自民総裁選、誰も”首相特権”で「自動運転解禁」を優先せず

交通施策は総裁選の論点にならず?



出典:自民党 総裁選2024 公式サイト

過去最多の9人が乱立し、良くも悪くも大きな盛り上がりを見せている自民党総裁選。各地での演説や討論会も熱気を帯びているようだ。

ネット上では、ニコニコ主催の候補者ネット討論会も放映された。この中で、「総理特権で政策一つを必ず実現できるとしたら何?」――という興味深い質問が出された。


思い思いの政策が発表されたが、残念ながら自動運転社会の推進を優先するという意見は誰も出さなかった。

自動運転社会の実現という観点からは、どの候補が最も適任なのか。討論会での発言をはじめ、各候補の自動運転施策に迫る。

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■自民党総裁選の概要

過去最多の9氏が立候補

総裁選には、届け出順に高市早苗氏、小林鷹之氏、林芳正氏、小泉進次郎氏、上川陽子氏、加藤勝信氏、河野太郎氏、石破茂氏、茂木敏充氏の9氏が立候補した。15日間の選挙期間を経て9月27日に開票される。28代目となる自民党総裁、そして事実上第102代内閣総理大臣の座を争う重要な選挙戦だ。

■候補者ネット討論会の様子

総理特権があったら何をする?

ニコニコ主催の候補者ネット討論会には、9氏全員が参加した。日本経済をさらに成長させるための政策や外交などに関する質問が用意され、各候補者が自身の考えを披露した。


この中で、「総理になったら特権で具体的な政策一つが必ず実現できるとしたら、その一つは何か?」という興味深い質問が出された。せっかくなので、各氏の回答を紹介する(回答順)。

河野氏「東京一極集中が激しくなっている。高等教育を受けるときに若者が大都市に出ていく。これを逆転したい。首都圏にある国の研究機関、教育機関や高等教育機関をなるべく地方に移していきたい」

石破氏「地方創生。農業、漁業、林業、サービス業、中小企業など伸びる余地が一番残っているのは地方。地方が持っている可能性を最大限に引き出すことで日本はさらに伸びていく」

茂木氏「日本には伸びしろが多い分野がたくさんある。中小企業や農林水産業、スタートアップ企業、人材もそう。それぞれの産業や人材に合った支援策をとり、伸びしろを高めていくことが重要」


高市氏「令和の省庁再編を断行する。情報通信、技術革新、産業振興、こうしたことをいろいろな役所がお互い似たような政策をやっており、成果が共有できていない」

小林氏「企業などを引退した研究者や技術者に教員免許を与えすべての小中学校に派遣したい。人間力のある人材を培っていくため、子どもたちにものの見方や考え方を学んでもらう機会を作りたい」

林氏「道州制をやりたい。それぞれの道州に首都機能を分散する。東京だけが大きく財政力が強いことができない理由だったため、首都機能もあわせて分散させたい」

小泉氏「3つの改革に加え憲法改正の国民投票もパッケージにした小泉改革関連法案を出す。新しい国の形を決めることを国民に直接問いたい」

上川氏「ワークライフバランスの検証と行動指針を決めてから20年たった。さらに磨きをかけ少子化を止めたい。この問題に全力をかけ日本を再生したい」

加藤氏「国民の所得倍増のためいろんな知恵を結集する。国民所得倍増実現会議、これを進める戦略本部を設け国内外から優秀な人に来てもらい、何ができるのか、何をやるのかを打ち出し実行していく」

自身が力を入れている政策のうち、賛否が激しいものやナイーブな問題を抱えているものを挙げる候補が多かった印象だ。

当然と言えば当然だが、自動運転に言及する回答はなかった。すでに解禁されており、ゆっくりではあるものの前進している事業をわざわざ特権で推進する必要もないという判断だろう。

なお、討論会では「日本経済をさらに成長させるため私ならこうする」という質問に対し、河野氏が「自由主義経済の中で政府の役割というのは公平な競争ができる場を作ることと、企業の活力を最大限生かすことができるよう時代遅れになった規制を改革していく、この二つと思う。高齢化がこれだけ進んでいる日本で自動運転が世界と比べて遅れている。これはやはり規制改革が遅れたということ。規制改革をフルスピードでやり遂げる」と話し、唯一自動運転に触れていた。

▼ニコニコの【自民党総裁選2024】候補者ネット討論会はこちら
https://live.nicovideo.jp/watch/lv345712164

■各候補の自動運転関連の発言や取り組み

公式所見で自動運転に触れているのは河野氏のみ

河野太郎デジタル大臣=出典:デジタル庁

特権として自動運転を推進する発言はなかったものの、自動運転の社会実装は自民党の政策であり、既定路線だ。誰が総理になろうとも、この路線が変更されることはまずあり得ない。

では、誰が総理になれば取り組みはさらに加速し、自動運転社会の早期実現が図られるのか。自民党公式サイトの総裁選ページから各候補者の所見を拝見したところ、自動運転に言及しているのは河野氏一人だった。

河野氏は「規制改革を断行し、民間主導の投資環境を作り出す(自動運転、スマートグリッド、GX、廃棄物・循環型経済)」としている。規制改革を推進する一分野として例示した形だ。

道路交通施策全般に対象を拡大すると、小泉氏が「安全に利便性の高い移動サービスを享受できるよう、ライドシェアを完全解禁する」、加藤氏が「公設民営などさまざまな手法による地域公共交通の維持」と2氏の言及に留まる。

道路交通施策そのものが今回の総裁選で論点になっていないと言える。外交や経済対策などと比べれば枝葉に相当するものかもしれないが、公共交通の観点から捉えれば社会福祉に関わる。国民の日常的な移動を保証する生活基盤たる存在であり、地方を中心に大きな課題を抱えたままではないだろうか。

過去の発言や取り組みは?

次に、各氏個人の公式サイトなどで自動運転を検索してみた。

高市氏に関しては、特に自動運転に言及した情報は出てこなかった。

林氏は、公式サイトでは自動運転に関する言及はないが、2019年にXで「深センの自動運転のベンチャー企業、オートXを視察。かなりスムーズな自動運転、特に自然な合流が印象的でした。低コストなカメラが強みということでした。」と投稿している。視察の目的などは不明だが、AutoXの技術に触れる機会があったようだ。

小林氏は、サイバーセキュリティ対策や5Gをはじめとした情報インフラ整備、エネルギー政策の観点から自動運転に言及しており、委員会質疑などでも触れている。

小泉氏は2015年の内閣府大臣政務官時代、「近未来技術実証特区」の取り組みの一環で日産本社を訪れ、自動運転の視察・体験を行っている。

「自動走行の研究を進める国内外の企業や研究者が、日本なら他国ではできないレベルで実証可能と思えるような環境整備を引き続き検討したい」と意気込んでおり、同年、内閣府や神奈川県などが開催した自動運転タクシー実証発表会では、会場に自動運転車で入場するパフォーマンスを行うなど、シンボル的な役割を果たしている。

上川氏に関しては、特に自動運転に言及した情報は出てこなかった。

加藤氏は、SOMPホールディングが運営する介護・福祉に関するICT・ロボットを活用した実証専用施設「Future Care Lab in Japan」を2019年に視察し、自動運転車椅子を体験した際の様子をブログにアップしていた。

河野氏は、内閣府特命担当大臣(規制改革)を務めていた2020年、規制改革推進会議のワーキンググループで「自動運転の開発で世界の先頭を走らなければ日本の自動車産業に未来はない。そういう重要性が理解されず、つまらぬ規制が沢山あるというのが現実」とし、出席した国土交通省や警察庁の職員らに「当事者意識を持って、今やるためにどうしたらいいのか、という答えを持ってきてもらいたい」と発破をけるなど、規制改革の観点から自動運転の早期実現を目指している。

自身のSNSでも度々自動運転に言及しており、2023年には北欧諸国を訪問し、エストニアでAuve Tech製自動運転車の試乗、Clevonの自律走行配送ポッドの見学などを行ったようだ。2024年には、神奈川中央交通が実施する自動運転実証も体験している。

今回の総裁選でも、地方演説会で「高齢化が進む日本こそ自動運転の技術が必要」と熱弁しているようだ。

石破氏に関しても特に自動運転に言及した情報は出てこなかったが、2015年に内閣府特命担当大臣を務めていた際、平将明副大臣、小泉進次郎政務官のもとに「近未来技術実証特区検討会」を設置した。検討会では、自動飛行や自動走行などの近未来技術に関する実証プロジェクトと実現に向けた規制改革事項などについて検討を行うとしていた。

茂木氏は経済再生担当大臣を務めていた2017年、人づくり革命と生産性革命の視察で米サンフランシスコを訪れ、テスラの自動運転EV(恐らくADAS)の試乗や、Uber Technologiesからライドシェアシステムについて説明を受けたことを報告している。

その際、「移動革命の未来。そこには”もっと安全に、もっと便利に、もっと効率的に”という欲求とそれを実現するテクノロジーの力があった。規制緩和、モデル事業の実施など、日本でやるべき事は多いが、こうした世界の趨勢に乗り遅れることのないようスピード感を持って進めていかなければいけないと強く感じた」としている。

自動運転分野では河野氏リード、小泉氏が追いかける展開に?

自動運転に関しては、発言・行動ともに河野氏が頭三つほど抜け出しているようだ。規制改革を前面に押し出し、その代表例の一つとして自動運転を取り上げることが非常に多い。規制改革推進会議においても、社会実装を前提としたスピード感ある議論を求めている。

近年は少々尖り過ぎている印象が強く、周りがついてこられるか懸念が残るが、強いリーダーシップのもと自動運転を強力に推進することは間違いないだろう。

小泉氏も次代を見据えた先進技術やサービスへの理解が深く、イノベーション志向が強い印象だ。過去に推進していた事実もあり、自動運転に関する取り組みをいっそう加速しそうだ。その際、担当閣僚に河野氏のような超絶推進派を当てることができれば鬼に金棒だろう。

3番手には、茂木氏を推したい。ライドシェア解禁を公言する茂木氏にとって、反発が少ない自動運転は推進しやすいものと思われる。移動革命に向けた総合的な新施策に期待したいところだ。

■歴代内閣の取り組み

安倍~菅~岸田内閣が一貫して自動運転施策を継続

日本が自動運転の研究開発に本腰を入れ始めたのは第2次安倍晋三内閣時代(2012年12月~2020年9月*第4次安倍内閣まで含む)だ。ITS・自動走行に係る政府全体の戦略を含む「官民ITS構想・ロードマップ」を2014年に発表し、以後毎年改訂を繰り返しながら様々な研究や実証を官民一体となって進めてきた。

続く菅義偉内閣(2020年9月~2022年10月)も同路線を継続し、菅総理が発足させたデジタル庁でも自動運転に関する議論が始まった。これまで主導的立場にあった国土交通省・経済産業省に加え、デジタル・ITの観点からのアプローチも強化された格好だ。

自動運転レベル4を実装可能にする改正道路交通法が可決されたのも菅内閣時代だ。

デジタル田園都市国家構想を掲げた岸田内閣(2022年10月~)は、モビリティ・ロードマップ 2024を策定したほか、自動運転サービス実用化の目標を2025年度を目途に50カ所程度、2027年度100カ所以上と定めるなど、社会実装に向けた各地の具体的な取り組みを後押ししている。

【参考】国の自動運転施策については「自動運転、日本政府の実現目標は?(2024年最新版) セグメント別解説」も参照。

自動運転、日本政府の実現目標は?(2024年最新版) セグメント別解説

■【まとめ】平常運転か?特急か?

岸田総理からバトンを受け継ぐことになる新総裁・新総理は果たしてどの候補となるのか。いずれの候補が新総理となっても、自動運転施策が継続されることはほぼ間違いない。ただ、平常運転で行くのか、特急に乗り換えさらに加速するかの違いは大きい。

先行する米国・中国に追い付くのは至難の業だが、それ以外の国も実用化に向けた取り組みが芽吹きだしており、民間の競争とともに国家間競争は激しさを増していくことが予想される。

自動運転先進国となり、より安全で利便性の高い次世代交通をいち早く確立するためにも、新総理には交通分野のイノベーションにもしっかり目を向けてもらいたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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