電磁誘導線を使わない「自動運転レベル4」、日本で認可!鹿島やBOLDLYが発表

現時点で唯一の民間事例、許認可が加速か?

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出典:鹿島建設プレスリリース

鹿島建設とBOLDLY、羽田みらい開発がHANEDA INNOVATION CITY(以下HICity)で取り組む自動運転バスが2024年6月、東京都公安委員会から特定自動運行の許可を取得した。いよいよ自動運転レベル4による運行が可能になった形だ。

民間主体の取り組みとしては国内初で、特別な道路インフラなどを必要としない純粋なレベル4サービスが国内でも誕生する見込みだ。HICityの取り組み概要とともに、自動運転サービスの最前線・現状に迫る。

【自動運転ラボの視点】
ただし、「当面の間は、車内にスタッフ(特定自動運行主任者)を配置し、乗車案内の他、事故発生時の救護などの現場対応や事前に定めたODDを満たさない場合の運転操作などを行います」という説明があり、これがこれまでの運行の延長線上での対応なのか、レベル4の運行をスタートさせてから話なのかは発表内容からは分からないが、一旦は車内にスタッフがいて、そもそもODD(※事前に定めた走行環境条件)を満たさない場合の運転操作をするなら、実態的にはレベル3に近い、という見方も出てきそうだ。

■HICityにおける取り組みの概要

2020年に自動運転実証スタート

HICity内における自動運転実証は2020年9月に始まった。鹿島建設、BOLDLY、羽田みらい開発、マクニカ、日本交通が自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」を活用し、レベル2による定常運行を開始した。

ハンドルやブレーキといった一般的な制御装置を備えない特別装置自動車が自動運転バスとして定常運行する日本初の取り組みだ。

羽田みらい開発が運行主体となり、日本交通が運行管理を担う。鹿島建設は空間情報データ連携基盤「3D K-Field」を提供し、BOLDLYは遠隔監視システム「Dispatcher」の提供や運転手認定トレーニングの実施、マクニカがARMAの導入やメンテナンスなどをそれぞれ担っていた。

敷地内のみなし公道が主な走行ルートだが、羽田空港第3ターミナルまでの一般公道でも継続実証を行うなど、徐々に取り組みの濃度を高めていった。

2023年12月には、ARMAに続きBOLDLYが販売代理店を務めるエストニア企業Auve Tech製の自動運転バス「MiCa(ミカ)」の通年運行も開始している。

2024年6月28日時点における同所の運行は累計1万3,682便、乗車人数6万9,016人となっている。

敷地内一周800mのルートでレベル4許可

このほど特定自動運行許可を取得したのは、HICity内で一般交通の用に供するその他の場所に位置付けられるみなし公道で、6月21日付けで東京都公安委員会から特定自動運行許可、6月26日付けで東京空港警察署から道路使用許可をそれぞれ取得した。

敷地内に一周約800メートルのルートを設定し、最高時速12キロで走行する。バス停は今のところ2カ所設置されている。特定自動運行実施者はBOLDLYで、特定自動運行主任者はセネックが手掛ける。

出典:鹿島建設プレスリリース

レベル4バスの運行許可取得に向け関係省庁と具体的な協議を進める過程において、以下などに新たに取り組んだという。

① では、自動運転バスが緊急車両のサイレン音を検知すると、Dispatcherが自動で停車指示を出すシステムを開発した。HICity内では工事車両が走行する際にサイレン音が鳴ることもあるが、AI(人工知能)がしっかりと識別し、緊急車両のサイレン音のみを検知して停車指示を出すという。

②では、緊急車両が接近した際に遅滞なく確実に停車できるよう、自動運転バスとDispatcherをつなぐ通信回線の冗長化を図った。

③では、車両が備えるLiDAR8機に新たに2機を加え、障害物検知の範囲を高さ30センチから15センチ以上のものまで拡大した。

④では、自動運転中であることを周囲の交通参加者らに伝えるため、自動運転バスに「自動運行中」と表示するディスプレイを設置した。ODD(運行設計領域)を満たさない状況になり手動運転を行う際は、ディスプレイが「手動運行中」に切り替わる。

出典:鹿島建設プレスリリース

当面は車内に人員配置

茨城県境町にある遠隔監視センターからDispatcherを使用して遠隔監視を行うが、当面は車内に特定自動運行主任者を配置し、乗車案内のほか事故発生時の救護などの現場対応やODD外となった際の運転操作を行う。

将来的には、車内に特定自動運行主任者を配置せず、遠隔監視者が乗客をサポートする運行体制に移行する予定としている。また、羽田空港までを結ぶ一般公道ルートにおける自動運転サービスについても実現を目指していく方針としている。

主流の自動運転システムでは国内初

HICityにおける特定自動運行は、ODDがみなし公道に設定されているもののスタンダードな自動運転システムを採用しており、特別な道路インフラなどを必要としない。

後述する国内第一例目の特定自動運行(福井県永平寺町)は磁気マーカーシステムを必須としているため、汎用性の面で今回の事例は大きな一歩と言えそうだ。

海外勢と比べると見劣りも

出典:Waymoプレスリリース

ただ、先行する海外勢と比べると見劣りするのは否めない。自動運転タクシーに力を入れる米Waymoは、例えばアリゾナ州フェニックスでは315平方マイル=816平方キロメートルのエリアを自律走行している。東京23区の面積(622平方キロメートル)よりも広い範囲を柔軟なルート設定で24時間自動運転可能にしているのだ。

中国では、例えば上海市が自動運転テストエリアに定める総面積は900平方キロ超に及ぶ(2023年時点)。武漢市で百度が取り組む自動運転タクシーのサービスエリアは530平方キロメートルという。このほか、重慶市永川区の無人自動運転タクシーの運営可能エリアは30平方キロメートル、長沙市の自動運転テストエリアは70平方キロメートルとなっているようだ。

Waymoをはじめとした自動運転タクシー開発事業者のすごさをまざまざと見せつけられるような印象だ。タクシーとバスの違いはあるが、仮にWaymoがフェニックスで自動運転バスを開始する場合、相当短期間でさまざまな路線を実装できるものと思われる。日本勢との差は、一歩、二歩どころではなく相当離れているのかもしれない。

日本ではこれまで自動運転バスの開発が中心だったが、ホンダを筆頭に自動運転タクシー実装に向けた取り組みも広がり始めた。自家用車ベースの自動運転タクシーは、バスに比べ大きなフリートで実証を行いやすい。

稼働台数が増えれば、それだけ開発は加速する。1台の自動運転車で大事に実証するのではなく、複数台を導入できる環境構築が必要なのかもしれない。日本が米中を追いかけるには、まず台数そのものを増やさなければならないようだ。

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■特定自動運行の状況

第一号は永平寺町のZEN drive、電磁誘導線を使用

国内第一号の特定自動運行は、福井県永平寺町で運行中の「ZEN drive Pilot Level 4」だ。国の事業のもと、産業技術総合研究所を中心にヤマハ発動機、三菱電機、ソリトンシステムズが研究開発を進めてきた。

2021年3月にZEN drive Pilotが自動運行装置搭載車(レベル3)として認可を受け、遠隔監視・操作型による車内無人走行を実現した。2023年3月には遠隔監視のみのレベル4の自動運行装置を備えた車両として認可を受け、同年5月に国内初となる特定自動運行許可を取得した。

車両はヤマハ発動機のゴルフカーをベースとした7人乗りのグリーンスローモビリティで、自動運行装置(ZEN drive Pilot Level 4)を装備し、走行環境条件の付与を受けた車両4台で運行している(予備含む)。

ルートは自転車歩行者専用道となっている京福電気鉄道永平寺線の廃線跡地「参ろーど」の永平寺町荒谷~志比(門前)間の約2キロで、時速12キロ以下で運行する。ルート上には電磁誘導線とRFIDが敷設されており、これを車両に搭載したセンサーが読み取りながら走行する。その他、気象条件としては周辺の歩行者などを検知できない強い雨や降雪による悪天候、濃霧、夜間を除くこととしている。

HICityのレベル4との違いは、この電磁誘導線だ。あらかじめ走行する道路に電磁誘導線・マーカーを敷設しなければならない。近年主流となっているAI技術を駆使した自動運転と比べるとアナログな点は否めない。

レベル4自動運行装置の認可状況

レベル4の自動運行装置は、永平寺(ZEN drive Pilot Level 4)とHICity(ARMA)のほか、ティアフォーとJR東日本がそれぞれ認可を受けている。

ティアフォーは2023年10月、神奈川県相模原市の物流拠点「GLP ALFALINK相模原」で開発・運用していた自動運転システム「AIパイロット」がレベル4認可を受けたと発表した。こちらもHICity同様敷地内のみなし公道をODDとしている。

AIパイロットは、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」とそれに対応したセンサーシステム、コンピュータシステム、車載情報通信システムから構成され、さまざまな車両に搭載することができる。

道路インフラなどに頼らず自動運行装置が自律的に認知・判断・操作を行うシステムで、自動運転システムの開発を目指すパートナー向けのソリューションとして、このレベル4認可で得た設計プロセスはすべて公開するとしている。

JR東日本は2024年3月、気仙沼線BRTの柳津駅~陸前横山駅間で実用化を目指している自動運転バスに搭載した自動運行装置(K-AITO)がレベル4認可を受けたと発表した。BRT専用道内に2メートルごとに敷設した磁気マーカー(一部RFID付き)を車両に搭載した磁気センサーで読み取ることで自車位置を特定する仕組みだ。アナログ的ではあるものの、最高時速60キロで認可を受けている点がポイントだ。

全国では、廃線の危機にある鉄道ローカル路線は多い。BRT×自動運転で新たな活路を見出す先行事例となりそうだ。

【参考】ティアフォーの取り組みについては「自動運転レベル4、関東初認可は「決められたルート」型」も参照。

【参考】JR東日本の取り組みについては「自動運転、次は東北で「なんちゃってレベル4」認可 汎用性に課題感」も参照。

ティアフォー勢が実用化に向けた取り組みを本格化

自動運転バス・シャトル関連では、ティアフォー×アイサンテクノロジー×三菱商事の取り組みや、ティアフォー×WILLERの取り組みにも注目だ。

アイサンテクノロジーと三菱商事は2023年に合弁A-Driveを立ち上げ、自動運転ワンストップサービス事業に着手した。自動運転ソリューションは両社と関係が深いティアフォー製が中心となっている。

ティアフォーとWILLERは2023年11月に自動運転事業における連携を開始し、2025年度を目途に約10エリアでの実用化を目指す計画を掲げている。

一方、BOLDLYは茨城県境町とHICityのほか、北海道上士幌町、愛知県日進市、岐阜県岐阜市、三重県多気町VISON、千葉県横芝光町、愛媛県伊予市、石川県小松市、新潟県弥彦村などで自動運転バスによる定常運行を行っている。

HICityに続く特定自動運行許可が2024年度中にこの中から出てくる可能性は高い。一般公道でのレベル4認可に期待したいところだ。

自動運転タクシーはホンダとティアフォーが正式参戦

自動運転タクシー関連では、ホンダが2026年初頭に東京都内でサービスを開始する計画を発表している。パートナー企業の米GM、Cruiseとともに無人自動運転向けに専用設計された「Cruise Origin」を導入し、東京都内のお台場エリアを皮切りに中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図っていく。500台規模までフリートを拡大する計画のようだ。

ティアフォーもレベル4水準の自動運転タクシーによる新たな移動サービスの提供を計画している。東京都内のお台場エリアの複数拠点間でサービス実証を行い、2024年11月から交通事業者と共同で事業化を目指す。

その後、段階的にエリアや拠点数を拡張し、2025年にはお台場を含む東京都内の3カ所、2027年には都内全域を対象に既存の交通事業と共存可能な自動運転タクシー事業を推進するとしている。

【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

【参考】ティアフォーの取り組みについては「東京に自動運転タクシー!トヨタ車で11月事業化へ ティアフォー発表」も参照。

■【まとめ】今後1~2年の間に許認可続々?

特定自動運行許可やレベル4自動運行装置の認可そのものはまだまだ少ないが、サービス実用化に向けた取り組みが今まさに日の目を見始めた段階で、今後1~2年の間にこうした許認可が続発することが予想される。

海外勢との差はなかなか埋まらないが、自動運転タクシー実用化に向けた取り組みなどを通じて飛躍的に技術が向上する可能性もある。自動運転バス、自動運転タクシーそれぞれの開発動向に引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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