世界各国で開発・実用化が進む自動運転技術。先行する米国・中国に日本が追随する……といった関係が続いているが、その差は埋まったのか、広がったのか――。
結論から言うと、その差は広がってしまった。Google系Waymoを擁する米国は依然としてトップを走り続け、追随していた中国勢も米国に並ぶ水準までサービスを拡大している。
一方、日本は法規制などの外堀を埋めたものの、肝心のサービスが育っていない。一部でようやくレベル4自動運転バスが恐る恐る走行を開始した段階だ。
米中勢に大きく水をあけられた格好だが、その要因は何か。自動運転ラボを主宰する下山哲平は「日本人の国民性」や「ビジネス視点の欠如」を指摘する。
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■一番の要因は国民性にあり
Waymoが自動運転タクシーを商用化したのは2018年だ。それに追随する形でGM系Cruiseなども開発を加速し、中国でも百度を筆頭にWeRideやPony.aiといった新興勢が台頭し、実証・サービス化を加速させた。
一方、日本はレベル4の自動運転バスがようやく一般車道を恐る恐る走行し始めた段階だ。自動運転タクシーに関しては実証から抜け出せず、ドライバーレス走行もまだ見通せない。Waymoを例にするなら、2017年あたりの水準と言える。
先行する米中両国に対し、日本は大きく水をあけられた感が強い。この差はどこから生まれたのか。下山は法制度の問題についても触れつつ「社会実装に対して慎重すぎる国民性が、一番の要因といえる」と指摘する。
日本では、自動運転の無人タクシーが重大事故を起こせば、メディアや国民が過敏に反応し、すぐ運行停止になることが目に見えている。下山は「先陣に立った企業が損をしやすい」と分析する。こうした状況が続く中で海外との差が開いているわけだ。
【参考】関連記事としては「日本での普及には「誰が矢面に立つか」が重要 ライドシェアと自動運転に共通点」も参照。
■「ビジネス視点」こそが重要
下山は「ビジネスの視点」でのアプローチが欠落している点にも言及する。
日本は「技術開発」を出発点にこの分野に取り組む企業が多いが、米中の場合、2035年には自動運転市場の規模が700兆円規模に達するという未来を想像し、そのマーケットでどういうビジネスを展開すべきかという視点で果敢な投資を行っているという。
「こうした違いが、投資額の規模やスピード感、本気度などの差につながっている」と下山は話す。
確かに、日本の場合「自動運転開発」そのものが目的化している節がある。開発勢、運用勢などが分業され、開発勢は自動運転ソリューションそのもののビジネス化を図り、運用勢がそのソリューションの販売や運用サービスを手掛ける形だ。
自動運転バスで言えば、顧客の多くは自治体で、自治体の意向に沿って開発勢や運用勢が関わっていく形が主流だ。開発勢が主体的にtoC目線でビジネス化を進めている例はほぼない。
【参考】関連記事としては「自動運転ビジネス専門家・下山哲平が語る「桶屋を探せ」論 結局「自動運転」は儲かるのか」も参照。
■技術は「コモディティ化」する
前段で日本は技術視点に縛られがちであることに触れたが、下山はこの点についてもう一つの問題を提起している。技術のコモディティ化(※市場価値が低下し、一般的なものになってしまうこと)だ。
自動運転技術は現時点では、その技術に対する価値は高い。しかしいずれ自動運転の技術が確立され、「自動運転で走行すること」はもはや当たり前のこととなり、技術そのものの付加価値は確実に薄れていく。
そうした時代が来るため、自動運転技術そのものではなく、自動運転技術を活用した新たなビジネスに取り組む必要があるわけだ。
ではどういうビジネスのポテンシャルが高いだろうか。下山は一例として「UberやUber Eatsはユーザーとの接点を押さえ、自動運転タクシーや無人配送ロボットを展開するためのプラットフォームとしてすでに機能し始めている」「こうした未来を投資家は早期に予想し、赤字を垂れ流しながらもユーザー獲得に巨額をつぎこんできた」と解説する。
【参考】関連記事としては「自動運転の技術開発「消える付加価値」 専門家・下山哲平が語る「業界再編の今後」」も参照。
■テスラは自動運転自家用車をロボタクシーに
2025年6月中に自動運転タクシーサービスを開始することが計画されている米EV大手テスラ。当面は専用車両を使用し、Waymoと同様にジオフェンスなどODD(運行設計領域)を設定してサービス展開することが報じられている。
これだけなら特筆すべき点はないが、テスラにとってこれはただの通過点に過ぎない。イーロン・マスクCEOは、FSDのアップデートによって自家用車を自動運転化し、使用していない間自動運転タクシーとして稼働可能にする新ビジネスを提唱しているのだ。
レベル5、あるいはそれに限りなく近いレベル4技術が必須となるが、テスラオーナーは、テスラのプラットフォームにマイカーを登録することで自分の都合に合わせて自動運転タクシーとして稼働させることが可能になる。
オーナーは運賃収益の一部を手にすることができ、車両代・リース代などに充当できる。高額になりがちな自動運転車を手に入れやすい環境が整うのだ。一方、テスラはプラットフォームから収益を得られるほか、このサービスが実現すれば新車販売が爆増することが予想される。
明快かつ魅力的なビジネスアイデアと言える。さらに言えば、マスク氏はここで鍛えた自動運転技術やAI技術を、ヒューマノイドロボットや火星探索などにも活用していく腹積もりだ。人格的に問題を抱えていそうなマスク氏が大きな支持を集めるのは、こうした構想とイノベーション実現に向けた突破力を有しているためだ。
【参考】テスラの動向については「凄いぞテスラ!自動運転で「世界最凶級のロータリー」をクリア」も参照。
■Uberはプラットフォーマーとしての地位を確固たるものに
ライドシェアサービスの代名詞的存在として知られるUber Technologies。その配車ネットワークは世界各地に広がり、Uber Eatsをはじめとした関連サービスのプラットフォームも次々と立ち上げている。
Uberもかつては自動運転技術の自社開発に注力していた一社だ。結果として思うような成果を出せず、事業をAurora Innovationに売却することとなったが、拡大路線を続けるプラットフォーム事業で膨大な赤字を抱えつつもさらに膨大な資金を必要とする自動運転開発を並行していたことから、その本気度がうかがえる。
そもそも、Uberにとって自動運転技術による無人移動サービスは既定路線とも言える成長戦略だ。早い段階で自動運転技術に注目し、単純なプラットフォームビジネスからの脱却を目指したのだ。
同社の配車プラットフォームサービスは、移動したい人と一般ドライバーやタクシーなどを仲介する手数料収入がベースとなるが、ここに直営の無人移動サービスを導入できれば、運賃相当分も自社で収益化することができる。
これまで獲得してきた利用者を顧客として保ちつつ、直営の移動サービスを展開することが可能になるのだ。Waymoなどの自動運転タクシーサービスと同様のビジネス形態となるが、すでに膨大な顧客と配車エリアを有している点が有利に働く。
自社開発を諦めた現在は、Waymoなど開発各社とパートナーシップを結び、Uberのプラットフォームで自動運転タクシーを配車可能にしている段階だ。
直営に比べ収益を最大化することができないが、将来スタンダードな存在になっていくであろう自動運転タクシーのプラットフォームとして、いち早く世界を網羅する戦略だ。自動運転技術が一定水準に達すれば各国の規制が緩み、既存タクシー業界を飲み込む形で大きなシェアを獲得することが考えられる。
無人配送などの応用サービスも相乗効果を発揮し、移動・輸送を司るプラットフォーマーとして絶対的な基盤を築くビジネスモデルと言える。
【参考】Uber Technologiesの取り組みについては「自動運転銘柄、超ド本命が「Uber」な理由 「ほぼノーリスク」で躍進か」も参照。
■【まとめ】自動運転技術の確立はゴールではなくスタート
将来的な有望性は認められつつも、いまいち温度が上がりきらない自動運転分野。先立つ莫大な開発コストと現状の技術水準ばかりに目が向かい、ビジネス化に迷走しているのが日本の現状だ。
一度目先の技術から視点を外し、技術が確立した前提でどのようなサービス・ビジネスが有望かを考えてみてはどうか。自動運転技術の確立はゴールではなくスタートだ。その技術でどのようなビジネスを生み出すことができるか。今の日本にかけているのはこの視点ではないだろうか。
【参考】関連記事としては「自動運転はいつ実用化される?レベル・モビリティ別に解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)