トヨタが自動運転サービス実現に向け大きく動き出したようだ。報道によると、東京都内のお台場エリアで2024年7月にもサービス実証に着手するという。自動車業界ではホンダが自動運転タクシー実装計画を具体化しているが、いよいよ業界のドンも本格始動するようだ。
トヨタの取り組みの概要とともに、トヨタだからこそのアドバンテージについて解説していく。
記事の目次
■お台場におけるトヨタの取り組みの概要
2024年夏にレベル2状態でサービス実証に着手
日経新聞や読売新聞などによると、トヨタはお台場エリアで建設中の新アリーナ「TOYOTA ARENA TOKYO」周辺で、2024年7月から自動運転サービスの実証を行う。
当面はセーフティドライバー同乗のもと実質レベル2の状態で2地点間の移動サービスを無償提供し、安全性や収益性などの検証を進めるという。
どの段階でのレベル4導入を見据えているかは不明だが、2025年以降に有償化し、サービス提供エリアを順次拡大していく。運行は、トヨタとソフトバンクの合弁MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)が担う。
導入する車両はe-Palette(イー・パレット)ではなくAutono-MaaS車両「シエナ」で、自動運転システムには米May Mobility(メイモビリティ)のシステムも用いるという。
今のところ公式リリースは出されていないため、トヨタの正式発表を待ちたいところだが、自動車業界のドンであり、自動運転業界の大本命でもあるトヨタがいよいよ動き出したようだ。
メイモビリティの自動運転システムにも注目
メイモビリティが絡むあたり、トヨタというよりはモネ・テクノロジーズとしての色が強いように感じられるが、自動運転サービス化に向けトヨタが具体的に動き出したことに変わりはない。
メイモビリティは2017年設立のスタートアップで、トヨタのシエナに自社システムを統合した自動運転車で、米国内で自動運転サービス実証を重ねている。2023年末には、アリゾナ州でドライバーレスのアーリーライダープログラムにも着手している。
同社に対しては、2018年にToyota AI Ventures(現Toyota Ventures)が出資したのを皮切りに、2019年の資金調達シリーズBラウンドをトヨタが主導するなど、日本企業の支援を多く受けている。同ラウンドでは総額5,000万ドル(当時のレートで約55億円)を調達した。
2022年にはソフトバンクが、5Gネットワークなどを活用した自動運転サービスの早期社会実装に向けメイモビリティと業務提携契約を締結した。さらに2023年には、NTTがシリーズDにおけるリードインベスターを務め、同社の自動運転システムの日本国内独占販売権を獲得したことを発表している。
日本企業との関連を強めるメイモビリティはすでに日本法人を立ち上げており、日本国内におけるサービス実装は既定路線と言える。NTTの関わりなど、今後の動向に注目したいところだ。
【参考】May Mobilityについては「トヨタ出資の米May、上場決定の予感 自動運転事業の加速へ新規調達」も参照。
■トヨタが秘めるアドバンテージ
トヨタの自動運転サービス第1弾はお台場に決定?
トヨタに話を戻そう。トヨタにおける最初の自動運転サービスは、早くからTOYOTA ARENA TOKYO周辺になるのでは?――とうわさされていた。
同アリーナは、お台場のトヨタのショールーム施設メガウェブが営業していた大規模複合施設パレットタウン跡地に建設中の次世代アリーナで、B.LEAGUE1部に所属するアルバルク東京がホームアリーナとして利用する多目的アリーナとなる。
土地はトヨタ自動車、建物はトヨタ不動産がそれぞれ所有し、運営はトヨタアルバルク東京が行う。2025年秋に開業予定だ。
計画では、「TOKYO A-ARENA PROJECT」として次世代スポーツエクスペリエンスするとともに、未来型モビリティサービス体験の地としてモビリティテクノロジーの可能性を切り開いていくとしている。
2023年のアルバルク東京の試合会場において、次世代モビリティの体験試乗デモンストレーションが行われるなど、すでにプロジェクトは動き出している。同プロジェクトのPRムービーには、e-Paletteも登場している。
周辺施設とともに新たな集客が見込まれる一大拠点となることはほぼ間違いない。再開発を機に、施設だけでなく周辺の移動も次世代に対応したものへと変革していくイメージだ。
2025年秋の開業時にレベル4運行が可能となるかは不明だが、私有地となる施設内移動などでe-Paletteをはじめとした自動運転モビリティが導入される可能性は極めて高い。そこから公道を含めサービス提供エリアを拡大していくのも常套手段と言える。
こうした大規模集客施設を所有するのは、モビリティカンパニーを目指す上で強みの1つとなるようだ。
【参考】TOYOTA ARENA TOKYOについては「トヨタの自動運転シャトル、「初の定期運行」は新アリーナ濃厚か」も参照。
Woven Cityも2025年にオープン予定
トヨタの大規模施設としては、同アリーナのほか静岡県裾野市のWoven Cityが挙げられる。基本的には私有地内完結型となるが、自動運転をはじめとした次世代モビリティなどを都市空間や生活などと組み合わせる形でさまざまな取り組みを行う実証都市だ。
2024年に第1期工事を終え、こちらも2025年中に一部オープンを迎える予定だ。一般公道と連動した取り組みに発展するかは今のところ未知数だが、敷地そのものが約70.8万平方メートルと非常に広大で、敷地内で1つの「まち」を形成する。そのまちの中では、自動運転モビリティ用の道路を敷設するなどさまざまな構想が進められている。
こうした大規模施設を建設・所有できるのは、モビリティサービス実証を行う上で大きなアドバンテージとなることは言うまでもなく、まさに巨大企業・トヨタのなせる業だ。
年間4兆円もの営業利益を生み出すトヨタ。国内で抜きんでた存在になりつつあるトヨタがこうしたディベロッパー目線の開発に力を入れ始めれば、次世代モビリティ社会の在り方を世に浸透させることもできるのではないだろうか。
【参考】Woven Cityについては「トヨタWoven City、2024年に第1期の建物完成へ 実証は2025年スタートか」も参照。
社会空間・生活空間とモビリティを連携させる取り組みが加速?
トヨタのグループ企業には、トヨタ不動産やトヨタホームといった企業も名を連ねているが、こうした異業種の存在も貴重だ。
トヨタ不動産はトヨタ所有不動産の管理が主体だが、他のディベロッパーなどと連携してTOYOTA ARENA TOKYOのような展開を行う土台となることができる。
トヨタホームは、自動車づくりで培った技術などを生かした住宅メーカーだ。例えば、モビリティを活用した移動面にも重点を置いたニュータウン整備や再開発、Woven Cityで実証したモビリティと生活との連動テクノロジーなどの実社会への導入などの点で貢献することができる。
これからの時代は、施設や住宅などの社会空間・生活空間をいかに移動=モビリティと連動させていくか……といった観点の重要性が大きく増していくものと思われる。実社会や生活と移動をいかに結び付けていくかが重要となるのだ。
こうした点を踏まえると、モビリティ領域の取り組みにおけるトヨタ不動産やトヨタホームなどの存在は今後大きく変わっていく可能性がありそうだ。
トヨタは異業種大手と対等に渡り合える
トヨタのアドバンテージは、他社との連携面でも発揮される。異業種協同の取り組みが増える中、主導権を失うことなく他社と渡り合い、連携することができるのだ。ソフトバンクとの合弁モネ・テクノロジーズの存在などもその最たるものだ。
NTTとは2020年、スマートシティの実現を視野に長期的・継続的な協業関係を構築することを目的に業務資本提携を交わしている。互いに約2,000億円の株を取得しあい、両社の関係を強化しながらスマートシティプラットフォームの開発・実装を進めている。
TOYOTA ARENA TOKYOの設計・施工を担う鹿島建設とは、道路インフラ・路上センシングの研究面で協業するなど、自動運転開発に結びつく関係も構築している。
異業種大手と対等に渡り合い、かつ協調して事業を進められる点は、未知の領域である自動運転開発において大きなアドバンテージとなるのだ。
【参考】トヨタ×NTTについては「トヨタ自動車とNTT、スマートシティで協業 Woven Cityの取り組みを世界へ」も参照。
【参考】トヨタ×鹿島建設については「鹿島建設の自動運転事業 建機・現場の自動化に挑む」も参照。
トヨタブランドは世界的イベントや事業でも発揮される
アルバルク東京に代表されるように、スポーツ分野での貢献もモビリティ領域とつながっている。トヨタは2015年、国際オリンピック委員会(IOC)及び国際パラリンピック委員会(IPC)と初のモビリティ領域におけるワールドワイドパートナーシップに調印した。
各五輪大会で最新のモビリティやノウハウ、技術を提供する内容で、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村内における選手や関係者の移動にe-Paletteを導入している。
2005年にトヨタのお膝元で開催された愛・地球博(愛知万博)では、企業パビリオン「トヨタグループ館」を設け、未来コンセプトビークルや搭乗歩行型ロボットなどによるパフォーマンスを行った。
国や世界の大規模事業・イベントに密接に絡んでいけるのもトヨタブランド・トヨタ力のなせる業だろう。
【参考】東京五輪×トヨタについては「「トヨタ×オリンピック」!登場する自動運転技術や低速EV、ロボットまとめ」も参照。
自治体にも動き、豊田市が実証着手
e-Paletteを活用した実証は、お台場エリアで2022年にも行われている。東京都の事業のもと、オペレーターが同乗した状態で商業施設間を巡る取り組みだ。
2024年1月には、愛知県豊田市が自治体として初めてe-Paletteに乗客を乗せた走行実証を行うと発表した。鞍ケ池公園内の園路を運行する内容で、次世代モビリティ導入に向けた機運を高めるとともに、公共施設における具体的な活用方法の検討を進めていくとしている。
豊田市の取り組みは公道外だが、今後、どこか1カ所でも社会実装に向けた公道における取り組みが本格化すれば、それが呼び水となってe-Paletteを活用した自動運転サービスを検討する自治体が続出する可能性は十分考えられる。トヨタによる日本製モビリティであれば、それだけで信頼性が高まるためだ。
お台場エリアにおけるトヨタ独自の取り組みとともに、他エリアにおける展開にも注目していきたい。
【参考】豊田市における取り組みについては「トヨタe-Paletteを「手動運転」で使用!豊田市、自治体初の「乗客あり」実証」も参照。
■【まとめ】トヨタの事業推進力に期待
国内では絶対的存在で資金力も豊富なトヨタ。トヨタが動き出せば、それを止める者はいない……と言っても過言ではないほど、その企業力・影響力は大きい。
それゆえトヨタ自身が無茶な冒険を行うことははばかられるところでもあるが、ゴーサインが出たときの推進力はけた違いだ。
お台場での具体的な計画がいつ発表されるか、また国内各地の自治体や企業などとの取り組みの行方にも引き続き注目していきたい。
【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)