Mapboxはなぜ、トヨタを惹きつけれたのか?デジタル地図開発で採用

海外では自動運転向けソリューションも展開



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

地図×AI(人工知能)技術でソリューションの幅を広げる米Mapboxの技術が、トヨタの新しいカーナビゲーション・システムに採用された。デジタル地図のカスタム開発と高速レンダリングにより、カーナビの操作や機能、デザインなどの改善・向上を図っていくようだ。

自家用車ではスタンダードな存在となったカーナビだが、地図情報は自動運転においても有益だ。地図情報と位置情報をベースに現在地や目的地を把握し、そこに付加されたさまざまな情報や機能によって移動の効率化や充実化を実現する。さらには、高精度3次元地図により自律走行の精度を向上させる役割も担う。


こうした技術で自動車業界における存在感を高めているのがMapboxだ。グローバルかつさまざまなサービスを提供可能な位置情報プラットフォームでトヨタをはじめとする大手メーカーの信頼を集めている。

■Mapboxの概要
カスタマイズ地図プラットフォームを提供

Mapboxの誕生は2010年にさかのぼる。さまざまな要望に応えるカスタマイズ地図を提供するテクノロジー企業として、ワシントンの路地裏にあるガレージで細々とスタートした。当初は、国連や世界銀行、USAID、国境なき医師団などをパートナーに、国際開発業務をサポートしたという。

その後、着実に技術開発力を強化し、リアルタイムデータと地図レンダリングテクノロジーを武器に物流や配送、自動車、小売、旅行、製造、不動産、エンタープライズなど、幅広い業界にわたってサービスを提供している。

AI技術を駆使し、クラウドベースでさまざまな情報や機能を容易に提供可能とする点と、ユーザーから収集したデータを解析し、迅速に地図に反映させる点がポイントだ。カーナビ主体のインフォテインメント機能を強化するほか、自動運転にも対応した地図情報の提供により、自動車産業との結びつきを強めている。


出典:マップボックス・ジャパン合同会社プレスリリース
トヨタやBMW、GMなどが顧客に名を連ねる

自動車関連では、トヨタのほかBMWやGM、ポルシェ、Rivianなどがカーナビサービスの拡充に向けMapboxのソリューションを利用している。

ソフトバンクグループが出資、日本法人設立も支援

資金調達関連では、これまでに総額6億1,000万ドル(約880億円)を調達しており、2017年のシリーズCにソフトバンク・ビジョン・ファンドが参加しているほか、2023年のシリーズEはソフトバンクグループが主導している。

2020年には、ソフトバンクとともに日本法人「マップボックス・ジャパン合同会社」を設立した。日本独自の地図広告プロダクト「Mapbox広告」をリリースし、ウェブ地図における新しい広告技術を発信するなど日本発の取り組みにも注力している。

【参考】関連記事としては「ソフトバンクビジョンファンドとは?」も参照。


■自動車関連のソリューション
カーナビを進化させる「Navigation SDK」

自動車関連では、没入型3Dマップによるグラフィクスや高精度な位置特定、AIを活用したルート最適化などを可能にする「Navigation SDK」が従来のカーナビを進化する。

応答性の高いUIレイアウトでコアマップとナビ機能の両方を提供するほか、検索やEVコンテンツ、音声アシスタント用といったオプションのアドオンも用意されており、自動車向けにUXをカスタマイズすることができる。

Mapboxのソリューションはクラウド上でグローバルデータのリアルタイム更新を可能にしているため、各自動車メーカーはMapboxのAPIを利用することで各々の車載ナビシステム内に大量のデータを保存する必要がなくなる。地図データの更新時も負担となるソフトウェア更新をする必要がなく、車載システムに瞬時に反映できるため、迅速なデータ修正と拡張が可能になるという。

Mapboxが提供する多様なカスタムデータソースを活用することで、ユーザーへ高品質な情報を提供することができるほか、ルートプランニングやターンバイターンの案内を行うNavigation SDK、地図をレンダリングするMaps SDK、住所検索を行うSearch SDK、道路のカーブや勾配、速度制限といった重要な属性を提供するADAS SDKなど、カスタマイズされた開発者リソースも提供される。

出典:Mapbox公式サイト
トヨタはクラウドベースのインフォテインメントシステムを構築

トヨタはMapbox Maps SDK と Studioを使用してクラウドベースのインフォテインメントシステムを構築するという。

パフォーマンスの向上や地図データの自動更新をはじめ、車載地図のビジュアルデザイン変更機能でブランド力創出にも寄与する。エンジニアとデザイナーが車載地図の視覚的な外観を調整し、各車種やブランドデザイン基準に合わせたナビゲーションを提供できるという。

BMWは、Android用Mapbox Navigation SDKを使用し、BMW・MINIオペレーティングシステム9を搭載した新モデルに没入型の3Dマップスタイルや充電に最適化されたルートプランニングなどの各種機能を搭載するとしている。

GMはMapbox DashとNavigation SDKを使用し、ドライバーがライブナビや音楽ストリーミング、音声アシスタントなどにアクセスできるサービスを提供している。

Rivian はMapbox Navigation SDKを採用し、スマートフォンのようにスムーズかつ直感的なカーナビ体験を顧客に提供している。

自動運転向けの「Mapbox Autopilot Map」も海外でサービスイン

Autopilot Mapは、毎日更新される地図情報により自動運転システムがカバーするエリアの拡大やシステムからの離脱削減に貢献するという。

ドライバーが自動運転で目的地に到着できるよう、高速道路から市街地・住宅街に至るまでより多くの道路をカバーするほか、データを最新に保つことにより、古いデータに起因して発生する不必要な自動運転からの離脱、つまりエラーを削減する。

センサー搭載車両が走行中に検出した道路上の変化をマップに反映し、共有することを容易にするため、Autopilot Map搭載車両が増えればそれだけ自動運転可能な対象範囲が広がり、かつ更新頻度も増加するという。

自動運転車向けのマップを生成するモービルアイの技術「REM(Road Experience Management)」と同様、より多くの車両からデータを効率的に集め、分析する技術と言える。

出典:Mapbox公式ブログ

高精度地図情報としては、道路端や車線、交通管制装置などの物理的な道路情報を、相対精度20センチで車両システムに提供する。車線区分がない場所でも、何百万ものドライバーから収集した動作パターンから情報を分析し、最適な運転経路を提供することができるという。

このほか、ADAS構築に役立つ「ADAS SDK」なども用意されている。数千のセンサーからのリアルタイム検出に基づいたデータ更新により、道路の曲率や道路の勾配、制限速度といった安全に資する地図属性情報などを提供する。車両前方最大10キロまでの情報を提供可能という。

Autopilot MapやADAS SDKは、現時点において日本は対象エリアになっていないようだが、今後導入される可能性は高そうだ。

日本ではモジュール式プラットフォーム「Mapbox Vision SDK」なども

マップボックス・ジャパンは、フリートマネジメントやADAS、AR(拡張現実)向けのモジュール式プラットフォーム「Mapbox Vision SDK」を提供している。

車載カメラなどをAI駆動のアシスタントドライバーへと進化させるソリューションで、ドライブレコーダーやモバイルアプリに統合することで各ドライバーの運転・走行状況をモニターし、アラームの発出やデータ集計、オブジェクトの分類や検出、セグメンテーションの実行、AR技術を駆使したレーンレベルのナビゲーションなどさまざまな機能を提供可能という。

■自動運転とマップ
自動運転精度を高める重要な情報インフラ

自動運転は車載カメラやLiDARなどのセンサーで外部の状況をリアルタイムで把握・分析し、自律走行を実現する。理論的には、このセンサーによる「目」とAIによる「脳」が人間同様の能力を発揮することができれば自動運転は成立する。

しかし、現時点における技術はまだその水準に達していない。センサーによるオブジェクトの認識はまだ人間の目には至っておらず、各物体がどのような挙動を見せるかといった予測も完全ではない。不確実性を内在しながら刻一刻と変化し続ける道路交通環境に臨機応変に対応するには、まだまだ時間を要する。

こうした技術不足を補完するのが高精度3次元地図やダイナミックマップといった地図ベースの情報だ。誤差数センチレベルの高精度なデジタルマップをベースに、標識などの地物や走行の際の参考情報となる仮想線、工事情報など道路交通に関するさまざまな情報を付加していく。

自動運転車は、車載センサーが認識した周囲の情報とデジタルマップ上のデータを突合しながら走行することで認識能力を高めることができ、より安全な走行を行うことができる仕組みだ。その意味で、こうした地図データは自動運転における情報インフラと言える。

国内では、ダイナミックマッププラットフォームが高速道路を中心に高精度3次元地図を作成済みだが、効果的かつ効率的な地図の作成や更新技術はまだまだ開発の余地が残された領域だ。

■【まとめ】開発余地多いデジタルマップ領域 さらなる躍進に期待

自動運転において重要なソリューションとなる地図情報。開発余地はまだまだ多く、Mapboxのようなプレーヤーが今後いっそう躍進することになりそうだ。

こうした技術はADASの高度化が進む自家用車においても有用だ。また、スマートフォン連携をはじめとした利便性の向上が求められている今日においては、インフォテインメントシステムの進展も欠かせない。時代にマッチしたビジネスを展開するMapboxの動向に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「ダイナミックマップとは?自動運転に有用」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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