岸田首相は「自動運転メガネ」!?通年運行、14都道府県に拡大

「全国で実施」掲げる政府、進捗率は29%



出典:首相官邸

自動運転サービスに向けた継続的な運行実証が現在、14都道府県の計16カ所の一般道で行われていることが国の資料から判明した。全都道府県での実施を目指す国の方針と照らし合わせると、進捗率は29%となる。

2024年度は全都道府県で計99件の事業が採択されており、国は2025年度に全都道府県での通年運行の計画策定または実施を目指す方針だ。


こうした取り組みは、岸田文雄首相が掲げる「2025年度に50カ所で自動運転サービスを実現」するという目標にどのようにつながっていくのか。各地の取り組みとともに、自動運転の最新動向に迫る。

▼自動運転インフラ検討会について
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/jido-infra/pdf01/04.pdf

■自動運転実証・サービスの現状

16カ所で通年運行事業実現

今回の最新情報は、2024年6月開催のデジタル行財政改革会議における国土交通大臣提出資料などから明らかになった。

資料によると、補助事業などを通じて2024年5月1日時点で一般道16カ所で通年運行事業が行われている。都道府県別では、北海道、秋田県、茨城県(2カ所)、千葉県、東京都、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県(2カ所)、三重県、大阪府、愛媛県、沖縄県の14都道府県だ。


2024年度は、これまでの継続事業を含め全都道府県で計99件の事業を採択しており、このうち26件は通年運行を予定しているという。

一般道における自動運転については、2024年度中に約100カ所で計画・運行を行い、2025年度に全都道府県での通年運行の計画策定または実施を目指す方針で、引き続き全国での自動運転の社会実装・事業化を推進する。

自動運転事業は、「小型カートを用いた自動運転」「ハンドルがない車両を用いた自動運転」「小型EVバスを用いた自動運転」の3種に大きく分類されている。以下、各分類の取り組みを紹介する。

出典:国土交通省公開資料


■小型カートを用いた自動運転

永平寺でレベル4サービス実装

出典:経済産業省プレスリリース

ゴルフカーをベースとした低速小型カートモデルの自動運転は、2024年度に7件が採択されている。交通量の少ない行動や限定空間などを時速12キロ以下で走行するのが特徴だ。

すでに通年運行が実施されている自治体は、秋田県上小阿仁村、愛知県春日井市、福井県永平寺町、大阪府河内長野市、沖縄県北谷町の5エリア。永平寺町が代表例で、同エリアでは国内初のレベル4サービスが展開されている。

永平寺町では2017年から実証を続けており、2020年12月に、1人の遠隔監視・操作者が3台の自動運転車を同時に監視対応するレベル2自動運転移動サービスを開始した。翌2021年3月に自動運転システム「ZEN drive Pilot」がレベル3の自動運行装置搭載車として認可を受け、遠隔監視・操作型による車内無人走行を実現した。

2023年3月には遠隔監視のみのレベル4の自動運行装置(ZEN drive Pilot Level 4)を備えた車両として認可を受け、同年5月に国内初となる特定自動運行許可を取得し、レベル4サービスを展開している。

車両はヤマハ発動機のゴルフカーをベースとしたグリーンスローモビリティで、認可を受けた車両4台で運行している(予備含む)。

走行ルートは、自転車歩行者専用道となっている京福電気鉄道永平寺線の廃線跡地「参ろーど」の永平寺町荒谷~志比(門前)間の約2キロで、時速12キロ以下で無人運行を実現している。ルート上には電磁誘導線とRFIDが敷設されており、これを車両に搭載したセンサーが読み取ることで自車位置を正確に把握する仕組みだ。

【参考】永平寺町の取り組みについては「自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ」も参照。

北谷町も同様の自動運転システムを採用しており、遠隔常時監視型のレベル2運行を2021年から実施している。走行ルートは、道路交通関連法規上の道路に該当しない西海岸フィッシャリーナ地区~アメリカンビレッジ海岸線の約2キロの区間となっている。

上小阿仁村では、国土交通省主導の「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転」実証として2017年度に事業着手し、2019年11月に自動運転サービスを開始した。基本的にはドライバーが同乗して常時監視するレベル2運行だが、一部区間を期間限定で一般車両が進入できない専用区間とし、自動運転運行を行った。詳細は不明だが、現在レベル4運行に向け新たな実証に取り組んでいるようだ。

春日井市では、高蔵寺ニュータウン石尾台地区で自家用有償旅客運送によって提供しているオンデマンド型送迎サービスを2023年2月からレベル2で運行している。

出典:KDDIプレスリリース

名古屋大学が開発した自動運転システムを採用しており、電磁誘導線なしの走行を可能にしている。あらかじめ決められた運行ルートに128カ所の停留所を設け、セーフティドライバーが常時監視しながら走行しているようだ。自動運転ができない区間や路上駐車対応時などに手動介入している。

オペレーターが入力する予約システムと車両が連携し、配車・運行経路設定が自動化されている。

【参考】春日井市の取り組みについては「国内初!白ナンバー(自家用車)で自動運転100円送迎」も参照。

河内長野市では、南花台地区内で運行しているオンデマンドモビリティ「クルクル」を自動運転化し、レベル2運行している。エリア内の乗降ポイントは約300カ所に上り、電磁誘導線を活用した自律走行を行っている。誘導線上に停車車両や障害物などがあった場合は手動で対応している。

■ハンドルがない車両を用いた自動運転

ARMAを中心に導入事例続々

出典:BOLDLY公式Facebook

ハンドルがない車両とは、自家用車ベースではなく自動運転専用に設計されたオリジナルモデルを使用したものを指す。2024年度は28件が採択されている。

この分野の代表格はGaussin Macnica Mobility(旧Navya)製の「ARMA」で、BOLDLYやマクニカの取り組みが際立っている。特徴としては、一般道の混在空間を時速12~20キロ以下などの低速で走行する。ほぼ自家用車サイズで、10人前後が乗車可能なボックス型タイプが多い。

現在、北海道上士幌町、茨城県常陸太田市、茨城県境町、東京都大田区、愛知県日進市、岐阜県岐阜市、新潟県弥彦村、三重県多気町、愛媛県伊予市の9エリアで通年運行が行われている。

先駆けとなったのは境町だ。同町はBOLDLYとマクニカの協力のもとARMAを導入し、2020年11月に定常運行を開始した。実質レベル2運行だが、ルートや台数を徐々に増やし、一般車両と協調した運行体制の構築に先駆的に取り組んでいる。2023年11月には、エストニア企業Auve Tech製の「MiCa」も導入している。

2024年7月2日現在、累計走行便数は2万1,469回、累計乗車人数は2万9,333人に達している。

東京都大田区では、羽田空港に隣接する複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」でBOLDLYやマクニカ、鹿島建設などがARMAを導入し、2020年9月に実証を開始した。施設内のみなし公道を中心に運行を続け、累計走行便数1万3,783回、累計乗車人数6万9,161人となっている。

2024年6月に東京都公安委員会から特定自動運行の許可を取得し、施設敷地内においてはレベル4運行が可能になった。今後、無人化を推し進めていくものと思われる。また、施設と羽田空港を結ぶ一般公道ルートにおける実証も行っており、こちらの動向にも注目したいところだ。

上士幌町では、2022年12月からARMAの定常運行を行っており、冬季間の積雪状態での運行ノウハウ蓄積なども進めている。累計走行便数は1,525回、累計乗車人数は2,028人となっている。

日進市では2023年1月に定常運行を見据えた実証に着手し、同年5月に事実上の定常運行に移行したようだ。こちらもARMAを導入し、累計走行便数1,806便、累計乗車人数5,238人となっている。

岐阜市では2023年11月に定常運行が開始された。自動運転バスの通年運行事業を進めており、バス3台を導入して5年間継続して運行することを決定している。こちらもARMAが導入されており、累計走行便数2,811便、累計乗車人数2万7,380人となっている。

出典:BOLDLYプレスリリース

【参考】岐阜市の取り組みについては「自動運転バス、攻めの「5年間通年運行」宣言 岐阜市で運行スタート」も参照。

多気町では2023年12月、大型商業リゾート施設「VISON」(ヴィソン)でMiCaの実証運行が始まった。当初計画では2024年2月までの3カ月間の運行となっていたが、現在も運行されており、同年6月に運行ダイヤを変更したようだ。

弥彦村では2024年1月にMiCa2台による通年運行がスタートしている。上士幌町での経験を生かし、降雪・積雪環境下での運行を拡大している。

伊予市もMiCaを導入し、2024年1月~2月にサービス実証を行っている。その後も継続運行されている。ここまではBOLDLYが運行を主導している取り組みだ。

常陸太田市では、マクニカ主導のもと2024年2月に定常運行を開始している。自動運転車はARMAの後継モデル「EVO」を導入し、市役所や商業施設内など片道約1.6キロのルートを運行している。

■小型EVバスを用いた自動運転

ティアフォー製「Minibus」の導入開始

出典:小松市プレスリリース

乗車定員20数人サイズの小型EVバスを活用した自動運転サービスも花を咲かせつつある。2024年度に33件が事業採択されており、千葉県横芝光町と石川県小松市では通年運行がスタートしているようだ。

小松市では、BOLDLYやティアフォー、アイサンテクノロジーなどの協力のもと2023年10月に長期実証に着手し、2024年3月に通年運行を開始した。

車両はティアフォー製の自動運転バス「Minibus」で、小松駅と小松空港をつなぐ片道約4.4キロのルートを最高時速35キロで走行している。2024年7月2日現在、累計走行便数は1,276便、累計乗車人数は5,959人となっている。

横芝光町では、BOLDLYが2024年2月に通年運行を開始した。こちらもティアフォー製の自動運転バス「Minibus」を導入し、東陽病院~橫芝駅前~ピアシティ橫芝光を結ぶ約5.5キロのルートを走行している。累計走行便数は1,270便、累計乗車人数は1,461人となっている。

【参考】小松市の取り組みについては「自動運転バスが「1,000便無事故無違反」達成!ティアフォーが発表」も参照。

■自動運転サービス実装に向けたビジョン

まずは通年運行の実証増加を

国は2025年度を目途に、全都道府県で通年運行の計画策定・実施を目指すとともに50カ所で自動運転サービス開始を目標に掲げている。2027年度には100カ所以上での実現を視野に収める。

この目標に向け、2024年度は一般道での通年運行事業を20カ所以上で行う短期目標を掲げていた(2023年10月時点)が、最新動向によると26カ所で通年運行が予定されているようで、この目標は達成できる見込みだ。

ただし、現在通年運行が行われている16カ所すべてがレベル4運行を達成しても、まだ目標の30%強に留まる。サービス化に向けては長期実証・通年運行などを経てエリア特有の課題を克服する必要があるため、通年運行の取り組みをさらに加速することができるかどうかが1つのポイントとなりそうだ。

2024年度に採択された99エリアのうち、通年運行に達するものが最終的にどれだけ出てくるか、まずは注目したい。

広域展開見据えた事業者の台頭は好材料

自動運転サービス加速のもう1つのカギは、BOLDLYやティアフォーといった事業者の存在だ。前述したように、ARMAやMiCaを活用した事業の多くはBOLDLYが手掛けており、各地で運行管理を担っている。

自動運転システムそのものの開発は行わないものの、社会実装するにあたり必要となるタスクや課題を洗い出し、各自治体がスムーズに事業着手できるようスキームを磨き上げている。こうした知見は横展開に非常に有利だ。

また、ティアフォーの自動運転システムを活用した事業も続々と出始めてきた。パートナーシップを結ぶ企業もアイサンテクノロジーをはじめ三菱商事、BOLDLY、WILLERなど多彩で、自治体にとっても間口が広い。

その一方、基幹部分となる自動運転システムはいずれも「Autoware」で統一されているため、各社の取り組みからフィードバックした課題・改善点はすべてに適用可能で、効率的なシステム向上を図ることができる。

ヤマハ発動機のゴルフカーベースの自動運転然りで、このような広域展開を見据えた事業者の台頭は、国の目標達成に大きく貢献する。もはや欠かすことのできない存在と言っても過言ではないほどだ。

国は継続的な施策実施を

ただし、近い将来の課題も見え隠れする。国の音頭のもと地方自治体が手を上げ、続々と実証に乗り出すのは良いことだが、基本的にしばらくは採算が見込めず、税金投入し続けなければならない状況が続く可能性が高い。

大半がもともと赤字前提の路線設定とは言え、国からの補助・助成を見込んで事業に着手したものの、途中で自主財源に……となると、先行き不透明感が増す。

一定の赤字運営を前提に据えても、許容できる限度は存在する。国には、中長期的に技術とサービスが安定化するまでケツを持つ継続的な施策を望みたいところだ。

■【まとめ】情報・技術共有を前提とした横展開を推進

自動運転サービス実装に向けた取り組みが大きく加速していることに間違いはなく、今後、通年運行組の中からレベル4を達成する事例も徐々に増加していくものと思われる。

目標達成のカギを握るのは、BOLDLYやティアフォーといった有力事業者の動向と国の支援体制だ。情報・技術共有を前提とした横展開の推進と、先々を見通した公的支援で自動運転社会の礎をしっかりと築いてもらいたい。

【参考】関連記事としては「自動運転、2024年度に一般道20カ所以上で通年運行 政府目標」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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