家用車ゆえ、基本的に自動運転可能なエリアや速度域といったODD(運行設計領域)を設けず、エンドツーエンドによる開発でレベル5を目指している点も非常に大きい。
高精度3次元地図に頼らず、かつLiDARも用いることなく、カメラ(目)とAI(脳)で人間同様の仕組みで自律走行を実現するのが信条のようだ。
FSDは現在バージョン13まで進化しており、限度はあるものの、市街地などさまざまなシナリオ下でレベル2+を可能にする領域に達している。自動車メーカーのADASとしては、他社を大きく引き離す技術水準だ。
ロボタクシーは現状レベル4未満

一方、テスラがオースティンでローンチした自動運転タクシーは、現状レベル4とは言えない状況だ。走行可能エリアを制限し、助手席にオペレーターが同乗する形で、Waymoのような無人サービスの域には達していない。
サンフランシスコ・ベイエリアでは、当局の許可が下りていないものの配車サービスの対象エリアに設定したようだ。未許可のため、普通に人間のドライバーが運転しているという。
2026年に北米全域に拡大していく方針で、カリフォルニア州パロアルト、ニューヨーク州ブルックリン、テキサス州ヒューストン・ファーマーズブランチ、アリゾナ州テンペ、ネバダ州ヘンダーソン、フロリダ州タンパ・クレルモン・マイアミの各都市でオペレーターを募集している。
自動運転領域で攻勢を仕掛けようとしているが、これが吉と出るか凶と出るかが注目ポイントとなりそうだ。
FSDそのものの進化は加速しており、自家用車の自動運転化も現実味を帯びてきた感を受ける。規制や安全上、まずはレベル3として実装することとなるのか、あくまでレベル4以上の技術として実装を目指すのか、テスラの戦略が改めて試されると同時に、当局との攻防もさらに激化しそうだ。
【参考】テスラの最新動向については「テスラのロボタクシー、「急がば回れ」の典型例!人間的AIに固執」も参照。
■【まとめ】マスク氏は信頼性を勝ち取れるか
マスク氏の発言をもとに繰り広げられる論争やトピックが、そのままテスラの宣伝となっており、その効果は数千億円以上と評価できる。プラスの評価もあればマイナスの評価もあるが、総じて話題になればテスラとしてはプラスに値するのだ。
ただ、自動運転領域においてはより信頼性が重視されることとなり、マスク氏の発言や対応をきっかけに事態が急転する懸念もある。
今後は、状況に応じてマスク氏の発言を抑制できるような側近が必要となるかもしれない。
【参考】テスラの戦略については「テスラの自動運転(Autopilot, FSD)とロボタクシー計画を徹底解説」も参照。