米NVIDIAと台湾Foxconn、自動運転向け「AI専用データセンター」を建設へ

自動車市場向けビジネスを強化



出典:鴻海・公式YouTube動画

米半導体大手NVIDIAと電子機器メーカーである台湾Foxconn(フォックスコン/鴻海科技集団)が、スマートカーの開発・量産化に向け新たなデータセンター「AIファクトリー」の構築を進めていくと発表した。

「インテリジェントソリューションを生産する新しいタイプの製造業」と表現されるAIファクトリーはどのようなものなのだろうか。両社の取り組みに迫る。


■Foxconnの年次イベントで明かされる

今回の発表は、台北で開催されたフォックスコンの年次イベント「Hon Hai Tech Day」に出席したフォックスコン会長兼CEO(最高経営責任者)のYoung Liu(ヤング・リウ)氏と、NVIDIA創業者でCEOのJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏の対談の中で明らかにされた。

イベントは「スマートマニュファクチャリング」「スマートシティ」「スマート電気自動車」を3大テーマに据えており、最大32ペタFLOPSのパフォーマンスを誇るNVIDIAのH100 GPUを8基搭載したAI(人工知能)サーバーの発売や、スマートEV(電気自動車)の試作車や量産車、スマートコックピットソリューション、車載MCU開発プラットフォームなどが展示されたようだ。

イベントでは、インテリジェント・クロスオーバー、モデルBの量産計画が発表されたほか、初のファミリーSUVとなるモデルCの商業生産に関する最新情報などが明かされたという。

フォックスコンのリウ氏は「わずか3年間でフォックスコンはハイエンドセダン、クロスオーバー、SUV、コンパクトピックアップ、商用バス、商用バンなど、驚くべき品揃えを展示できた」とこれまでの成果に胸を張った。


また同社EV担当最高戦略責任者の関潤氏は「現在約14社の顧客と接触しており、23件の開発プロジェクトが進行中」とし、続けて「サプライチェーンのモジュール式コンポーネントと、プラットフォームベースの開発戦略に基づきEV開発を加速する」「インドと日本はEV開発において次の大きな可能性を秘めている」と語った。

出典:NVIDIAプレスリリース

また、フォックスコンのグローバルパートナーを務めるNVIDIAとサプライヤーの独ZFでCEOを務めるホルガー・クライン氏もステージに登壇した。

NVIDIAのフアン氏は「新しいタイプの製造業が出現した。インテリジェンスの生産であり、それを生産するデータセンターがAI工場。フォックスコンは世界中でAI工場を構築する専門知識と規模を備えている。AI産業革命を加速するため、フォックスコンとの10年にわたるパートナーシップを拡大できることを嬉しく思う」と賛辞を贈った。

一方、クライン氏は「両社は互いの能力を最大限に活用し、内燃機関(ICE)とEVの両方の製品範囲を拡大していく。次世代モビリティに向けて進む中、ホンハイとのビジネスパートナーシップはアジア太平洋地域及び世界における当社の存在感をさらに強化することになる」とした。


■AIファクトリー構築へ
出典:NVIDIAプレスリリース

NVIDIAとのパートナーシップ強化では、最新の「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」と「NVIDIA AI Enterprise」ソフトウェアを含むNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングプラットフォームに基づき、膨大な量のデータを最適化しAIモデルとトークンに変換するよう特別に設計されたNVIDIA GPUコンピューティングインフラストラクチャ「AIファクトリー」の構築から始まるという。

また、フォックスコンのスマートEVは、NVIDIAの将来の自動車SoC「NVIDIA DRIVE Thor」を搭載した自動運転フリート向けの次世代プラットフォーム「NVIDIA DRIVE Hyperion 9」上に構築されることも発表された。

このほか、自律移動ロボットプラットフォーム「NVIDIA Isaac AMR」上に構築されるスマート・マニファクチャリング・ロボットシステムや。インテリジェントビデオ分析プラットフォーム「NVIDIA Metropolis」が組み込まれるスマートシティなども発表された。

AIファクトリーはフォックスコンとNVIDIAが共同で構築する。フォックスコンは、最適化された独自のAIファクトリーを構築・運用したいと考えている顧客に対し、NVIDIA CPUやGPU、ネットワーキングをベースとした多数のシステムを提供できるようになる。

顧客は、NVIDIAアクセラレーションコンピューティングを活用して生成AIサービスを提供できるほか、シミュレーション技術によって産業用ロボットや自動運転車などの自律型マシンのトレーニングを高速化することができるという。

フォックスコンは、NVIDIAのテクノロジーを活用したAI工場を顧客に提供することに加え、エレクトロニクス業界の厳しい生産基準と品質基準を満たすため、「NVIDIA Omniverseプラットフォーム」と「Isaac」、「Metropolisフレームワーク」を活用する独自のAI工場にも目を向けているという。

エッジAIとシミュレーションの進歩により、1日に数マイル移動できる自律走行ロボットやコンポーネントの組み立て、コーティングの適用、梱包、品質検査を行う産業用ロボットの導入が可能になったが、AI工場によって仮想世界でシミュレーションを実行できるようになる。

全体をエンドツーエンドでシミュレートすることで業務効率を向上させ、時間とコストを節約できる点にも注目しているようだ。

自動車関連では、ティア1としてさまざまなNVIDIA DRIVEソリューションを世界の自動車メーカーに提供しており、現在はNVIDIA DRIVE OrinベースのECUを提供しているが、将来的にはNVIDIA DRIVE Thorまで拡張・対応していくという。

また、受託製造業者として、DRIVE Thorと最先端のセンサーアーキテクチャを含む次期NVIDIA DRIVE Hyperion 9プラットフォームを搭載したEVも提供するとしている。

■AI工場はAIの開発・使用に特化したデータセンター

やや分かりにくい説明となったが、AIファクトリーは、乗用車などのデータを収集・蓄積するデータセンターで、AIによって高度な分析を行うことができるものだ。AIの開発・使用に特化したデータセンターと言える。

ソフトウェア・デファインドのクルマ作りがスタンダード化する今後、こうしたデータセンターもまたスタンダードな存在となり、ソフトウェアの改善・高度化を図る基盤となっていくのだろう。

また、フォックスコンが量産化するEVにもNVIDIAの自動運転向けプラットフォームが搭載される。初期段階でどこまでの自動運転機能が実装されるかは不明だが、将来的な拡張に対応した仕様となりそうだ。

■ECUサプライヤーかつEV製造で躍進

NVIDIAとフォックスコンは2023年初頭に戦略的パートナーシップを結んでいる。フォックスコンがティア1としてNVIDIA DRIVE Orinの製造を委託する内容で、自動車の高度化に伴い需要が高まるNVIDIAソリューションの大量生産に対応できる有力サプライヤーとなったのだ。

さらに、フォックスコンが製造するEVにもDRIVE Orin ECUやDRIVE Hyperionが搭載される。フォックスコンはオープンEVプラットフォーム「MIH」を展開するなど、EV開発・製造に本腰を入れている。

NVIDIAはMIHに参画していないものの、MIHを通じて他社からフォックスコンが製造委託するEVも今後続出する可能性があり、こうした委託車両への対応にも注目が集まるところだ。

【参考】フォックスコンとNVIDIAの協業については「Foxconn、自動運転EVの受託生産開始へ!米NVIDIAと提携」も参照。

【参考】MIHについては「世界最強の自動運転連合に!台湾MIH、加盟2,600社突破」も参照。

■プロトタイプ続々、2024年にSUV発売

フォックスコンはすでにSUVの「モデルB」「モデルC」、セダンタイプの「モデルE」、ピックアップの「モデルV」、バスタイプの「モデルT」など複数のプロトタイプを公開しており、量産化に向けた計画も着々と進めている。

モデルBは新世代の集中型EEAアーキテクチャを採用し、より機能的なスマートコックピットやインテリジェントな制御運転モードをサポートするという。台湾では正式にナンバープレートを取得しており、保安基準も満たしているようだ。ファミリータイプのSUVとして2024年中に発売する予定としている。

■【まとめ】自動車業界の台風の目となるか要注目

今回の発表では、物流向けの「モデルN」を新たに公開するなど、ラインアップの拡充はまだまだ続いているようだ。今後、協業する自動車メーカーや販売手法、価格帯など具体的な中身も明らかになってくるものと思われる。

NVIDIAとのパートナーシップで高度化された新規格のEVが、既存の自動車市場にどのような影響を与えていくのか。また、どのレベルのADAS(先進運転支援システム)・自動運転機能が実装されるかなど、注目すべきポイントが盛りだくさんだ。自動車市場向けビジネスを強化するフォックスコンがどのようにシェアを伸ばしていくのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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