JAXA参画!後のせ自動運転レベル4で「市場最安値」に挑戦

東海クラリオンなどと共創



出典:JAXAプレスリリース

東海クラリオンなどが開発を進める後のせ自動運転システム「YADOCAR-i(ヤドカリ)ドライブ」の取り組みに、国立研究開発法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)が加わった。JAXAの高精度な測位補強信号を活用することで、測位の精度向上と高速化を検証する。

YADOCAR-iドライブは、後付けシステムでレベル4を可能にするソリューションとして開発が進められており、さまざまな既存車両を手軽に自動運転化する技術として注目を集めている。


JAXAとの協業内容を含め、YADOCAR-iドライブの概要について解説していこう。

■YADOCAR-iの概要
後のせ自動運転で既存車両を自動運転化
出典:東海クラリオン・リーフレット(https://www.tokai-clarion.co.jp/_wp/wp-content/themes/tokai-clarion/image/yadocar-i/leaflet_yadocari.pdf

YADOCAR-iドライブは、既存車両に簡単に組み込めるように設計された「後のせ自動運転システム」だ。2人乗りのマイクロEV(電気自動車)や8人乗りのマイクロバスなど、さまざまな手動運転車を自動運転車に変えることができる。

自動運転を制御するコンピューター(PC)を中枢に、日本の準天頂衛星システム「みちびき」やGPSによって位置を測定するGNSSアンテナ、障害物を検知する3D-LiDAR、IMUセンサー、AI(人工知能)が自動生成した地図データを表示するモニターで構成される。

サラウンドマップとLiDAR、高精度GNSS、9軸ジオスコープを組み合わせて走行マップを自動生成し、LiDARのマッチングミスでも走行が乱れない3重の安全システムを実現するという。また、みちびきを活用することで、実効値による誤差15センチほどのサブセンチ級の測定精度を可能にしている。


使用するマップは高精度三次元マップではなく、走行予定ルートを事前に数回手動運転を行うことで、AIが自動で地図データを生成し、周辺の障害物や一時停止が必要な場所などを記録していく。特別な整備が不要なため、7〜10日間程度で導入可能としている。

自律走行が不可能になった際は遠隔リモートで車両を制御することが可能なほか、特定のクルマを追尾する制御などもできる。

YADOCAR-iドライブ導入に向けては、人工衛星電波が良好であり、走行路沿いに周辺検知できる構造物があること、時速20キロ以下の走行で他の車両の障害になりづらい点などが望ましいとされている。第一段階では、安全を確保しやすい歩車分離の左回りルートで走行し、その後、複数ルートや右折を含む交差点、歩車混在路など徐々にODD(運行設計領域)を拡大していくという。

【参考】YADOCAR-iドライブについては「ヤドカリの発想で「後のせ自動運転システム」開発」も参照。


■YADOCAR-iドライブの開発動向
東海クラリオンとATIが協業

みちびき公式サイトの事例集によると、車載機器メーカーの東海クラリオンは、自動運転やADAS(先進運転支援システム)領域において大手自動車メーカーなどと競合しない事業展開を模索し、その過程でタイを拠点とする技術ベンチャーのアジア・テクノロジー・インダストリー(ATI)と結び付きを強めたという。

ATI創業者の長尾朗代表は、本田技研で衛星測位システムや自動運転制御の開発に携わっており、マイクロEVの可能性について検証を進めていたという。

長尾代表は「パワーが制限されスピードが出せないマイクロEVは、大手が手がけないニッチな分野。低速ならば自動制御の難易度は下がり、走行区間を決めてしまえば障害物検知もラク。マイクロEVの弱点とみなされている部分を逆手にとることで、安全で安価な自動走行制御のシステム構築が可能となる。その実現には、高精度の衛星測位が鍵になる」とし、実証の機会を探っていたという。

タイでみちびき活用した実証に着手

東海クラリオンとATIは、2019年度に内閣府が公募したみちびき関連の実証事業において「MADOCA PPP高精度位置情報を使ったマイクロEV自動運転の実証実験」が採択され、タイ国内でセンチメータ級測位補強信号の高精度単独測位「MADOCA-PPP」を活用した自動運転実証を行った。

その後も、2022年にタイのICAパイロットプロジェクトに採択され、同国の基地局ネットワークを使った高精度GNSSと3D-LiDARサラウンドマップ、障害物認識と回避を行う自動運転実証を行うなど、開発を推進している。

日本国内では、スマートシティ推進EXPOに出展するなど知名度向上を図っており、MaaS事業に力を入れる建材メーカーのカクイチグループが工場見学用のゴルフカートにレベル3相当のシステムを搭載するなど、実績も出始めているようだ。東急リゾートタウン蓼科でも走行実証が行われている。

YouTubeで動画も公開しているので、興味のある方はぜひ見てほしい。

JAXAのセンチメータ級測位補強信号で測位精度向上を検証

JAXAとの取り組みでは、「新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」のもと、YADOCAR-iドライブにJAXAのセンチメータ級測位補強信号を活用した高精度単独測位「MADOCA-PPP」を適用し、測位精度向上と高速化を実証する。

YADOCAR-iドライブは、後付けシステムにおける追加機材を最小化し、かつ国内と国外におけるシステム共通化を図るため、走行ルート作成にみちびきを軸にしたQZSSの位置情報を用いているが、ここにJAXAのMADOCA-PPPを組み合わせることでシステムの精度を向上し、レベル4実現を推進していく狙いだ。

東海クラリオンは、自治体や観光関連業界に対し低価格自動運転の活用モデルとしてYADOCAR-iドライブを提案し、自動運転走行のデモンストレーションなどを通じてシステムの有用性や利便性を可視化していく。

ATIは、MADOCA-PPPに対応したマルチGNSS受信機の開発・製造を行う株式会社コアと連携し、現場ごとに異なる環境に適応した自動運転システムの開発を進める。また、走行結果を受信機開発にフィードバックし、受信機の最適化などを行い自動運転システム全体の高度化を目指す。

最初の1〜2年でMADOCAやMADOCA-PPPの高度化とYADOCAR-iドライブの実証走行を並行して実施し、開発と利用のフィードバックループを回す。運用実績を積み重ね、将来的な現場実装を加速させていく計画としている。

■レベル4サービス実用化に適した要件
安価な低速モビリティで導入を推進
出典:東海クラリオン公式サイト

YADOCAR-iドライブは、「史上最安値のレベル4自動運転システム」を目標に据えている。既存車両を後付けシステムで簡単にカスタマイズし、さらにマッピングなどの事前作業も簡素化することで、行政や民間が少ない予算で導入・継続サービスを行うことができるよう取り組んでいく構えだ。

レベル4は、一定のODD内で車内無人の自動運転を実現する技術だ。あらかじめ設定したルートやエリア内、速度や気象環境などを要件に自動運転の可否を決定し、要件を満たす限りにおいて人の介在を必要としない無人走行を実現する。

実現の難易度は、広い走行エリアよりも狭いエリア、混在空間よりも専用空間、高速度よりも低速度――といったように、ODDの設定次第で導入しやすさを変えることができる。車体も大きいより小さいものの方が一般的に導入しやすい。利用方法が制限されるものの、管理しやすい範囲内において低速走行を行うモデルは比較的レベル4を実用化しやすいのだ。

その意味で、YADOCAR-iドライブはレベル4の早期実現に適したシステムと言える。安全を確保しやすい低速モビリティの需要は思いのほか大きい。

「史上最安値」=安価であるメリットも非常に大きい。自動運転黎明期、特に自動運転バス・シャトルの実用化が中心となっている日本では、自動運転タクシーのように大規模フリートを必要とする場面が少なく、大規模生産・販売による低価格化を図りにくい一面がある。どうしても車両やシステムそのものの単価が高くつくのだ。

公共交通維持や観光地への導入などを見込む自治体にとって、イニシャルコストとランニングコストの低減は重要だ。無人化技術でランニングコストを削減できても、イニシャルコストがあまりにも高過ぎれば最初の一歩を踏み出しにくい。だからこそ、低価格で導入できるソリューションを提供する意義があるのだ。

■【まとめ】レベル4車両は2023年完成予定

過疎化が進む地方都市の交通弱者対策や観光ラストワンマイルなどをターゲットに据えるYADOCAR-iドライブ。歴史あるサプライヤーとベンチャーの新たな挑戦の行く末に期待したいところだ。

YADOCAR-iドライブのレベル4車両は2023年内の完成を予定しているという。本格社会実装に向けまもなく攻勢が始まるかもしれず、引き続き東海クラリオンらの動向に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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